逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした

ひとみん

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クロエの努力の賜物なのか、前の生で帝国に嫁ぐ年になっても何ら変わらず、フルール国の王宮に住んでいた。
それもそのはず。十五才の時の花祭りで毒殺される運命だった国王夫妻を救った事により、大きく彼女の辿る運命が変わったからだ。
それでも、国王は病気を患い彼女が十九才の時に亡くなり、父であるジョージが国王になった。
周りからは祖母である王妃が王となるよう勧められたのだが、いずれは彼等が国王になるのだからと辞したのだ。
そして変わったと思われていたクロエの運命が大きく動き出す。
前の生と同様、跡継ぎをロゼリンテにするとジョージが国内外に宣言したのだ。
とたんに、クロエに対する婚姻の申込が殺到しだした。
そんな様子を冷めた目で見詰めながらも、普段と変わらない生活を送りつつ、この国での身辺整理を始める彼女。

そして二十才になり嫁ぎ先を言い渡される。それはまるで死刑宣告の様に、クロエの胸に重く圧し掛かってきた。
嫁ぎ先はやはりフェルノア帝国。昨年、皇帝になったばかりのイサーク・フェルノアの正妃にと。
それを聞いたロゼリンテが癇癪を起こし手が付けられなかったのだと、祖母から聞いた時はかなり胸のすく思いがした事に、あぁ、やはり彼等の事を嫌っていたんだと自分自身に苦笑した。
ロゼリンテは十五才の時に『花祭り』にやって来た皇太子に一目惚れしていたのは皆が知る所。
スト―カーの如く付きまとっては自分をアピールしようとしていたが、ことごとく逃げられ滞在中はそれこそ『花祭り』の夜会での挨拶くらいしか言葉を交わすことはなかったのだ。
それ以降の祭りには参加していない皇太子。それでも彼女は彼を諦めることなく、手紙を出したりプレゼントを贈ったり、時には帝国を訪れたりと大胆にアピールしていた。
だが、彼女の努力も虚しく、全くもって相手にされる事はなかった。
手紙はほぼ定型文を文官に書かせたとまるわかりの返事、プレゼントは丁寧に返却。帝国に来ても直接イサークは関わらず他の貴族が代わりに接待をしていた。
普通の人間であれば、好かれてないな・・・どちらかと言えば嫌われてる?と感じるはずなのに、母親と同じ脳内に広くお花畑を栽培している彼女には通じる事は無かったようだ。
それに少し考えれば誰でもわかる事で、今現在、互いに国の世継ぎに指名されているのだから、泣こうが喚こうがどうする事も出来ない。
どちらかが王位継承権を捨てない限りは、絶対に結ばれる事はない二人なのだ。
フルール国の跡継ぎを宣言する前に、二人が恋仲にでもなれていればそれなりに状況は変わっていたのかもしれないのだが、イサークはクロエにしか興味が無い。
実は可愛い娘の願いを叶えるためにジョージは内密に帝国に親書を送り、ロゼリンテの輿入れの件を打診した事もあったのだが、ことのほかきっぱりと断られてしまえば何も言えなくなってしまう。
よって王位継承権云々よりもそれ以前の問題であるのに、ロゼリンテは父にそして母に「皇帝陛下が好きなのっ!彼のお嫁さんになりたいのよ!」と、毎日のように喚き散らし両親だけではなく、周りの貴族にも鬱陶しがられるようになっていた。
挙句に「本当は私と結婚したいけれどクロエが邪魔したのよ!本当に彼が愛しているのは私なのよ!」と、斜め上の妄想にまで取り憑かれ、単身帝国に乗り込もうと家出したはいいが、世間をまったく知らない姫君は無銭飲食で通報され、速攻で城へ連れ戻された。
これまでどんな我侭も笑って許してきたジョージだったが、今更ながらに気づいた娘の呆れるほどの馬鹿さ加減。
家族に対し初めて怒りをあらわにし「皇帝はお前などに一切興味などないのだ!」と、怒りに任せ大人げなくもロゼリンテに真実をぶちまけた。
そして、帝国からの簡潔であっさりとした求婚に対するお断りの文章が綴られた手紙を見せ、娘同様煩く騒ぎ立てる妻もろとも王宮へ移る事を拒否し、そのまま離宮に軟禁するよう指示をだしてしまったのだ。

あっさりと、まるで悪夢から目覚めたかのようにすっきりとした表情でルナティアに謝罪しに来た息子。
もしや運命の強制力の様なものが解けたのだろうか・・・と思ったが、王妃やその側近からすれば「今更?」と冷笑しか浮かばない。
だが、目が覚めたのなら良しとしなければならないのかもしれない。
今までが今までだった為、全面的に信用する事は出来ない前陣営達は、これまたあっさりとルナティアの故郷に移住する事を選択する。
正直、あの王太子夫妻に仕える気など更々無いというのも、大きな理由の一つでもあるのだが。
また、元々ルナティアは夫が元気な頃に宣言していたのだ。

「王位がジョージに移ったら、私は故郷に帰るわ。此処に居たら、いつ殺されるかわかったものではないもの」
そう、クロエが十五才の時に毒殺されるはずだった国王夫妻。その犯人は何を隠そうマルガリータを支持する者達だったのだから。
馬鹿な王太子と王太子妃をいいように操る為には、聡明な国王夫妻が邪魔だったのだ。
これまでも色々と仕掛けられてはいたが、此度の毒殺未遂で加担した貴族の半分は捕らえる事が出来た。
だが、全てを排除できたわけではない。
王妃になった時から、いや、この国に嫁いできた時からこうなる事は分かっていたので、事あるごとに実家に帰ると言っていた。
なので、側近達はいつでも動けるよう準備していたのだから、その深刻さが伺えるというものだ。

賢妃であるルナティアの帰郷と慈悲深く美しいクロエの輿入れ。
そんな現実に残るのは、後継者指名されたバカ姫を溺愛していた国王に対する国民たちの不信感だけなのだった。
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