星野にて竜を駆るもの

思考機械

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20話「襲撃2」

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 銃声と轟音。
 『ブリュンヒルデ』号の側でタクシーを降りた時、開け放たれた船倉のゲート内から聴こえた。
「エルマ、お前はここに居ろ」
 タクシーを降りた場所でエルマを待たせて、俺はジェットピストルを構え、ゆっくりと『ブリュンヒルデ』号に向かった。

 そっとゲートを登り、船倉内を覗き込む。
 視界に入ったのは船倉中央でうずくまるフィーアの姿。左手で抑えたその肩は、纏ったドレスよりも濃い紅で染められている。
 ふと付近を見ると、フィーアと相対するようにしゃがみ込んだ外套姿の男。その手には長剣が握られ、左手で胸元を抑えている。
 状況を把握した俺は、外套姿の男に近づいて、ジェットピストルを側頭部に突き付ける。
「お前……フィーア姉ちゃんに何をした……」
 冷静に言い放ったつもりだったが、怒りに声が震えているのが自分でも判る。

「あ、あなたはアーシェハイザー!」
 いつの間にか俺の後ろに立っていたエルマが男をそう呼ぶ。
「……アーシェハイザー?」
 そういえばこの男、見覚えがあった。何時だったか……
 エルマがフラフラとフィーアの元へと向かった。
「が、話は後だ。タモン、その男を拘束しておいてくれ。……フィーア、大丈夫か?」
 エルマの言葉を聞いたものの、俺は従えなかった。
「いや……ここで殺す」
「タモン!」
 エルマはフィーアを抱き起こしながら俺を怒鳴る。
「フィーア姉ちゃんを傷付けた。許さない」
 全身が怒りに震える。
「主様!タモン!妾は大丈夫じゃ!……殺してはならん」
 俺はフィーアの声で我にかえる。
 取り敢えず、外套姿の男を結束バンドで後ろ手に拘束する。
「リイナ!無事か!」
 俺はブリッジに向かって大声で叫んだ。

 船倉の扉からリイナが姿を現す。
「旦那様!……って……フィーアさん!」
 エルマに抱き起こされたフィーアを見て、慌てて階段を降りてくる。
「ほほ。妾は無事じゃ。この様なかすり傷……」
 そう言いながらも苦しそうだ。俺も慌ててフィーアに駆け寄る。
「……流石はドラゴンスレイヤーたる名刀『ファ・ミーティ』よ。妾の再生能力が直ぐには効かぬわ……古代の遺物に等しいものだが……よく手入れされておる」
 そう言うフィーアの傷口をリイナが手にしたハンカチで抑える。
「タモン。約束する。お前たちに何もせん。直ぐにこの拘束を外すんだ」
 アーシェハイザーが俺に話しかける。
「いや、ダメだ。暫くはそのままで居て貰う」
 船室に連れて行こうとアーシェハイザーの方へ足を向ける。
「この仮装巡洋艦に向かって居る集団を検知した。恐らくリイナを狙う研究所の手のものだろう……」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 フィーアと呼ばれる紅衣の女を、足元がふらついている情報部の女とリイナと呼ばれた少女が支えて立ち上がらせるのを見ていた。
「……アーシェ。この船が囲まれている。恐らく『研究所』の一団」
 レイスがイヤホン越しに話しかける。
「リイナの件は後ね。今はタモン達を説得して拘束を解いてもらわないと」
 俺は頷くと、タモンに言った。
「タモン。約束する。お前たちに何もせん。直ぐにこの拘束を外すんだ」
 こちらに歩いてくるタモンは、訝しげな表情で俺を見つめ、答える。
「いや、ダメだ。暫くはそのままで居て貰う」
「この仮装巡洋艦に向かって居る集団を検知した。恐らくリイナを狙う研究所の手のものだろう……」
 俺の言葉に、タモンの視線はゲートの外へと向かう。
「咄嗟だったとはいえ、その女を傷付けた事を償わせて貰えないか。俺がリイナを狙った詳しい説明も必ず後でする」
「……お前も胸を負傷している様だが?」
 タモンが俺の後ろにまわる。
「大丈夫だ。プロテクターは粉々に破壊されたがな」
 結束バンドが解かれる。
 俺は剣を仕舞い、背中のショットガンを手にする。
「感謝する。あと、お前に対する借りも返さないとな」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 アーシェハイザーの言葉を聴いて思い出した。
 『エザーリン奪還作戦』で俺達の艦隊が救助した陸戦隊の隊長か。生き残りは僅かであったが。
 当時、静かな怒りを秘めた様なそのアイスブルーの瞳が印象的だった男だ。
「借りか。そんな事もあったな。……数は判るか?」
 俺はジェットピストルを構える。
「恐らく5~6人。10人は居ないはずだ」
 ゲートの向こうとこちらに分かれ、壁越しに外を覗き込む。
 その途端、銃撃が襲う。
「リイナとエルマはフィーアを連れてブリッジへ!」
(エルマはまだふらついていて本調子じゃ無いうえ、フィーア姉ちゃんは怪我。俺が何とかしないと……アーシェハイザーはどこまで信用出来るのか……)
「……まだ信用出来ないって面してるな」
 アーシェは口元にぎこちない笑みを浮かべると、銃撃が止んだ瞬間その身を曝け出し、ショットガンを連射する。
 俺はジェットピストルのアタッチメントを榴弾に切り替え、アーシェハイザーの足元に転げ出して射撃した。
 コンテナが乱雑に積まれた一帯で炸裂する。
 その間にもアーシェハイザーの射撃は確実に敵を倒していく。
「10人は居ないと言ったな。やっぱり信用出来ねぇ」
 お互い、身を隠す。
「…俺の相棒は結構いい加減でな……すまない」
(相棒……?)
 何処かに連絡を取り合っている支援者でも居るのだろうか。
 船内に低く重い音が響き出す。パワープラントに火が入った様だ。
「離陸出来るか!一旦、軌道上に退避しよう!ゲート閉めろ!」
 ブリッジに向かってそう怒鳴る。
 この船の制御はフィーア任せだ。傷を負ってたが、なんとか操船出来るだろうか。
 やがてゲートが閉まりだす。
 俺は最後にもう一発榴弾をお見舞しようと身を曝す。
「タモン!」
 アーシェハイザーが俺に体当たりする。
 船倉の床に倒れ込み、後頭部を強かに打った。
「アーシェハイザー!何を……!」
 文句を言おうと身を起こすと、閉まりきったゲート付近で胸元から鮮血を流すアーシェハイザー。
「庇ったのか!済まない、今手当てする」
「大丈夫だ。致命傷には至っていない……」
 俺は急いで彼を抱え、ブリッジへと向かった。



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(どうしよう……フィーアさんの傷、出血が止まらない)
 フィーアさんはドラゴンの自己再生能力が使えるそうだが、どうもこの傷には効いていないようだ。
「これを。傷口に押し当てて抑えつけて」
 足元をふらつかせながらエルマさんがタオルを持ってきた。何があったのか、エルマさんの格好はボロボロで、調子も良くないみたいだ。
 そのほんのりと赤く染まった表情はなぜか淫猥で、見ている私もドキッとしてしまう。

 エルマさんの言うとおり傷口を抑え続ける。
「……すまないの。リイナ嬢や。少し動くぞぇ」
 横になりながら左手を上にかざす。
 パワープラントの始動する音が響く。
 やがて船倉から旦那様の『船体発進』を指示する声がする。
「ほほ。これで安心じゃ。あとは勝手に軌道上にあがる……」
 そう言ってフィーアさんは目を閉じた。
「フィーアさん!」
「大丈夫だ。眠ったんだろう……」
 エルマさんが私の肩をポンと叩く。

 暫くして、旦那様が先程の男を抱えて船室に入ってきた。
「ここだったか……済まない。アーシェハイザーが俺を庇って……」
 男は胸元から出血していた。
(どうしよう。まずは医療用キットを)
 船内を探しに行こうと立ち上がると、頭の中で声がした。
「(リイナ……聴こえますか?私はレイス。憶えていますか?)」
 私は目を閉じる。
 私の意識に伸びてきた手を取る。
(忘れる訳無い!レイス姉さん!)
 正確には姉妹では無いのだが、攫われる前、私といつも一緒にいたダークエルフのお姉さん。
 研究所に共に捉えられ、集積された意識プログラムの中でもいつも一緒だった。
「(正確にはレイス本体じゃない。私は意識プログラムの『核』を持たない擬似的なレイスなの)」
(何故ここに居るの?何処に居るの?)
「(話は後。今こそ貴女の『力』を使う時なの。早く二人を。アーシェを救って……)」
 急に涙声になるレイス。
(私の力って……)
「(貴女には強力な回復魔術……『古の術』が使えるのよ。思い出して)」
 はっとする。
 そうだ。思い出した。
 自分が意識プログラム達の中から分離された事。
 そして同じ様に分離された4人の『核』をこの身に預かった事。
 意識プログラム達の中でも1番のおじいちゃんから言われた言葉……
「お前だけが、その核を元の意識プログラムとして『回復』させる事ができる」
 そしてクリスタルに封じ込められ、そのクリスタルを包み込んだ大きな手。
(この男だ。彼が私を研究所から持ち去ってくれたんだ)
 意識内に映る、先程の外套姿の男。
「(お願い……アーシェを……私のアーシェを救って……)」
  やらなきゃいけない。
 フィーアさんを。そしてアーシェハイザーを救わなければならない。



(まず、意識の深いところまで……)
 目を閉じ、以前行(おこな)ったように自分の意識内へとダイブする。

(何処かに私の『古の術』の部分があるはず)

 周りの蒼がさらに深い色になっていく。

 そして……

 以前訪れた『4つの卵状の物体』が浮かぶエリアまで潜る。
(これが……確か『意識プログラム』達の『核』よね……)
『彼らを解放する』
 私の使命の役目の一つだ。
(でも今は……)
 周りを見渡す。他には何も見当たらない。
 ここは意識の一番深い所……のはず。
(自分に『古の術』があると気付いた今なら、以前見えなかったものも見えるかもと思っていたけど)
 そう考えた時、揺蕩う足元がさらに深い蒼に変わった。
(まだ深いところがある)
 そこに向かって潜っていく。

 ある程度、深いところまで行くと……
 やがて目の前に優しく輝く『もの』があった。
(これ……なのかも……)
 そっと手を触れる。

 触れた手から『力』が流れ込んでくる。
 激流ではなく、さざなみの様な静かさで。
(そうだ……)
 私は思い出す。
 この力があったせいで、産まれた場所を追い出された事。
 ハーフエルフという『混血』であるが故に、行く先々で迫害された事。
 商人の一団に囚われて、何処かに連れて行かれそうになった事。
 その時に、危険を省みず助けてくれたダークエルフのお姉さんの事。
「私と一緒にエザーリンに行きましょう。そこには私達の様な人たちが『始祖の宇宙竜』の庇護の元、静かに幸せに暮らしてるというわ」
 そう言ったダークエルフのレイスとエザーリンに向かった事。
(『力』は取り戻した。早くふたりを救わないと)
 私は急いで浮上した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 フィーアの傷口を抑え、目を閉じていたリイナの瞼が開く。
「旦那様。もう心配ありませんよ。私に任せてください」
 俺はかなり心配そうな表情をしてたんだろう。リイナがそう言って微笑みかけた。
 そして、何が起こっているのか……傷口を抑えるリイナの両手が優しい緑色に輝く。
「良かった……この身体でも使えた……」
 リイナはそう言って安堵の表情を浮かべる。

 どれくらい経っただろうか。
 リイナが抑えているタオルを傷口から離すと、フィーアの傷口が跡形もなく消えていた。
「……どんな手品を使ったんだ?」
 リイナは意識を失っているアーシェハイザーの方へと歩いていく。
「これが私の『力』なんです。だから『研究所』に攫われたんです……」
 そう言って、アーシェハイザーの胸元に手を充てる。
 先程と同じ様に、柔らかな緑に輝く手……
「彼ももう大丈夫です。この人には私も『恩』がありますので……返せて……良かっ……た……」
 そう言ってリイナは倒れ込んだ。
「おい!大丈夫か!」
 慌ててリイナを抱きかかえた。
「……旦那様」
 リイナが微笑む。
「大丈夫ですよ……久々に『力』を使ったから疲れちゃっただけです……」
 リイナはそう言って眠りについた。
「ゆっくりと眠ればいいよ」
 リイナを抱きかかえて、別の船室へと連れて行く。
(ありがとう)
 アーシェハイザーの左腕からそう聴こえたような気がした。


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