皇國の防戦記

長上郡司

文字の大きさ
5 / 68
第一章 英雄の憎悪

04 千人将グレン

しおりを挟む
当時20歳のグレンは、千人将と呼ばれる階級にいた。




千人将とは文字通り、千人部隊の指揮官である。




部下である百人長10人を小隊長とし、それを千人部隊としてその指揮をする立場にある。




そして千人部隊を五つで大隊と呼ばれ、グレンはその大隊の第二中隊長という役職に付いていた。




皇國軍千人将として、皇國東方軍・第三軍団・第五大隊・第二中隊長、それが当時の彼の立場であった。




グレン率いる第二中隊の小隊長の顔ぶれを見ると、10人中7人が彼よりも年上であった。




20代半ばから40手前まで




年下の上司に、遥か年上の部下




一般社会であればやり難い事この上ない年齢構成である。




が、しかし軍隊では階級こそが全てであるので、そんなことを言っている場合ではない。




そもそもグレンは、そんなことを一々気にするような性質ではなかった。










グレンは前線指揮所にて、部下の筆頭小隊長であるガランと第二小隊長のエレナとこれからの方針について話していた。




「いやな?只の確認なんだけどよ?俺たちは、あとどれぐらいここに居れば良いんだ?」




ガランが疑問をぶつけている。




当初の予定ではとっくに敵軍とぶつかっている筈だったが・・・




「俺に聞かれたって知らねぇよ、上に聞いたって帰ってくるのは“待機”だけだ。準備だけちゃんとやっとけってよ」




「そう指示を受けてから、もう2週間近くここに留め置かれていますけど・・・」




エレナも今の状況に辟易としているようだ。




この二人はグレンが百人長の頃からの生え抜きの部下である。




よって、ほかの者たちが聞きづらいことを代表して現状確認を行いに来たのだが・・・




「今は戦闘が小康状態で落ち着いとるだろ?内と他の戦隊長とで意見が割れてんだよ。」




「何を?」




「現状維持か?それとも戦るか?」




現状を整理する




一ヶ月前に帝国軍との間で大規模な戦闘が勃発した。




双方共に大きな被害を受け、共に前線指揮所にまで後退し、2週間前より睨み合い状態が続いている。




小規模な衝突は起きた物の、大きな動きはなかった。




当然ながら双方においてこの現状を打破すべく、続々と増援が送られてきた。




我が皇國軍としては、この皇國東部中央を獲られては今後の国防方針に致命的な亀裂が生じるからだ。




東部中央を取られると、そこから南東部及び北東部にまで帝国軍の浸透を許してしまう恐れがある。




国土の1割強を失う事になるのだ。




「まぁ、俺としちゃあ戦んねえとしょうがねえと思うがよ?上が決めかねてんだよ」




「何をそんなに迷うんだよ?・・・」




「内の大将に配慮してんだよ」




「・・・ヴェルムの大将か」




「公爵家の嫡子ならそれらしくして欲しいんだとさ。わざわざ個人的に呼び出してまで言わんでも知っとるわそんなもん。俺に言わねぇで本人に言えや 直に」




「そんなもん恐れ多くて言えるわけねえだろ 」




「公爵ってのはあくまで“外”での身分だろ。ここは軍であいつも軍人だぞ?それなら強権的にでも止めろや、怪我して欲しくねぇなら、わざわざ大隊長になんぞ据えるなや」




「そりゃあ大将が軍に在籍している内はそれでも通じるけどよ・・・いつかは軍を離れるんだからその後が怖いだろ、妙な恨みでも買ったらって・・・後の人生をどうしても考えちまうだろ」




“この男もずいぶんと丸くなったものだ”




ふとグレンは思った。




つい去年までは、何事にも真正面からぶつかっていくような性格だったこの男が・・・




所帯を持つと男は丸くなるとは聞いてはいたが・・・この男の場合はそれが顕著に現れていた。




“子供が出来るとこうも変わるか?・・・”




半年ほど前に一児の父となったガラン百人長は以前の勢いは影を潜めていた。




“アレだけイケイケだったのになぁ・・・”




「隊長、内の戦隊長はどうお考えなのですか?」




郷愁に浸るグレンに対し、エレナが口を挟む。




話が進まないとの判断だろう。




「ンなもん俺と一緒よ。」




「“破砕”ですか?」




「当然だ、だから俺らがここに呼ばれたんだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話

トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

処理中です...