それぞれの愛のカタチ

ひとみん

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エドワルドにエスコートされたユスティアは、パーティに参加していた時よりも美しく着飾り、エドワルドもまた「永久凍土」はどこへ?と言う位溶け切った笑顔をユスティアに向けている。
お互いの瞳の色でもある青を基調とした装いは、二人の美しさと親しさを強調し、まるで美神を描いた絵画の様に神々しい。
二人の美しさと、見慣れぬエドワルドの笑顔に放心し、静まり返った会場にエドワルドの声が響いた。
「この度、ユージン殿の御厚意により、この場で我々の婚約を発表させていただく事になりました」
一度、二人は顔を見合わせ頷く。
「私、エドワルド・ライトはユスティア・フライアン侯爵令嬢との婚約を、皆様にご報告させていただきます」
未だ信じられないとばかりに放心していた人達だったが、ユージンが拍手をし始めると、波紋の様にそれは広がり会場全体に響き渡っていった。
若い令嬢令息は、ショックのあまり呆然としている者も多かったが、概ねお祝いムードである事に、ホッと胸を撫でおろす。

だが、ただ一人ライラだけは未だに呆けたまま。
そんな彼女にユージンが「そんなに、驚いた?」と楽しそうに声を掛けた。
「・・・・・いつから・・・いつから、わかっていたの?」
わなわなと震えながら、ライラはユスティアを睨み付けた。
「あらあら、主役の花嫁が浮かべる顔ではないわよ。皆が見ているのだから、笑いなさい」
ユスティアの言葉にカッとするも、流石にここで失態を冒しては不味いとバカなライラでもわかるようで、無理矢理浮かべる笑顔は歪なものだった。


ライラの結婚、そしてユスティアの婚約発表。
ある意味刺激の強いパーティに、参加者は興奮覚めやらぬ状態のまま会場を後にした。

全てが終わり最後のお客様の見送りが終わった所で、実質上この侯爵家の権力者でもあるユージンにユスティア達がお礼と暇の挨拶をしようとした時だった。
「ちょっと待って!エドワルド様と婚約ってどういう事!?エドワルド様は他国の王族が婚約者なんでしょ!?嘘ついたの?!!」
この時を待っていたかのように、ライラが食って掛かってきた。
「嘘なんて吐いてないわよ」
キョトンとするユスティアに、激高したライラが相変わらず耳障りな声で叫んだ。

「あんたなんて、ただの侯爵令嬢じゃない!!」

あまりの甲高さに、邸内に木霊する様にライラの声が響いた。

驚きのあまり誰もが沈黙する中、ユスティアが呆れたように口を開く。
「・・・・いや、それを言うならライラの方が、ただの侯爵令嬢じゃない」
「そう言う事を言ってるんじゃないわ!何でエドワルド様とあんたが婚約するのかって事よっ!他国の王族と婚約してるって言ってたじゃない!!」
「あぁ、だって私、おばあさまの国での王位継承権を持っているもの。末端でも王族なのよ」

「え?・・・・王位、継承権・・・?」

ライラの見事なまでに呆け切ったその顔とは正反対の、聞き分けのない子供に話すようなユスティアの表情は、まさに女神。
「私とルドが婚約したのは、おばあ様達と領地へ戻る前よ。私が他国の王族だとかルドと婚約しているとかは、侯爵家どころか世間には内緒だったから。国王陛下くらいね、知っていたのは。
私が領地から戻ってきた時、ライト公爵様から侯爵夫妻が呼ばれたわよね。その時に話しているわよ」
「・・・・じゃあ、お母様が修道院に入れられたのは・・・・」
「その時に、やらかしたのよ。あなたも知っている通り、正式な罪状は不敬罪。ルドのお父様でもあるライト公爵様へのね。ライト公爵様は現国王の弟君でもあり王位継承権第三位でもあらせられる。そんな方に無礼な態度で接し、あまつさえ暴言を吐く。修道院行きだけで済んだことを、感謝する事ね」
「なっ・・・あんな極寒の修道院・・・死刑宣告と一緒じゃない!!」
キャロルが送られた北の修道院は、罪が重く更生が難しい人間が送られる、規則も気候も厳しい所なのだ。
「実の母親をあんなところに送って、なんとも思わないの!?」
ライラの言葉に、再びキョトンとするユスティア。
そんな表情を、何度見ても可愛い・・・と、エドワルドはユスティアをうっとりと見つめる。

「母親?私を生んだ人の事かしら?なんとも思わないわね」
平然と答える姉の表情に、ライラの背に冷たいものが走る。
「物心ついた時から、養育を放棄しまともに顔も合わせない。人を陥れ奪おうとする人間を、親と思うわけがないでしょ?おかしな事を言うわね」
不思議そうに首を傾げるユスティアに、ライラの声が震える。
「じ・・・じゃあ、私の、事は・・・」
「ライラの事?そうね、血縁者で妹なのだという事はわかっているけど、それだけね」
鈍器で頭を殴られたかのような、そんな衝撃を受けライラは呆然とした。
母親に捨てられた可哀そうな姉だと、ずっと思って見下していた。
でもそこには、嫌ってはいても血のつながった姉だという自覚があったし、家族なのだという意識もあった。
だが、ユスティアにはそんな気持ちなど一切なく、赤の他人と認識されていたという事実に、自分に対するあの冷たい態度の意味を知る。
他人が馴れ馴れしく絡んできて、迷惑でしかなかったのだと・・・ただ、そう思われていたのだと理解してしまったから。

顔面蒼白なライラを気遣う様に、そっと肩を抱くユージン。
だがその顔には、愉快さが滲んでいる。

もう話は終わりとばかりに、再度ユージンに声を掛け会場を後にしようとするとき、傍観者を貫いていたエドワルドが、初めてライラに声を掛けた。

「僕から一つ付け加えさせてもらうよ。君の母親の罪は僕の父上に対してのものだけではない。他国の王族に対する暴力や暴言、窃盗の罪にも問われている。
あちらの国王は、ティアをとても愛している。本来であれば外交問題にすら発展する案件だ。死罪に問われてもおかしくないのを、修道院送りで済ませたんだ。文句を言われる筋合いはないね。
そして君も本来であれば窃盗と暴言で、母親と同じ所へ送られる予定だったが、問題児を更生させる学園に送って様子を見る事にした。だが、この体たらく。
彼と結婚していなければ、確実に母親と同じ所へ送っているところだ。夫に感謝するんだな」

脅しともとれる言葉を残し、ユスティアとエドワルドはライト公爵家へと帰っていったのだった。
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