星野にて竜を駆るもの

思考機械

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8話「女情報部員の憂鬱」

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(……妻だってさ……)
 詳しい話を聞きたいところだが、取り敢えずは私の目的である『エザーリン行き』への協力を取り付ける事ができたのは上出来だ。

 タモン達を見送った後、手早く支度を済ませてステーションのシャトル搭乗口へと向かう。
 ジュエルの情報部支部へ。
 上司からの呼び出しだ。

(にしても……)
 シャトルの客席に着いて考える。
(タモンに女か……まぁ、私にとっては今さらか……)

 私『エルマ・ヴィンター』とタモンは宇宙軍士官学校の同期だった。
 元々社交的ではなく、周りとも壁をつくっていた私だったが、たまたま専攻した授業が同じでなんとなく親しくなった。
 というか、親しげに話してくる彼の優しい瞳に惹かれた。
 元々父が情報部員で、兄弟も男だらけの家庭で育った男っぽい私を『女の子』として扱ったんだよなアイツは。
 卒業間際に告白した。
 困った顔をした彼から伝えられた事は
『故郷に好きな人が居る』
という事だった。
 私の恋は終わったが、彼とは親友として付き合いは続いた。

 そしてエザーリン奪還作戦が発動された。
 彼の率いる「第二雷撃戦隊」も艦隊に編入されていた。
 幕僚会議で頑なに作戦の反対を訴えていた事も伝わってくる。
(相変わらず真っ直ぐだな)
 彼を知る私は、ある意味『変わらない』彼に安心していた。
 同時に、そんな真っ直ぐな想いを受けているであろう故郷の女性を羨ましくも思った。

 そして敗走。軍広報の戦死者名に彼の名を見つける。
 情報部に入った詳細を調べた。
 撤退する中、地表に取り残された部隊を救出。星系外に亜空間ジャンプする間際に『所属不明艦』の強襲を受け、旗艦は大破。
 総員退艦の後に彼ひとりが操艦して殿を勤め、僚艦は亜空間ジャンプしたらしい。
 僚艦で撤退してきた乗員達に話を聞きに行った。
 最後に彼らが見たのは『爆散する旗艦・飛龍』だったそうだ。
 頭が真っ白になった。
 しばらく軍務から離れ、おそらく私は泣いて暮らしていたと思う。あまり記憶がない。
 軍務に復帰後も、ずっと『エザーリン奪還作戦』について調査していた。
 そんな中で掴んだ疑惑『エザーリン・スキャンダル』……
 軍務そっちのけで没頭した。
 心配した父にジュエルに呼ばれた。父の駐在地。
「エザーリンに隣接するここで好きに調査を進めればいい」
 そう父は言ってくれた。私の行動が、親しい同期の敵討ちのように映ったのだろう。

 そして10年。彼の救難カプセルがエザーリン星系外縁で発見された。
 公式発表される前に父に伝えられた私は、彼が収容されたジュエルの軍病院へと走った。
 病室のベッドで身を起こして外を眺める彼の姿を見て、嬉しくて涙が溢れた。
 振り返った彼は…昔のままの若々しい姿だった。
 でも、私を見るその目は……
『初対面の人を見る目』だった。
 気付かれないように涙を拭い、自己紹介した。
 記憶喪失。
 自分の名前とかは憶えているようだったが、私の事も含めて、様々な記憶が欠落しているようだった。
「君は『旧友の見舞い』に駆けつけてくれたんだな。ありがとう」
 あの優しい瞳で私を見る。
 照れ隠しに、私は『エザーリン奪還作戦』や『彼の脱出の経緯』等、様々な質問をした。もちろん彼は憶えてない。
「すまんな……力になれなくて」
 肩を落とした彼があまりに弱々しく思え、励ますようにこれからも自分が色々と力になる旨を伝えた。
「ありがとう」
 再び感謝を伝える彼の優しい瞳に
(またここから関係を始めればいい)
 そう思った。

(そっか……故郷の彼女の事も忘れてたんだ…)
 シャトルの窓からジュエル宇宙港を眺める。
 だからといって、再び告白するような事をしたい訳じゃない。彼と私の間に空いた『10年』は無視できない距離だ。
 でも……やっぱり……
『彼の妻』
を自称するリイナの立場は羨ましかった。

(ま、私には私の『彼との関係』を続ければいい)
 そう言い聞かせて、宇宙港に着陸完了したシャトルの席を立った。



「エザーリンに行くらしいな」
 デスクの向こうに座る父が言った。
 ジュエルの情報部現地駐在員のボス。
「はい。休暇を申請しました。1週間後からの予定ですが」
「そうか……実はお前の報告で情報部のお偉いさん方も『エザーリン・スキャンダル』に関しては興味をもっててな」
 デスクからファイルを取り出し、私に手渡す。
「エザーリン現地調査員を紹介しておく。彼も既に『エザーリン・スキャンダル』の調査に着手している。巧く使うといい」
 ファイルを受け取る。
「……情報部が動いてるんですか?」
 ファイルに目を通す。パッとしない所謂『普通の中年男性』だが、現地の調査員としては優秀なようだ。
「うむ。まだ本格的に……では無いがな。最近のガムヴ・ルヴィの動きには警戒しているそうだ」
「何か変化でも?」
 ファイルを閉じ、上司に返す。
「ここ最近、ジュエル駐屯地とエザーリンの駐留部隊間との行き来が活発になっててな……向こうでのガムヴ・ルヴィ提督の動きが不明なんだ」
 受け取ったファイルをデスクに仕舞いながら父が答えた。
『ガムヴ・ルヴィ提督』
 このスキャンダルの中心人物だ。
 おそらく『エザーリン奪還作戦』は彼の私欲によって発動された作戦。これが私の確信である。
「わかりました。私的な調査ではありますが、情報部が動くとなれば……調査結果は逐一報告させて頂きます。では」
 私はそう言い、場を辞そうとした。
「任務として動かんでいいのか?それの方がもっと人員を充てる事もできる。調査も捗るんじゃないか?」
 私の背中に父が声をかける。
「私的で大丈夫です。動きやすいし、今回はタモンも居ます」
「そうか」
「彼もなにかあの作戦に引っかかる事があるようですし」
「なるほどな……まぁ彼の軍人としての能力からいって、間違いなくお前の力になれるだろう。気をつけてな」
 礼をして情報部オフィスを出た。


(しかし……タモンの故郷の想い人はどうしたんだろうな……)
 タモンの戦死を知った時、彼女はどうしたのだろう。
(泣いただろうな。それこそ私とは比べものにならないくらい……)
 もう別の人と結婚したのか……生きていたと知って彼を探しているのか……
 どちらにしても、彼女の気持ちを考えると何か胸が締め付けられる思いがする。タモンは記憶と『10年という年月』を失ったのだから。
(なにかの拍子に記憶が戻る事もあるんだろうけど……)
 彼の故郷『アイスティーナ』
 『始祖の宇宙竜』が開発した星のひとつで、とても美しい星だという。
(この『エザーリン・スキャンダル』が終わったら行ってみよう)
 もちろん次も私的な行動で。
 彼の故郷の事、彼の想い人の事。とても知りたい。



(取り敢えず『ファルクス・アーシェハイザー』が見つからんのだよな……)
 エザーリン宇宙港に併設された宙港街のカフェで考え込む。
 エザーリン奪還作戦に於いて、降下作戦実行部隊『第一特殊降下猟兵大隊』の隊長。作戦終了後に命令違反等の嫌疑をかけられて、軍法会議前に逃亡。その後行方不明。
 命令違反の詳細ははっきりしないが、極刑相当の判決が求刑されてたらしい。
(ガルヴ・ルヴィからの口封じ?)
 調査開始時からその行方を追ってたものの、全く見つからなかった。
 コーヒーの入ったカップを置き、目の前の個人端末を叩く。
(軍歴も問題なし。功績も素晴らしい。実直な性格で、寡黙ではあるものの部下からの信頼も厚い)
 アーシェハイザー中佐のファイルデータを眺める。
(どう考えてもガルヴ・ルヴィ側に居た人間とは思えないな。利用された側か)
 調査開始時からのアーシェハイザー中佐に対する私の分析結果だ。
 軍法会議で始末されるほどの『何か』を彼が知った……あるいは『見た』可能性が高い。
 なので、どうしても会いたかったのだが、この10年、全く足取りが掴めなかった。
(今回のエザーリン調査の目的の1つだな)
 アーシェハイザー自身も『エザーリン・スキャンダル』に対して何か動いている可能性もある。
 その目で『何か見た』のなら尚更だ。
 彼の特殊降下猟兵としての実力からしたら、当局の追手を交わしつつ、スキャンダルを追う事も可能だろう。
 あとは行方不明となっている『始祖の宇宙竜』の行方とガルヴ・ルヴィの動き。
(なかなか盛りだくさんだな)
 端末を閉じる。
 これらの調査対象のひとつでも掴めると、かなり調査が進むはずだ。おそらく全ては繋がっているはず。
 現地に向けて出発するのは1週間後。
(それまでに出来ることをやっておかないとな)
 コーヒーを口に運びつつ、カフェのガラスに映った自分の姿を見る。
(少しお洒落な服でも用意した方がいいか……)
 そう考えた私の頭にはタモンの優しい笑顔が浮かんでいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「出発まではおとなしくしていたほうがいいかな」
 隣で腕を組むリイナに言った。
「ですね。今は警戒範囲に尾行等は居ないみたいですが、なるべく外出は控えた方が良さそうです。それまではホテルで缶詰……ですか?」
 おい顔を赤くするな。
「機体のメンテ明けても仕事する訳にはいかないなぁ。そうなると節約はしたい……ガスト親父の手伝いにかこつけてやっかいになるか」
「……わかりました……しょうがないですよね」
 そう落胆するな。
 エルマのオフィスを出た足で、俺達はガスト親父のドックへと向かった。

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