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第一章 開戦
第四話 事件
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ロッテに別れを告げてから十日が経つ。俺はグスタフ・シュトレーゼマン参謀長を含む多くの士官達と共にオハリア帝国領の臨時司令部に編入された。
そして事件はその移動中に起こった。
【オハリア帝国領上空 インペリアル級装甲飛行船】
イルマ帝国の装甲飛行船には様々な艦級がある。
全長六〇〇メートルのインペリアル級は主力艦である。
駆逐艦であるセンチネル級、偵察用のヴァルキュリー級。
嵐の中を突き進むインペリアル級装甲飛行船の司令ブリッジには只ならぬ緊張が士官達を包み込んでいた。
艦橋の窓からの様子から嵐が飛行船を最大級の力で揺さぶっている事が分かる。
その嵐の音を裂くようにしてブリッジに割り込んできたのはシュトレーゼマン大将だった。
「サンマルク前哨基地からの緊急連絡です、大将」
俺がそう言うと、シュトレーゼマンの渋顔が緊張した鋭い表情に変わった。サンマルク前哨基地は前にも行った事がある。
歪んだひび割れ声が司令ブリッジの壁に設置されたスピーカーから聞こえてきた。
「インペリアル……通信も妨害……至急援軍を…繰り返す…至急援軍を……」
シュトレーゼマンが不審そうに顔をしかめた。
「奇襲攻撃だと? あり得ない」
「前哨基地からの報告では、敵はオハリア政府軍戦車約五十両、戦闘機約三十機」
俺の隣で座っている通信士官が言った。
「ポルトス政府軍か?まだ残っていたのか…」
「オハリア侵攻時に残存兵力はアステルダムに逃げました、おそらくその残党かと」
俺がそう言うとシュトレーゼマンは頷き、腕を組んだ。
「前哨基地、敵の通信傍受は可能か?」
「…不可です、インペリアル」
かなり経ってから雑音が混じった声が返って来た。
「我々の通信は妨害されています」
士官が付け加えた。
俺は肩越しでシュトレーゼマンの様子を伺いながら、自分のいる場所を譲ろうとしたが、シュトレーゼマンはそのまま続けろと身振りで示した。
「音声を安定させられるか?」と通信士官に尋ねる。
「残念ながら」
通信士官が答えた。
「感度を上げても悪化するだけです。向こうで送信が妨害されています。前哨基地が対策を講じているか、確認出来ませんでした。」
シュトレーゼマンは艦橋中を見渡した。
「我々の策は?」
「アイゼンベルガ編隊が現在サンマルク上空で哨戒飛行中です」
中年の通信士官の一人が言った。
「繋いでくれ」
「繋がりました、感度は良好です」
艦橋のスピーカーから若々しいパイロットの声が鮮明に聞こえてきた。
「……はい…こちら五〇六戦略爆撃編隊……」
「落ち着いて聞いてくれ。君の部隊の約十里先で帝国の前哨基地が攻撃を受けている」
「…よく分かりません、管制塔に連絡しますか?」
「その必要は無い。 君たちが基地の様子を見て来てくれ」
「ですが司令プロトコルに違反します…。私達は哨戒飛行中で──」
「私は帝国総司令部のグスタフ・シュトレーゼマンだ、進路を前哨基地に向けろと言っているんだ」
シュトレーゼマンが語勢を強くして言った。
「…分かりました、そんな指示を受けた事はありませんが必要とあらば喜んでそう致します」
最後の交信をしてから途轍もなく長い時間が経った様に感じられた。
突然スピーカーにノイズ音が入ったのでシュトレーゼマンを含む士官達は耳を澄ました。
「…こちら五〇六戦略爆撃編隊……」
「どうした? 何が見える?」
「……炎が上がっています」
「戦車が…縦陣隊形で前進……突破されています」
「シュトレーゼマン参謀、敵は新戦術を使っています」
俺がそういうと、シュトレーゼマンは驚いた様子でこちらを見た。
それは他の士官達にも伝染し、殆どの士官が俺を見つめるという状況になった。
「改善策は?」
「敵は我が兵力の二分断を狙っています、撤退を優先して残存兵力を合流させましょう。幸いにもまだ完全な分裂は免れています」
俺は起こりうる全ての可能性を考慮して慎重に言った。
「新たなチャンネルが繋がりました、通信が復活します!」
遠くの通信士官が興奮気味でそう言った。
「…こちら…ジェラード軍曹です…」
マクロス・ジェラードだ。
「軍曹、敵は我が陣営の二分断を狙っている。至急撤退して離れた部隊と合流しろ」
「既に撤退は開始させました、今から合流します」
「ミッターマイヤー少尉に変わる」
シュトレーゼマンは俺を呼んで司令ブリッジの中心に立たせた。
「軍曹、合流した後は機甲部隊の縦陣を切って包囲に持ち込んでください」
「了解した、だがその前に制空権の確保を優先したい」
シュトレーゼマンは先程のアイゼンベルガを攻撃に回すよう通信士官に指示した。俺は横目でそれを伺った。
「アイゼンベルガ、二〇機がそちらに向かいます」
俺は指揮権をシュトレーゼマンに戻して司令ブリッジの端に移動した。
外は雷雨で艦橋の窓を大粒の雨が叩いていた。
そして事件はその移動中に起こった。
【オハリア帝国領上空 インペリアル級装甲飛行船】
イルマ帝国の装甲飛行船には様々な艦級がある。
全長六〇〇メートルのインペリアル級は主力艦である。
駆逐艦であるセンチネル級、偵察用のヴァルキュリー級。
嵐の中を突き進むインペリアル級装甲飛行船の司令ブリッジには只ならぬ緊張が士官達を包み込んでいた。
艦橋の窓からの様子から嵐が飛行船を最大級の力で揺さぶっている事が分かる。
その嵐の音を裂くようにしてブリッジに割り込んできたのはシュトレーゼマン大将だった。
「サンマルク前哨基地からの緊急連絡です、大将」
俺がそう言うと、シュトレーゼマンの渋顔が緊張した鋭い表情に変わった。サンマルク前哨基地は前にも行った事がある。
歪んだひび割れ声が司令ブリッジの壁に設置されたスピーカーから聞こえてきた。
「インペリアル……通信も妨害……至急援軍を…繰り返す…至急援軍を……」
シュトレーゼマンが不審そうに顔をしかめた。
「奇襲攻撃だと? あり得ない」
「前哨基地からの報告では、敵はオハリア政府軍戦車約五十両、戦闘機約三十機」
俺の隣で座っている通信士官が言った。
「ポルトス政府軍か?まだ残っていたのか…」
「オハリア侵攻時に残存兵力はアステルダムに逃げました、おそらくその残党かと」
俺がそう言うとシュトレーゼマンは頷き、腕を組んだ。
「前哨基地、敵の通信傍受は可能か?」
「…不可です、インペリアル」
かなり経ってから雑音が混じった声が返って来た。
「我々の通信は妨害されています」
士官が付け加えた。
俺は肩越しでシュトレーゼマンの様子を伺いながら、自分のいる場所を譲ろうとしたが、シュトレーゼマンはそのまま続けろと身振りで示した。
「音声を安定させられるか?」と通信士官に尋ねる。
「残念ながら」
通信士官が答えた。
「感度を上げても悪化するだけです。向こうで送信が妨害されています。前哨基地が対策を講じているか、確認出来ませんでした。」
シュトレーゼマンは艦橋中を見渡した。
「我々の策は?」
「アイゼンベルガ編隊が現在サンマルク上空で哨戒飛行中です」
中年の通信士官の一人が言った。
「繋いでくれ」
「繋がりました、感度は良好です」
艦橋のスピーカーから若々しいパイロットの声が鮮明に聞こえてきた。
「……はい…こちら五〇六戦略爆撃編隊……」
「落ち着いて聞いてくれ。君の部隊の約十里先で帝国の前哨基地が攻撃を受けている」
「…よく分かりません、管制塔に連絡しますか?」
「その必要は無い。 君たちが基地の様子を見て来てくれ」
「ですが司令プロトコルに違反します…。私達は哨戒飛行中で──」
「私は帝国総司令部のグスタフ・シュトレーゼマンだ、進路を前哨基地に向けろと言っているんだ」
シュトレーゼマンが語勢を強くして言った。
「…分かりました、そんな指示を受けた事はありませんが必要とあらば喜んでそう致します」
最後の交信をしてから途轍もなく長い時間が経った様に感じられた。
突然スピーカーにノイズ音が入ったのでシュトレーゼマンを含む士官達は耳を澄ました。
「…こちら五〇六戦略爆撃編隊……」
「どうした? 何が見える?」
「……炎が上がっています」
「戦車が…縦陣隊形で前進……突破されています」
「シュトレーゼマン参謀、敵は新戦術を使っています」
俺がそういうと、シュトレーゼマンは驚いた様子でこちらを見た。
それは他の士官達にも伝染し、殆どの士官が俺を見つめるという状況になった。
「改善策は?」
「敵は我が兵力の二分断を狙っています、撤退を優先して残存兵力を合流させましょう。幸いにもまだ完全な分裂は免れています」
俺は起こりうる全ての可能性を考慮して慎重に言った。
「新たなチャンネルが繋がりました、通信が復活します!」
遠くの通信士官が興奮気味でそう言った。
「…こちら…ジェラード軍曹です…」
マクロス・ジェラードだ。
「軍曹、敵は我が陣営の二分断を狙っている。至急撤退して離れた部隊と合流しろ」
「既に撤退は開始させました、今から合流します」
「ミッターマイヤー少尉に変わる」
シュトレーゼマンは俺を呼んで司令ブリッジの中心に立たせた。
「軍曹、合流した後は機甲部隊の縦陣を切って包囲に持ち込んでください」
「了解した、だがその前に制空権の確保を優先したい」
シュトレーゼマンは先程のアイゼンベルガを攻撃に回すよう通信士官に指示した。俺は横目でそれを伺った。
「アイゼンベルガ、二〇機がそちらに向かいます」
俺は指揮権をシュトレーゼマンに戻して司令ブリッジの端に移動した。
外は雷雨で艦橋の窓を大粒の雨が叩いていた。
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