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5話「軌道ステーション(チェイス)」
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なるべく人通りの多いストリートを選んで歩く。
怖いけど、なるべくさっきまでの『ウキウキ感』を表現しながら。
(幸いにして今の私には、尾行を撒くための武器がある……)
まずはトイレか。
ここはモールの一角なので、探せばすぐにあるだろう。
セクサロイドとして検索するのではなく、一般人のように案内板を探す。
旦那様と別れた『喫煙ブース』に向かう道中にあればなお良し。
エスカレーター脇に設置されていた案内板でトイレを確認。そちらへ向かう。
ふたりは一定の距離をとりつつ、別方向から尾行を続けてる様子。
その動きから、結構馴れてる感じがする。
(おそらく……素人じゃないわね)
途中、何度か店舗内に入り、ショッピングを続けてる風を装いながらトイレ方向へと向かう。
店舗内をぶらついたあと、反対側から出たりもしてみたけど……
そこにももうひとりがちゃんと回り込んで監視を続けている。
少し距離が近かったので、その姿を記録。
別のインテリア小物を扱う店舗に入り、くまのぬいぐるみを手に取って見る風で、目を閉じ、先程の男の画像を頭の中で確認。スキャンする。
(上着の下に……拳銃?)
他にはめぼしい武器の類は持ってなさそう。
その程度の武器の携帯は、惑星上ではないこんなステーションの治安レベルなら問題ないだろう。
(まぁかなり怪しいけどね)
なるべくそれを使わせないように逃げたいところ。
(混雑を予想してたけど……よかった)
女子トイレといえば行列が定番だけど、今は混雑してない。
小走りで女子トイレに入り、個室へと駆け込む。
急いでスペースジャケットとスカートを脱ぐ。
買い物袋からデニムのパンツを取り出し、タグを引きちぎる。
これに履き替えるだけで大丈夫そうだ。
(よし。ピッタリ。あとは……)
買った化粧品の中からコンパクトと口紅を出す。
薄めの口紅だけど、結構雰囲気が変わる。
そして……
目を瞑り、セクサロイドの機能にアクセスする。
(髪は明るいブロンドを落ち着いた濃いめのブラウンに……瞳は黒で)
髪色や瞳の色を変えられるのはセクサロイドの基本機能。
シュシュで肩まである髪を後ろで括る。
(うん。完璧)
これなら大丈夫だ。脱いだ服を紙袋にしまい、一応トイレを流してから個室を出る。
手を洗い、ハンカチで拭いたらトイレを出る。
視認出来る範囲に尾行者は見当たらない。
でも、センシング機能は警戒レベルを示している。やはり2人。
でもこちらに注意は払ってない様子。よし。
私はキョロキョロする事なく、旦那様の待つ喫煙ブースへと向かった。
警戒信号が止んでしばらく経った。
喫煙ブースに旦那様の姿を見つけ、ガラスを軽く叩く。
「?」
何その顔。可愛い……
じゃなくて、ひょっとして私だと気づいてない?
しばらく見つめ合ってると、
「え?」
と声をあげて喫煙ブースから出てきた。
「おまたせしました」
「なんで?お前変わりすぎ。髪とか目の色まで変わってるし……口紅まで……」
「ちょっと訳ありですので……瞳や髪、肌とか唇の色とかは自由に変えられるんですよ」
「じゃあそれは口紅じゃないのk……」
最後まで言わせずに、旦那様の唇を奪う。
「……これは口紅ですよ。赤いのが付いちゃいましたね」
ただ、これがしたかっただけ。
旦那様の唇に付いた赤を親指でぬぐい取って自分の唇にあてる。
いたずらっぽく微笑んだあと、真顔に戻す。
「……取り敢えずここ離れましょう」
旦那様の手を引いて小走りで移動した。
「尾行?」
「はい。おそらく『意識プログラムとしての私』を対象に」
喧騒の中、隅のテーブルで食事をとりながら二人で話す。
ってふたりで食事という甘いシチュエーションのはずなのに騒がしい酒場ってどうなのよ。
……連れてきたの私だけど。
「……研究所?」
ジョッキのビールをひと息に半分あけ、旦那様が聞く。
「多分……」
「『意識プログラム』としてネットに接続するというミスを犯しました……多分それで私が何らか関係してると思ったのでしょう。私自身が『意識プログラムリイナ』本人だとはまだわかってない様子でしたけど」
「わかってたら拐われてただろうな」
それを考えるとゾッとする。
「……発着場には行かない方がいいな。今は大丈夫かもしれないけど、乗機まで突き止められたくは無いしな」
残ったビールをあおる。
……口元に白い髭できてるよ…
「まぁ、どちらにせよメンテ中だから今夜は泊まるところ探さなきゃならんのだけどな」
「……どこに連れ込むんですか」
両手で自分を抱き、身をよじるポーズを取る。
「なんもしねぇよ!……いやするかな……するだろうな……いや、したいかな……」
「え」
ちょっと驚いて旦那様を見た。
旦那様はそっぽ向いて串に刺さった肉をかじってる。
「まぁ冗談はさておき……いつもドック入りの時は『船員会館』で宿泊するんだが……当然男女は別部屋だ。今お前をひとりにゃ出来ねぇしな」
食事を必要としない私だけど
『せっかく相手が居るのに、ひとりで食べるのは楽しくない』
と私の分まで頼んでくれた優しい旦那様。
串を手にとって肉をかじる。
うん。スパイスで焼かれただけの肉なんだけど味は悪くない。
「……ホテルしかないですか……」
「……ホテルしかないね」
ホテル行きを決めるのにこんな色気の無い理由やシチュエーション……ありえないわ……
理由は色気の無いものだったけど、まぁ当然安上がりのホテルといえば色気のあるホテルであって。
まずはお風呂を堪能する。
(ん~!やっぱり気持ちいい♪)
ハーフエルフの身体の時からお風呂は大好きだった。
お湯の感じと温かみを感じられるこの身体、アンドロイドなのに優秀すぎるでしょ。
とても状況的に楽観できる時じゃないのに、鼻歌すらでちゃう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「見失った?」
真っ暗な部屋の中でモニターだけが輝いている。
「……申し訳ありません。ターゲットがトイレに入るところまでは確認したのですが……」
スピーカーから憔悴しきった男の声が響く。
「商業施設内には軍の監視カメラが設置されているな。トイレ付近のカメラの映像をこちらに回せ」
部屋の男の声は壮年のそれ。
若干イライラが隠せない様子だ。
やがて数名の女性の顔がモニターに映る。
それらを男はジッと見ている。
やがてモニターの光に照らされて、男の口元がニヤリと笑う。
「ほう……」
「何かわかりましたか?」
スピーカーから先程の男が質問する。
「3枚目の写真の女……目の部分を最大限まで拡大しろ」
「……お待ちを……」
数秒後
「これは……アンドロイドですか?今そちらに送りました」
「気がついたか。そう。瞳の虹彩が人のそれと違うな」
満足そうに壮年の声の男が答える。
「……拡大前によくお気づきになられました」
「ふむ。アンドロイドに関しては少し知識があってな……」
モニターを見て頷いた男は、しばらく考えたあと
「この女を捉えろ。アンドロイドの外観変色パターンに関しては注意しろ。様々な見た目に対応するのだ。なに、アンドロイドとて基本的な造りを変えることはできん。最悪破壊しても構わん。頭部だけでも私の所に持ってくるのだ。いいな?」
そういうとモニターに手を伸ばしてオフにした。
「そうか……身体を手に入れたのか」
暗闇の中で男がつぶやいた。
「さて、そろそろ『餌』を与えるか。全く、欲の強い女だ……」
口元に下卑た笑みを浮かべながら部屋を出ていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「さて、明日の朝は早めに行動する。ちょっと宇宙軍のツレに会う」
ホテル備え付けの端末から立ち上がった旦那様はそう言った。
「ツレ?」
「あぁ。情報部に知り合いが居てな。……まぁ俺は憶えてなかったんだが、同期で随分仲が良かったらしい」
「……なんかおかしな言い回しですね」
記憶がないんだから仕方ないんだけど、なんか他人事な言い回し。
「仕方ないよ。まぁ覚醒後真っ先に来てくれたのがそいつでな。心配してなのか、ただ情報部だから俺の覚醒を知るのが早かったのか。今でも色々助けになってくれる」
そう言ってドカッとソファーに腰掛ける旦那様。
「そういや、覚醒後すぐにヤツが訪ねてきた時……色々聞かれたな」
タバコを取り出し、咥える。
(身体の事考えると辞めさせたほうがいいかな)
そう思いながらも、空気清浄機の脇で吸ってるのでいいか。と見逃してあげる。
「とにかく、俺の船が沈んだ経緯とか救出した降下猟兵達がなんか言ってなかったか?とか……」
煙を吐き出す。旦那様の吐いた煙は、上へと拡散する前に空気清浄機に吸い込まれる。
なかなか強力だ。挺内にも置こうかしら。
「それは『エザーリン奪還作戦』?」
「あぁ、憶えてないので何も答えられなかったが……ヤツも何か知ってるか調べてるかしてるのかもしれん」
ひと吸いで満足したのか、すぐにタバコを消した。
「……私の……その……事情をその人に話してみましょうか?」
「いや、それは切り札に使おう。素直に知ってる事を教えてくれれば黙ってる方がいい。お前の……その研究は軍絡みの可能性だってある。どこで誰か繋がってるからわからんしな」
「そっか……そうですよね……」
「情報部として聞いてたのか、それとも個人的に何か知りたい事があるのか……会ってからそれも確かめなきゃならんしな」
旦那様はそう言うとソファーを立った。
「俺も風呂浴びてくる」
「お背中流しましょうか?」
ビクッとして、まだバスタオル1枚でベッドに座る私を振り返る。
「いや……ひ、ひとりで大丈夫だから」
そう言ってバスルームへと入っていった。
(萌える……!)
色々と段取りよく物事を決めていく姿を見せた後に、なんで突然そんな可愛い態度とるかなぁもう!
(さて……)
大きなベッドに横たわり目を閉じる。
(なんだろうこの感じ……)
さっき、尾行についての警告があった時、そういった警戒機能を預けてある『私の中の以前のリイナ』から情報を受けたんだけど……
その時から、なにか私の意識の中に違和感がある事に気がついたんだよね。
私の意識の中とはいえ、ふたりで情報交換してたんだけど、それを誰かに見られてるかのような……
いや、こそこそ見られてるって感じじゃなくて……
『誰かが見てる中で情報交換しあった』
みたいな感じ。
なんていうのかな。
私の意識を『あるスペース』だと例えると、空いてる場所でふたりで話してたつもりだけど、そこには既に別の先客がいた。
って感じ。
(ちょっと深く潜ってみなきゃね)
そして私は自分の『中』に意識を飛び込ませた。
蒼い海へ潜る。
ここは私の意識の中。
『蒼い海』ってのは私の『意識の中』がイメージ化したもの。
あちらこちらに大小の光の珠が所狭しと揺蕩っている。これはこの身体を制御する為の様々なシステムがイメージ化したもの。
それらを中をどんどん深い部分へと潜ってゆく。
やがて……一番深いところまで。
周りの色も『深い蒼』へと変わっていく。
ここはまだ自分自身意識しなかった程の深い場所。
まだ手を加えていないエリアなので何もない……はずなんだけど……
(なにこれ……)
真っ赤な卵状の物体が浮かんでいる。
4つ。
大きさは手で包み込めるほど。
触れてみる。
別段、何かのシステムを制御する『もの』ではない様子。
ただ……
(暖かい……)
とても優しい感じ。懐かしさすら感じる。
強いて言えば
(私の中の『以前のリイナ』の部分に似ている……)
何かの人格プログラム……?
でも『これ』自身が私に何かを伝えてくる様子はなく、とても静かだ。
でも、おそらく感じてた違和感の理由はこれ。
私の意識の一部ではないもの。
異物といえば異物……
(今のところ、差し迫った危険はない……かな)
危険どころか、触れているだけで何か安心感みたいなものを感じる。
そんな安心感に抱かれ……私はそのまま眠ってしまった。
目を開けると、旦那様が心配そうに私をのぞき込んでいた。
「……あ、眠ってましたか?」
身体を起こす。
「そんな格好で寝てちゃ風邪……はひかないか」
笑う旦那様。
「疲れたのかもしれません……身体じゃなくて」
「精神的に……か?」
ふたりでベッドに座り直す。
「色々とありすぎて……」
「だな。ちゃんと着替えてゆっくり休むといい。パジャマは購入したのか?ホテルの寝間着使うか?」
私は旦那様の顔に手を伸ばす。
「……その……しないんですか……?」
旦那様は瞬間的に赤面する。
「いや……今のお前は……セクサロイドだけどセクサロイドじゃないというか……」
手を伸ばした私の手を取って、そっと私の膝にのせた。
「……俺としてもそういう事は強要できないし……無理にしなくてもいんだよ」
優しく微笑む。
(だめ……そんな顔見せられちゃたまんない……)
旦那様の頭の後ろに手を回し、抱きかかえるようにキスをする。
啄むような短いキスを繰り返し、やがて熱く長いキスに。
舌を絡ませ、唾液を交換する。
「私が……したいんです……して欲しいんです……」
唇を離し、旦那様を見つめる。
旦那様はニッコリ笑うと、私をベッドにそっと押し倒し、言った。
「よかった。俺もしたかったんだよ」
怖いけど、なるべくさっきまでの『ウキウキ感』を表現しながら。
(幸いにして今の私には、尾行を撒くための武器がある……)
まずはトイレか。
ここはモールの一角なので、探せばすぐにあるだろう。
セクサロイドとして検索するのではなく、一般人のように案内板を探す。
旦那様と別れた『喫煙ブース』に向かう道中にあればなお良し。
エスカレーター脇に設置されていた案内板でトイレを確認。そちらへ向かう。
ふたりは一定の距離をとりつつ、別方向から尾行を続けてる様子。
その動きから、結構馴れてる感じがする。
(おそらく……素人じゃないわね)
途中、何度か店舗内に入り、ショッピングを続けてる風を装いながらトイレ方向へと向かう。
店舗内をぶらついたあと、反対側から出たりもしてみたけど……
そこにももうひとりがちゃんと回り込んで監視を続けている。
少し距離が近かったので、その姿を記録。
別のインテリア小物を扱う店舗に入り、くまのぬいぐるみを手に取って見る風で、目を閉じ、先程の男の画像を頭の中で確認。スキャンする。
(上着の下に……拳銃?)
他にはめぼしい武器の類は持ってなさそう。
その程度の武器の携帯は、惑星上ではないこんなステーションの治安レベルなら問題ないだろう。
(まぁかなり怪しいけどね)
なるべくそれを使わせないように逃げたいところ。
(混雑を予想してたけど……よかった)
女子トイレといえば行列が定番だけど、今は混雑してない。
小走りで女子トイレに入り、個室へと駆け込む。
急いでスペースジャケットとスカートを脱ぐ。
買い物袋からデニムのパンツを取り出し、タグを引きちぎる。
これに履き替えるだけで大丈夫そうだ。
(よし。ピッタリ。あとは……)
買った化粧品の中からコンパクトと口紅を出す。
薄めの口紅だけど、結構雰囲気が変わる。
そして……
目を瞑り、セクサロイドの機能にアクセスする。
(髪は明るいブロンドを落ち着いた濃いめのブラウンに……瞳は黒で)
髪色や瞳の色を変えられるのはセクサロイドの基本機能。
シュシュで肩まである髪を後ろで括る。
(うん。完璧)
これなら大丈夫だ。脱いだ服を紙袋にしまい、一応トイレを流してから個室を出る。
手を洗い、ハンカチで拭いたらトイレを出る。
視認出来る範囲に尾行者は見当たらない。
でも、センシング機能は警戒レベルを示している。やはり2人。
でもこちらに注意は払ってない様子。よし。
私はキョロキョロする事なく、旦那様の待つ喫煙ブースへと向かった。
警戒信号が止んでしばらく経った。
喫煙ブースに旦那様の姿を見つけ、ガラスを軽く叩く。
「?」
何その顔。可愛い……
じゃなくて、ひょっとして私だと気づいてない?
しばらく見つめ合ってると、
「え?」
と声をあげて喫煙ブースから出てきた。
「おまたせしました」
「なんで?お前変わりすぎ。髪とか目の色まで変わってるし……口紅まで……」
「ちょっと訳ありですので……瞳や髪、肌とか唇の色とかは自由に変えられるんですよ」
「じゃあそれは口紅じゃないのk……」
最後まで言わせずに、旦那様の唇を奪う。
「……これは口紅ですよ。赤いのが付いちゃいましたね」
ただ、これがしたかっただけ。
旦那様の唇に付いた赤を親指でぬぐい取って自分の唇にあてる。
いたずらっぽく微笑んだあと、真顔に戻す。
「……取り敢えずここ離れましょう」
旦那様の手を引いて小走りで移動した。
「尾行?」
「はい。おそらく『意識プログラムとしての私』を対象に」
喧騒の中、隅のテーブルで食事をとりながら二人で話す。
ってふたりで食事という甘いシチュエーションのはずなのに騒がしい酒場ってどうなのよ。
……連れてきたの私だけど。
「……研究所?」
ジョッキのビールをひと息に半分あけ、旦那様が聞く。
「多分……」
「『意識プログラム』としてネットに接続するというミスを犯しました……多分それで私が何らか関係してると思ったのでしょう。私自身が『意識プログラムリイナ』本人だとはまだわかってない様子でしたけど」
「わかってたら拐われてただろうな」
それを考えるとゾッとする。
「……発着場には行かない方がいいな。今は大丈夫かもしれないけど、乗機まで突き止められたくは無いしな」
残ったビールをあおる。
……口元に白い髭できてるよ…
「まぁ、どちらにせよメンテ中だから今夜は泊まるところ探さなきゃならんのだけどな」
「……どこに連れ込むんですか」
両手で自分を抱き、身をよじるポーズを取る。
「なんもしねぇよ!……いやするかな……するだろうな……いや、したいかな……」
「え」
ちょっと驚いて旦那様を見た。
旦那様はそっぽ向いて串に刺さった肉をかじってる。
「まぁ冗談はさておき……いつもドック入りの時は『船員会館』で宿泊するんだが……当然男女は別部屋だ。今お前をひとりにゃ出来ねぇしな」
食事を必要としない私だけど
『せっかく相手が居るのに、ひとりで食べるのは楽しくない』
と私の分まで頼んでくれた優しい旦那様。
串を手にとって肉をかじる。
うん。スパイスで焼かれただけの肉なんだけど味は悪くない。
「……ホテルしかないですか……」
「……ホテルしかないね」
ホテル行きを決めるのにこんな色気の無い理由やシチュエーション……ありえないわ……
理由は色気の無いものだったけど、まぁ当然安上がりのホテルといえば色気のあるホテルであって。
まずはお風呂を堪能する。
(ん~!やっぱり気持ちいい♪)
ハーフエルフの身体の時からお風呂は大好きだった。
お湯の感じと温かみを感じられるこの身体、アンドロイドなのに優秀すぎるでしょ。
とても状況的に楽観できる時じゃないのに、鼻歌すらでちゃう。
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「見失った?」
真っ暗な部屋の中でモニターだけが輝いている。
「……申し訳ありません。ターゲットがトイレに入るところまでは確認したのですが……」
スピーカーから憔悴しきった男の声が響く。
「商業施設内には軍の監視カメラが設置されているな。トイレ付近のカメラの映像をこちらに回せ」
部屋の男の声は壮年のそれ。
若干イライラが隠せない様子だ。
やがて数名の女性の顔がモニターに映る。
それらを男はジッと見ている。
やがてモニターの光に照らされて、男の口元がニヤリと笑う。
「ほう……」
「何かわかりましたか?」
スピーカーから先程の男が質問する。
「3枚目の写真の女……目の部分を最大限まで拡大しろ」
「……お待ちを……」
数秒後
「これは……アンドロイドですか?今そちらに送りました」
「気がついたか。そう。瞳の虹彩が人のそれと違うな」
満足そうに壮年の声の男が答える。
「……拡大前によくお気づきになられました」
「ふむ。アンドロイドに関しては少し知識があってな……」
モニターを見て頷いた男は、しばらく考えたあと
「この女を捉えろ。アンドロイドの外観変色パターンに関しては注意しろ。様々な見た目に対応するのだ。なに、アンドロイドとて基本的な造りを変えることはできん。最悪破壊しても構わん。頭部だけでも私の所に持ってくるのだ。いいな?」
そういうとモニターに手を伸ばしてオフにした。
「そうか……身体を手に入れたのか」
暗闇の中で男がつぶやいた。
「さて、そろそろ『餌』を与えるか。全く、欲の強い女だ……」
口元に下卑た笑みを浮かべながら部屋を出ていった。
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「さて、明日の朝は早めに行動する。ちょっと宇宙軍のツレに会う」
ホテル備え付けの端末から立ち上がった旦那様はそう言った。
「ツレ?」
「あぁ。情報部に知り合いが居てな。……まぁ俺は憶えてなかったんだが、同期で随分仲が良かったらしい」
「……なんかおかしな言い回しですね」
記憶がないんだから仕方ないんだけど、なんか他人事な言い回し。
「仕方ないよ。まぁ覚醒後真っ先に来てくれたのがそいつでな。心配してなのか、ただ情報部だから俺の覚醒を知るのが早かったのか。今でも色々助けになってくれる」
そう言ってドカッとソファーに腰掛ける旦那様。
「そういや、覚醒後すぐにヤツが訪ねてきた時……色々聞かれたな」
タバコを取り出し、咥える。
(身体の事考えると辞めさせたほうがいいかな)
そう思いながらも、空気清浄機の脇で吸ってるのでいいか。と見逃してあげる。
「とにかく、俺の船が沈んだ経緯とか救出した降下猟兵達がなんか言ってなかったか?とか……」
煙を吐き出す。旦那様の吐いた煙は、上へと拡散する前に空気清浄機に吸い込まれる。
なかなか強力だ。挺内にも置こうかしら。
「それは『エザーリン奪還作戦』?」
「あぁ、憶えてないので何も答えられなかったが……ヤツも何か知ってるか調べてるかしてるのかもしれん」
ひと吸いで満足したのか、すぐにタバコを消した。
「……私の……その……事情をその人に話してみましょうか?」
「いや、それは切り札に使おう。素直に知ってる事を教えてくれれば黙ってる方がいい。お前の……その研究は軍絡みの可能性だってある。どこで誰か繋がってるからわからんしな」
「そっか……そうですよね……」
「情報部として聞いてたのか、それとも個人的に何か知りたい事があるのか……会ってからそれも確かめなきゃならんしな」
旦那様はそう言うとソファーを立った。
「俺も風呂浴びてくる」
「お背中流しましょうか?」
ビクッとして、まだバスタオル1枚でベッドに座る私を振り返る。
「いや……ひ、ひとりで大丈夫だから」
そう言ってバスルームへと入っていった。
(萌える……!)
色々と段取りよく物事を決めていく姿を見せた後に、なんで突然そんな可愛い態度とるかなぁもう!
(さて……)
大きなベッドに横たわり目を閉じる。
(なんだろうこの感じ……)
さっき、尾行についての警告があった時、そういった警戒機能を預けてある『私の中の以前のリイナ』から情報を受けたんだけど……
その時から、なにか私の意識の中に違和感がある事に気がついたんだよね。
私の意識の中とはいえ、ふたりで情報交換してたんだけど、それを誰かに見られてるかのような……
いや、こそこそ見られてるって感じじゃなくて……
『誰かが見てる中で情報交換しあった』
みたいな感じ。
なんていうのかな。
私の意識を『あるスペース』だと例えると、空いてる場所でふたりで話してたつもりだけど、そこには既に別の先客がいた。
って感じ。
(ちょっと深く潜ってみなきゃね)
そして私は自分の『中』に意識を飛び込ませた。
蒼い海へ潜る。
ここは私の意識の中。
『蒼い海』ってのは私の『意識の中』がイメージ化したもの。
あちらこちらに大小の光の珠が所狭しと揺蕩っている。これはこの身体を制御する為の様々なシステムがイメージ化したもの。
それらを中をどんどん深い部分へと潜ってゆく。
やがて……一番深いところまで。
周りの色も『深い蒼』へと変わっていく。
ここはまだ自分自身意識しなかった程の深い場所。
まだ手を加えていないエリアなので何もない……はずなんだけど……
(なにこれ……)
真っ赤な卵状の物体が浮かんでいる。
4つ。
大きさは手で包み込めるほど。
触れてみる。
別段、何かのシステムを制御する『もの』ではない様子。
ただ……
(暖かい……)
とても優しい感じ。懐かしさすら感じる。
強いて言えば
(私の中の『以前のリイナ』の部分に似ている……)
何かの人格プログラム……?
でも『これ』自身が私に何かを伝えてくる様子はなく、とても静かだ。
でも、おそらく感じてた違和感の理由はこれ。
私の意識の一部ではないもの。
異物といえば異物……
(今のところ、差し迫った危険はない……かな)
危険どころか、触れているだけで何か安心感みたいなものを感じる。
そんな安心感に抱かれ……私はそのまま眠ってしまった。
目を開けると、旦那様が心配そうに私をのぞき込んでいた。
「……あ、眠ってましたか?」
身体を起こす。
「そんな格好で寝てちゃ風邪……はひかないか」
笑う旦那様。
「疲れたのかもしれません……身体じゃなくて」
「精神的に……か?」
ふたりでベッドに座り直す。
「色々とありすぎて……」
「だな。ちゃんと着替えてゆっくり休むといい。パジャマは購入したのか?ホテルの寝間着使うか?」
私は旦那様の顔に手を伸ばす。
「……その……しないんですか……?」
旦那様は瞬間的に赤面する。
「いや……今のお前は……セクサロイドだけどセクサロイドじゃないというか……」
手を伸ばした私の手を取って、そっと私の膝にのせた。
「……俺としてもそういう事は強要できないし……無理にしなくてもいんだよ」
優しく微笑む。
(だめ……そんな顔見せられちゃたまんない……)
旦那様の頭の後ろに手を回し、抱きかかえるようにキスをする。
啄むような短いキスを繰り返し、やがて熱く長いキスに。
舌を絡ませ、唾液を交換する。
「私が……したいんです……して欲しいんです……」
唇を離し、旦那様を見つめる。
旦那様はニッコリ笑うと、私をベッドにそっと押し倒し、言った。
「よかった。俺もしたかったんだよ」
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