元救急医クラリスの異世界診療録 ―今度こそ、自分本位に生き抜きます―

やまだ

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第二章

第18話 隠された責

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研究。
行列をなす診療。
そして、疫病。

「……だめだ……」

クラリスは研究室のソファに沈み込み、天井を見つめた。

「やること多すぎ……しんどい……頭が回らない……」

「さすがにやりすぎだよ」

アニが呆れたように言う。

「クラリスはほとんどここにいるだろ。体がもつわけない。
そもそもなんでそんなに急いでんのさ?元々魔法陣なくて回ってたんでしょ?この診療所」

「……一流はね、何か起きる前に手立てを作っておくの。起きてから対処するのは二流」

「おい」

扉を開けながら、ミュラーが口を挟む。

「そういう格好いい台詞は、俺に言わせろ」

アニが肩をすくめ、ため息をついた。

その背後から入ってきたヴィルが、何も言わずクラリスの横にカップを置く。
紅茶の湯気が、ゆらりと立ち上った。

「……だが」

クラリスの横に腰を下ろしたルスカが低い声で言った。

「疫病は、早めに対処しなければならない。
蔓延すれば……」

言葉を途中で切り、口を閉ざす。

(国民が心配なんだね……素直じゃないな…)

クラリスがにやにやと見つめると、ルスカは気づいたように視線を逸らした。

「……仕事が増えるだけだ」

クラリスは机の上のカルテを手に取る。
住所も職業もばらばらで、目立った共通点はない。

「うーん……また水かなぁ?」

「それはない」

ルスカは即座に否定した。

「あの事件以来、井戸はすべて国の管理下に置いた。
兵を立て、月に一度は検査させ、結果は逐一、俺のもとに報告させている」

一瞬、沈黙。

次の瞬間。

「ルスカぁ……!」

ミュラーがわしゃわしゃと頭を撫でる。

「よくやってたなぁ……!」

クラリスは肩を叩き、ヴィルは無言で菓子を差し出した。

「な、なんだおまえら……」

「城で何があったか知らないけど、一生味方だからね!!」

「俺たちはお前のがんばり、ちゃんと知ってるからな」

「ルスカ、ずっとうちにいていいからね」

「や、やめろ」

ルスカは照れたように手を振り払うと、わざとらしく咳払いをした。

「それでクラ!お前明日は診療休め!俺と疫病調査!いいですね、ミュラー先生!」

「そうだな……研究も一回休んでみろ。視点を変えれば、見えるものもあるかもしれん」

いいながらにやけている三人を、ルスカはきっとにらみつけた。








翌朝。

昨晩、ルスカに引きずられながら久しぶりに帰宅し、ベッドに放り込まれた途端に眠りに落ちたクラリス。

「昨日はよく寝て頭すっきり!がんばるぞー!」

呆れた顔のルスカの横で、活気に満ちていた。

「で、五年前の水事件の時は、近隣の診療所にヴィルが聞き込みに行ってくれて、解決に繋がったのよね。今回も、それでいきましょう!」

うきうきと張り切って歩み始めるクラリスに、ルスカは背後でため息をついた。

「そう簡単にいけばいいがな……」







「ミュラー診療所の医者?出てってくれ!」

「ち、ちょっと……!!」

ぽいっと投げ出される診療鞄と、追い出されるクラリス。

ルスカは鞄を拾い上げ、埃を払った。

「これで3件目だよ?名乗っただけで追い出されるんだけど!?」

クラリスは、きっと診療所を睨みつけた。

「俺たちは近隣の診療所の患者を奪ってるからな。商売敵ってやつだ」

クラリスが見回すが、確かに診療所には患者の姿がほとんどない。

「だからってひどくない?この、爺医!!」

小石を拾い上げると、診療所の看板に投げつけた。カン、と虚しい音と、クラリスの荒々しい呼吸音が響く。

ルスカは顔を背け肩を震わせていたが、咳払いをした。

「仕事も増えて同業者には嫌われるってヤバすぎるね」

「愚痴を言っていても仕方がない。もう少し回ってみるぞ。何かあるかもしれないしな」

歩き出すルスカに、クラリスは慌ててその背を追った。







が、あれから5件。
全ての診療所で断られ、二人の背中を、夕陽が虚しくあたためていた。

「まさか全部とはね……恐れ入ったよ……近隣診療所からの嫌われ力……」

とぼとぼと歩くクラリス。
その時、どこからか漂ういい香りに誘われるように、ぐうとお腹の音が響く。
視線を上げると幼い頃からいつも訪れるレストランがあった。

「お腹すいたね……そこはいる?おいしいんだよ、いつもは並んでるんだ」

きょろきょろ見回すが誰も店先にはいなかった。

「あっ……でもルスカだめなんだったね、なにか買って帰る?」

ルスカは王族の身のため、万一のためにと外での食事は禁止されてきていたのだ。
おまけに、これまでは女と二人きりでの外出にも、気を遣ってきた。

「……いや、構わん。いくぞ」

ルスカはレストラン前のメニューに目を通す。

「やった!ルスカにもお店で食べてみてほしかったんだ」

クラリスがドアを開けると、カランと鐘の音が響いた。

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