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第一話

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 運命という奇跡の赤い糸がみえたらいいと思った。そうなっても俺は疑ってかかるのだろうか。


「やっぱりいつ見ても不釣り合いだ」
 はたとキッチンの横に置いてある写真立てに視線をむけた。
 線を引いたような糸目が笑っている。
 それが笑顔だと分別できるのは、自分しかいないだろう。鼻の上にはそばかすが点々と浮いていた。みっともないとは思わないが、このしみのようなものがなければいくらかはマシにみえる。
 神様は紅顔可憐で守ってあげたい容姿を授けることなく、平凡という文字を俺にほどこした。バースは恥ずかしいかな、オメガだ。
 その横で、ぶすっと仏頂面をしている男が夫だ。名前は慶斗けいと。短髪で、年中怒り顔なアルファさま。怒っていても、男前でかっこいい。写真には写っていないが、一応視線を下に辿ると指を絡めて手なんか繋いでいる。
 怒っていても、きりっとしまった男ぶり。眉目秀麗、鼻筋が通った精悍な顔立ち。仕事は忙しく、弁護士という超絶多忙の日々を送る。どこからどう見ても、さすがアルファという男だ。
 浮いた噂一つない。真面目で勤勉な自慢の俺の夫。そう夫なのだ。口数は少ないし、どんな質問をしても素っ気なく返すけど番いでもある。
 ぷいっと向けた横顔は一段と男前で、うつむいて新聞を読んでいる顔なんて絶妙に男の色気が漂い、キスしたくなる。
 好き過ぎて、寝顔を写メで連打して撮ったら、ごつんとゲンコツを食わされた。勝手に撮るんじゃない、と寄せた凛々しい眉も好きだ。
「運命の番い……、か」
 ぐつぐつと白い大根を煮込みながら、俺はでこぼこしたうなじに触れた。番いの印となる愛咬のしるしが三つ。そこにあった。三人分というわけではなく、一人分。心の中で、ケロベロスと名づけ、興奮のままに夫である慶斗が残したシルシだ。
 好きを積み重ねて七年目。
 片想い二年、番いになってニ年。結婚して三年たつ。いつも疑心暗鬼な自分がいる。そんなことを考えても、笑って誤魔化してしまう。
 あのころは一緒に暮らして嬉しかった。
 興奮してくれたんだという悦び。
 運命の番ですよ、と誰かに告げられたわけでもないけど、この気持ちを声に出してみたくなる若さがあった。
 最近はちがう。自分だけがこの男を好きなんじゃないかとしょんぼりと落ち込んでしまっていた。
 もうすぐで、セックスレス五年目に突入する。
 俺は箸でつつきながら、白い大根に深いため息を洩らした。
 今日も今日とて、俺の暮らしぶりに変化はない。
 多分、一生ない。

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