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1話 魔法と異界の門

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『本日のニュースです。美鳩市で発生したモンスターですが、魔法少女ユーリカちゃんの活躍で無事解決しました。えー、中継繋がってますか? 田山さーん』

『はい、こちら美鳩市の田山です。なんと、戦いの終わった魔法少女ユーリカちゃんが来てくれてます』

『はい、どうもー、いつもユーリカの応援ありがとう! みんなの声援が私のパワーになってるよ』

 中継を繋ぎながらも、別画面では魔法少女の戦闘シーンが流れている。なんとも力任せな魔法の使い方だ。
 別にこの世界に悪の怪人組織とかは多分ない。魔法少女が戦っているのは、ただのモンスター。

『今日のハイライトが早速アップされてますけど、ユーリカちゃんの必殺技、エメラルドスプラッシュがキレキレでしたね』

『そうですねー。タイミングもバッチリ決まって、今年一番の出来だったと思うよー!』

『街の平和のために、これからもよろしくお願いします』

『オッケー! じゃあ、まったねー』

 繁華街の大型ビジョンでは夕方のニュースが流れていた。元気そうにインタビューを受けていた魔法少女は、話が終わるとそのまま空へ飛んでいく。

 カメラはその姿を追うように動かしているが、下からのアングルは魔法少女のパンツがどアップで映し出されてしまう。生中継の怖いところだ。お宝映像として保存されていくことだろう。まあ、見えても大丈夫なやつなんだと思うけど……。

 久しぶりに首都に情報収集に来たのだけど、本土は至っては平和そのもので、気が抜けるくらいにのんびりしている。

「魔法少女ね……」

 さて、一通り調べものは終わったし、星那せな朱里あかり姉さんに何かお土産でも買って帰るか。


 人類は百年前に突如現れた謎の門から、異世界の力を手に入れ、入手したドロップアイテムを加工し魔法接種薬というものを作り出した。それは、今まで魔法を使えなかった人々が、その力を手に入れるチャンスを得る機会となった。

 しかしながら、全ての者が魔法を使用できるわけではなく、使えるのは何故か十代の少女のみ。しかもその確率はほんの僅か。ほとんどの者は魔法を扱うことがでかなかった。

 それでも、魔法少女の活躍により本土の治安は守られることになる。門が出現して以降、魔力溜りと呼ばれるものが至るところに現れるようになり、その場所からモンスターが現れては人々に危害を加えるようになったのだ。

 魔法少女の役割としては、魔力溜りから現れるモンスターの駆除と、門から現れるモンスターの討伐がその仕事となる。

 門はその後、異界の門と呼ばれるようになり、今でもモンスターが出てくる。さっき魔法少女が倒していたのは、門が出現した影響で生まれた魔力溜りから発生した劣化版のモンスターだ。門から出てくるモンスターと比べると格段に弱い。

 至る所で魔力溜りが発生し、現れたモンスターをエリア分けされ配置された魔法少女達が倒していく。何故か、地球上の兵器はモンスターにはあまり効果がないようで、現状では時間稼ぎ程度しか期待できない。

 唯一モンスターを倒せる魔法少女は人類の希望であり、子供たち憧れのヒロインなのだそうだ。




「アニメは割と星那も喜ぶんだよな。姉さんにはやっぱり本かな……っと」

「痛てぇな! 肩の骨が折れちまったかもしれねぇなぁ!」
「おいっ、てめぇ、兄貴になんてことしてくれてんだぁ、ああん?」

 確かに考え事はしていたが、前から歩いてきた二人組から強引にぶつかられ、絡まれてしまった。

「骨は折れてないようだが、ちゃんと折っておいた方がいいのか?」

「ああん? おめぇー、舐めてんのか! ああん?」
「兄貴が本気出す前に慰謝料よこしな。今なら金で許してやるって言ってんだよ、兄ちゃんよぉー」

 本土であまり目立つ行動はしたくないのにな。政府に見つかったら面倒な話になってしまう。しょうがない、お土産はまたの機会にするか。

「勘弁してください。お金、少しなら渡せますので許してもらえませんか」

「何だよ、急に物わかりがよくなりやがって」
「へへっ、兄貴のオーラにビビったんっすよ」

「あっ、でもその前に、ちょっとトイレに行かせてください」

 そう言って目の前の公衆トイレを指さすと、意外とあっさり行かせてくれるらしい。

「おう、早く行ってこいよ。財布隠してもすぐバレるからな」
「いいんですかい、兄貴?」
「構わねぇよ。トイレの中から警察に連絡したところで、この辺りの警官は組の息がかかってるからな」
「さすがは兄貴っす。兄ちゃんの行動はお見通しってやつっすね。おいっ、聞こえたか? 変なことしようとしても無駄だからなっ! ああん?」

 これが本当の話であるのなら由々しき問題ではある。モンスターの出現以降、街の治安は悪化傾向にあるらしく、こういう輩は増えてきているようだ。
 しかしながら、僕には関係のない話なので特に気にもしない。こんな所で正義感を振りかざすつもりもないし、本土で国家権力とこのような輩が繋がっていようが正直どうでもいいのだ。


「瞬間移動」


「おいっ、いつまでトイレに篭ってんだ。さっさっと出て来やがれ……って、あ、兄貴ぃ! あいつ、消えてるぅ!?」

「ああん? ヤス、てめぇ逃がしたのか?」

「違ぇやす! どこにもいないっすよ。あいつ、消えちまったっすよ」


 次の瞬間、景色は見慣れた美しい風景に変わる。見渡す限りの海、そして美しく白い砂浜。やはり、島は落ち着くな。

「おかえりなさいませ、お兄さま」

「星那か……。すまん、お土産を買い忘れてしまってな」

「私にお土産など買われなくても大丈夫ですよ。それよりも、お姉さまが子供たちに教える教材を買ってあげてくださいませ」

「そうだな。次に本土に行くときにはそうしよう」

「ところで、お兄さま。そこに倒れているのは、魔法少女でしょうか?」

 白く美しい砂浜に、ピンクのフリフリ衣装を着た魔法少女、島に似つかわしくない異物が流れ着いていた。
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