竜帝と番ではない妃

ひとみん

文字の大きさ
17 / 44

17 多視点

しおりを挟む
この話は、瞬く間にアーンバル帝国へと広がっていった。

青年夫婦は、寿命を分けたとはいえ人族よりも遥かに長い時間を生きる事になる。
居住をアーンバル帝国へと移し、子宝にも恵まれ今も幸せに暮らしているという。

『番』は竜人族のみにある習性。他種族から『番』が出る事は無いし、出た事もない。
だから他種族と婚姻をする者達は、全て恋愛結婚なのだ。
人族とも『竜芯』を交換できると分かったが、戦前の異種族婚での懸案が再度持ち上がり、今ではアーンバル帝国とキューオン王国で異種族婚の法律も制定されている。
特に人族との婚姻は、とても厳しく取り締まっていた。
戦前戦後、何も変わっていないのが人族アクアリス王国。戦前よりも貴賤差別と男尊女卑がひどくなっている節があるからだ。
アーンバル帝国は人権問題には特に厳しく、男女平等が根底にある。だから、アクアリス王国の、国の頂点に立つものが率先して弱き者を虐げる事が理解できないし、しようとも思わない。
よって、アーンバル帝国では人族であってもどのような地位にあっても、平等に扱われた。
そしていつしかアクアリス王国に住む女性たちは、キューオン王国へ亡命し自由に暮らす事を、竜人族に見初められアーンバル帝国で溺れるように愛され暮らす事を夢見るようになるのだった。

レインベリィは、『番』に対して嫌悪感は持っていないが、憧れてもいない。
どちらかと言えば、恋愛結婚に憧れていた。
自分が心惹かれ選んだ女性と、結ばれることができたら・・・と、思春期の少年の様な思いを、ずっと変わらず持っていた。
というか、今まで一度も誰かに恋愛的な意味で好意を持ったことがないから、どんなものかもわからないというのが本音なのだが。
『竜芯』交換も、本当に愛し合っていなければ、許されることはない。
『竜芯』は互いの魂を繋ぐようなもので、飽きたから、嫌いになったからなど、どんな状況になっても別れる事はできないからだ。
竜人族は情が深く浮気をする事は無い。だが人族や獣人族はその限りではない。
だから『竜芯』で縛り付ける。
―――これもまた一種の呪いの様なものなのだが・・・互いに納得してという所が『番』と違う所なのだろう。
『番』は相手の気持ちなど無視して、問答無用に番わせようとするのだから。

だからこそ、レインベリィはゆっくりと深く愛し絆を深めたいと願っていた。
最強姉妹が主と仰ぐ江里は、レインベリィにとって、初めてここち良い感情を与えてくれた人。
これが愛かと聞かれればまだわからないが、胸の奥に小さな独占欲が芽生えている事は否めない。
柔らかく微笑む顔も、ちょっと意地悪な顔をしてご飯を食べさせる仕草も、すべてが好ましい。

これが、一目惚れというものなのか?
いや、聞いていた話では身体に雷が落ちたかのような衝撃が走ると聞いた・・・
エリに対しては、そんな現象は起きなかった・・・だが・・・彼女が傍にいると、心臓が落ち着かない。
ゆっくりと、何かに侵食されていくような感覚が広がっていく・・・

今日初めて言葉を交わしたと言ってもいいくらい、浅い付き合いだ。
なのに、気になってしょうがない。
この気持ちが何なのか見極めたいが、そう思っているのはレインベリィだけなのだろう。
江里は、江里達は早くここから彼を追い出したいと思っているはずだから。

いつまでここに居られるのか・・・置いてもらえるのか・・・

溜息を吐きつつ、レインベリィは甘えるように江里の頭に額を擦りつけ、美しい琥珀色の宝石を瞼で隠したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

女嫌いな騎士が一目惚れしたのは、給金を貰いすぎだと値下げ交渉に全力な訳ありな使用人のようです

珠宮さくら
恋愛
家族に虐げられ結婚式直前に婚約者を妹に奪われて勘当までされ、目障りだから国からも出て行くように言われたマリーヌ。 その通りにしただけにすぎなかったが、虐げられながらも逞しく生きてきたことが随所に見え隠れしながら、給金をやたらと値下げしようと交渉する謎の頑張りと常識があるようでないズレっぷりを披露しつつ、初対面から気が合う男性の女嫌いなイケメン騎士と婚約して、自分を見つめ直して幸せになっていく。

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

処理中です...