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おまけ
リース嬢の卒業式2
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ダンス会場は白亜の宮殿と言いたくなる場所だった。
正直、世界感が違うんじゃ?って思いたくなるような丸屋根。白い外壁。ところどころに嵌め殺しの窓がいくつもついている。
ロイス殿下は、言葉少なで馬車から降りる私に手を差し出し、降りるのをサポートしてくれた。
馬車を降りて気付く。ロイス殿下の口元がものすんごく震えている。
どうしたんだろう?とジッと見ていたら、今度は真っ赤になって、ゆでだこ状態。
「で・・。」
殿下、どうしたのって言う?違うよね。
ロイス殿下どうかなさったのですか?かな?
よし、言おう!
「リース嬢行こうか。」
言おうとしたら、幾分か落ち着いたのかロイス殿下がエスコートを開始した。
「・・・ん。」
開いた口を急いで閉じ、エスコートに準じる。
軽く頷き、少し目を閉じて了承を示す。
「くっ!」
あちこちからうめき声が聞こえて、驚いて周りを見回すとところどころで顔を背ける面々。
「で・・あ、う・・・。」
えっと、ロイス殿下これは一体どういうことかって聞けばいいよね。えっとえっと。
「気にするな。リース嬢が可愛いだけなんだから。」
とロイス殿下が私だけを見てそう告げた。
なんだか恥ずかしくて真っ赤になりながら、コクンと頷くだけにした。
観音開きのドアは既に開かれており、既に生徒たちはほぼ全員入場済みだった。
中に入るとあちこちに色とりどりの照明がついている。
どうやってこんな照明を作ったのだろうか?と思えるほど、赤青黄緑紫と本当に一杯色がある。
まるで万華鏡の中に迷い込んだかのようで、ちょっと混乱する。
それは他の生徒も同じらしく、辺りを見回し続けている。
そんな中、私とロイス殿下が会場中央の階段をゆっくり上がる。
徐々に静かになる会場。
階段の中央あたりに右と左に分かれるように更に階段があり、分かれ道のところはちょっとスペースが開いている。
そこに私とロイス殿下がつくと私たちは振り向き、生徒の方を見る。
そして、ロイス殿下が指をパンと鳴らすと今までカラフルだった照明は白一色になる。
色が変わっただけで光量が変化したわけでは無いんだろうけど、なんだかとても眩しくて、思わず目を閉じそうになる。
「卒業生徒諸君。君たちはこの学園で長い間頑張って来た。その結果、この場にいる。色々、トラブルはあったが、皆一丸になって、やったことはきっと覚えていると思う。私は、君たちの協力を一生忘れることは無い。
先生として、君たちの卒業を見守ることが出来、本当に光栄に思う。
私などの言葉よりもきっと皆が聞きたい声、言葉があるだろう。では、リース嬢。卒業生徒の皆々に祝いの言葉とねぎらいの言葉を。」
ロイス殿下の言葉に固まる。
皆一斉に私に注目する。
その視線はまるでレーザーでも放っているようで、かなり気おくれする。
一度、ごくんと唾をのんでしまったのは仕方が無いと思う。そして、台本通りに読むだけなんだと何度か深呼吸をしてから言葉を紡ぐ。
「紹介にあずかりました。マグノイア公爵家が長女リース・マグノイアです。
本日は、皆々様と同日に卒業できることを嬉しく思います。
皆さまがこれまでやってきた行動はきっと様々な形で報われると思います。
私も皆さまが今後より良い成長をすると信じております。」
と言ってから、父上にも兄上にもロイス殿下にも懇願された最後の言葉を言おうと心の中でエイエイオーっと掛け声をあげる。
「み、みなさま、卒業おめでとう。みんな大好きです。」
と言って、にっこり笑うとところどころからバタンとかドサッとか音がし始めた。
「え?え??」
何故だか男も女も関係なく倒れた。
数人は耐えるように蹲っている。
「ろ、ロイス殿下。」
困ってしまい、ロイス殿下の方を見たら鼻血を出して気絶をしていた。
「な、な!?」
慌てる私を母上がゆっくり近づいて来て、ロイス殿下を踏みつけながら、
「大丈夫よ。落ち着きなさい。リース。」
と言う。
「やっぱり、駄目ね、殿下は。」
と小さな声で母上が言い、ギリギリとロイス殿下の頬を踏む。
若干、嬉しそうにしているように見えるのは気のせいだと思いたい。
母上がパンパンと手を鳴らすと気絶組を一斉に片付ける一団が現れ、蹲っている人間は何事か囁かれた後にシャンとなる。
ちなみにその時にロイス殿下も回収されてしまった。
「あ・・・。」
アワアワしている間に、先ほどまで隣にいた母上はいなくなり、かと思ったら、男装で現れた。
長い髪は後ろで括られ、前髪は何らかの油ですべて上にあげられている。
前世、見たことは無いけど、宝〇じゃないかってくらいの美青年に見える母上。
「本日は、わが娘、リースと同じ日に卒業できた皆々様、おめでとう。己を自制し、皆で協力し、みな、とてもよくやった。
長い話は、これからのダンスには不要だろうと思う。
ファーストダンスは私が引き受ける。後は皆の努力に任せるとしよう。」
と男口調で言う母上はとてもカッコよかった。
「母上、ダンス?」
素に戻って私がそう聞くと
「そうよ。リース。お勉強したとおりに出来る?」
と優しい微笑みで聞いてきた。
「もちろん。」
そう答えると母上は花が咲いたように笑った。
その様子はまるで白百合のようだった。
母上のエスコートは完璧で、ダンスも私がやり易いダンスをやり易いようにエスコートした。でも、2曲目も連続で踊るのは約束違反じゃなかろうか?2曲目は変化を加えて、ダンスをしてくれた。3曲目は私に私なりの変化をしてみないかと言うようなアプローチをしてきて、私は思わずそれに乗った。
4曲目に入る手前にロイス殿下が現れたが、父上が既に私の手を取っていた。
父上とのダンスは優雅で余裕のあるダンス。何故だか腰が砕けそうになる。
5曲目、ロイス殿下が手を伸ばそうとしたが、兄上がそれを遮る。
「え?だ」
「リース。殿下は先程まで倒れていたんだから、大人しくさせておこうね。」
と兄上が言い、それもそうかと納得する。
5曲目のダンスは型を守りながらも、少し遊び心のあるダンス。急ぎ過ぎず、ゆっくりと言う訳でもない。気分は海辺で波打ち際遊びと言う感じだろうか?楽しかった。
6曲目はさすがに疲れてきていた。
ロイス殿下の方を見ると父上と母上とお話し中のようだった。
他の生徒にためらいがちにダンスのお誘いを受ける。
「少し疲れましたの。」
と言うと
「あ、そうですよね。ならば、飲み物でもお持ちいたします。」
と言って、その生徒は立ち去ったのだが、他の生徒が色とりどりのジュースを差し出してきた。
その中で一番甘みの少ないけど、すっきりする柑橘系のジュースを手に取る。
「ありがとう。皆さま。」
と言って、私はにっこり微笑む。すると、皆が一度真っ赤な顔になり、それでも踏ん張るような感じになり
「いえ、どういたしまして。」
と言って、そそくさと去る。
ジュースを飲み終わったと同時に、今度は女生徒たちに囲まれる。
その手には会場の隅にある軽食が乗った皿がある。
「リース様、この度は、ご卒業おめでとうございます。私たちも貴方様と一緒に卒業できて本当にうれしいです。」
と次々に祝いと喜びの言葉を口にしてくれる。
「ありがとう、嬉しいわ。」
と形式と同じようにしか答えていないのに、みんながみんな喜んでくれる。
ちょっとマニュアル通りでも喜んでもらえるなら、頑張って、マナー教育で読んだ受け答え集をすべて覚えてそれ通りに言おうかと思ってしまう。
今日の受け答えに限っては、リースが思うようにやって欲しいとあちこちから懇願されたので、マニュアルは守らない様に心がけたけど、咄嗟の受け答えはちょっと難しい。
そして、軽く雑談の後、皆が皆、決心したようにして皿を差し出してきた。
「リース様。アーンしていいですか?」
と言う。
思わず、キョトンとなる。
あーん?
「あーん?」
と思わず、反芻したら、令嬢たちの後ろの方で何か音がした。でも、令嬢たちが壁になって見えない。
一人の令嬢が隣の令嬢の顎をくいッと抑え、一口大のサンドイッチを口に入れさせた。
ゆっくりとだが。
された令嬢は困惑しながらも、もぐもぐとサンドイッチを咀嚼する。
「これです。あーん。」
「そ、そ、そんな、恥ずかしい。」
真っ赤になって、顔を背ける。
しかし、自分よりちょっと背の低い茶色い髪の女の子に
「だめ・・・ですか・・・?」
としょんぼりされたら、罪悪感が・・・。そして、すかさず、チェリーを差し出された。
あちらこちらから、
「抜け駆け!」
と声が聞こえたが、私はそれどころではない。
真っ赤な顔で震えながら、お願いされているのだ。小ネコさんの様に潤んだ瞳でお願いされているのだ。
私は勇気を振り絞り、チェリーを口で受け取る。
辺りが「ふぅわぁあー。」と気の抜けたような声で満ち、皆が光悦とした顔で私たちを見ている。
真っ赤になりながら、つい、後ずさる。
しかし、回り込まれていた。母上に。
「駄目よ?リース。アーンは上級者向け。それに毒見していないものをそのまま口にしてはいけないのよ?」
と母上は言い、一口大のサンドイッチを半分だけかじってから私にもう半分をくれる。
咀嚼しながら、母上を見上げる。
母上は私をナデナデした。
「?」
「気にせず、お食べなさい。」
そう言われて、母上のお皿のサンドイッチをゆっくり食べる。
でも、一応、この会場の料理は毒見済みだったような・・・と思うが、まぁ、良いかと思う。
ロイス殿下の方を見ると父上にアーンさせられている。口いっぱいになるほどサンドイッチが詰め込まれている。兄上も協力しているようで、3人ともなんだか楽しそうだったので、そっとしておくことにした。
お腹も一杯になり、もう一度、母上のエスコートでダンスを踊った。終わってひとここちついて、温かい紅茶を飲んでいた。
そしたら、涙目のロイス殿下が母上に何か懇願するように何かしら言って、母上が物凄く苦渋の決断みたいな顔をした後、手を軽くシッシと払うように殿下に向かってする。
そしたら、ロイス殿下が私のところに跳んできた。
ビヨーンというかバイーンというか取り合えず、アニメの効果音みたいなのが出ているんじゃないかって感じの不自然な跳び上がり方で。
「リース嬢。ラストダンスは私にお任せくださいませんか?」
とロイス殿下は紅潮した顔でそう言った。
時刻を確認すれば、既にダンスも終盤の時間。
ちょっと、いや、かなり疲れているけど、ロイス殿下の手を取り、了承する。
ヒマワリが咲いたみたいな満面の笑みのロイス殿下に思わず、びっくりするけど、なんだか嬉しくて、にっこり笑う。
ロイス殿下が固まる。
その間にもダンスの曲は流れている。
ちょっと首をかしげる。
すると、母上が軽く机をコンと叩く。
固まっていたロイス殿下が動き出し、一つ謝罪をされたのちにダンスをする。
緩やかで優しいダンス。
ロイス殿下ならもっと忙しいダンスをすると思っていたからちょっとびっくりした。
でも、私が疲れているのがわかっているんだろう。気を使ってくれたんだなぁとちょっと困惑と嬉しいなぁと言う気持ちが顔に出る。
「本当、私はリース嬢には駄目なところばかりを見せている。」
そうロイス殿下は言った。
「でも、リース嬢。わ、私と末永く一緒に居てください。」
とダンスが終わったと同時に言われた。
辺りが騒然となる。
婚約者なのだから、当然その後は結婚なのに、プロポーズなんて、今ではほとんどするものは居ないと聞く。母上は父上にされたって聞いたけど。
私は真っ赤になりながら
「はい。」
と答えた。
辺りが小さな拍手が起こり、すぐに大歓声とともに大きな拍手で満ちる。
私たちはそんな皆に軽く手を振り、対応する。
父上はギリギリと何でか歯ぎしりしているけど。
兄上はガン泣きしてるけど。
母上は仕方ないわねって感じで拍手している。
こうして、卒業ダンスパーティーは終わった。
正直、世界感が違うんじゃ?って思いたくなるような丸屋根。白い外壁。ところどころに嵌め殺しの窓がいくつもついている。
ロイス殿下は、言葉少なで馬車から降りる私に手を差し出し、降りるのをサポートしてくれた。
馬車を降りて気付く。ロイス殿下の口元がものすんごく震えている。
どうしたんだろう?とジッと見ていたら、今度は真っ赤になって、ゆでだこ状態。
「で・・。」
殿下、どうしたのって言う?違うよね。
ロイス殿下どうかなさったのですか?かな?
よし、言おう!
「リース嬢行こうか。」
言おうとしたら、幾分か落ち着いたのかロイス殿下がエスコートを開始した。
「・・・ん。」
開いた口を急いで閉じ、エスコートに準じる。
軽く頷き、少し目を閉じて了承を示す。
「くっ!」
あちこちからうめき声が聞こえて、驚いて周りを見回すとところどころで顔を背ける面々。
「で・・あ、う・・・。」
えっと、ロイス殿下これは一体どういうことかって聞けばいいよね。えっとえっと。
「気にするな。リース嬢が可愛いだけなんだから。」
とロイス殿下が私だけを見てそう告げた。
なんだか恥ずかしくて真っ赤になりながら、コクンと頷くだけにした。
観音開きのドアは既に開かれており、既に生徒たちはほぼ全員入場済みだった。
中に入るとあちこちに色とりどりの照明がついている。
どうやってこんな照明を作ったのだろうか?と思えるほど、赤青黄緑紫と本当に一杯色がある。
まるで万華鏡の中に迷い込んだかのようで、ちょっと混乱する。
それは他の生徒も同じらしく、辺りを見回し続けている。
そんな中、私とロイス殿下が会場中央の階段をゆっくり上がる。
徐々に静かになる会場。
階段の中央あたりに右と左に分かれるように更に階段があり、分かれ道のところはちょっとスペースが開いている。
そこに私とロイス殿下がつくと私たちは振り向き、生徒の方を見る。
そして、ロイス殿下が指をパンと鳴らすと今までカラフルだった照明は白一色になる。
色が変わっただけで光量が変化したわけでは無いんだろうけど、なんだかとても眩しくて、思わず目を閉じそうになる。
「卒業生徒諸君。君たちはこの学園で長い間頑張って来た。その結果、この場にいる。色々、トラブルはあったが、皆一丸になって、やったことはきっと覚えていると思う。私は、君たちの協力を一生忘れることは無い。
先生として、君たちの卒業を見守ることが出来、本当に光栄に思う。
私などの言葉よりもきっと皆が聞きたい声、言葉があるだろう。では、リース嬢。卒業生徒の皆々に祝いの言葉とねぎらいの言葉を。」
ロイス殿下の言葉に固まる。
皆一斉に私に注目する。
その視線はまるでレーザーでも放っているようで、かなり気おくれする。
一度、ごくんと唾をのんでしまったのは仕方が無いと思う。そして、台本通りに読むだけなんだと何度か深呼吸をしてから言葉を紡ぐ。
「紹介にあずかりました。マグノイア公爵家が長女リース・マグノイアです。
本日は、皆々様と同日に卒業できることを嬉しく思います。
皆さまがこれまでやってきた行動はきっと様々な形で報われると思います。
私も皆さまが今後より良い成長をすると信じております。」
と言ってから、父上にも兄上にもロイス殿下にも懇願された最後の言葉を言おうと心の中でエイエイオーっと掛け声をあげる。
「み、みなさま、卒業おめでとう。みんな大好きです。」
と言って、にっこり笑うとところどころからバタンとかドサッとか音がし始めた。
「え?え??」
何故だか男も女も関係なく倒れた。
数人は耐えるように蹲っている。
「ろ、ロイス殿下。」
困ってしまい、ロイス殿下の方を見たら鼻血を出して気絶をしていた。
「な、な!?」
慌てる私を母上がゆっくり近づいて来て、ロイス殿下を踏みつけながら、
「大丈夫よ。落ち着きなさい。リース。」
と言う。
「やっぱり、駄目ね、殿下は。」
と小さな声で母上が言い、ギリギリとロイス殿下の頬を踏む。
若干、嬉しそうにしているように見えるのは気のせいだと思いたい。
母上がパンパンと手を鳴らすと気絶組を一斉に片付ける一団が現れ、蹲っている人間は何事か囁かれた後にシャンとなる。
ちなみにその時にロイス殿下も回収されてしまった。
「あ・・・。」
アワアワしている間に、先ほどまで隣にいた母上はいなくなり、かと思ったら、男装で現れた。
長い髪は後ろで括られ、前髪は何らかの油ですべて上にあげられている。
前世、見たことは無いけど、宝〇じゃないかってくらいの美青年に見える母上。
「本日は、わが娘、リースと同じ日に卒業できた皆々様、おめでとう。己を自制し、皆で協力し、みな、とてもよくやった。
長い話は、これからのダンスには不要だろうと思う。
ファーストダンスは私が引き受ける。後は皆の努力に任せるとしよう。」
と男口調で言う母上はとてもカッコよかった。
「母上、ダンス?」
素に戻って私がそう聞くと
「そうよ。リース。お勉強したとおりに出来る?」
と優しい微笑みで聞いてきた。
「もちろん。」
そう答えると母上は花が咲いたように笑った。
その様子はまるで白百合のようだった。
母上のエスコートは完璧で、ダンスも私がやり易いダンスをやり易いようにエスコートした。でも、2曲目も連続で踊るのは約束違反じゃなかろうか?2曲目は変化を加えて、ダンスをしてくれた。3曲目は私に私なりの変化をしてみないかと言うようなアプローチをしてきて、私は思わずそれに乗った。
4曲目に入る手前にロイス殿下が現れたが、父上が既に私の手を取っていた。
父上とのダンスは優雅で余裕のあるダンス。何故だか腰が砕けそうになる。
5曲目、ロイス殿下が手を伸ばそうとしたが、兄上がそれを遮る。
「え?だ」
「リース。殿下は先程まで倒れていたんだから、大人しくさせておこうね。」
と兄上が言い、それもそうかと納得する。
5曲目のダンスは型を守りながらも、少し遊び心のあるダンス。急ぎ過ぎず、ゆっくりと言う訳でもない。気分は海辺で波打ち際遊びと言う感じだろうか?楽しかった。
6曲目はさすがに疲れてきていた。
ロイス殿下の方を見ると父上と母上とお話し中のようだった。
他の生徒にためらいがちにダンスのお誘いを受ける。
「少し疲れましたの。」
と言うと
「あ、そうですよね。ならば、飲み物でもお持ちいたします。」
と言って、その生徒は立ち去ったのだが、他の生徒が色とりどりのジュースを差し出してきた。
その中で一番甘みの少ないけど、すっきりする柑橘系のジュースを手に取る。
「ありがとう。皆さま。」
と言って、私はにっこり微笑む。すると、皆が一度真っ赤な顔になり、それでも踏ん張るような感じになり
「いえ、どういたしまして。」
と言って、そそくさと去る。
ジュースを飲み終わったと同時に、今度は女生徒たちに囲まれる。
その手には会場の隅にある軽食が乗った皿がある。
「リース様、この度は、ご卒業おめでとうございます。私たちも貴方様と一緒に卒業できて本当にうれしいです。」
と次々に祝いと喜びの言葉を口にしてくれる。
「ありがとう、嬉しいわ。」
と形式と同じようにしか答えていないのに、みんながみんな喜んでくれる。
ちょっとマニュアル通りでも喜んでもらえるなら、頑張って、マナー教育で読んだ受け答え集をすべて覚えてそれ通りに言おうかと思ってしまう。
今日の受け答えに限っては、リースが思うようにやって欲しいとあちこちから懇願されたので、マニュアルは守らない様に心がけたけど、咄嗟の受け答えはちょっと難しい。
そして、軽く雑談の後、皆が皆、決心したようにして皿を差し出してきた。
「リース様。アーンしていいですか?」
と言う。
思わず、キョトンとなる。
あーん?
「あーん?」
と思わず、反芻したら、令嬢たちの後ろの方で何か音がした。でも、令嬢たちが壁になって見えない。
一人の令嬢が隣の令嬢の顎をくいッと抑え、一口大のサンドイッチを口に入れさせた。
ゆっくりとだが。
された令嬢は困惑しながらも、もぐもぐとサンドイッチを咀嚼する。
「これです。あーん。」
「そ、そ、そんな、恥ずかしい。」
真っ赤になって、顔を背ける。
しかし、自分よりちょっと背の低い茶色い髪の女の子に
「だめ・・・ですか・・・?」
としょんぼりされたら、罪悪感が・・・。そして、すかさず、チェリーを差し出された。
あちらこちらから、
「抜け駆け!」
と声が聞こえたが、私はそれどころではない。
真っ赤な顔で震えながら、お願いされているのだ。小ネコさんの様に潤んだ瞳でお願いされているのだ。
私は勇気を振り絞り、チェリーを口で受け取る。
辺りが「ふぅわぁあー。」と気の抜けたような声で満ち、皆が光悦とした顔で私たちを見ている。
真っ赤になりながら、つい、後ずさる。
しかし、回り込まれていた。母上に。
「駄目よ?リース。アーンは上級者向け。それに毒見していないものをそのまま口にしてはいけないのよ?」
と母上は言い、一口大のサンドイッチを半分だけかじってから私にもう半分をくれる。
咀嚼しながら、母上を見上げる。
母上は私をナデナデした。
「?」
「気にせず、お食べなさい。」
そう言われて、母上のお皿のサンドイッチをゆっくり食べる。
でも、一応、この会場の料理は毒見済みだったような・・・と思うが、まぁ、良いかと思う。
ロイス殿下の方を見ると父上にアーンさせられている。口いっぱいになるほどサンドイッチが詰め込まれている。兄上も協力しているようで、3人ともなんだか楽しそうだったので、そっとしておくことにした。
お腹も一杯になり、もう一度、母上のエスコートでダンスを踊った。終わってひとここちついて、温かい紅茶を飲んでいた。
そしたら、涙目のロイス殿下が母上に何か懇願するように何かしら言って、母上が物凄く苦渋の決断みたいな顔をした後、手を軽くシッシと払うように殿下に向かってする。
そしたら、ロイス殿下が私のところに跳んできた。
ビヨーンというかバイーンというか取り合えず、アニメの効果音みたいなのが出ているんじゃないかって感じの不自然な跳び上がり方で。
「リース嬢。ラストダンスは私にお任せくださいませんか?」
とロイス殿下は紅潮した顔でそう言った。
時刻を確認すれば、既にダンスも終盤の時間。
ちょっと、いや、かなり疲れているけど、ロイス殿下の手を取り、了承する。
ヒマワリが咲いたみたいな満面の笑みのロイス殿下に思わず、びっくりするけど、なんだか嬉しくて、にっこり笑う。
ロイス殿下が固まる。
その間にもダンスの曲は流れている。
ちょっと首をかしげる。
すると、母上が軽く机をコンと叩く。
固まっていたロイス殿下が動き出し、一つ謝罪をされたのちにダンスをする。
緩やかで優しいダンス。
ロイス殿下ならもっと忙しいダンスをすると思っていたからちょっとびっくりした。
でも、私が疲れているのがわかっているんだろう。気を使ってくれたんだなぁとちょっと困惑と嬉しいなぁと言う気持ちが顔に出る。
「本当、私はリース嬢には駄目なところばかりを見せている。」
そうロイス殿下は言った。
「でも、リース嬢。わ、私と末永く一緒に居てください。」
とダンスが終わったと同時に言われた。
辺りが騒然となる。
婚約者なのだから、当然その後は結婚なのに、プロポーズなんて、今ではほとんどするものは居ないと聞く。母上は父上にされたって聞いたけど。
私は真っ赤になりながら
「はい。」
と答えた。
辺りが小さな拍手が起こり、すぐに大歓声とともに大きな拍手で満ちる。
私たちはそんな皆に軽く手を振り、対応する。
父上はギリギリと何でか歯ぎしりしているけど。
兄上はガン泣きしてるけど。
母上は仕方ないわねって感じで拍手している。
こうして、卒業ダンスパーティーは終わった。
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私の殿下は文通をしている→私と殿下は
ありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ修正しました。
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