ずきんなしのレイチェル

ふるか162号

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6話 オオカミ襲撃

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 馬車の旅も二日目。
 レイチェル達を乗せた馬車は、順調に道程を進め、陽が高いうちにはレベッカの住む町へと到着する予定だ。
 前日にシャンティが腹の内を話した事で、レイチェルの警戒心を解かれていた。二人きりの時間を邪魔されているので少し納得はしていないが、レイチェルに友好的なシャンティにはティルも警戒心を緩めていた。
 今も客室内では女性陣三人が談笑している。

「順調にいけば、夕方までに到着しそうね」
「そんなに早いんですか?」
「えぇ、この馬車は夜中にも走るタイプだったから、到着が速くなったみたいね。まぁ、これも道がしっかり整備されているからだけどね」

 道が整備されているという事は、街灯も設置されているので夜も安全に夜の休憩をとる事も、そのまま進み続ける事も出来るのだ。
 オオカミは光が苦手というわけではないのだが、街灯の光には近づかないという謎の習性を持っていたのを長年の研究で突き止めた事で、夜の安全が確保されたのだ。
 そんな話をしていると、急にヒサメが起き上がり、吠え始める。

「わん!」
「え? どうしたの?」

 ヒサメの鳴き声に驚いた御者は馬車を停めた。
 馬車が停まるとヒサメが客室から飛び出し、馬車の後方を見て威嚇し始める。それを見たジャンも御者に「ここでじっとしておいてくれ」と言い、御者台から飛び降りる。。

「おい、何があった?」
「ヒサメが威嚇するって事は、何かがこの馬車を狙って付いてきているかもしれない……」
「なに?」

 この街道は、比較的オオカミの出現も殆どないと言われている。という事は盗賊か? と、ジャンは警戒したが、警備隊が数時間ごとに巡回している場所で盗賊行為など自殺行為に等しいはずだと、首を横に振る。

「シャンティ、オオカミが来るかもしれない。武器の準備をしておいてくれ」
「えぇ……」

 シャンティは、腰にかけていた鞭を取り出し、客室を出る。それを見たティルも外に出た。ティルも銃を取り出し、レイチェルに「レイチェルはここに居るんだよ」と優しい笑顔で諭す。
 自分では役に立てない……とレイチェルがそう思って俯いていると、シャンティが「レイチェルちゃん。もしかしたら、君のこの先の参考になるかもしれないし、剣を持って馬車の外に出た方がいいよ」と言ってくる。これにはティルが怒って反論してきた。

「レイチェルはハンター頭巾になりたくなんてないんだよ!! レイチェルは私のお嫁さ……ゲフン、ゲフン」
「え?」

 レイチェルはティルが自分をお嫁さんに欲しいと言ってくれた事が嬉しかった。
 だが、この話には別の問題があるとレイチェルだけじゃなく、シャンティとジャンも気付いたのだ。
 そう……。

「お前! もしかし……「ティル、気持ちは嬉しいけど、女同士では結婚は出来ないよ」……「「え?」」
 
 この世界でも同性婚は認められていないので、レイチェルはごくごく普通の事を言っているだけなのだが、ジャンは心の中で「そういう問題じゃない!?」とツッコんでいた。

「ギャォオオオオオオオオン!!」

 突然の咆哮。
 この叫び声は間違いなくオオカミだ。
 だが、そこそこ有名なハンター頭巾である二人は少し腑に落ちなかった。

 どうしてこんな場所にオオカミが? 警備隊は何をやっているんだ?

 街道の警備にあたるのは、オオカミや盗賊の襲撃を撃退できるだけの実力がある者が任される。それなのに街道にオオカミが現れるという事があるのか? それに、この街道でオオカミが現れたという報告は今までに受けた事がない。どういう事だ? とジャンは、少し嫌な予感がした。
 だが、今の咆哮は間違いなくオオカミだ。そう感じたジャンは、御者を客室に避難させた。
 勿論、レイチェルも一緒に入れておきたかったが、妻であるシャンティがレイチェルを外に出してしまっていた。

「おい、シャンティ。その子を外に出しておいていいのか?」
「あら? 貴方は剣士だからと差別するの?」
「いや、そんな事はない。しかし、レイチェルの嬢ちゃんはハンター頭巾になりたくないんだろ? 客室に避難させておいた方がいいんじゃないのか?」
「そう?」

 シャンティは心配性であるジャンを苦笑しながら眺めている。そして、レイチェルを一瞥すると、少し驚いた。
 ソフィからはレイチェルはオオカミを恐れていると事前に聞いていたからこそ、客室に避難させておいた方がいいとジャンは判断したのだが、当のレイチェルは恐怖で震える事もなく、剣の柄に手を掛けていた。その姿にまったくの隙を感じなかった。

(このお嬢ちゃんはオオカミが怖いんじゃないのか? ソフィさんから依頼を受けた時、オオカミを恐れるがあまりハンター頭巾になりたがらないと聞かされていたのだが、まったく恐れている素振りを見せない。それどころか……、剣を静かに握る嬢ちゃんを見る限り、ここにいる誰よりも強いんじゃないのか?)

 そう思ってしまうほど、レイチェルの構えは無駄がなく美しく見えた。
 ジャンがそんな事を考えていると、レイチェルが構えを解く事の無いまま、ジャンの傍に歩いてくる。そして。

「ジャンさん。失礼な事を聞きますが、ジャンさんの銃の腕はどの程度なのですか?」
「なに?」

 突然自分の銃の腕前を聞かれたジャンは驚く。
 もしかして、護衛として信用されていないのか? とも思ったが……。

「気分を悪くしたのなら、ごめんなさい。でも、私が狙って欲しい・・・・・・場所をできるだけ正確に撃って欲しいので、こんな事を聞きました」

 正確に? ジャンは村の支部にいたハンター頭巾達の言葉を思い出す。
 支部長がレイチェルを嫌っている事は支部内では普通に広まっていた。それどころか、支部の連中はレイチェルを利用する気満々だったので、どう扱うかを議論していたのだ。
 ジャンはシャンティと頷き合い、レイチェルの指示に従う事にする。

「オオカミの俊敏さによるが、速度特化型でない限り、正確に当てて見せるさ。そのためにはシャンティの協力も必要だがな」

 オオカミには、大きく分けて三種類が存在していると言われていた。
 まず最初に普通のオオカミだ。
 普通と言っても、元々オオカミが動物の突然変異なので、変な話なのだが、特に特徴もない怪物を普通のオオカミと呼んでいた。
 次は今ジャンが言った、速度特化型。文字通り、素早い動きが厄介なオオカミで、ハンター頭巾から嫌われているタイプだ。
 最後に巨躯型。このオオカミは、人間の身長の三倍以上の巨躯を持っており、数人のハンター頭巾が連携して討伐しないといけない最も危険なタイプだ。
 ハンター頭巾達はこの三種類のオオカミ退治を主にしているのだが、実はオオカミには、他にも後二種類存在している。
 それをレイチェル達が知るのは、まだ先の事なのだが……。

 ジャン達は、シャンティが鞭でオオカミの動きを制限し、ジャンがオオカミのきゅしょである頭に弾丸を撃ち込むという戦い方を得意としている。

「俺達は嬢ちゃんの指示に従うよ。嬢ちゃんは俺達を駒の様に使うんだ」

 ジャンはレイチェルの頭に手を置き、そう笑った。
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