愛しの君へ

秋霧ゆう

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第1章

第25話 新学期

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 騒がしかった旭の祖母と祖父も帰り、やっと静かな日々が帰ってきた。
 そして今日は新学期1日目。停学明け初めての登校。
 正直、心臓バクバクな旭。

「大丈夫、だよな?」
「いつもの旭らしくないな。じいちゃんばあちゃんが来てた間大人しくしすぎてキャラ変したのか?」
「お前なー」

 そんなことを部屋で話していると1階から父の声が。

「旭ー!!蒼君来てるよー!!!」
「今行くー」
「旭、頑張ってね」
「うん、行ってきます」

 家を出た旭はいつものように蒼に挨拶する。

「はよ」
「おはよ」
「…お年玉」
「あぁ、ごめんね。僕まで貰っちゃって」
「子供が、遠慮なんてするもんじゃない」
「はは、似てる似てる。…5000円いる?」
「え、なんで?」
「旭のおじいちゃんとおばあちゃんが帰る時におばあちゃんが言ってた」
「いらね」
「欲しいからその話題振ったんじゃないの?」
「違う」
「…旭。なんかあった?今日変だよ」
「別に何も」
「はぁ」

 大きく溜息を着く暁。

「旭はな、心配なんだよ。これから学校行くのに怖くて怖くて堪らなくて不安でいっぱいなんだ」
「えっ、旭が?」
「なんだよー」
「ごめんごめん。その不安を与えたのは僕だな。ごめんね旭」
「そうじゃないだろー」
「え?」
「だから、1人じゃないし、僕だって居るし、心配することなんて何もないだろ!」
「確かに、そうだな。心配させて悪かったよ、暁」

 不安を抱えながら学校に着くも、椿を殴って停学になっていたことは広まっていなかった。先生も再試メンバーも言いふらさなかったらしい。

「はよー、九条」
「おはよ…」
「お前まだ冬休み気分でいんのか?あ、分かった。宿題終わってねえんだろ。俺も俺も」

 いつもと変わらず話しかけてくれるクラスメイトに安心したように笑った。

「残念ながら終わってるんだなー」
「な、んだと」
「杏ちゃん先生の数学ドリル50ページを終わらせただと!?」
「…え、なにそれ」
「え、何って言ってたじゃん…。冬休み前最後の授業の時に。あー、お前ってば再試のことで頭がいっぱいだったんだろ!!」

 サーっと血の気が引いていく旭。

「そ、蒼!!」
「うん、あるよ。しかも4月の最初の授業の時、杏ちゃん先生はドリルの答え全て回収してるから自分で調べながらやらないと終わらない内容になってるよ」
「う、そだろ」

 その場に崩れ落ちる旭。

「どうしよう」
「大丈夫だ九条!俺らは仲間だ!!」
「俺ら?」
「俺ら!!」

 旭の前には笑顔な6人のクラスメイト。
 その横を通り過ぎる天才佐藤。そんな佐藤の肩を掴むクラスメイト。

「何?」
「佐藤くーん、…カンニングさせて下さい」
「嫌だけど」
「これでもか!」

 土下座をするクラスメイト達。

「ほら、九条も」
「お、おお」

 心底嫌そうな表情の佐藤。

「桐生君も止めてよ」
「うん。頑張って」
「え、ちょ」

 その場を立ち去ろうとする蒼の足を掴む旭。

「よくやった、九条!」
「いや離してって」
「見せてくれると宣言するまで離すな九条」
「もちろんだ!!!」
「何してるんだ?」
「え?」

 土下座をする7人の生徒と困った表情の2人の生徒。そして、たまたま挨拶運動をしていて通りかかった金城先生。
 旭含め、最大に焦り出す。土下座をしていた生徒達は何事も無かったかのように立ち上がり言い訳を始めた。

「い、いやー、あのー、そのー、あ、遊びです、遊び」

 金城先生は土下座の生徒の言葉は聞きとらなかった。

「おいそこのメガネ、説明しろ」
「は、はい。実は、」
「や、やめ」

 真実を話そうとする佐藤を止めに入るクラスメイト。そんなクラスメイトを睨みつける金城先生。クラスメイトは何も言えなくなっていた。
 佐藤が一通り説明を終わると、旭含め7人の生徒は生活指導室へ連れて行かれた。連れて行く途中、金城先生は足を止め蒼に声をかける。

「桐生弟!」
「は、はい」
「下を向くな、高槻先生が俺らを説得したんだからな。今まで通りに堂々としろ。兄貴を見習え」
「はい」

 金城先生は翠のことをよく知る先生だった。翠は中学の頃荒れていたが、金城先生がこの学校に来るように言って落ち着かせたのだ。
 蒼と佐藤は2人きりになった。

「説得?兄貴?」
「あー、うん。まあ色々あって。兄ちゃんは今生徒会ちょ」
「生徒会長は君のお兄さんなのかい!?」
「え、うん」

 蒼の言葉を遮り質問してきた佐藤。

「僕はね、生徒会長に憧れてるんだ!」
「そうなんだ」
「うん!だって、まず小柄で可愛いし、頭は良いし、困ってる生徒や先生が居たらすぐに助けに入るし、学校外でも困ってる人いたらすぐに助けてたし、しかもね!僕も前に助けてもらったんだ」
「へぇ」
「僕があの全国のヤンキーが集まるという第三高校の生徒にかつあげされてた時、すぐに助けに来てくれて、しかも第三高校の生徒を絞めあげてたんだよ!凄くかっこよかった」
「それって、いつ頃の話?」
「えっとね、冬休みに入った日だったかな」
「…そっか。ありがとう」
「何で、桐生君がお礼を言うのさ。僕の方こそ、助けてくれてありがとうございます。お兄さんにそう伝えてもらってもいいかな」
「もちろん」

 
 -冬休みに入った日のこと。
 (蒼と旭が椿を殴った日のこと)
  夜10時。

「あー、クソがクソがクソが!!!蒼が誰彼構わず殴る訳がねえだろが。蒼にあんな顔させやがって、殺す。絶対ぜってぇ殺す。死んでも殺す。あっ?」

 翠がむしゃくしゃしながら歩いていると、かつあげされている佐藤がいた。

「今殴っても正当防衛だよな?あいつを助けてやるんだもんな!?金城に何言われようとサツに何言われようと関係ねぇよな!それにあいつら俺より底辺のクソ人間だろ」

 と言う感じに、佐藤を助けることとなった。
 佐藤のためというよりかは、溺愛している弟が停学処分を食らうことになり、しかも殴られた椿はヘラヘラしている態度が気に食わず心のままに殴り絞めあげた。
 その流れで翠は関東制覇したこととなるのだが、それはまた別のお話。


 -話は戻り、現在。

「蒼、どうしよう」
「何があったの?」
「居残りだって」
「そりゃそうでしょ」
「くっそー。杏ちゃんの授業の時に間に合わなかったって宣言したやつは1週間待ってもらえたのに何で俺だけ」
「朝の一件でしょ。あんな皆が居るところで土下座なんてするから」
「くっそー。矢島の話に乗らなければ」
「それに丁度いいんじゃない?どうせ、1週間延びたところで終わらせられないんだから」
「俺のこと何だと思ってるんだよー!!」
「まあまあ頑張れ頑張れ」
「うぅ…。そうだ、蒼。頼みがあるんだ」
「頼み?」
「うん。バイト代わって、店長には伝えとくから」
「はぁ。わかった。良いよ。その代わりちゃんと今日中に宿題終わらせなね」
「おう!ありがとな!!」

 そして学校が終わり、旭のバイト先へ向かう。旭のバイト先は古書なんかを売っている年季の入った本屋さん。

「え、ここ?」
「君が、旭君のお友達の桐生あお君かい?」
「あー、そう、です」
「そうかいそうかい。よろしく頼むよ、あお君」
「いや、あの、そう。いや、分かりました」
「と言ってもね、ここは見ての通り、あんまり人は来ないんだ」

 杖をつき、震えながら歩いてきたおじいちゃん店長。
 何よりも店長の心配が勝ってしまう。
 それから3時間。来た客は1人。購入した客は0人だった。ただ、座ってるだけで終了した初バイト。

「お疲れ様。これお給料ね」
「いや、これは旭に」
「どうしてだい?これは君が稼いだお金なんだ。君は旭君の代わりに来たけれど、君が働いたんだ。お給料は君に払うべきなんだ」
「ありがとう、ございます」
「うん」

 店長は笑った。

「また来てね」
「はい。必ずまた、旭と一緒に」
「待ってるよ」

 そして、暗い暗いの路地裏を通り、蒼は帰路に着く。怪しい人影と共に。
 
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