愛しの君へ

秋霧ゆう

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第1章

第15話 亀裂

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 夏祭りも終わり、地元に帰ってきた。
 帰りる前にじじいとばばあに挨拶に向かった。

「喧嘩でもしたのかい?」

 ばばあが言う。

「いやいやしてねぇって、俺ら親友だし」

 旭が蒼の肩を組む。
 しかし、蒼の表情は少し固く、バイト中とは明らかに違う雰囲気があった。
 けれど、ばばあは特に何も突っ込もうとはしなかった。

「それなら良い。この2週間本当にありがとね。地元に戻っても元気にやるんだよ!喧嘩なんてするんじゃないよ!!」
「はい!」

 蒼は返事をしなかった。
 それから3人で電車に乗って帰ってきたけれど、暁も蒼もお互い顔を見ようとしなかった。それどころか、家の方面は同じなのに最寄り駅に着いた瞬間に蒼はこれから用事があるといい別方向に向かっていった。
 旭が着いていこうとすると、暁が旭を引っ張る。
 その後の夏休み、旭と蒼が会うことは無かった。
 夏休みも終わり、また学校が始まる。
 小学生の頃から一緒に学校へ向かう仲の旭と蒼だが、その日蒼は旭の家へは来なかった。

「今日蒼君来ないね。何かあったのかな」
「今日から学校なの忘れてるとか」
「旭じゃないんだからそんなことはないでしょ」
「ちょ、父さん!?」
「それじゃあ、今日は旭が迎えに行ったら?」
「あー、それもいいな!じゃあもう行ってくる」
「行ってらっしゃい」
「行ってきまーす。暁、行くぞ」

 暁は黙って旭の後を着いていった。
 蒼の家に着き、チャイムを鳴らす。
 ピンポーン。

「あれ?旭君、どうしたの?」
「蒼居ますかー?」
「蒼ならもう学校行ったけど」
「え?」
「まさか蒼ったら旭君に何も言わずに行ったの?ごめんなさいね」
「いえいえ…」
「蒼はね翠の生徒会の手伝いとかで早くに行っちゃったの」 
「そうすか!分かりました。ありがとうございます」
「気をつけて行ってらっしゃい」
「はい!行ってきます」
「ったく、蒼のやろー」

 学校へ着くと、早速担任に会う。

「げっ」
「げっとは何だ、げっとは」
「すんません」
「…あれ?桐生は?」
「今日は別々に来ました」
「珍しいな、いつもセットなのに」
「あはは」
「あ!それはそうと九条。お前夏休み中、部活動してねぇだろ」
「え?」
「月に最低1回。必ず部活動をすること。その後必ずレポートを提出すること。忘れてたんじゃねぇだろうな」
「いやいやいや忘れてないっす!ちゃんと活動しましたよ?」
「それじゃこれから山田先生に聞きに行こうか」
「あー、えっとそれは…」

 あたふたしていると、山田先生がやってきた。

「あ!山田先生!!」
「えっ…」
「えっ、って?」
「いやー、それは」
「山田先生、夏休み期間に妖精部はちゃんと活動してましたか?」

 ニヤニヤする担任の高槻先生と焦っている旭。そして、ニコニコする山田先生。

「活動してたみたいですよ」
「えっ?」
「えっ?」
「何でお前も驚いてんだ」
「いやいやいや驚いてないっす」
「今朝、桐生君がレポート持ってきてくれたんですよ。なんでも、皆で海に行って、海の妖精を探しに行ったんですよね。仙道君も楽しかったと真っ黒に日焼けして言ってましたよ」
「そうすか」

 高槻先生は少し残念そうしていた。
 旭は安心していた。だが、蒼が1人でその作業をしていたことには不満が残った。

「で、海の妖精は見つかったのか?」
「み、見つかりませんでした」
「あれ?でも桐生君は九条君だけ見つけたと言ってましたが…」
「えっ!?」
「夏祭りで楽しそうにしていたと」
「あーあれねあれは…告る前に振られました」
「ハハハ!!お前振られたの?」

 廊下で爆笑する高槻先生。止めなさいと言わんばかりの山田先生。

「それじゃあな、早く教室行けよ九条」
「うーす」

 教室に入ると、蒼はすでに座っていた。
 蒼の前に立つ旭。

「何?」
「何って、なんで先に行くこと教えてくれないんだよ」
「メッセージ見てないの?」
「メッセージ?」

 携帯を開くと蒼からメッセージが来ていた。朝5時に。

「お前なーこれ早すぎるだろ」
「旭だってこの時間に起こしにきたんだからお互い様」

 蒼にそう言われると何も言えない旭。

「そうだ!あれは?」
「あれ?」
「部活のレポート」
「ああ、あれね。海の家でバイトしてる時、椿に会ったじゃん」
「おー」
「その時に椿が何か言いたそうにしてて、椿はやけに部活動のこと詳しいから。で、兄ちゃんに聞いてみたら最低1日は活動してレポート提出しないと廃部って聞いたからやっといた」
「なるほどなー。ん?でも8月分は?」
「それは適当に」
「そっか。ありがとな」
「うん」

 周りから見たらいつもの2人。けれど、2人からしたら確実に今までとは違う雰囲気だった。





 


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