愛しの君へ

秋霧ゆう

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第2章

第51話 文化祭・中編

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 幕を開けた文化祭だが人が来る気配がない。

「よし!偵察に行こう」
「別によくね~?働きたくねー」
「お前たち!良いのか!?」
「何が?」
「俺達のこの磨かれた筋肉を女子達に魅せなくて」

 猫耳筋肉達がハッとした表情で立ち上がり、クラスの看板を旭に持たせた。

「うちのクラスの命運は九条と桐生に任せた」
「…任せろ」
「え?僕も行くの?」

 そうして旭と蒼は教室から出た。

「敵情視察だー!」

 だが、2年の教室はどのクラスも差程盛り上がってはいなかった。
 2人は2年E組にやってきた。

「お前ら何やってんのー?」
「見て分かんない?ゲーム」
「出し物?」
「そんなわけねえじゃん」
「出し物は?」
「人なんか来るはずねえだろ」
「なんで?」
「知らねぇの?」
「何が」
「1年の教室に『  』のメンバーが来てるらしくて客が全員そっちに流れてるんだと」
「メンバーの誰?」
「奏汰じゃないのは確か」
「そうか」

 奏汰炎上は暁の仕業でもあり、なんとも言えない空気になる。

「でもなんで1年の教室に?」
「何でも奏汰の弟がこの学校にいるらしい」
「へぇ」
「しかもなんと」
「なんと?」
「生き別れの兄弟なんだと」
「生き別れの」
「そっ。お涙頂戴物語。つーわけで誰も来ねえよ。こんなとこ」
「情報ありがとな!」
「行ってくるのか?」
「おう!」

 旭、暁、蒼は1年の教室へと向かった。
 すると確かに一際盛り上がっている教室を見つけた。

「あれが、奏汰の弟か?」

 そこには、『  』のメンバーに囲まれた近衛の姿があった。

「近衛!?」
「旭先輩、蒼先輩」
「お、おま、お前が弟!?」
「違いますよ」
「ち、ちが、違うのか!?」
「違いますよ。奏汰の弟はこっち。幼なじみの颯太です」
「こ、こんにちは」

 近衛の後ろから小柄な少年が顔を出す。

「かわいい…」

 咄嗟に出てしまった「かわいい」と言う言葉に暁は見逃さなかった。

「初級魔…」
「悪い悪い」

 魔法を放とうとする暁に咄嗟に謝る旭。

「ぼ、僕はよく言われるんです。皆にかわいいって」

 声もとっても可愛らしく本当に男の子なのか疑うレベルであった。
 教室にいる皆が颯太を見ていた。

「颯太!私達を忘れてない!?」

 『  』のメンバーの瑞稀が後ろから颯太に抱きついた。

「って、え!?あなた凄くカッコイイわね」

 旭の手を握って瑞稀が言う。

「お、俺っすか?蒼じゃなくて?」
「蒼?って執事の君?」
「はい」
「私はあなたみたいな騎士の方がカッコイイと思うわ」
「そんなことないもん!!!」

 対抗して後ろから朱音が蒼に抱きつき言った。

「お兄ちゃんの方が旭君の100倍カッコイイんだから!!!」
「何言ってるんだ!旭の方が100倍カッコイイ!!!」

 朱音と瑞稀の言い合いのはずが、気づけば、朱音と暁の言い合いへと変わっていた。

「それはそうと本当にカッコイイと思うの。新作のMVに出てみない?」
「いや遠慮しときます」
「即答!?私達のMVよ?きっと人気が出て彼女だって選び放題よ。それに、芸能界デビューしちゃったり…」
「いえ、俺は恋人いるし。有名になりたいとかそういうのはなくて、俺はこの場所で楽しく生きられたのならそれでいいんす」
「そっか。無理を言っちゃ悪いもんね。でも気が変わったら連絡してちょうだい!連絡先は颯太にでも聞いてちょうだい。それじゃ私達はこれから仕事だから帰るわ。じゃあね!」

 『  』のメンバーは帰って行った。

「じゃあ、もう少し回ったら教室に帰る?」
「おう!」
「じゃあじゃあ、お兄ちゃん!私の教室来て」
「朱音のクラスは何の出し物してんだ?」
「見てわかんない?」
「んー」
「赤ずきんちゃん?」
「正解!ってことは?」
「演劇?」
「ちーがーう!お化け屋敷!!」
「お化け屋敷?」
「そ!私の顔!ゾンビみたくなってるでしょ?」
「なるほどなー」
「じゃあ行こ!近衛また後でね!」
「ああ」

 4人はお化け屋敷へと向かった。

「お兄ちゃんこわーい!!」
「お前、お化け側じゃないのか」
「良いじゃん!お兄ちゃんと校内デートしてみたいじゃん」
「デートって」
「にしても、前に入ったやつすげえ叫んでるな」
「うちは本格的なの」
「次の組どうぞ~」

 が、しかし。
 前世で生と死を賭けた戦場にいた3人は創作物如きではびっくりする訳もなく叫ぶことなく退場した。

「なーんーで!なんでそんな無表情なの!?」
「いやまぁ」

 旭達の次に入った組は旭達が無言で出てきたため舐めてかかったのだろう。入ってすぐに出てきた。

「なんだこれ、本当に高1が作ったのか?」
「なんであいつら無言で?」
「化け物かよ」

 彼らはお化け屋敷に戻ることなく去っていった。

「それじゃあそろそろ戻ろうか」
「だな」
「私も行くー!」
「ダメだ」

 背後から朱音を止めたのは狼に扮装した康太だった。結構リアルな狼のコスプレをし、目玉が外れ生々しいことになっており、血糊も満遍なく使ったなかなかの仕上がりだった。

「きゃっ、怖い」
「きゃっ、じゃねぇよ、きゃっじゃ。俺にこの被り物渡したのお前だろ」
「朱音が作ったのか?」
「うん」
「すげぇな」
「夜中までずっとやってたよね、これ康太のだったんだ」
「そ、そうだったんだ」

 康太は朱音が夜中まで作っていたのを知り、耳を赤くしながら恐怖の被り物と向き合っていた。

「それより、私がお兄ちゃんのとこ行っちゃダメってどういうこと!?」
「お前な途中で仕事抜け出してやっと戻ってきたと思ったら蒼さんと腕組んで遊んでて、また遊びに行くとか皆許さねえぞ?」
「朱音、どんまい」
「はぁ?」

 何とも嬉しそうな表情で旭は朱音の肩を叩いた。

「朱音」
「お兄ちゃん」
「仕事はちゃんとしないとダメだよ」
「はーい」
「じゃあ俺は旭さんのとこ行ってくるかー」
「はぁ!?ずるい!」
「仕事サボってたお前が悪い」
「ちぇ」

 教室に戻ると、混みあっていた。
 
「やっと帰ってきたか!」
「遅せぇよ」
「なんでこんな混んでんの?」
「お前のせいだろ九条」
「俺?」
「お前がなんかエモいこと言ったんだろ」
「その姿に胸痺れたって人が多いんだって」
「看板持って行かせて良かったよ」

 その後すぐに仕事を始める旭と蒼だったが、どうも様子がおかしい。
 ほとんどが女性客であるが、顔を赤らめてひそひそ話をしている。
 耳をすまして聞いてみた。

「どっちだと思う?」
「えー、絶対騎士×執事でしょ」
「いーや、執事×騎士に決まってる!」
「解釈合わないわ~」
「どっちでも良いじゃ~ん!」

 と言った具合に腐女子客で溢れていた。
 蒼が勝負をかけてみた。

「ねぇ、旭」
「ん?」

 蒼が旭の耳元に手を隠して話しかけた。

「キャー!!!」

 女性客から悲鳴が上がった。
 その光景を見たクラスメイトは、今のこの混み具合を逃したら次いつ人が来るか分からない。つまり、売上を上げられないと。みな、男を見せる文化祭がちょっと違う意味の男を魅せる文化祭になるのだった。
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