星野にて竜を駆るもの

思考機械

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19話「襲撃」

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 死人との約束というのは破れないものだ。

(俺もそれに縛られて……こうやって生きている……)

「アーシェ。MFからの情報はビンゴだったようだわ」
 左腕に装着した戦術端末がイヤホン越しに話しかけてくる。
(レイスもMF呼びするようになったか)
 思わず苦笑する。

 MFとは情報収集・分析士官の俗称だ。正式な呼称は『IAO(Intelligence Analyst Officer)』であるが、ネットワーク(Mainframe)を犯す奴(Fucker)という意味で通称MFと呼ばれる。
 部隊内ではもちろん『Mother Fucker』に引っ掛けた下品な俗称だが。
(IAO自身も嫌がってたな。『MF』と呼ばれるのを)
 『あの作戦』を生き残った僅かな部下のうち、端末にかじりついていた優秀なIAOの顔を思い出す。

「到着時間に少しズレがあったが」
 俺は戦術端末に宿る『擬似意識プログラム』であるレイスに答える。
「星系内に到着して直ぐに所属不明の駆逐艦隊の襲撃を受けたようね」
「……よくも無事に着けたものだな」
 連行宇宙軍大佐・タモン・ミチヤマ。今、リイナと行動を伴にする男。
 彼とはエザーリン撤退時に面識があった。
 ブリッジで気さくに俺を迎えたあの男。
 涼し気な顔で微笑む中に、敗残の身でありながら輝きを失わない目。
 そして、味方艦隊が撤退する中、我々を救助に来たクソ度胸の持ち主。
「彼なら問題なかったのだろうな」
 無意識に愛刀の柄頭に手をのせる。
「……それでレイス。作戦(プラン)は?」
 彼らが乗ってきた仮装巡洋艦を遠目に見ながら聞く。
「……暫く様子を見る事を提案するわ。『エザーリン・スキャンダル』調査の為に来たのだから、そのうち動き出す筈。グループが別れればそれが狙い目になると思う」
「同意だ。ここで暫く待つか」
 宇宙港に隣接する廃墟ビルの屋上で、その時が来るのを待つ事にした。



 風にはためく外套の音で目を覚ます。
「……アーシェ。今なら女二人。リイナを連れ出すのも容易いと思われるわ」
「ROG(了解)」
 デルタエンド(拳銃)の弾倉を確かめ、スライドを引く。
 背中のショットガンの重みを感じつつ、愛刀である長剣を杖に立ち上がり、腰に装着する。
「使わないに越したことはないな」
 タモンと情報部の女が出かけたらしい。
 情報によると、船長の女とリイナのみが残っているはず。
「リイナを説得するのは任せたぞ」
「ROG。『賢者』解放の手順もMFと段取り済みよ」
 俺達は廃墟の屋上を後にした。



 夕焼けに染まる宇宙港。乱雑に停泊している宇宙船の中から、目的とする船へと迫る。
(800tブリュンヒルデ級の商船を改造した仮装巡洋艦。開戦直後に活躍したクラスだな)
 連合側が電撃的にエザーリンを陥落させた後、正規艦隊再編成に先立ちこの様に中・大型商船を改装した『仮装巡洋艦隊』が数多く編成され、辺境連邦側の後方撹乱に従事した。
 武装は軍艦に較べるべくもないが、こと電子戦を行う為の『センシング能力』は軍艦を凌ぐほどに特化した特殊艦艇である。
(あの『エザーリン奪還作戦』にも数多く投入されていた)
 思い出しても吐き気がする様な作戦だった。
 そもそも開戦初期に於ける奇襲作戦や輸送船団の襲撃に適した艦艇である。それを攻撃艦隊に数多く投入したのだ。
(末期に於いて余剰戦力となる『仮装巡洋艦』を使い捨てた)
 反吐が出る。俺達は陸戦隊なので宙戦については素人同然ではあるが、その素人からみても無謀な運用だった。
(船倉ゲートが開いたまま?)
「不用心だな……罠の類は?」
 レイスに問う。
「そういうのはアーシェの得意分野でしょ……まぁ私が精査した範囲ではそういうものは見当たらないわね」
 呆れたような口調で返すレイス。
 外套のフードを脱ぎ、頭部に装着してあるゴーグルをかける。
(……赤外線その他センサー類の反応は無しか……)
 デルタエンドを抜き、下げたまま両手で構えて一気にゲートを駆け上がる。
 衝撃と音を中和するコンバットブーツのおかげで、ほとんど足音はしない。
 船倉内、両翼を折り畳まれた状態の戦闘艇が隅に繋留されている。
 陽も暮れかかり、船倉内は照明も点けず薄暗い。
 船倉の壁沿いに一歩踏み出す。
 途端、足元に小さな炎が爆ぜる。
「女所帯に不埒な侵入者かえ?」
 船倉の向こう壁の通路に女が立っている。
 紅い髪、赤いドレス。
 その姿を見て、ちょっとした眩暈をおぼえる。
(なんだ……この既視感は……)



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その侵入者の事は、しばらく前から探知していた。

(主様らの留守を狙ってきおったか)
「リイナ嬢よ。暫し船室におれ。……何、心配はいらぬぞぇ」
 リイナも気づいておったのであろう。妾が話しかけると不安そうな表情で見上げた。
「でも……フィーアさん……」
「妾はドラゴンぞ。人に遅れを取るような事は万が一にもありはせん」
 その不安そうにしている愛らしいリイナの頬を撫でてやる。
「ささ。船室に」
 リイナは頷くと、船室へと入って行った。
(そうは言ったものの……さて、この気配は……)
 古傷である左腕の朱線が疼く。
(まさか……の)
 妾はドレスを翻し、船倉へと向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



(それにしても、今の炎はなんだ?)
「貴女に用は無い。用があるのは『リイナ』と名乗るアンドロイドだ」
 デルタエンドを構え、女に狙いをつける。
「そうは言うものの、無粋なものを突きつけおるの」
 女は壁の通路から『ふわり』とその身を踊らせる。そして柔らかな着地。まるで0G環境での動きの様に。
「まぁどちらにせよ、リイナ嬢は妾の保護下にある故。其方『研究所』の手の者か?」
 そう言うと同時に、女の両腕に炎が上がる。身に纏ったドレスを焼くこともなく、まるでその腕から噴き出すかの如くに。
(なんだあの炎は。そして先程の足元に現れた炎も)
 降下猟兵としての本能が……いや……もっと深い……そう、俺の血が『この女は危険』と告げる。
 なかば無意識に引き金を引く。
 小さな破裂音と共に、サイレンサーを通して弾丸が女に向かう。
 が、その弾丸が女に到達する事は無かった。
 軽く腕を振った。ただそれだけの動きで、弾丸はその存在を消した。
「今なら見逃してやる故、早く去られよ」
 女はあくまでも優雅な動きでこちらに近付いてくる。
(やはり、銃は効かないか)
なんとなくそう思っていたが、やはり間違いなかった。そうなれば持ち得る武器はただ一つ。
 俺はゴーグルを外し、腰の長剣を抜き放った。
「……その蒼い瞳……まさか其方……」
 女の動きが止まった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



(この男の瞳……そしてあの長剣……知っている。妾は知っておるぞ……)
 炎を纏った左腕が疼く。
(こやつ……あの時の……)
 いや、あれは遥か昔の事。しかも奴は妾が倒した。生きていよう筈もない。
(これは心してかからねばなるまいて……)
 妾は地を蹴った。
 飛び上がり、その両腕に纏わせた炎を男に浴びせる。
 2つの炎が1つになり、男に襲いかかる。
 が、男は長剣を一閃。妾の炎を両断する。
「ふむ。やはりか……」
 妾は天井を蹴り、男の目の前に飛び降りた。
 その長剣を構える腕を素早く抑え、こう言った。
「其方……レイダーじゃな……?」
 その男の構える長剣。それはまさに、かつて妾の左腕を傷付けた剣『ファ・ミーティ(夜明けの輝星)』であった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「レイダー……とはなんだ?」
 腕を抑えられた俺は女に蹴りを見舞う。
 女はヒラリと身をかわし、また先程と同じ距離を保つ。
「いや……あの者と同じ瞳の色……レイダーどころか、エルダーじゃの」
 無造作に両腕をおろしたまま女が言った。
「レイダーだのエルダーだの、俺には何の事か判らん。俺はお尋ね者の元軍人だ」
 もう一度剣を構える。土壇場でいつも俺を救ったこの剣を。
「ふむ。そうであろうな……800年は前の事じゃ」
 女はそう言って、また両腕に炎を纏う。
「古の禁術により生み出された対竜族の戦闘種。……血の定着に成功しておったか」
(また来る!)
 女が両腕を振り上げると、先程とは比べ物にならないくらいの業火が俺を襲う。
 敢えてかわさず真正面から剣を振り降ろし、炎を斬る。
 が、その後ろからもう一条の炎が俺に襲いかかる。
(クッ!)
 横っ飛びで身をかわし、床に倒れ込む。
 そこへ女が飛びかかる。その鋭い拳が俺の胸元に食い込む。
「グハッ!」
 その衝撃を少しでも緩和しようと後ろへ飛ぶ。
膝をついて着地すると同時に、胸のプロテクターが粉々になって床に落ちる。
(なんて力だ)
 呼吸が苦しい。肋骨と肺をやられた様だ。
 しかし、女の次の一撃が来ない。
 目をやると、右肩を抑えてしゃがみ込んでいる。咄嗟に剣を突き出したのが見事に女を捉えた様だ。
「まだ血に覚醒めておらん様子じゃったが……やはり油断ならぬのう……」
 肩から血を流している。
(今のうちに……なんとか動いて……)
 そうやって立ち上がろうとしたところに、側頭部に何か突き付けられた。
「そこまでだ……お前、フィーア姉ちゃんに何をした……」
 ちらりと目線をやると、そこにジェットピストルを突き付けるタモン・ミチヤマ宇宙軍大佐が立っていた。

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