愛しの君へ

秋霧ゆう

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第1章

第29話 卒業式

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「暁、昨日どこ行ってたの?」
「旭の誕生日プレゼントの準備だ」
「おっ、期待していいのか?」
「もちろんだぞ。今年は準備万端だからな」

 昨日の蒼の誕生日会、暁は席を外していた。旭の誕生日は1ヶ月後の3月14日。
 蒼の誕生日がバレンタインで旭の誕生日がホワイトデー。そのため、毎年一部の女子から騒がれていた。
 蒼が倒れてからの旭は学校に行ってバイトをして、また学校に行って、誰も居ない部室で旭と暁の2人で部活動する日々を送っていた。

 3月1日。

 今日は先輩の卒業式だ。
 だが、卒業式の日は、1・2年生はお休みであり、今日もまた蒼の元へ行こうとしていた。
 病院に行くには学校の前を通り過ぎる必要があり、一応、お世話になった先輩に挨拶をしようと学校に立ち寄る。
 旭がお世話になった先輩は主に各部活の部長、それから顧問が山田先生の園芸部と漫画研究会の3年生。
 特に好きな感情を持つのは江田と小鳥遊だろう。この2人は蒼が椿を殴ったあの事件の時、自分の受験勉強も忙しいはずなのに親身になってくれたこと。正直、嬉しかったしありがたかった。

「よー、九条!来てくれたのか」
「うす」

 ニヤニヤしながら江田は近づいてきた。

「卒業、おめでとうございます」
「おう」

 江田は旭の背中をバンバン叩きながら嬉しそうに返事をした。

「ところで、受験どうだったんですか?」
「あ?もちろん合格した」
「おめでとうございます」
「あんがとな」
「……桐生はどんな感じだ?」
「まだ目を覚まさなくて…」

 江田から目を背ける旭。

「うし!じゃあこれから行くか」
「え?」
「行かねえの?」
「いや行きますけど」
「けど?」
「江田ぱいせんはほら卒業だし、友達と写真撮ったりとか」
「良いんだよ!仲良いやつとは夜に飯食いに行くし」

 旭は江田に連れられ、学校を出た。

「で、どっちに行くんだ?」
「えっと」
「どこに行くんだ?」
 
 2人の後ろには小鳥遊が居た。

「桐生のとこ」
「俺も行く」
「え、でも小鳥遊ぱいせん…」
「不満か?」
「そんなことないっす」

 旭は慌てて否定した。
 3人は病院に向かった。病室に着くと、いつもと何も変わらない、蒼が眠っていた。

「何でこいつは目を覚まさないんだ?」
「正直分からないそうです。ストレスなのかなんなのか…」
「犯人ってこいつが殴ったやつだったんだろ」
「はい。…ってなんで知って」
「翠が口を滑らした」
「そうなん、すね」

 表情が暗くなる旭に江田が話題を変える。

「小鳥遊の勉強、翠が見てたんだぜ」
「えっ!?」
「急に何故言うんだ」
「良いだろ。こいつの兄貴だし」

 江田は蒼を指さす。

「な、なんだと…!?」
「知らなかったのか。つっても俺も体育祭の時に九条から教えてもらったんだがな」
「あー、でもだからか」
「何が?」
「受験ラストスパートの時、苦手科目を翠が詳しく教えてくれてな。何故急に関わったことのない先輩だと言うのに教えてくれるのな謎だったんだ」
「ふーん、弟の面倒見たからか?」
「はは、翠兄ちゃんはブラコンだからな」
「翠はブラコンか。良いことを聞いたな」
「つか、小鳥遊ぱいせんは翠兄ちゃんのこと、翠呼びなんすか?」
「あー、前にそう呼んでくれって言われてな」
「翠兄ちゃん、まさか」
「いやいや、ねえって」
「なんで言いきれるんすか?」
「あいつ色んなやつから告られてるのに全員断ってんだよ」
「男子校なのに?」
「男子校なのに。あいつだって可愛いだろ」
「かわいい?」
「え、疑問形?」
「翠兄ちゃんは別に可愛くは…」
「何言ってるんだ九条!翠は可愛いだろ」
「えっ」
「ん?」

 廊下から聞き覚えのある声が聞こえた。
 旭が廊下に出るとその声の主は居なかったが、代わりにサメのキーホルダーが落ちていた。
 このキーホルダーは小学生の頃、蒼がお小遣いを使って翠に誕生日プレゼントしたものだ。翠は鞄につけて持ち歩いている。

「これは…」
「翠のだな」
「居ないってことは、じゃあ、あいつは…」

 江田がふらつきそのまま椅子に座る。

「どうしたんすか?」
「実はな今日告白しようかと…」
「えっ!?誰にっすか!」
「察しろ」
「え?」
「そうか、あいつは小鳥遊が好きなのか…」

 悲しそうな表情をする江田に旭が肩をポンと叩く。ニッコニコの笑顔で。

「テメッ、なんでそんな笑顔なんだよ」
「実は俺も夏に失恋して」
「そうか…それは残念だったなー」

 江田はニッコニコに笑い返して旭を煽る。

「お、俺はどうするべきだ?」
「知らん」

 小鳥遊は困惑していた。困惑し2人に助けを求めるも塩対応をされる。

「よし、分かった。明日学校に用事があるんだ。明日翠に告白しよう」
「そすか、頑張ってください」
「何故そんな冷たいんだ」

 そして、江田と小鳥遊と別れた。
 江田は次の体育祭、部活対抗リレーの妖精コスプレを楽しみにしてるぞと言葉を放ち、帰って行った。
 旭はまた病室に戻ってきた。

「お前が寝てる間に先輩達卒業しちまったぞ」

 扉が開いた。

「翠兄ちゃん!」
「まだ居たんだ、旭」
「そんなことより、びっくりしたよ」
「何が?」
「小鳥遊ぱいせんのこと!」
「ああ、勉強教えたことね。まあ金城に言われて勉強してたら3年生のとこまでやっちゃってさ」
「いやいやいや、聞きたいのはそっちじゃなくて」
「そっちってどっち?」
「え、恋…してるんでしょ?」
「何?何の話?」
「え?」
「小鳥遊先輩はさ、再試メンバーだったじゃん」
「うん」
「蒼が殴ったあと旭は蒼の元に居たから知らないと思うんだけど、再試に戻ったあと皆テストに集中出来なくて江田先輩とか見に行こうとして止めてを繰り返して旭のクラスメイト達もそんな感じ。小鳥遊先輩だけはちゃんと再試受けてて、そしたら江田先輩が心配じゃないのか!って言い始めて、でも今俺達に出来るのは再試に受かることだけだからって。でも再試が終わって用紙を提出しに来た時心配の汗でテストがびっしょりに濡れてて、蒼は皆に愛されてるんだなって思ってさ。そしたら俺も蒼のことが大好きな人に恩返しをしてやろうって」
「うん。で、好きなの?」
「えっ?」
「小鳥遊ぱいせん」
「いやいやいやいや、何言ってんの?恩返しであって好きとかそういうのじゃないよ」
「えー」
「それに俺はな、蒼が1番大好きなんだ。蒼が幸せになったら俺も好きな子見つけるんだ」

 満面の笑みで旭に言った。
 重度のブラコンに少し引いた旭だった。

「それじゃあ、帰るね」
「じゃ、じゃあさ、何でさっき居なくなったの?」
「あー、前に会ったじゃん。ハンカチが飛ばされちゃった女の子」
「うん」
「その子が他の患者さんとぶつかっちゃったみたいで大泣きしてて看護師さんが泣き止まそうとしても泣き止まなくて俺が泣き止ましに行ったって感じ」
「あー、なるほどね…」
「うん、じゃあね、旭。また明日」
「うん」

 スーッと深呼吸する旭。
 これは、小鳥遊ぱいせんは確実に振られることになると確信した。



 
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