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16話「仮装巡洋艦ブリュンヒルデ」
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「ごめん。待たせたみたいで」
船内のロビーのソファに座るリイナとエルマに話しかける。
「こちら……この艦の船長『フィーア』だ。俺の大好きな……その……大切なひとなんだ」
振り返ったふたりにフィーアを紹介する。
「そう……ですか……」
リイナは俺と目を合わせてくれない。振り返ったあと、ずっと下を向いたままだ。
「フィーア姉ちゃん。こちらは俺の士官学校時代からの親友のエルマ・ヴィンター。そしてこちらが……」
エルマが会釈する。
「こちらが俺の『嫁さん』のリイナ」
リイナがハッと顔を上げる。
「嫁さんって……その人はお前の想い人なんだろ?どういうつもりで……」
エルマは立ち上がって俺の襟をつかむ。
「よさぬかエルマ嬢」
フィーアがその腕を優しく掴む。
「妾はドラゴンじゃ。主様より愛してもらう事だけが望みなのじゃ」
ふたりが『えっ!』と驚きの表情を浮かべる。
「遠いウィリミ・テーナの大地を捨て、宇宙に飛び立った竜のひとりじゃ」
「始祖の宇宙竜……」
エルマが驚きの表情のままフィーアを見る。
「そうじゃ。タモンは妾の乗り手。妾の大切なライダーなのじゃ」
「タモンが『ドラゴンライダー』……」
「あぁ。アイスティーナを旅立つ時から俺がそう望んでいた」
「いや、『禁足地』で幼いタモンに会った時から妾自身がそう望んでおったのじゃ。だからこそ、タモンの戦死が間違いであると知って、この10年間宇宙を探し続けた」
フィーアが俺を見つめる。
「そうか……タモンがライダー……だが……それはさておき、リイナの気持ちを考えると……」
「すまんエルマ……納得いかないかもしれないけど、俺はフィーアもリイナも愛してるんだよ」
「タモン!そんな勝手な!」
エルマの眼鏡の奥、その瞳が悲しそうに潤む。
「その……フィーアさんは平気なんですか……?」
顔を上げたリイナがフィーアに問う。
「そもそもドラゴンのような長寿な生き物は受胎率が低い。それはわかるな?そなたもエルフの子じゃ」
フィーアが諭すように説明する。
「そして雄の個体数が絶対的に少ない。だからこそ、雄に種付けしてもらう為に雌は必死じゃ。その雄が他の雌をも孕まそうとしようが、それは種の存続を考えると大切な事なんじゃ。雌がいちいち嫉妬なぞしておったら種の存続はままならん。そういう種族なのじゃ」
そういってリイナの頭を愛しげに撫でる。
「妾がタモンを愛する気持ちは嘘ではない。じゃが、タモンが妾を愛するように他のおなごを愛する事もまた誇らしい。強い雄である証じゃ」
フィーアはリイナの頰に手をあてる。
「リイナ嬢よ……そなたタモンが嫌いかぇ?」
「そんな!……旦那様……いえ、タモンの事は……その……」
悲しげな表情のまま顔を赤らめるリイナ。
「俺はお前が大切だ。フィーア姉ちゃんと同じくらいに」
俺はリイナを見つめた。
「それに……絶対になんとかしてやる。可能ならば必ずお前の身体を取り戻してやる。約束だ」
「いいの?」
リイナが俺を見上げる。
「フィーアさんと再会できたのに……私も大切だなんて、ほんとにいいの?旦那様を好きでいていいの?」
「いや、リイナがどう思おうが、俺自身がお前と離れるつもりはない」
リイナをソファーから抱き起こす。
「旦那様……」
俺はリイナの涙を拭ってやり、口づけた。
「ふぁぁ……だんにゃしゃま……」
「ほほほ。良かったのう主様よ」
フィーアが微笑む。
「そもそも、俺は抱いた女を他の男に抱かせるつもりはない。死ぬまでな。それだけ独占欲の強い勝手な男なんだ」
「私も独占欲は強いです。フィーアさんに……嫉妬もします。それでも……愛してくれますか?」
リイナが泣きながら聞く。
「それでリイナが辛い思いをするのは申し訳ないが……」
「愛してくれるならそれでいいです。フィーアさんと同じくらい愛してください」
リイナが泣き顔で微笑む。
「ふん!勝手にしろ」
エルマはそう言って船室へと姿を消した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(いいな……)
船室でベッドに腰掛け、先程のシーンを反芻する。
(想い人と再会しても……同じように愛してもらえるんだ……)
そのままベッドに倒れ込む。
(私も……)
と考えるものの、すぐに頭を振ってその考えをどこかにやる。
フィーアはもちろんだが、リイナがとても羨ましい。
だからといって、想いを伝えたところで私がタモンに愛してもらえる訳でもないし、そうする事で今以上に彼女たちを辛い思いにさせる訳にもいかない。
(出遅れ女の惨めな結末……か……)
でも、彼の力になってずっと彼の側に居よう。と決めたのは私。
『親友エルマ・ヴィンター』として、何時までも一緒に居られるようにしようと決めたのだから。
この『エザーリン・スキャンダル』の真相を突き止め、リイナの身体を取り戻してあげるのが彼の願いなら、私は最大限努力して彼の力になるんだ。
私は眼鏡を外して涙を拭い、ベッドから立ち上がって船室の扉を開けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「じゃあ、エザーリンの宇宙港に向かうか」
俺は『ブリュンヒルデ』号のブリッジのパイロットシートに座り、コンソールのキーボードを叩いた。
「あれ……姉ちゃん、この船の航法プログラムは?」
操作系がうんともすんともいわない。
「そんなものは必要とせん。妾の頭の中に全て入っておる」
「え?……ひょっとして戦術プログラムも?」
「必要ない。宇宙竜を舐めるでないぞよ」
驚いた。まぁドラゴン自体が宇宙船みたいなもんだしな。
「そんなもの無くても妾の思い通りに動くのじゃ。この船はの」
フィーアはコンソールに向かって手をかざす。
しばらくすると『ブリュンヒルデ』号はゆっくりと回頭し始める。
「妾は未だ魔術を使えるドラゴンぞ?これで放っておいてもエザーリン宇宙港に着陸するぞぇ」
やべぇマジ魔術パネぇっす。
リイナもエルマも口を開けてポカンとしている。
「伝承では聞いていたが……こうして目のあたりにすると……凄いな……」
「はい……」
「じゃぁ、俺達を助けてくれたあの射撃や爆雷投射も……」
俺は役にたたないパイロットシートからフィーアを振り返る。
「正確無比じゃっただろう?妾には朝飯前よ。『科学』とやらの詳しい仕組みが判れば『魔術』で運用する事なぞ造作もないわ」
「流石フィーア姉ちゃんです。おみそれしました」
「と……取り敢えずお茶でも入れますね。キッチンお借りしても良いですか?」
リイナが我にかえってフィーアに聞く。
「茶を嗜むのは妾も好きでな。キッチンには色々な茶葉があるゆえ、好きなのを選んで淹れてたもれ」
フィーアがリイナに微笑みかける。
リイナは笑顔で答え、キッチンへと身を投げた。
「こりゃ本当にやる事無いな……私もゆっくりするか」
エルマもロビーへと飛んでいった。
「俺はこの席が落ち着くからここにいるよ」
俺がそう言うと、フィーアはシートの後ろから手を伸ばして俺を抱きかかえた。
「良い娘じゃなリイナ嬢は。大切にしてやらんといかんぞぇ」
「あぁ。フィーア姉ちゃんと同じくらい大切にするよ」
「ところで、あのエルマ嬢はどうなんじゃ?主様のものではないのか?」
「ぶっ!」
「なんじゃ。違うのかぇ」
そういえば士官学校卒業の時に告白された憶えがある。
でももう15~6年も前の話だ。
「そんなんじゃないよアイツとは」
「ふむ。あやつは憎からず思っておるように見えたがのう」
「随分前の話だよ。俺はフィーアが居るからって断ったんだよ。今は信頼できる親友だと思ってくれているよ」
「そうか……妾の事なぞ気にせんで良かったのにのぉ。罪な男じゃて主様は」
からかうように俺の頬を突いて、フィーアはロビーへと去っていった。
(なんだよもう……)
俺はちらりとロビーで談笑するふたりを見た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(そもそも……記憶が戻る以前も私ひとりが好きだった訳じゃないものね)
お湯を沸かしながら、良く整理されたキッチンで茶葉を探す。
「玉露……?」
以前のリイナのデータの中から淹れ方を探る。
(そうそう。同じ私の中とはいえ、以前のリイナも旦那様に恋心を抱いている)
それもセクサロイドとして主人に寄せる『決められた感情』とは違うもっとプログラムの奥底からの感情……
(少し妬けちゃうけど、嫌な気持ちじゃなかった)
棚から急須と湯呑みを取り出し、トレイに並べる。
(同じ人を好きになって、ともに愛してもらえる連帯感……私と以前のリイナの間にもそういう気持ちがあった)
沸騰したお湯を一旦急須に移し、温度を下げる。
(フィーアさんの事もそう思えるんだろうか)
自分に問う。わからない。
でも……大切に思ってもらえている。フィーアさんと再会した後でも『愛してる』と言ってもらえた。
(やっぱり嬉しい)
お湯の温度を確認する。適温だ。
茶葉を入れる。急須の中で拡がり、いい香りが漂ってくる。
男にとって都合のいい女かもしれない。でも、あの人は……旦那様は間違いなくフィーアさんと同じように全力で愛して大切にしてくれる。そう信じれる何かがある。
(うん。信じてるし愛してる)
そう決めて、お茶を持ってロビーへと急いだ。
「ふむ。上手に淹れたのう。とてもまろやかで美味いぞ」
フィーアさんがひとくち飲んで言う。
「私は飲むのは初めてだが……緑茶と違ってその……まろっとしてとても美味い」
エルマさんも褒めてくれた。
「ありがとうございます。旦那様にも持っていきますね」
そういってブリッジの旦那様のもとへ向かう。
「お茶ですよ。『玉露』って言うらしいです」
そう言って、シートの後ろから湯呑みを回して旦那様に手渡す。
「おっ、ありがとう。玉露なんて久しぶりだなぁ」
そう言って湯呑みをすする旦那様。
そんな旦那様をシートの横に回り込んで抱きしめる。
「あ、危ないよ」
「フィーアさん……素敵な方ですね。それに、とてもお優しい」
旦那様の胸に顔を埋める。
「旦那様……好きです。やっぱり大好きです。私の事も……その……愛してくださいね……いっぱい……いっぱい愛してくださいね」
旦那様は私の頭を撫でる。
「もちろん。俺もリイナが大好きだよ。大切な俺の『奥さん』だしな」
あぁ……もう、やっぱり大好きだ。
船内のロビーのソファに座るリイナとエルマに話しかける。
「こちら……この艦の船長『フィーア』だ。俺の大好きな……その……大切なひとなんだ」
振り返ったふたりにフィーアを紹介する。
「そう……ですか……」
リイナは俺と目を合わせてくれない。振り返ったあと、ずっと下を向いたままだ。
「フィーア姉ちゃん。こちらは俺の士官学校時代からの親友のエルマ・ヴィンター。そしてこちらが……」
エルマが会釈する。
「こちらが俺の『嫁さん』のリイナ」
リイナがハッと顔を上げる。
「嫁さんって……その人はお前の想い人なんだろ?どういうつもりで……」
エルマは立ち上がって俺の襟をつかむ。
「よさぬかエルマ嬢」
フィーアがその腕を優しく掴む。
「妾はドラゴンじゃ。主様より愛してもらう事だけが望みなのじゃ」
ふたりが『えっ!』と驚きの表情を浮かべる。
「遠いウィリミ・テーナの大地を捨て、宇宙に飛び立った竜のひとりじゃ」
「始祖の宇宙竜……」
エルマが驚きの表情のままフィーアを見る。
「そうじゃ。タモンは妾の乗り手。妾の大切なライダーなのじゃ」
「タモンが『ドラゴンライダー』……」
「あぁ。アイスティーナを旅立つ時から俺がそう望んでいた」
「いや、『禁足地』で幼いタモンに会った時から妾自身がそう望んでおったのじゃ。だからこそ、タモンの戦死が間違いであると知って、この10年間宇宙を探し続けた」
フィーアが俺を見つめる。
「そうか……タモンがライダー……だが……それはさておき、リイナの気持ちを考えると……」
「すまんエルマ……納得いかないかもしれないけど、俺はフィーアもリイナも愛してるんだよ」
「タモン!そんな勝手な!」
エルマの眼鏡の奥、その瞳が悲しそうに潤む。
「その……フィーアさんは平気なんですか……?」
顔を上げたリイナがフィーアに問う。
「そもそもドラゴンのような長寿な生き物は受胎率が低い。それはわかるな?そなたもエルフの子じゃ」
フィーアが諭すように説明する。
「そして雄の個体数が絶対的に少ない。だからこそ、雄に種付けしてもらう為に雌は必死じゃ。その雄が他の雌をも孕まそうとしようが、それは種の存続を考えると大切な事なんじゃ。雌がいちいち嫉妬なぞしておったら種の存続はままならん。そういう種族なのじゃ」
そういってリイナの頭を愛しげに撫でる。
「妾がタモンを愛する気持ちは嘘ではない。じゃが、タモンが妾を愛するように他のおなごを愛する事もまた誇らしい。強い雄である証じゃ」
フィーアはリイナの頰に手をあてる。
「リイナ嬢よ……そなたタモンが嫌いかぇ?」
「そんな!……旦那様……いえ、タモンの事は……その……」
悲しげな表情のまま顔を赤らめるリイナ。
「俺はお前が大切だ。フィーア姉ちゃんと同じくらいに」
俺はリイナを見つめた。
「それに……絶対になんとかしてやる。可能ならば必ずお前の身体を取り戻してやる。約束だ」
「いいの?」
リイナが俺を見上げる。
「フィーアさんと再会できたのに……私も大切だなんて、ほんとにいいの?旦那様を好きでいていいの?」
「いや、リイナがどう思おうが、俺自身がお前と離れるつもりはない」
リイナをソファーから抱き起こす。
「旦那様……」
俺はリイナの涙を拭ってやり、口づけた。
「ふぁぁ……だんにゃしゃま……」
「ほほほ。良かったのう主様よ」
フィーアが微笑む。
「そもそも、俺は抱いた女を他の男に抱かせるつもりはない。死ぬまでな。それだけ独占欲の強い勝手な男なんだ」
「私も独占欲は強いです。フィーアさんに……嫉妬もします。それでも……愛してくれますか?」
リイナが泣きながら聞く。
「それでリイナが辛い思いをするのは申し訳ないが……」
「愛してくれるならそれでいいです。フィーアさんと同じくらい愛してください」
リイナが泣き顔で微笑む。
「ふん!勝手にしろ」
エルマはそう言って船室へと姿を消した。
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(いいな……)
船室でベッドに腰掛け、先程のシーンを反芻する。
(想い人と再会しても……同じように愛してもらえるんだ……)
そのままベッドに倒れ込む。
(私も……)
と考えるものの、すぐに頭を振ってその考えをどこかにやる。
フィーアはもちろんだが、リイナがとても羨ましい。
だからといって、想いを伝えたところで私がタモンに愛してもらえる訳でもないし、そうする事で今以上に彼女たちを辛い思いにさせる訳にもいかない。
(出遅れ女の惨めな結末……か……)
でも、彼の力になってずっと彼の側に居よう。と決めたのは私。
『親友エルマ・ヴィンター』として、何時までも一緒に居られるようにしようと決めたのだから。
この『エザーリン・スキャンダル』の真相を突き止め、リイナの身体を取り戻してあげるのが彼の願いなら、私は最大限努力して彼の力になるんだ。
私は眼鏡を外して涙を拭い、ベッドから立ち上がって船室の扉を開けた。
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「じゃあ、エザーリンの宇宙港に向かうか」
俺は『ブリュンヒルデ』号のブリッジのパイロットシートに座り、コンソールのキーボードを叩いた。
「あれ……姉ちゃん、この船の航法プログラムは?」
操作系がうんともすんともいわない。
「そんなものは必要とせん。妾の頭の中に全て入っておる」
「え?……ひょっとして戦術プログラムも?」
「必要ない。宇宙竜を舐めるでないぞよ」
驚いた。まぁドラゴン自体が宇宙船みたいなもんだしな。
「そんなもの無くても妾の思い通りに動くのじゃ。この船はの」
フィーアはコンソールに向かって手をかざす。
しばらくすると『ブリュンヒルデ』号はゆっくりと回頭し始める。
「妾は未だ魔術を使えるドラゴンぞ?これで放っておいてもエザーリン宇宙港に着陸するぞぇ」
やべぇマジ魔術パネぇっす。
リイナもエルマも口を開けてポカンとしている。
「伝承では聞いていたが……こうして目のあたりにすると……凄いな……」
「はい……」
「じゃぁ、俺達を助けてくれたあの射撃や爆雷投射も……」
俺は役にたたないパイロットシートからフィーアを振り返る。
「正確無比じゃっただろう?妾には朝飯前よ。『科学』とやらの詳しい仕組みが判れば『魔術』で運用する事なぞ造作もないわ」
「流石フィーア姉ちゃんです。おみそれしました」
「と……取り敢えずお茶でも入れますね。キッチンお借りしても良いですか?」
リイナが我にかえってフィーアに聞く。
「茶を嗜むのは妾も好きでな。キッチンには色々な茶葉があるゆえ、好きなのを選んで淹れてたもれ」
フィーアがリイナに微笑みかける。
リイナは笑顔で答え、キッチンへと身を投げた。
「こりゃ本当にやる事無いな……私もゆっくりするか」
エルマもロビーへと飛んでいった。
「俺はこの席が落ち着くからここにいるよ」
俺がそう言うと、フィーアはシートの後ろから手を伸ばして俺を抱きかかえた。
「良い娘じゃなリイナ嬢は。大切にしてやらんといかんぞぇ」
「あぁ。フィーア姉ちゃんと同じくらい大切にするよ」
「ところで、あのエルマ嬢はどうなんじゃ?主様のものではないのか?」
「ぶっ!」
「なんじゃ。違うのかぇ」
そういえば士官学校卒業の時に告白された憶えがある。
でももう15~6年も前の話だ。
「そんなんじゃないよアイツとは」
「ふむ。あやつは憎からず思っておるように見えたがのう」
「随分前の話だよ。俺はフィーアが居るからって断ったんだよ。今は信頼できる親友だと思ってくれているよ」
「そうか……妾の事なぞ気にせんで良かったのにのぉ。罪な男じゃて主様は」
からかうように俺の頬を突いて、フィーアはロビーへと去っていった。
(なんだよもう……)
俺はちらりとロビーで談笑するふたりを見た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(そもそも……記憶が戻る以前も私ひとりが好きだった訳じゃないものね)
お湯を沸かしながら、良く整理されたキッチンで茶葉を探す。
「玉露……?」
以前のリイナのデータの中から淹れ方を探る。
(そうそう。同じ私の中とはいえ、以前のリイナも旦那様に恋心を抱いている)
それもセクサロイドとして主人に寄せる『決められた感情』とは違うもっとプログラムの奥底からの感情……
(少し妬けちゃうけど、嫌な気持ちじゃなかった)
棚から急須と湯呑みを取り出し、トレイに並べる。
(同じ人を好きになって、ともに愛してもらえる連帯感……私と以前のリイナの間にもそういう気持ちがあった)
沸騰したお湯を一旦急須に移し、温度を下げる。
(フィーアさんの事もそう思えるんだろうか)
自分に問う。わからない。
でも……大切に思ってもらえている。フィーアさんと再会した後でも『愛してる』と言ってもらえた。
(やっぱり嬉しい)
お湯の温度を確認する。適温だ。
茶葉を入れる。急須の中で拡がり、いい香りが漂ってくる。
男にとって都合のいい女かもしれない。でも、あの人は……旦那様は間違いなくフィーアさんと同じように全力で愛して大切にしてくれる。そう信じれる何かがある。
(うん。信じてるし愛してる)
そう決めて、お茶を持ってロビーへと急いだ。
「ふむ。上手に淹れたのう。とてもまろやかで美味いぞ」
フィーアさんがひとくち飲んで言う。
「私は飲むのは初めてだが……緑茶と違ってその……まろっとしてとても美味い」
エルマさんも褒めてくれた。
「ありがとうございます。旦那様にも持っていきますね」
そういってブリッジの旦那様のもとへ向かう。
「お茶ですよ。『玉露』って言うらしいです」
そう言って、シートの後ろから湯呑みを回して旦那様に手渡す。
「おっ、ありがとう。玉露なんて久しぶりだなぁ」
そう言って湯呑みをすする旦那様。
そんな旦那様をシートの横に回り込んで抱きしめる。
「あ、危ないよ」
「フィーアさん……素敵な方ですね。それに、とてもお優しい」
旦那様の胸に顔を埋める。
「旦那様……好きです。やっぱり大好きです。私の事も……その……愛してくださいね……いっぱい……いっぱい愛してくださいね」
旦那様は私の頭を撫でる。
「もちろん。俺もリイナが大好きだよ。大切な俺の『奥さん』だしな」
あぁ……もう、やっぱり大好きだ。
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