愛しの君へ

秋霧ゆう

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第1章

第28話 蒼の誕生日

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 蒼が意識をなくしてから1ヶ月が過ぎた。

「蒼、やっと決着が着いたから今日はその話をしに来たんだ。翠兄ちゃんの手下Aが言った通り、やっぱり蒼を痛めつけたのは仙道組だった。仙道組、組長の孫が仙道椿であり、ヤクザの力を使って蒼をこんな姿にしたらしい。蒼を傷つけたのは椿と椿の護衛をしている組員、そして新しく入る予定の組員だったらしい。派手に蒼を傷つけ、目撃も多くされていたことにより仙道組本体が目撃者の口封じをして裏から車で逃走したんだとか。でも目撃者の口封じも全員は出来てなかったっぽくて、口封じされなかった人が警察に電話したんだって。口封じって言っても殺すんじゃなくて金を渡されたらしい。こんな怪しい金は使えないって言って警察に来た人なんかも居るって。そんでそこから警察は色々と検証?とかして、仙道組組員は殺害未遂で逮捕されて椿は少年院に入った。…しばらくは安心だな。ついでに言っておくと、あの五月蝿い椿の母親は病院に何回も来てお前の前で土下座してたぜ。何度も何度も謝ってた。絶対許せないけどな。…なあ、早く目を覚ましてくれよ。お前が居ないとつまんないだろ」

 蒼へ言葉をかけ旭は静かに椅子から立ち上がった。そして一言。

「じゃあまた来るから」

 クラスには高槻先生から蒼が暴行を受け、入院していることを告げられた。
 クラスメイト達は旭を心配する人が数多く居た。旭と蒼はいつも一緒に居たから。
 旭は何かしようにも無気力なようで、クラスメイトも家族も店長も暁も皆が心配していた。
 翠は二重人格のような性格になった。学校では、生徒会長で優等生。外では不良をまとめあげる総長的な人。
 そして、再び金城先生に目をつけられているようだ。

 2月14日。

「ハッピバースデートゥーユー、ハッピーバースデートューユー、ハッピーバースデーディア蒼~。ハッピーバースデートゥーユー」
「おめでとう蒼!!!」

 病院内に響き渡るクラスメイトの歌声。
 病院の先生達から静かにしなさいと怒られた。
 
「桐生!プレゼントだ」

 各自各々、ちょっと高めのボールペン、面白い形のボールペン、スポーツタオル、コップ、ケーキ、お守り、招き猫、エロ本、ドソキで買ったメイド服。そして、旭からはシトラスの香りの香水。

「うわ、九条のしゃれてんな」
「お前らのプレゼントは既に俺が昔あげてるからな」

 ドヤ顔でいう旭。

「さすが幼なじみ」
「つうか、誰だよ。ケーキ買ってきたやつ」
「俺!ケーキの良い匂いに誘われて桐生も起きるかもしれないだろ」

 そういうと、ケーキを蒼の顔近くに寄せる。

「ほらほら桐生起きないと俺が全部食べちまうぞー」
「お前が全部食ったら桐生のプレゼントじゃなくなるだろ」
「確かに!!」
「でもお前こそ誕プレにエロ本でどういうセンスしてんだよ!つか、よく買えたな!!」
「ふっふっふっ、それは兄貴に頼んだ」
「俺らって健全な男子高校生じゃん。エロこそ正義だ」
「何言ってんだ、お前」
「そんな顔するな。お前らの次の誕生日にもしっかりエロ本をプレゼントするからな」
「いや、いらねえ」
「んなこと言うなって」
「いや、マジで」
「僕のプレゼントも良いでしょ」
「いや、お前が一番びっくりだよ、佐藤」
「メイド服て…」
「だってだって桐生君って、綺麗系、美人さんって感じがするからメイド服来てもらってカツラ被ってもらったら絶対似合うと思うんだよね!!」
「女子に着させろよ」
「何言ってんのさ、男が着ることに浪漫があるんだよ」
「ねえよ」

 蒼の元で皆で誕生日会をして、騒いで、先生から特別に許可貰って蒼のいるところでケーキを食べて、もちろん俺たちだけで…。騒ぎすぎてまた少し怒られて。旭以外のメンバーは先に帰った。

「蒼、皆お前を祝いに来てくれたんだぞ。早く起きろよ」

 すると、扉が開いた。誰かが忘れ物をしたのか。扉の方を見ると、大きな熊が居た。いや、熊のぬいぐるみがいた。

「えっ!?」
「あっれー、旭くんだー!!!」
「朱音ちゃんに翠兄ちゃん!?」
「今日は蒼お兄ちゃんの誕生日だからねー!お祝いに来た!!」
「そっか、…それは?」
「あ、これ?これは毎年の恒例というか」

 朱音が気まずそうに答えた。

「恒例?」
「そう。毎年翠お兄ちゃんは蒼お兄ちゃんに熊のぬいぐるみプレゼントしてて」
「良いだろ、大きくなるにつれて、熊も大きくなるんだ」
「いやいやいや、そろそろやめてあげなよ」
「何で?」
「蒼お兄ちゃんの部屋、キャピキャピしてる女の子の部屋みたくなってるよ」
「そうか?」
「それに!蒼お兄ちゃんは熊のぬいぐるみなのに私にはゴリラのぬいぐるみってどうしてなの!?」
「だって、朱音は、ゴリラっぽいし」
「はぁ!?意味わかんない!!」
「態度でかいし、うるさいし」
「はぁ!?!?」
「静かに!病院ですよ!!」
「すみません…」

 翠と朱音の喧嘩がヒートアップしてきたところに看護師さんが来て、2人は落ち着きを取り戻した。

「蒼お兄ちゃん、翠お兄ちゃんがいじめてくるから早く起きて私を守ってよー」
「何言ってんだよ。仲良しだろ。いじめてなんかないからなー、蒼」

 何だかんだいっても仲の良い兄妹。
 翠の目にクラスメイトからの誕生日プレゼントが目に入る。

「なんだこれは…」
「あ、それは皆からの誕プレで」
「エロ本?」
「あー、それは」
「これは蒼にはまだ早い!!!」

 そう言うと、翠はエロ本は破った。

「え、な、何してんの!?」
「朱音にもまだ早い。目を瞑れ、早く」
「え、え、え!?」

 そうすると、翠は破ったエロ本を自分の鞄に入れた。

「旭君のはどれー?」
「これ、シトラスの香りの香水」
「センス良い~。どっかの誰かさんとは大違い」
「なんだと!?可愛いだろ、これ」
「蒼お兄ちゃん、シトラスの香り好きだもんね」
「うん、なんか匂いのあるもの買う時、必ずシトラスの香りを買ってたから。香水なら年中付けられるだろうし」
「何!?蒼はシトラスが好きなのか!?」
「知らなかったの?お兄ちゃん」
「…。朱音の方が蒼のことを知っているとは。クソっ」
「はっはっはっ。蒼お兄ちゃんのことは何でも知ってるよ!でも、旭くんの方が詳しいんだろうな~」
「……。よし、帰るか」
「だね」

 蒼のことは1番知ってると思っていた翠は悔しくなって退散することにした。

「蒼、また来るよ」
「もち、私もね」
「お、俺だって」

 そして、3人は帰って行った。

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