王子に嫌われたい!

ひとみん

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・・・・・・・・・・・??

どのくらいそんな態勢でいたのか。長いのか短いのかわからないけれど、苦しくなってきた。腰が痛くなってきた・・・
不安になりちらりと視線を下からゆっくり上げていくと、胸元をギュッと握る手が見えてくる。
具合が悪いのかと顔を見れば、アリオスは大きく目を見開き、ポロポロと涙をこぼしていた。
その濡れた瞳と涙には月の光が映り、涙はまるで光の雫の様に幻想的で、見惚れてしまうほどに美しい。
一瞬、目を奪われていたけれど、我に返り思わずあわあわする私から彼は視線を外すことなく、ゆっくりと立ち上がった。

「・・・・アリオス?具合、悪いの?」
恐る恐るその頬に手を伸ばし、涙を拭う。
私の自分勝手な求婚に、嫌悪したのだろうか?それはそれで私も泣きそうなくらいショックだけど・・・・でも、それくらいの事をしてきたのだと思えば、涙を流すわけにはいかない。
「アリオス?」
もう一度名を呼べば、彼は涙を拭っていた私の手をやんわり握り込む。
「サクラ・・・・貴女からの求婚がとても嬉しい・・・心が震えるほどに。夢ではないかと思ってしまうくらいに」
彼の眼差しは先ほどまでのとは違い、生命に満ちた様にキラキラと輝いている。―――美しさ倍増です・・・・
「これが夢であれば、目覚めたと同時に俺はきっと死んでしまうかもしれない。だから・・・・」

―――これが夢ではないという、証拠あかしが欲しい・・・・

先ほどまでの表情とは打って変わり、愛しさと歓喜と切望と・・・色んな思いが蕩ける様な眼差しとなって私をとらえ、囁く。

くっ・・・負けた・・・・

意味もなく敗北感で満たされ、それを上書きするように愛しさが溢れていく。
何だかもう、目の前の男が可愛くて愛しくてしょうがない。
私はそっと目を伏せながら「でも、返事を聞いてないし・・・」と濁せば「喜んで受けるに決まっている。拒絶するなど天地がひっくり返ってもあり得ない」と、そっと顔を近づけ触れるだけの口付けを落した。
「あぁ・・・夢のようだ・・・サクラにこうして触れる事が出来るなんて」
そう言いながら感極まった様に私をまたもやぎゅうぎゅうと抱きしめる。
「・・・・いや、結構、人前でやらかしてくれてたでしょう・・・婚約者という立場を利用して・・・」
私が冷静に突っ込めば、グッと詰まった様にしつつ、月明りでもわかってしまうほど頬を染めていた。
「あれは・・・・正直、見っともないほど足掻いてたんだ。サクラに好きになってもらいたくて。でも、あの日から、迂闊に触れることすらでき無くなってしまった・・・」
「あの日?」
私が首を傾げると彼は困った様に笑い「スカーレット嬢と対峙した時だよ」と教えてくれた。
「あの日、俺はサクラに惚れ直してしまって・・・今まで、なんであんなに気軽に触れる事ができていたのか、上手く言えないけど、これまで以上に意識してしまって困惑していたんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
その言葉に、私は自分でもびっくりするくらい衝撃を受けた。だって、私もあの日、アリオスに恋をしたのだから・・・・
黙り込んだ私に何を勘違いしたのか、アリオスは慌てたように言い募って来た。
「いや、一目惚れしたのは本当の事だよ!俺なりにサクラを振りむかせようと必死だったことも。でも・・・あの時の、優雅に挨拶をするサクラに今以上に心を奪われて・・・今更ながら、自分の欲を押しつけて嫌われたくないと思ってしまったんだ」
あの戸惑ったような態度はそこから来ていたのか・・・私は自分の事でいっぱいいっぱいだったから、あまり深くは考えなかったけど・・・
「それに、サクラが俺に対する態度や言動で謝る事は、何一つないから」
「え?でも、かなり無神経だったし・・・」
「いや、むしろ謝るのは俺の方。色んな手を使って元の世界を恋しがるサクラを引き留めていたし、今回の婚約だって・・・・俺は、利用したんだ。だから、サクラは何も悪くない」
そう言いながらも、どこか辛そうに目を伏せた。
利用したといっても、それは私も同じことで彼だけが悪いわけではない。思いは違えど思惑が一致しただけなのだから。
「・・・・後悔してる?」
と問えば、アリオスは首を横に振った。
「子供達に、申し訳ない?」
と問えば、困った様に首を横に振った。
「子供達を引き取って今は心から良かったと思ってる。血も繋がっていない上に、出会って間もない・・・なのに、日を追うごとに、本当の家族になりたいって・・・強く願う様になったんだ」
彼は私の両手を優しく握り、額をこつんと重ねた。
「サクラと子供達と俺と・・・・今日あった出来事を話、笑い、抱きしめ合って・・・・とても満ち足りて、幸せで・・・何で血が繋がっていないのか自分でも不思議に思ってしまう。とてもとても大切な存在になってしまった」

彼の言葉に、私は胸が震え思いが重なったことを、本能的に感じた。
あぁ・・・同じ事を考え、同じ思いを抱いていた・・・・
その事に、心だけではなく全身が震え、自然と身体が動いた。

ほんの少し背伸びをし、彼に口付ける。
すると彼は目を見開き、逃がさないとばかりに私を抱きしめ、噛みつく様に口付けてきた。
内に秘めていたものを解放するかのように私の唇を貪り、口内を犯していく。
それが嬉しくて、私も縋りつく様に彼の背に腕を回した。

ようやく解放された時には、不甲斐なくも足の力が抜けて彼に支えられていなくては立っていられない状態になっていた。
そんな私に「可愛い」と口付け、ひょいと抱き上げる。
「え?アリオス!重いって!!」
焦る私に「重くなんてないよ。むしろ、軽いくらいだから心配だ」と言いながら、大地を軽く蹴り上げふわりと浮かび上がった。
「うえっ!?ア・・・アリオスも飛べるの!?」
「当然。俺は全ての精霊と契約してるし」
「・・・・ん?じゃあ、何で迷路直進してきたの?」
すると彼は、ちょっとばつが悪そうに顔を顰め、それをごまかすかのように私の頬に唇と落とす。
「風の王が結界を張っていたから、俺の魔法が無効化され使えなかったんだ。一刻も早くサクラの元に行きたくて・・・・」
だから直進してきたと・・・・私は呆れるとともに嬉しくて、いじけた頬にちょんと口付けた。そして気付く。
「あれ?傷が消えてる・・・・え?何で??」
顔にあった傷が綺麗に消えている。よく見れば、破れたシャツに血の様なものがにじんでいるが、同じように傷は見当たらない。
「治癒魔法だよ」
「治癒、魔法?」
「そう。俺はあまり得意ではないけど、ひっかき傷くらいは自分で治せる」
へぇ・・・と感心してる間に、彼が降りた先は、アリオスの部屋のベランダ。
大きく開いた窓からそのまま部屋に入り、真っ直ぐに寝室へと向かって行く。
豪奢なベットが見えた瞬間、私は大きく震えた。
それを感じ取ったアリオスは耳元で囁く。その声は優しく甘いが、逃がさないとばかりに私を抱きしめる腕に力が入ったのが分かった。

「夢ではないという証拠あかしが欲しいと言ったはず・・・・・もう、待たないよ」

そうして私は優しくベットに下ろされたのだった。

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