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17話「勇者~エフィリー~」
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「勇者……?」
リイナが首を傾げて聞く。
私とフィーア、そしてリイナでロビーで談笑している際、ふとフィーアがもらした言葉。
タモンはブリッジのパイロットシートでそのまま眠った様だ。
「そうじゃ。かつてウィリミ・テーナでは傑出した三種類の者たちがおってな」
様々な魔術暦の話。フィーアが語ってくれた。非常に興味深く、それでいてワクワクする様な話だった。
「それぞれ『英雄』『騎士』『勇者』と呼ばれ、人々の尊敬を集めて活躍しておったのじゃ」
フィーアが懐かしむように話す。
「その中でも実力と高潔さを備えたものが『英雄』と『騎士』であった。しかし、彼らはその信念如何では大望を成す為に、弱き人々に仇をなす事もあったのじゃ」
「で、『勇者』とは?」
面白い。つい先を急かせてしまう。
「ふむ。『勇者』の実力というものは後からついてくるものでな。彼らは『身近な人を身を持って救う』事に尽力した者達なのじゃ。その誠実さと志は弱き人々の信頼を得、どんどん人がついてくる……」
「『力を以て』ではなく『人に恵まれ、大望を成す』。そんなカリスマを持った者を『勇者』と呼んだのじゃ」
そう言って茶を啜るフィーア。
「それって……」
まさに士官学校時代から私の知るタモンそのものだ。
「ふむ。気づいたかの。主様は恐らく『勇者』の血を受け継いでおる」
理解できる。あの優しい瞳、真っ直ぐな感情、自らを犠牲にしてでも仲間を守ろうとする信念……
「それに惹かれたのもあるかもしれん。妾もな」
そう言って、優しい瞳でブリッジを見るフィーア。
「私もあの瞳と優しさ、そして誠実さに惹かれました」
リイナもブリッジを見つめる。
(私もだ……)
口にはできないものの、そう思った。
「まぁ、その血に目覚めようが、今の時代では何の毒にも薬にもならんがの」
フィーアが微笑む。
「そうやって『古の血』に目覚める事もある訳じゃ。ひょっとしてそなたが狙われてる理由もそれが原因かもしれんぞぇ」
そう言ってリイナを見る。
「私も『意識プログラム』が完全に覚醒してる訳じゃなさそうなので、思い出せない部分もあるんです…なぜ実験体として研究所に囚われたのか。自分にどんな特別な部分があったのか……」
リイナが俯く。
「心配せんでもよい。主様がなんとかしてくれる。それに……」
フィーアがリイナの頭を撫でる。
「妾もおる。そしてエルマ嬢も。みんなそなたの為に動いてくれるのじゃ。安心せい」
優しい笑顔。
(あぁ……タモンが彼女に惹かれた理由もわかる……)
心を優しく抱かれる様な微笑み。
(これがタモンの愛した人の心……)
『リイナの心』を包む優しさ……その広さに私まで包まれた気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
瞼の裏が明るくなり、ゆっくりと目を覚ます。
(おっと、少し微睡んでたようだ)
一瞬、自分がどこにいるかわからなかったが、すぐに思い出す。
(そっか。ブリュンヒルデの中だったよな)
そのブリッジのパイロットシートでウトウトしてたようだ。
目の前のスクリーンにはエザーリン首都惑星が拡がっている。
「おや。起きたかぇ主様」
シートの後ろで声がする。
「……あぁフィーア姉ちゃん。もうじき宇宙港だな」
背もたれに添えられたフィーアの手に、そっと俺の手を重ねる。
「激しい戦火であったようだからな。未だ最低限の施設しか回復しておらぬぞ」
フィーアの話によると、各宇宙船用ハンガー等は無く、各宇宙船は着陸スペースのみを空けるようにして並べてあるだけだそうだ。
宙港街も付随してはいるものの、未だ区画整理中で店が乱雑に並んでいるとか。
戦火を免れた雑居ビルも点在しているが、それもそのうち取り壊して新たに街を作り直す予定ではあるらしい。
ただ、連合国とヴァルシニア辺境連邦の間で予算をどう出すか?という問題が現在も難航中なんだそうだ。
幸いにして「宇宙旅行者協会」と「船員組合」は宙港街のど真ん中に立派な建物を構えているとか。
まぁ、どちらもどこの陣営にも属さず、それぞれ『宇宙旅行者・宇宙船員の保護とサポート』を目的とした財団の様なものなので、迅速な建て直しが可能だったのだろう。
「宇宙旅行者協会」は旅行者のチケット代の一部から、「船員組合」はそれぞれ宇宙船で働く労働者や事業主から納められた協力金で運営が賄われており、旅行者や船員は低金額でその施設(飲食店・宿泊施設など)を利用できるのだ。
「まぁ、ここに滞在してる間は『ブリュンヒルデ』号に寝泊まりすりゃいいだろ?」
背もたれ越しのフィーアを見上げて言う。
「まぁ船室はいくらでも空いてる故、好きに使えば良いぞ」
俺を見下ろしてにっこり笑う。
やがて、宇宙港に着陸。ほんと何もせずに着いたよ。凄ぇな魔術って。
周りには大小様々な交易船や200t~400t級の個人所有船が乱雑に並んでいる。よく見ると、ドック船も停泊している。あのサイズなら1,000t級の船でも修理やメンテナンスが可能そうだ。
「フィーア姉ちゃんの言うとおりだ。宇宙港がまともに機能してなさそうだな」
ブリッジのスクリーンから見渡した感想を言った。
「ふむ。以前来た時からやはり変わっておらぬな。入国審査すらまともに行えない状態じゃからのう」
俺の座るシートの背もたれに肘をついてフィーアが答える。
「……そりゃ治安も悪くなるわな。脛に傷持つ連中でも好きに入国できるんだからな」
「以前来たときには、連合、連邦両駐屯軍の警務隊が宇宙港に詰めてたがの。それでも奴らが動くのは『なにか起きた時』だけじゃ。あらかじめ取り締まったりはせぬからの」
フィーアが呆れたように言った。
「そっか……エルマ、君は現地調査員と会うんだったよな」
ブリッジの後ろのロビーにいるエルマに問いかける。
「あぁ。宙港街のビルにある彼のオフィスを訪ねる予定になってる。今日のところは顔合わせだけだがな」
「今フィーアから聞いたとおりだ。ちょっと不安だから、そこまで送るよ。まぁ顔合わせだけなら、俺は調査員に用はないし、相手に俺の事説明するのも面倒だから近くで時間潰すし」
パイロットシートから立ち上がる。
「いいのか?」
ロビーのソファーから立ち上がるエルマ。
リイナが心配そうに俺を見上げる。
「付き合うよ。……リイナはうろうろするよりここでフィーア姉ちゃんと一緒にいる方が安全だ。間違いなく」
そう言ってフィーアの肩を叩く。
「任せておれ。リイナ嬢は妾が守ってやるぞぇ」
「始祖の宇宙竜が一緒ならそりゃ安心だ」
エルマが笑う。
「……しっかりお留守番します。旦那様も気をつけて」
リイナが頭を下げる。
「元軍属、しかも陸戦隊の基礎訓練も受けてる。少々絡まれようが大丈夫だよ」
そう言ってリイナの頬にキスをする。
「じゃあ姉ちゃん、頼んだよ」
「妾にはせんのか?」
フィーアが拗ねたように言う。
「……するよ……姉ちゃんにはちょっと照れくさかっただけだ」
その頬にキスをする。
そして、エルマに向き直ると……
わざわざブリッジまで来て頬を差し出してやがる。
「いやないだろ」
「だよな」
エルマは笑って踵を返し、ハッチへと向かった。
取り敢えずジェットピストルと特殊警棒を装備しておく。そしてエルマを追ってハッチへ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(タモンと並んで歩くのも久しぶりだな)
さっき、みんなの前で頬を差し出したのは半分冗談、半分本気だった。
(流れでしてくれてもよかったのに)
とまぁ、これが私の本音だ。
「場所は遠いのか?」
隣でタモンが聞く。
「あ、あぁ。宙港街の外れだから……結構あるな」
「そうか。タクシーでも拾うか?」
確かに、そうすれば道中の危険は減る。
(せっかくだから歩きたいんだよな)
「あ、そ、そうだな。宇宙港のゲート付近なら拾えるだろうな」
とはいえ、歩く理由が見つからないので仕方なく同意する。
「……どうした?疲れてるか?」
タモンが心配そうに覗き込む。
「いや大丈夫だ。少し寝不足はあるかもしれんが」
赤くなった表情をなるべく見られないように俯く。
「そうか。早めに切り上げて休んだほうが良さそうだな」
そう言って、道路の脇へ走って行き、タクシーを拾うタモン。
(そうだな。早めに切り上げて食事に誘うのも良いな)
並んで歩くのは諦めた。すぐ頭を切り替えて、用事を済ませたあとの予定に思いを馳せる。
「エルマ!タクシー捉まったぞ!」
タモンが少し向こうで手を振る。
なんだろう。凄く楽しい。
「今日は顔合わせ程度に済ますつもりだから早く済むはずなんだ」
小ぶりなタクシーの後部座席で、並んで座るタモンに言った。
「あぁ、そう言ってたよな。俺も早く帰って休んだほうがいいと思う」
「いや、は、腹が減ってな。帰りに少し何か食べていかないか?」
タモンが私の方を向いて笑う。
「そういや俺も腹が減ったな。軽く食べて、リイナとフィーアの分も何か買っていくか」
「あぁ、そうしよう」
私も笑顔で返す。
タクシーは宙港街を走る。あちこちにまだ戦火の跡が残っている。
崩れかけたビルが建ち並ぶ足下で簡素なお店が数多く並び、人々の喧騒を夕陽が照らす。
「街の状況は酷いが、人は元気だ」
その光景を見るタモンの優しい瞳。
(あぁ……)
『ブリュンヒルデ』号でのフィーアの話を思い出す。
(こういうところが、彼女の言う『勇者』な部分なんだな)
タモンの瞳に惹かれているうちに、つい彼の肩に頭をのせてしまう。
「……寝たのか、やっぱり疲れてんだな……」
思いやるようなタモンの口調が凄く優しい。
私は目を閉じ、彼の言うとおりに寝るふりをした。
「運転手さん。あとどれくらいで着く?」
押し殺したようなタモンの声がする。
「…………」
運転手も気を遣ってか、小さな声で何か言ってるようだ。
「そっか。少し遅れてもいいから、静かに走ってくれると有り難い」
タモンはそう言うと、私の頭に手をのせた。
そして……私は寝たふりを続ける。
とても眠れるような状況ではないが。
心臓はバクバクいうし。身体は熱くなってくるし。
それでも寝たふりを続ける。
(いつも自分の気持ちを押し殺して来たんだ。た、たまにはいいよな)
そう自分に言い聞かせて……
やっぱり寝たふりを続けた。
「……エルマ。着いたぞ」
あぁ。わかってる。起きてたからな。
「……すまない。眠っていたようだな」
起きたふりをする。
タモンはすでに精算を済ませている。
タクシーを降り、ビルの入り口に立つ。この辺りは戦火を免れたのか、比較的ビルや商業施設が残っているようだ。規模は大きくないが。
「道路向こうに喫茶店があるからそこで待つよ。すぐなんだろ?」
「あぁ。30分程で終わらせるよ。顔合わせだけで、情報交換はまた次回だ」
「わかった。じゃあ待ってる。また後でな」
タモンは道路を渡っていった。
(さて。手早く済ませるか)
もう心はこの後のタモンとの食事に飛んでいた。
三階建てのこじんまりとした雑居ビルに入ってすぐ。二階に上がる階段脇にある、このフロア唯一の扉を叩く。
「はい」
「私だ」
鉄のドアが開く。
「お待ちしておりました。現地調査員のジャン・フロトです」
といって手を出す。
「情報部のエルマ・ヴィンター少佐だ」
私はその手を握り返した。途端に僅かな痛みを手のひらに感じる。
(なんだ?)
そう考えると同時に、意識がはっきりしなくなる。
腕を掴まれ、部屋に引き込まれる。
「貴様!」
振り返りながらジェットピストルを抜いたが、既に力が入らない。
ドアを閉める重い音と、ジャンの声がする。
「ほんと……待ってましたよ」
そこで私の意識は途絶えた。
リイナが首を傾げて聞く。
私とフィーア、そしてリイナでロビーで談笑している際、ふとフィーアがもらした言葉。
タモンはブリッジのパイロットシートでそのまま眠った様だ。
「そうじゃ。かつてウィリミ・テーナでは傑出した三種類の者たちがおってな」
様々な魔術暦の話。フィーアが語ってくれた。非常に興味深く、それでいてワクワクする様な話だった。
「それぞれ『英雄』『騎士』『勇者』と呼ばれ、人々の尊敬を集めて活躍しておったのじゃ」
フィーアが懐かしむように話す。
「その中でも実力と高潔さを備えたものが『英雄』と『騎士』であった。しかし、彼らはその信念如何では大望を成す為に、弱き人々に仇をなす事もあったのじゃ」
「で、『勇者』とは?」
面白い。つい先を急かせてしまう。
「ふむ。『勇者』の実力というものは後からついてくるものでな。彼らは『身近な人を身を持って救う』事に尽力した者達なのじゃ。その誠実さと志は弱き人々の信頼を得、どんどん人がついてくる……」
「『力を以て』ではなく『人に恵まれ、大望を成す』。そんなカリスマを持った者を『勇者』と呼んだのじゃ」
そう言って茶を啜るフィーア。
「それって……」
まさに士官学校時代から私の知るタモンそのものだ。
「ふむ。気づいたかの。主様は恐らく『勇者』の血を受け継いでおる」
理解できる。あの優しい瞳、真っ直ぐな感情、自らを犠牲にしてでも仲間を守ろうとする信念……
「それに惹かれたのもあるかもしれん。妾もな」
そう言って、優しい瞳でブリッジを見るフィーア。
「私もあの瞳と優しさ、そして誠実さに惹かれました」
リイナもブリッジを見つめる。
(私もだ……)
口にはできないものの、そう思った。
「まぁ、その血に目覚めようが、今の時代では何の毒にも薬にもならんがの」
フィーアが微笑む。
「そうやって『古の血』に目覚める事もある訳じゃ。ひょっとしてそなたが狙われてる理由もそれが原因かもしれんぞぇ」
そう言ってリイナを見る。
「私も『意識プログラム』が完全に覚醒してる訳じゃなさそうなので、思い出せない部分もあるんです…なぜ実験体として研究所に囚われたのか。自分にどんな特別な部分があったのか……」
リイナが俯く。
「心配せんでもよい。主様がなんとかしてくれる。それに……」
フィーアがリイナの頭を撫でる。
「妾もおる。そしてエルマ嬢も。みんなそなたの為に動いてくれるのじゃ。安心せい」
優しい笑顔。
(あぁ……タモンが彼女に惹かれた理由もわかる……)
心を優しく抱かれる様な微笑み。
(これがタモンの愛した人の心……)
『リイナの心』を包む優しさ……その広さに私まで包まれた気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
瞼の裏が明るくなり、ゆっくりと目を覚ます。
(おっと、少し微睡んでたようだ)
一瞬、自分がどこにいるかわからなかったが、すぐに思い出す。
(そっか。ブリュンヒルデの中だったよな)
そのブリッジのパイロットシートでウトウトしてたようだ。
目の前のスクリーンにはエザーリン首都惑星が拡がっている。
「おや。起きたかぇ主様」
シートの後ろで声がする。
「……あぁフィーア姉ちゃん。もうじき宇宙港だな」
背もたれに添えられたフィーアの手に、そっと俺の手を重ねる。
「激しい戦火であったようだからな。未だ最低限の施設しか回復しておらぬぞ」
フィーアの話によると、各宇宙船用ハンガー等は無く、各宇宙船は着陸スペースのみを空けるようにして並べてあるだけだそうだ。
宙港街も付随してはいるものの、未だ区画整理中で店が乱雑に並んでいるとか。
戦火を免れた雑居ビルも点在しているが、それもそのうち取り壊して新たに街を作り直す予定ではあるらしい。
ただ、連合国とヴァルシニア辺境連邦の間で予算をどう出すか?という問題が現在も難航中なんだそうだ。
幸いにして「宇宙旅行者協会」と「船員組合」は宙港街のど真ん中に立派な建物を構えているとか。
まぁ、どちらもどこの陣営にも属さず、それぞれ『宇宙旅行者・宇宙船員の保護とサポート』を目的とした財団の様なものなので、迅速な建て直しが可能だったのだろう。
「宇宙旅行者協会」は旅行者のチケット代の一部から、「船員組合」はそれぞれ宇宙船で働く労働者や事業主から納められた協力金で運営が賄われており、旅行者や船員は低金額でその施設(飲食店・宿泊施設など)を利用できるのだ。
「まぁ、ここに滞在してる間は『ブリュンヒルデ』号に寝泊まりすりゃいいだろ?」
背もたれ越しのフィーアを見上げて言う。
「まぁ船室はいくらでも空いてる故、好きに使えば良いぞ」
俺を見下ろしてにっこり笑う。
やがて、宇宙港に着陸。ほんと何もせずに着いたよ。凄ぇな魔術って。
周りには大小様々な交易船や200t~400t級の個人所有船が乱雑に並んでいる。よく見ると、ドック船も停泊している。あのサイズなら1,000t級の船でも修理やメンテナンスが可能そうだ。
「フィーア姉ちゃんの言うとおりだ。宇宙港がまともに機能してなさそうだな」
ブリッジのスクリーンから見渡した感想を言った。
「ふむ。以前来た時からやはり変わっておらぬな。入国審査すらまともに行えない状態じゃからのう」
俺の座るシートの背もたれに肘をついてフィーアが答える。
「……そりゃ治安も悪くなるわな。脛に傷持つ連中でも好きに入国できるんだからな」
「以前来たときには、連合、連邦両駐屯軍の警務隊が宇宙港に詰めてたがの。それでも奴らが動くのは『なにか起きた時』だけじゃ。あらかじめ取り締まったりはせぬからの」
フィーアが呆れたように言った。
「そっか……エルマ、君は現地調査員と会うんだったよな」
ブリッジの後ろのロビーにいるエルマに問いかける。
「あぁ。宙港街のビルにある彼のオフィスを訪ねる予定になってる。今日のところは顔合わせだけだがな」
「今フィーアから聞いたとおりだ。ちょっと不安だから、そこまで送るよ。まぁ顔合わせだけなら、俺は調査員に用はないし、相手に俺の事説明するのも面倒だから近くで時間潰すし」
パイロットシートから立ち上がる。
「いいのか?」
ロビーのソファーから立ち上がるエルマ。
リイナが心配そうに俺を見上げる。
「付き合うよ。……リイナはうろうろするよりここでフィーア姉ちゃんと一緒にいる方が安全だ。間違いなく」
そう言ってフィーアの肩を叩く。
「任せておれ。リイナ嬢は妾が守ってやるぞぇ」
「始祖の宇宙竜が一緒ならそりゃ安心だ」
エルマが笑う。
「……しっかりお留守番します。旦那様も気をつけて」
リイナが頭を下げる。
「元軍属、しかも陸戦隊の基礎訓練も受けてる。少々絡まれようが大丈夫だよ」
そう言ってリイナの頬にキスをする。
「じゃあ姉ちゃん、頼んだよ」
「妾にはせんのか?」
フィーアが拗ねたように言う。
「……するよ……姉ちゃんにはちょっと照れくさかっただけだ」
その頬にキスをする。
そして、エルマに向き直ると……
わざわざブリッジまで来て頬を差し出してやがる。
「いやないだろ」
「だよな」
エルマは笑って踵を返し、ハッチへと向かった。
取り敢えずジェットピストルと特殊警棒を装備しておく。そしてエルマを追ってハッチへ向かった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(タモンと並んで歩くのも久しぶりだな)
さっき、みんなの前で頬を差し出したのは半分冗談、半分本気だった。
(流れでしてくれてもよかったのに)
とまぁ、これが私の本音だ。
「場所は遠いのか?」
隣でタモンが聞く。
「あ、あぁ。宙港街の外れだから……結構あるな」
「そうか。タクシーでも拾うか?」
確かに、そうすれば道中の危険は減る。
(せっかくだから歩きたいんだよな)
「あ、そ、そうだな。宇宙港のゲート付近なら拾えるだろうな」
とはいえ、歩く理由が見つからないので仕方なく同意する。
「……どうした?疲れてるか?」
タモンが心配そうに覗き込む。
「いや大丈夫だ。少し寝不足はあるかもしれんが」
赤くなった表情をなるべく見られないように俯く。
「そうか。早めに切り上げて休んだほうが良さそうだな」
そう言って、道路の脇へ走って行き、タクシーを拾うタモン。
(そうだな。早めに切り上げて食事に誘うのも良いな)
並んで歩くのは諦めた。すぐ頭を切り替えて、用事を済ませたあとの予定に思いを馳せる。
「エルマ!タクシー捉まったぞ!」
タモンが少し向こうで手を振る。
なんだろう。凄く楽しい。
「今日は顔合わせ程度に済ますつもりだから早く済むはずなんだ」
小ぶりなタクシーの後部座席で、並んで座るタモンに言った。
「あぁ、そう言ってたよな。俺も早く帰って休んだほうがいいと思う」
「いや、は、腹が減ってな。帰りに少し何か食べていかないか?」
タモンが私の方を向いて笑う。
「そういや俺も腹が減ったな。軽く食べて、リイナとフィーアの分も何か買っていくか」
「あぁ、そうしよう」
私も笑顔で返す。
タクシーは宙港街を走る。あちこちにまだ戦火の跡が残っている。
崩れかけたビルが建ち並ぶ足下で簡素なお店が数多く並び、人々の喧騒を夕陽が照らす。
「街の状況は酷いが、人は元気だ」
その光景を見るタモンの優しい瞳。
(あぁ……)
『ブリュンヒルデ』号でのフィーアの話を思い出す。
(こういうところが、彼女の言う『勇者』な部分なんだな)
タモンの瞳に惹かれているうちに、つい彼の肩に頭をのせてしまう。
「……寝たのか、やっぱり疲れてんだな……」
思いやるようなタモンの口調が凄く優しい。
私は目を閉じ、彼の言うとおりに寝るふりをした。
「運転手さん。あとどれくらいで着く?」
押し殺したようなタモンの声がする。
「…………」
運転手も気を遣ってか、小さな声で何か言ってるようだ。
「そっか。少し遅れてもいいから、静かに走ってくれると有り難い」
タモンはそう言うと、私の頭に手をのせた。
そして……私は寝たふりを続ける。
とても眠れるような状況ではないが。
心臓はバクバクいうし。身体は熱くなってくるし。
それでも寝たふりを続ける。
(いつも自分の気持ちを押し殺して来たんだ。た、たまにはいいよな)
そう自分に言い聞かせて……
やっぱり寝たふりを続けた。
「……エルマ。着いたぞ」
あぁ。わかってる。起きてたからな。
「……すまない。眠っていたようだな」
起きたふりをする。
タモンはすでに精算を済ませている。
タクシーを降り、ビルの入り口に立つ。この辺りは戦火を免れたのか、比較的ビルや商業施設が残っているようだ。規模は大きくないが。
「道路向こうに喫茶店があるからそこで待つよ。すぐなんだろ?」
「あぁ。30分程で終わらせるよ。顔合わせだけで、情報交換はまた次回だ」
「わかった。じゃあ待ってる。また後でな」
タモンは道路を渡っていった。
(さて。手早く済ませるか)
もう心はこの後のタモンとの食事に飛んでいた。
三階建てのこじんまりとした雑居ビルに入ってすぐ。二階に上がる階段脇にある、このフロア唯一の扉を叩く。
「はい」
「私だ」
鉄のドアが開く。
「お待ちしておりました。現地調査員のジャン・フロトです」
といって手を出す。
「情報部のエルマ・ヴィンター少佐だ」
私はその手を握り返した。途端に僅かな痛みを手のひらに感じる。
(なんだ?)
そう考えると同時に、意識がはっきりしなくなる。
腕を掴まれ、部屋に引き込まれる。
「貴様!」
振り返りながらジェットピストルを抜いたが、既に力が入らない。
ドアを閉める重い音と、ジャンの声がする。
「ほんと……待ってましたよ」
そこで私の意識は途絶えた。
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