それぞれの愛のカタチ

ひとみん

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キャロルは腹が立っていた。
いや、腹が立つなんてものじゃない。目の前の生意気な小娘を殺してしまいたいと思うほど、憎んでいた。

何でこいつ、デイビッド様だけでなくエドワルド様の傍にいるわけ!?
本来そこは私の場所でしょうがっ!
何もかも・・・私の邪魔ばかり!

「お前が初めからライラが欲しがるものを渡していれば、こんな事にならなかったのよ!お前が私やライラの言う事を聞かないからこんな事になるのよ!全てお前が悪いのよっ!」

立ち上がり前のめりに叫ぶその顔は、まさに悪鬼。
皆がドン引きするその場は、シン・・・と静まりかえり、興奮しているキャロルの荒い息使いだけが妙に響く。
そんな重苦しい空気を丸っと無視し、ディビッドは絶望に満ちた表情のカーネルに視線を向けた。
「フライアン侯爵、あなたの考えをお聞きしたい。いいのか?」
ディビットが何を言いたいのかすぐに分かったカーネルは、重々しく首を振った。
「・・・いいえ。私は侯爵家を守らなくてはいけません・・・・」
既に愛情など、一欠けらも残ってはいない。
だが、ライラはどうなるのだろうか・・・・
ユスティアがいれば、彼女に婿を取って侯爵家は存続できる。
だが、目の前の二人を見ればそれも叶いそうにない。

あぁ・・・自分は馬鹿だ・・・・
愛する両親の大切なものを失いそうになって、初めて事の重大さを思い知るのだから・・・

カーネルが一人打ちひしがれている姿を、ユスティアは表情一つ変える事無くジッと見つめる。
初めからユスティアの中には、彼らは住んではいないのだと、改めて感じた瞬間でもあった。
それぞれの思いが交錯する中、ディビッドは一枚の紙を侯爵夫妻の前に出した。
「離縁状だ」
カーネルは小さく頷き、キャロルは呆然と立ちすくむ。
「なっ!何故、私が離縁を・・・・」
そう呟き、離縁状を見ていた視線をユスティアへと移し、叫んだ。
「お前はっ!どこまで私の邪魔をすれば気が済むんだ!!あのババァと同じだっ!私が貧乏男爵の娘だからってバカにしてっ!侯爵家の財産は私のものよ!絶対に離縁なんてしないわっ!!」

離縁状を破ろうとするキャロルを、いつの間に居たのか護衛が取り押さえた。
「サインはしない!絶対にっ!侯爵家のすべては私のものだっ!誰が手放すかっ!!」
醜く騒ぎ立てるキャロルに、ディビッドは初めて笑みを浮かべた。押さえつけられたキャロルすらも見惚れるほどの、蠱惑的な笑みを。
「別にあなたのサインはいらない。法廷にて代理人を立てサインすれば問題ないのだからね」
「法廷?・・・・なぜ・・・」
「おや?君が誰に対し何をして何を言ったのか、気付いていないのかな?」
「自分の娘を怒った位で、何で法廷に・・・・」
「ほぉ・・・一応、ユスティア嬢が自分の娘であることは理解しているのか・・・だが、彼女は娘であるかもしれないが、他国の王族だ。その王族に対し暴力を振るい暴言を吐く。あぁ・・・それ以外にも窃盗もだったね。十分すぎるほどの罪だよ」
「え?・・・・何を・・・・娘を躾けただけで、それに妹が姉のものを欲しがって何が問題なの!?」
一瞬にして事態を把握し、声が震える。
キャロルのバカな頭でもわかる。ディビッドの言いたいことが。
貴族の底辺に居て、平民のように働いていたのだ。その時に嫌というほど味わってきた。貴賤貧富の現実を。何に、誰に逆らってはいけないのか。
それは別に下位貴族だけの常識ではない。貴族には貴族の常識があるのだ。
幸運にも侯爵夫人になってからは、それすら忘れてしまうほど自惚れていて、貴族の頂点にでもなった気でいた。
何をしても何を言っても、許されるのだと。
例えそれが王位継承権を持つ、我が娘にでも。

「ついでに言うなら、私も王族だ。私に対しての態度も不敬罪にあたるね」
デイビッドの言葉にキャロルは戦慄く。
「なんせこれでも王位継承権第三位だから」
にこりとキャロルに笑いかけるも、その目は冷ややかでその身を竦ませるには十分なものだった。
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