親友が酷い目に遭いそうなので二人で逃げ出して冒険者をします。

ふるか162号

文字の大きさ
25 / 25
1章 冒険者レティシア

25話 精神強化

しおりを挟む

 新しいおもちゃを見つけた私は、すぐにでもファビエ王国の王都に行きたかったのですが、私は王都の場所を知りません。
 エレンは知っているでしょうか。

「エレン。ファビエ王国の王都の場所を知っていますか?」
「うーん。詳しくは知らないなぁ。テリトリオはファビエ王国じゃなかったからなぁ……」
「そうですか」
「ごめんね。力になれなくて」
「そんな事はないですよ」

 エレンも知りませんか。
 これは困りましたね。

 私がどうしようかと考えていると、アレスさんが深刻そうな顔で「レティシアちゃんはイメージで魔法を使うと言っていたよな」と尋ねてきます。

「そうですよ。魔法というのは頭の中で想像して、火なら火をイメージして魔力を練り上げ現象を発現させます。初級魔導士ってよく詠唱を使うじゃないですか、あれは詠唱を使って魔法のイメージを固めているんですよ」

 相性などもありますから、イメージだけがすべてではありませんけどね。
 アレスさんはそれを聞いて、私を縋るような目で見てきます。

「レティシアちゃんは魔法で人の記憶を操作できるか?」
「事細かい記憶操作でなければ可能ですよ。昔に盗賊相手に使った事がありますから。ただし、その時に使ったのは記憶を全て消すという魔法ですけど」
「それなら、マリテの記憶を改ざんして欲しい」
「改ざんは難しいというか、不可能に近いですね。でも、どうしてですか?」

 理由が理由なら、少し考えてもいいんですけどね。

「それにお二人は仲もいいですし、別に記憶を触らなくてもいいと思うのですが……」
「あ、あぁ……」

 アレスさんは、マリテさんからタロウの記憶を消してしまいたいそうです。
 それは、他人に穢されたのをどうこう思っての事では無くて、二人きりでいる時にタロウに襲われた恐怖で取り乱す事があるそうです。マリテさんは愛した人であっても男性と二人きりという状況に怯えてしまっているそうです。

「俺もマリテをずっと支えていくつもりはある。いや、支えて見せる。けれど、マリテが苦しみ続ける姿を見ているのが辛いんだ」
「ふむ……」
 
 アレスさんはマリテさんの事を本当に愛しているからこそ、苦しみから解放してあげたいのでしょうね。
 しかし、記憶の改ざんができたとしても、根本的な恐怖が消えるわけではありません。
 もし可能であれば、身体も綺麗にしてあげたいです。
 そちらの方はエレンにお願いすればどうにかなりそうですが、記憶をどうするかを考えなければいけません。

 子供を作るという行為の事は本で読んだ事があるのである程度は知っていますが、詳しくは知りません。
 ギルガさんには娘さんがいるので詳しく聞いてみましょう。

「ギルガさん。マリテさんはタロウに襲われたと聞きましたが、子供を作る行為の事ですよね。その場合どこが傷つくのですか? エレンと二人で本を読んだ事はあるのですが、挿絵が無く秘部だのなんだのぼかした書き方だったので良く分かりませんでした。詳しく知りたいです」
「ちょ……い、いや……お、お前!?」

 しかし、ギルガさんはあまり話したそうにしません。
 何故でしょうか?

「ちゃんと教えてください。そうじゃないとマリテさんを治療できないじゃないですか!」
「え? ど、どういう事だ?」

 私はマリテさんをタロウに襲われる前の体に戻す治療をしたいと説明します。
 するとギルガさんはリディアさんを呼びます。

「なんですか?」
「お前……経験はあるか?」
「は?」

 ギルガさんはリディアさんにコソコソと何かを話した後、殴られていました。
 どうしてでしょう。

「あ、ありません!!」
「し、しかし、知識はあるんだよな?」

 ギルガさんはもう一発殴られていました。
 リディアさんのギルガさんを見る目がゴミを見るような目になっていました。

 焦ったギルガさんはリディアさんに私が考えている事を説明します。
 するとリディアさんの顔が真っ赤になり、「だ、大体の事は分かります」と言いました。
 それで、ギルガさんはリディアさんにエレンとマリテさんに説明して治療してくるように言いました。

 リディアさんが二人を連れて二階に行った後、頬を腫らしたギルガさんが「酷い目にあった……」と少し涙目になっていました。
 一部始終見ていたドゥラークさんは、「トキエちゃんがいなくて良かったな。もしいたら、親父のセクハラ現場を見せられて、親子関係にひびが入っていたかもしれねぇなぁ」と笑っていました。

 
 ギルガさんのおかげでマリテさんの体の事は問題ないでしょう。
 あ、エレンが治療魔法を使えば、マリテさんがエレンの聖女の力に気付くかもしれません。カンダタさんに話をしておきましょう。


「事後報告かよ」
「そうですよ。だから、アレスさん達に口止めしておいて下さい。私はマリテさんの記憶の事を考えなければいけませんので」
「お前も一緒に来い。全員で話し合った方が良い案が出るかもしれない。……しかし、お前が人を救おうとするのは珍しいな。天変地異でも起こるか?」
「失礼ですねぇ。どつきますよ」
「じょ、冗談だ。今後の話もしたいからな全員を集める」

 勇者の話が一段落し、それぞれが割り当てられた部屋に帰っていたので、カンダタさんが女性陣を除く全員を食堂に集めます。

「集まってもらってすまんな。アレス、サジェス、ロブスト、今から話す内容は絶対に口外しないと約束してくれ。もし、守れないのであれば、この部屋から出てくれ」
「もし口外したらどうなる?」
「私が殺しに行きます」

 サジェスさんが当たり前の事を聞いてきたので、当たり前の答えを返しておきます。

「うっ!? そ、それほどの話なのか?」
「あぁ。レティシアが勇者を狙う理由にも関係がある」

 カンダタさんはエレンの治療魔法の事を話します。
 その内容に脳筋戦士さんは理解できていませんでしたが、アレスさんとサジェスさんの二人は驚愕していました。

「レティシアちゃんが規格外なのは魔法の話で十分理解していたが、まさかエレンちゃんにそんな力があったとはな……」
「分かっていると思うが、口外はするなよ」
「わ、分かっています」

 エレンの魔法を説明した後、私は記憶の改ざんについて何か案がないかを聞きます。

「要するに、記憶を消す事は可能なんだな」
「はい。でも、人の頭の中を見る事はできませんから、消すのならすべての記憶を消す事になります。もちろん、それでは意味がないとは分かっていますよ」
「すべてを消すとどうなるんだ?」
「赤ちゃんと同じになります。言葉を忘れ、何もできなくなりますよ。以前、私を攫って売ろうとした盗賊に使った時はそうなりました。人買いに差し出したのですが、売れないとボヤいていました」
「お、お前、そんな事もしていたのか……」
「はい? 売られかけたので売り返しただけです」

 人に何かをしようとしたらそれをやり返されても文句は言えませんよ。
 私も人や魔物を殺す以上、返り討ちで殺されたらそれはそれでしかたないと思っていますし。

「記憶を消せないんじゃ、マリテはずっと苦しむのか?」

 脳筋戦士さんは悔しそうにします。
 アレスさんも俯いています。
 その時サジェスさんが一つの案を提示します。
 
「可能かどうかは分からないが、記憶を消す事ができないのであれば、マリテの中のタロウへの恐怖心だけを消す事はできないか?」

 恐怖心を消し去るですか……。
 記憶と一緒で感情の一部を消し去る事はできません……。
 でも……。
 良い事を思いつきましたよ。

「ふむ。精神強化をしましょう。心が強くなればいいのです」
「精神強化?」
「マリテさんは優しい女性です。だからこそ、自分が好きでもない男に襲われて、マリテさんの心には恐怖心とアレスさんへの罪悪感があるのでしょう。故に、心が弱ってしまいタロウの事を考えたりすると、恐怖に繋がってしまうのです。けれど、精神を強化しておけば、思い出したとしても乗り越えられるかもしれません。もちろん、恋人であるアレスさんやお仲間であるサジェスさんと脳筋戦士さんの協力も必要になります」
「マリテの事を支えるのは当然の事だ」
「あぁ、私にとってもマリテは可愛い妹のようなモノだ」
「俺も同じ気持ちなのだが、なぜ俺だけが脳筋戦士呼びなんだ?」

 脳筋戦士さんは複雑そうな顔をしていましたが、知りません。

「ここからはマリテさんには秘密にしておいて下さい」

 私がそう言うと、この場にいる人達が真剣な顔になります。

「マリテさんの精神に細工をします。精神を強化した結果、タロウと対峙した時にマリテさんには恐怖では無く憎悪という感情が生まれます。あ、マリテさんは優しい女性なので、そこまで大きな憎悪を発生させないでしょう。でも、確実に憎悪の感情が生まれます。その憎悪を私が感知できるように細工をします。私はそれを感知した瞬間にマリテさんの傍に転移して、タロウと殺し合います」
 
 私は、エレンが嫌な気持ちになった時にすぐに駆け付けられるように、魔法を開発しておきました。
 当然エレンにも了承済みで、その魔法をかけています。
 その結果、どこにいてもエレンの存在を感じる事ができます。
 これをマリテさんにも使っておけば、マリテさんがタロウと出会ってしまっても気付けるでしょう。

「そんな魔法があるのにも驚きだが、レティシアちゃんは転移魔法が使えるのか?」
「今は使えないのですぐに開発します。何度か実験すると思うのでいちいち驚かないでくださいね」
「あ、あぁ……」

 話を聞いている全員は驚いています。
 確かにこの世界には転移魔法はありますが、魔法陣間でしか転移はできません。
 でも、それではマリテさんの所に行けないので、ちゃんとした転移魔法を開発する必要があります。

「レティシアちゃんは、そこまでマリテの事を思っていてくれたんだな。ありがとう……」

 アレスさんは立ち上がり頭を下げます。
 それに続いてサジェスさんと脳筋戦士さんも同じように頭を下げます。

「あ、はい」

 マリテさんの事も考えていたのですが、私には別の目的があります。
 それは誰にも話していないので……。

「レティシア……お前の真の目的は勇者タロウだな」

 ギルガさんが呆れた目で私を見ています。
 何故かバレてしまいました。

「そんな事は無いですよ……といっても信用してくれなさそうな目です。そうです。私の獲物は勇者タロウです。マリテさんには餌になってもらいます」
「「「え?」」」
「とはいえ、自分から会いに行けとは言いませんよ。そんな事する必要はありません」
「どういう事だ?」
「勇者タロウの事は良く分かりませんが、もしかしたら前に襲ったマリテさんを再び襲おうとするかもしれません。そうなった時のための保険ですよ……」

 聖女の力を失ったマリテさんには接触はないかもしれませんが、あり得ない話ではありません。

 その後、マリテさんは治療を終えて、私が精神強化の魔法をかけた結果、タロウの話をしても取り乱す事はなくなり、アレスさんと二人きりになっても大丈夫でした。
 アレスさんとマリテさんは抱きあって泣いて喜んでいました。
 私の目的は勇者タロウですが、たまには良い事をするのも気分がいいです。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

スラム街の幼女、魔導書を拾う。

海夏世もみじ
ファンタジー
 スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。  それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。  これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...