星野にて竜を駆るもの

思考機械

文字の大きさ
24 / 26

23話「エザーリン奪還作戦」

しおりを挟む
 うっすらと目を開けると、リイナらしき娘が俺の胸に手を添えていた。
(暖かいな……なんだ?)
「アーシェ、気が付いたの?」
 イヤホンからレイスの声が聴こえる。
 返事をしようにも、意識が薄らいでいて口も動かせない。
「心配しなくてもいい。もう大丈夫よ」
 珍しく優しげな口調のレイス。
(似合わないな……)
 そう思いながらも、胸に感じる暖かさに眠りそうになる。痛みがスゥーっと和らいでいく。
「リイナが自分の力に目覚めてくれたわ。あとは『賢者』の解放なんだけど、今はゆっくり眠るといいわ」
 レイスの言葉を聴きながら……俺の意識は夢の中へ堕ちていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「大隊長、DCC(指定秘匿通信)入ってます」
 大隊の情報分析士官(MF)からの隊内通信と同時に解除コードのリクエストが来た。
 素早く事前に指定されていた暗号コードを送信して通信を確立する。
「こちらは先遣工兵隊のウェシュタル大佐だ。貴官に指令本部からの新たな作戦指令を伝える」
 そういうと幾重にも暗号化された統合作戦司令部付けの命令書が表示された。
 当然、DCCによる通信の為他の者には見る事は出来ない。
 もしかするとMFなら出来るのかもしれないが。

 ざっと指令に目を通す。どうやらここから少し離れたところにある施設で抵抗にあっているので先遣工兵を支援せよとの事らしい。
「指令は受領した。現状を知らせてほしい」
「現場は兵器工場の様だが詳細は不明だ。かなりの抵抗にあっている」
「敵兵力は?」
「数は不明だがかなり強力だ」
「了解した、大佐。以後、当方のコードネームはSirius6とする」
「ありがとう、Sirius6。こちらはSeeker1とする。」
「ROG(了解).Seeker1」
 結局、詳細が分からないまま救援に向かう事になりそうだ。
「MF、先遣工兵隊とやらはいつ降下した?指揮官のウェシュタル大佐とはどんな人物だ?」
 軍機もなにもないが、分かるところは知っておきたい。これは常識というものだ。
「確認します。あと……」
「なんだ?」
「MFと呼ぶのは勘弁してください。俺はIAO(Intelligence Analyst Officer)(情報収集分析専門士官)です。軍事的hackerってやつですから」
「次からそうする」
 短く言い終えると、各中隊の状況を確認する作業に集中した。



 各中隊は今のところ軽微な損害で戦力的には何の問題も無い事を確認すると直ちに指定された
地点へと急行する。
「中佐、直接通話いいですか」
 そう言うと同時にMFが有線接続してきた。何かやっかいごとに違いない。
「なんだ?」
「先の件ですが、先遣工兵隊は我々の2日前に降下したとなってます」
「なってます、とはどういうことだ」
「降下した『事実』はあるのですが、先遣工兵隊という部隊が編成された『記録が見当たらない』のです」
「事実はあるが記録はない?」
「正確には編成された『らしい』と言う事です」
「実在したかは不明という事か」
「ええ。それにそいつを降下させた艦はすでに撃破されて艦艇名簿から除籍されてました」
「大佐については?」
「工兵隊と同じです。降下作戦時の指揮官としての『事実』はありますが」
「それはつまり……」
「面白い事になる、そういう事です」
 少し状況を考える。
「足は?」
「まぁ任せてください。靴下の匂いも残しませんよ」
「上出来だ、ハークス中尉」
 MFは不敵な表情で敬礼すると、有線を切って離れていった。

 2日前に降下した『はずの』工兵隊、すでに存在しない強襲揚陸艦。
 そして、それを指揮するウェシュタルと言う名の正体不明の大佐。

(何が起こっている?)

 しかし、あの命令書は本物だった。
 間違いなく正規のDCCからの命令書だった。
 その証拠に与えられた多重暗号キーで解除出来た。
 多重化された暗号キーを解析するなどかなり大型のコンピュータでもない限り不可能だ。

(つまり命令書自体は本物だ)

 何かが起こっている。だが、現状では情報が足りない。
 命令上は救援に向かえという事になっている。
おかしいとわかっていても、ここは行くしかあるまい。
 中尉の言うように、面白い事には間違いない。
 そして、極めて危険であることも。



「Sheeker1、こちらSirius6」
「Sirius6、どうぞ」
「まもなく到着する」
「我々は入口付近で退避中だ。出来れば急いでくれたら助かる」
「ROG(了解).Sirius6 over」

 我々が降下した市街地から少し離れた丘陵地帯に指示された施設はあった。
 市街地と言っても激しい艦砲射撃と市街戦で廃墟と化している。

 半ば斜面に埋まるような施設の正面入り口と思われる辺りで爆炎が上がっているのが見える。
 敵は施設に立てこもって頑強に抵抗しているらしい。
 現状は正体不明でも助けるべき友軍であることには違いない。

「Sirius2は右から、3は左、1は6と正面から行く。4は予備として中央にて待機」

 入口はそう大きくは無い。だからこそ突入は難しい。
 うかつに飛び込んだら、間違いなく十字砲火に曝されて天国逝きの特等チケットだ。
「Sheeker1、どうすればいい?」
「施設を確保したい。出来るだけ破壊せずに、だ」
 思わず舌打ちしそうになるのをこらえる。
 MFが横で笑うの見えた。
「Sirius6、ROG(了解).」
 とりあえず、奴らの正体は後回しにして片付けることに集中しなければならない。

「Sirius4、出来るだけ正面へ支援攻撃をしかけろ。6と1が囮になる。その間に2と3が左右から飛び込め。リオン、逃げるんじゃないぞ」
「隊長こそ途中で泣きべそかかないでくださいよ」
 Sirius1中隊長であるリオン大尉が相変わらずの憎まれ口を返してくる。
 少し軽率な所はあるが勇猛さは有り余っている、そういう男だ。
 つまり、生まれ持ってのタフネスな降下猟兵と言う事だ。
「各中隊は楔隊形で前進」
 各中隊から了解の返答。もちろん各隊とも先頭は中隊長が務めている。
 相変わらず頼もしいことこの上ない。
「ラウ、作戦本部との連絡は付いたか?」
 大隊通信を使用して本部にいる参謀を呼び出す。
「未だ取れません。取れ次第報告します」
 とりあえずそれは現状では大した問題ではない。
目の前の目標を片付ける事に集中する時だ。
「XO(副官)、宅急便の手配を……」
「すでに宅配済みです、中佐」
 支援砲撃の要請を言い切る前に、雷のような重低音が響いてくる。
 大隊支援用に配備されている155㎜榴弾砲の射撃音だ。
「急ぎ過ぎの事故だけは勘弁してくれ」
 XO(副官)であるルシウス少佐に言う。
「誤配したって中佐が吹っ飛ぶだけなんで、 別に問題ないでしょう」
 その返答を聞いたMFが横で吹き出す。
 誤配したら自分も吹っ飛ぶと言う事には気が付かなかったようだ。
 ルシウス少佐の返事が終わると同時に、指定座標へ寸分たがわず着弾する。
 標定射撃無しでこの精度は尋常ではない。
 次々と着弾の爆炎が上がる。
 20kg近い炸薬の詰まった155㎜榴弾の打撃力は携帯火器とは比べ物にならない。
 少なくとも傍目には何もかも木っ端みじん吹き飛ばすように見える。
「2分だ」
「ROG(了解)」
 毎分4発の発射速度を持つ155㎜重砲2門を2分間砲撃させる。
 この重低音が響いている間に接敵してしまわなければならない。
 支援砲撃とは敵の反撃までの時間を稼ぐのが目的であって、敵の殲滅が目的ではないのだ。
「グランツ、RLG(超電磁砲)の徹甲榴弾で正面に穴をあけろ。RAMP(多目的擲弾筒)は榴散弾。秒速1mで押せ」
「Sirius4、ROG(了解).」
「では、我々も始めよう」

 RLG75-55 SRII-B(75ミリ超電磁砲)から鼓膜を引き裂くような高音を発して超高初速の徹甲弾が正面の扉へ撃ち出される。
 この距離であればMBTの正面装甲すら易々と貫通するそれは、いとも簡単に鉄の扉へ穴を開けるや瞬発信管が一瞬の後に作動、扉の内側に猛烈な衝撃波と破片をまき散らす。
 本来は着弾と同時に爆発するものだが、目標が薄すぎて貫通後に信管が作動したのだ。
 いずれにしてもPAD(動甲冑)でも着ていれば別だが、一般的なボディアーマー程度では無事では済まない。

 上げていた手を振り下ろすと、盾を前方にかざした鋼鉄の騎士達が前進を始める。
 まず最前列が化学煙幕弾を撃ち込んで各種センサーも視界も潰す。
 進撃速度は毎秒1m。
 その歩調に合わせるように後方のSirius4からRAMP(多目的擲弾筒)の雨が降り注ぐ。
 先頭に立っているのは目立つビームアンテナを立てたリオン大尉の駆る純白のPAD(動甲冑)。
 突如、爆炎の向こうに閃光が発したかと思うと最先頭であるリオンへ敵弾が飛来した。
 わずかに身体を沈め、盾の角度を変えて着弾に備える。
 もちろん、進撃の速度は変わらない。
 積層装甲製の盾で跳弾した銃弾が甲高い音を立てて空中へ跳ね上がった。
「おそらく9ミリクラスのBR(戦闘ライフル)。この程度のPRA(威力装甲比)で正面は抜かれません」
 着弾のデータから算出した敵弾の威力をMFが伝達する。
 少しだけ、緊張が解れる。
 正面から撃たれてもよほどのことがない限り貫通しないのであれば気持ち的には楽になる。
 もちろん、比較的な意味の安心でしかないが。
発砲元に向けて中隊前衛から素早い反撃が行われる。
「MF、ドローンを」
「すでにIAT-01と03から先行させてます」
「仕事が早いな」
「でないとIAOは務まりません。で、いつになったらMFと呼ぶのはやめてくれるんですかね?」
「次からな」
 そう言いかけた瞬間、けたたましい音を立てて次々と敵弾が命中した。
 そのほとんどが弾き返されたが直撃された外部センサーや装備品が飛び散る。
「状況!」
 恐らく火点に定置された重機関銃だろう。
 さすがのPAD(動甲冑)でも連続で被弾すれば危険だ。
 RLG(超電磁砲)の支援砲撃から生き残ったとすれば、堅固な防御陣地があるのだろう。
「12ミリクラスMPG(軽機関銃)!PRA(威力装甲比)は連続被弾で正面貫通可能レベル!」
 MFが叫ぶように報告する。
(まったく安心なんて出来やしない。)
 リオン中隊の最前列の数名が負傷して後送されるのが見える。
 最初のBR(戦闘ライフル)射撃は標定の為だったのだろう。
「中隊、全力射撃開始!なんでもいいからとにかく撃ち込め!」
 リオンが最前線で叫ぶ。
 同時に全力で突撃に移る。
「Sirius6、突入!」
 先頭を最大速力で突入するSirius1中隊とそれを追う本部直属のSirius6。
「グランツ、ありったけ撃ち込め!」
「ROG(了解)。少々荒っぽくなりますがご勘弁を」
 後方から連続して金属を引き裂くような高周波音が炸裂する。
 RLGの超高初速弾が次々とゲートへ吸い込まれて爆発する。
 その連打の中を小隊ごとに援護し合いながら互いに最高速度で侵攻していく。
 敵が正面のSirius1と6に集中している間に2と3が接近に成功する。
「ドローンからの映像では正面死角になる左右に火点あり。おそらく重機と対戦車火器あり」
「Sirius2、ROG(了解)。テイル大尉は右をお願いします」
「Sirius3、ROG(了解)。リリア中尉、無理はするな」
 先頭正面では盾を前面に押し立てて猛進するSirius1と6の両中隊が肉薄してくる。
「火点は正面に集中!重火器に注意!」
 重機からの発砲の閃光と跳弾の火花が激しく交錯する。
 突入する中隊の合間を縫うように支援砲撃が次々と放たれ、ゲート付近を着弾のカーテンで包み込む。
 さらに化学煙幕弾が投入される。
 その濛々と立ち込める化学物質を大量に含んだ煙幕を掻い潜ってSirius2と3が突入を開始。
 最初に突入したリリア中尉の隣に居た軍曹が対戦車砲の直撃を受けて爆散する。
 さすがのドラゴンバスター(動甲冑)も近距離で放たれた対戦車砲の直撃には耐えられない。
 その光景にも一瞬の遅滞なく雪崩れ込んだ各中隊は、互いにシザーしつつ左右の拠点へありったけの火器を放ちながら火点制圧を敢行する。

 たとえば、1秒早ければその分損害が減る。

 たったでも1秒早ければ、味方の死を減らせる。

 敵の重機が立て続けに火を噴き、防御姿勢の遅れた隊員数名がなぎ倒される。
「Sirius2、着剣!突入せよ!!」
 リリア中尉の高い声が響くと、中隊員は一斉に右手に装備された白兵戦用電磁サーベルを抜き放つ。
 重機の乱射で次々と隊員が撃ち倒される中、深紅のPDA(動甲冑)が火の玉の様に火点陣地へ突撃していく。
 Sirius3のテイル大尉も同じように着剣を指示して突撃する。
 現状では一刻も早く火点陣地を潰さなくてはならない。

 俺の蒼いPAD(動甲冑)を先頭にSirius6も前進する。
 躊躇してる時間など無いのだ。



 戦闘開始から約30分後、施設入口ゲートを完全に制圧したSirius大隊は無事先遣工兵隊と合流出来た。
 大隊の損害は戦死3名、重傷者7名。PADの損傷によって戦闘不能になった者が11名であった。

「ようこそ、Sirius6。Sheeker1は心から貴官らを歓迎する」
 そう言って件の大佐が笑顔で出迎えて来た。
 一時的に前線から後退していた彼らは制圧が確認されてから合流したのだ。
「さすがは特殊降下猟兵でも最強と言われるSirius大隊だ。本当に感謝する」
 一般戦闘服姿の大佐は笑顔の下に警戒心を隠しているような表情で握手を求めた。
 しかし俺がPAD(動甲冑)装備中であることを思い出したのか、バツが悪そうにその手を引っ込める。
「礼はいらない。早く仕事を済ませよう大佐」
 ウェシュタル大佐と呼ばれる男は、油断ない視線を施設の奥に走らせた。
 その視線の先には……さらに奥へと続く巨大な地下施設への入り口が暗闇を湛えていた……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...