元救急医クラリスの異世界診療録 ―今度こそ、自分本位に生き抜きます―

やまだ

文字の大きさ
63 / 70
第二章

第33話 三度きりの奇跡

しおりを挟む



重症と思われる患者は三人。

ミュラーが群衆のもとへ、クラリスたちはそれぞれが患者の元へとかけよった。

クラリスはしゃがみこむ若い女性の横に、おなじくしゃがむ。

「話せる?何か言える?」

女性は首を横に振り、両手を首にあてていた。

(チョークサイン!あの細粒が気道を塞いだのか、アレルギー反応で粘膜が腫れているのか……)

顕現の魔法陣を当てる。

魔法陣には、紫の粒子。

(腫れた粘膜が気道を塞いでいるなら、救命は難しい……なんせ、炎症を抑えられる薬なんて、ないんだから……!)

消去の魔法陣をあてる。

(お願い、効いて……)

魔法陣の光が女性をつつみこみ……

一秒。

二秒。

「……はっ」

女性が、空気を大きく吸い込む。

「はぁっ……はぁっ……!」

胸が上下し、女性の目に涙が浮かぶ。
女性がクラリスの白衣を掴む。
その手は、震えていた。

クラリスは女性の背をなでながらも、大きく息を吐いた。

「……よかった……!」

声が震えていることに気づき、慌てて首を振る。

見回すと、ルスカもヴィルも顔を上げていた。
その横で、患者が確かに呼吸をしている。

(これなら……!)

三人は視線を交わす。
言葉はない。
ただ、強く頷いた。

(いける……!!)

クラリスは雨に濡れた石畳を蹴り、広場へ走った。







広場に集まった人々は、ミュラーを囲むように立ち、診察を見守るように順番を待っていた。

「……暴動になったかと思った」

整列を促すハンナに、クラリスが尋ねると、ハンナはくすりと笑う。

「子供五人育て上げたこのわたしと、元軍医ミュラー先生の力だね。さあ、先生たちも頼むよ!」

(……なにがあったんだろ……)

首を傾げつつも、ハンナにばしと背を叩かれたクラリスもまた、診察に取り掛かった。




(魔法陣、すごい……!)

笑顔で立ち去る患者に手を振りながら、クラリスは汗を拭った。

(魔力消費もないし、これなら何人でも診れる……!)

クラリスが次の患者を手招きした時だった。

紙の上の魔法陣が一瞬大きく光を放ち、まるで燃えるように端から消えていく。

「あ、あれ……?」

みるみるうちに、白紙に戻ってしまった紙を、クラリスは呆然と見つめた。

「お前もか……!」

背後からかかる声に、クラリスは顔を上げた。

「ミュラー先生!あれ?診察は……?」

雨に濡れた前髪をぬぐいながら、ミュラーはふう、と息を吐いた。

「俺もお前と同じだ!紙に戻っちまった。アニが言うには、発動はせいぜい三回ほどだと……!!くそっ!!」

「……っ!!」

頭を巡らせる。

(確かに、アニがそんなことを言ってた……!)

背筋を冷たい何かが滑っていく。

「いまアニが、描き写してくれてるが……なんせ一人だからな……!!」

広場には、まだ何十人も、何百人も残っている。
重なる咳の音。
子供の泣き声。

その中でも、ミュラーの声が、雑音の中にやけにはっきりと響いた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

処理中です...