ずきんなしのレイチェル

ふるか162号

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5話 考え方次第

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 レイチェルの祖母であるレベッカの住む町は、馬車で二日ほど走った距離にある。
 村からは、町まで続く道が整備されている為、道を管理する国が、巡回に警備隊を常駐させている。
 それもあり、護衛のハンター頭巾も警戒は最低限しているが、そこまでの緊張感はない。

 馬車の客室には、レイチェルとティルの二人が並んで仲良く座っていた。客室の真ん中には、ヒサメが丸まって寝ていた。
 とても幸せな時間だな……とティルは、寄りかかって寝ようとしているレイチェルを優しく(怪しくではない)見ていた。
 しかし、二人の仲を引き裂くようにハンター頭巾の一人で女性のシャンティが客室に入ってきた。
 シャンティは、御者台で御者と談笑しているジャンと夫婦でハンター頭巾をしていた。
 今回はソフィに脅されて、この護衛を受けさせられたのだが、この二人がソフィに選ばれたのには、ちゃんとした理由があった。

「仲がいいわね。私も一緒にお話ししてもいいかな?」

 シャンティは二人と仲良くしようと客室に入ってきたのだが、ティルはレイチェルとの時間を邪魔された事を不機嫌に思い、シャンティを睨んでいた。
 その目を見たシャンティは、すぐさまティルの(やましい)心情を理解する……が、このまま何も喋らずに往復・・四日間、一緒に過ごすのはさすがに嫌だと思ったシャンティは、ティルの視線を無視して、二人と対面の席に座った。真ん中にいたヒサメも、それほど警戒する事もなく、シャンティを一瞥して、再び眠った。

「私はハンター頭巾のシャンティ、今、御者台にいるジャンとは夫婦でハンター頭巾をやっているの。二人の名前は?」

 シャンティは、二人を警戒させないように、笑顔で名前を聞いていた。
 勿論、依頼主であるソフィから、二人の名前は聞いているが、少しでも仲良くしたいと思った本人達に自己紹介をして欲しかった。
 レイチェルは怪訝そうに名前を言い、ティルはムスッとした顔で名を名乗った。

「ティルちゃんは銃を使うのね。レイチェルちゃんは剣を使うの?」
「……」

 シャンティは二人の格好を見て純粋にそう聞いたのだが、レイチェルはまた馬鹿にされると思い、口を紡ぐ。そこにティルが口を挟んできた。

「レイチェルが剣が得意だからって、なんだって言うの?」
「……っ!?」

 ティルの声は怒気がこもっている。それを聞いてレイチェルは少しビクッとしてしまった。
 しかし、シャンティは首を傾げてあっけらかんとこう答える。

「うん? 馬鹿になんてしないわよ」

 実はすでに、レイチェルが剣技を得意としている事をソフィから聞かされていたシャンティ。普通のハンター頭巾であれば、剣しか使えないレイチェルを馬鹿にするのだが、シャンティは自分が使う武器の事もあり、そんな事をしなかった。

 普通のハンター頭巾の主な武器は、銃か弓矢のような遠距離武器だ。
 オオカミ退治の鉄則としては、決して近付かず、気付かれず、銀の弾丸や銀の矢じりに紋章魔法を書き、それを撃ち込む事で内部からオオカミを破壊する。
 そもそも、異常なまでの自己再生能力を持つオオカミに接近戦は分が悪すぎる。だからこそ、遠距離攻撃が主流になっているし、レベッカのような特殊能力でもない限り素手で叩き潰すという近距離での戦闘が出来るはずがなかった。
 しかし、今のハンター頭巾には決定的な弱点もある。
 遠距離攻撃が主流になったせいで、オオカミに接近された時には対処できる者がほとんどいないのだ。
 シャンティの夫も銃を得意としており、オオカミに接近されれば簡単に死んでしまうだろう。しかし、シャンティがいるからそれを防げている。

「別に剣だからと言って悲観する必要はないと思わよ。私の武器だって中距離攻撃を得意とする鞭だからね。まぁ、紋章魔法で電撃を流す事は出来るけどね」

 鞭での戦闘は、接近戦とは言わないが中距離専用の武器なので、よほどの技術がないと一瞬で詰め寄られ、オオカミの餌食になってしまうだろう。
 しかし、シャンティ夫婦はそこそこ名の知れたハンター頭巾なのである。もちろん有名なのは、銃を巧みに使うジャンの方なのだが、シャンティのサポートあってのモノだと、ジャンはいつも仲間には言っている。
 事実、シャンティがいなかったら、ジャンはとっくに死んでいただろう状況も数多くあった。

「シャンティさんは、武器が銃や弓じゃなくても、ハンター頭巾達に馬鹿にされなかったんですか?」
「うん? 昔は馬鹿にされたわよ」
「「え?」」

 シャンティがやけにあっさりと、そして気にもしていないような様子でそう答えたのでレイチェルだけでなく、ティルも意外そうに驚いた。

「馬鹿にされたっていいじゃない。別に馬鹿にした奴に食べさせてもらっているわけじゃないんだし……それに、あまりにも周りがうるさいと感じたんなら、町を出ていけばいいだけでしょ? 別に馬鹿にしてくるような連中と一緒に命を懸けてまで戦ってやる必要もないでしょ?」

 今まで何度もそんな目に遭ってきたシャンティにとって、大事なのは夫であるジャンだけだ。それ以外には、町がどうなろうと知った事ではないと思っている。
 だが、今回の依頼は護衛なのでそうも言えない……とも言っていたが、基本は自分達夫婦の命を最優先に考えていると言った。

「ハンター頭巾協会の支部で噂になっていたけど、レイチェルちゃんにはオオカミの効率のいい倒し方が分かるんでしょ?」
「は、はい……」
「ちょ、ちょっと。あんた、まさかレイチェルを……!?」

 レイチェルは『やはりか……』と少しガッカリした。しかしシャンティは笑顔でこう言った。

「それだったら、馬鹿なハンター頭巾達を利用してやればいいのよ。オオカミ退治の現場に行けば、貴女に逆らう者は死ぬと分からせてやるのよ。ソフィさんに聞いたけど、剣技の腕は充分に持っているのでしょう? 余程のハンター頭巾でなければ貴女には逆らえないと思うわよ」
「ど、どうして?」
「だって、ハンター頭巾アイツ等ってオオカミに近づかれたら確実に死ぬじゃない。単純な攻撃しかしてこないオオカミの攻撃すら避けれない連中に、剣技を嗜んでいるレイチェルちゃんの攻撃が当たらないわけがないでしょ? 人間は、自己再生能力はないから、剣の届く範囲にアイツ等が入ってしまえば、確実に仕留められるわよ」

 と輝くような笑顔でそう言うと、御者台にいるジャンが「おい。この子達が歪むような事を言うんじゃない」とシャンティを怒る。まぁ、当然だろう。
 しかし、レイチェルは今の言葉を聞いて、少しだけ心が軽くなった気がした……。
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