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第七話

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 夕食後、俺はマーリン理事長のところへ足を運んだ。理事長室は本棚に囲まれて、仄暗い室内の隅には怪しげな祭壇が飾られていた。花、果実、そして見たことのない石が宝石がちりばめられている。とても怪しく、とても怖い。

 なんだ、この文字は。
 なんだ、このたくさんの瓶は。
 なんだ、この魔法陣らしき円陣は。
 なんだ、このみたことない草花は。
 なんだ、この怪しい絵画は。

 あああああ!!
 帰りたい!!
 帰って、アーサーさまのお体を洗いたい!!
 あわよくば、背中洗いっこしたい!!
 そしてあわよくば、一緒に寝たい!!

 くそ! はやく終わらせよう!

 夕食後、アーサーさまに引き止められながらも、俺はガウェインに説教されて、しぶしぶ来たのだ。

 はぁ、今度からは目を開けたまま寝よう。
 

「……おぬし、アーサーの従者だな」
「は、はい……」

 はっとして、顔を上げた。
 マーリン理事長は深く腰かけて、窓に視線を向けていた。こちらを見る気なんて一切ない。窓の外はすでに闇に沈み、月すらも見えない。一体このおっさんはなにを見ているんだろう。

 しゃべり方は年寄りだが、見た目は二十代後半にもみえる。ろうそくの淡い光がゆれて、橙色に照らす。白髪に紅い瞳。黒いガウンに身を包むその肌は艶やかで、乙女より透き通るように滑らかだ。

 すみません、すみません。
 本当にすみません。
 ちょっとだけ、殿下のいかがわしい姿を想像しちゃっただけなんです。そして早くこの場から脱して、風呂に入って、ふかふかベッドで寝たいんです。


「おぬし、盗人からアーサーを助けたとか」
「……そう、です」
 アーサーさまがケイさまと街へ出かけたときに、パシられ……じゃなくて、お使いに行ったときだった。なにやら路地裏に連れ込まれ、いまにもレイ……、じゃなくてリンチされそうだった美少年を救ったのだ。まぁ、のちにそれがこの国の王子だと知ったのはすぐ後だ。
 とにかく俺は、実家が鍛冶屋だったこともあり、得意のナイフを使って切り刻んでやったわけだ。すばやく相手の攻撃をかわし、あっという間に倒した。というか、すぐにガウェインが駆けつけてきてくれた。

「そうか。なら、アーサーをよろしく頼む。なにかあった場合は、かならず私に伝えるのじゃ。しっかりと勉学に励み、騎士になるのじゃ」
「は、はい!」
「では、さがってよい」
「は?」
「なにか?」
「い、いや。なにもございません!」

 ほーよかった! ほー助かった!
 怒られると思ってたので、めっちゃいいひとでびっくりした。つうか呼ばれた意味がわからん。

「……そうじゃ。おぬし、異世界の記憶をもつそうじゃな」
「は!?」
「私に知らぬことなどない。たしかある能力も持っているはずじゃ」
「は!?」

 そんなの知らぬ!
 聞いたこともないし、言われたこともない。ある能力ってなんだ。魔法か? いや、そんな、魔法など使ったためしがない。
 あ、でもナイフのことなのかな? 短刀なら自由自在に操れる。しゅぱっと野菜切れる能力か……。たしかに宮廷の料理人には喜ばれたし、おばちゃんたちにもモテた。
 うーん、チートってそういうことか……!?
 つうか、魔術師コェー。
 ゲームのなかでも、マーリン理事長のほうがチート能力を持ってたはずだ。ただ、攻略キャラにはなかった、はず。フラグをいつも立ててくるキャラだった。

 ん? フラグ?

 悶々と考えているうちに、マーリン理事長はなにかに納得し、深くうなずいた。

「そうじゃな、……異世界の記憶を待つ者よ。おぬしにこの瓶をやろう。だが、よく考えて飲むのじゃ。賢者でも恋するからな」

 にやりと薄笑いを浮かべられ、手にはなにかをもっている。目の前に差し出されたのは虹色に輝く瓶だった。

 は?

 ま、いいや。もらっちゃお!

「あ、ありがとうございます!」
 
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