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第一章・始まりは…
18・単純馬鹿と腹黒
しおりを挟む「言葉の裏を見ることをしない素直過ぎるオリフェウスでも、流石にリュシフェル嬢の気持ちが分かったであろう?」
「ああ…胸が痛むくらい分かったよ。
あの俺の袖口を掴んで後ろを付いて来ていた、何かあると俺の陰に隠れて歯を食いしばり泣くまいと堪えていた小さな女の子はもう…居ないんだな」
「惚れ直したか?」
「ヴィクトァールも同じ、お互い様だろう」
「はっははは!君のような単純な思いと私が抱える複雑な思いは大分異なると思うが」
「恋なんて単純じゃないのか?同じ女性を想う同士なのに思いは異なるなど、俺には分からない理屈だ」
「ふん、単細胞なオリフェウスめ。人の心の有り様は千差万別なものと分からぬとは…まぁ、良い」
「…ところで、なぜ俺に話を聞かせた?」
「本来、私は公平な男だからだ。詰まらぬ真似をしてまで君に勝とうなどとは思わぬ」
「へえ!意外だな。ヴィクトァールは手段など選ばない人間だと思っていた」
「お褒めの言葉をありがとう」
「全然、褒めてないぞっ!!」
「ま、オリフェウスの指摘もあながち間違いではない。私は望むものに対しては手段など選ばぬ。手に入らなければ意味をなさぬ故」
「納得!…では、なぜフェルの気持ちを俺に教えるような真似をしたのだ?」
「リュシフェル嬢がリュシフェル嬢でなくなってしまえば例え手に入ったとしても意味などない。
私の望むリュシフェル嬢はオリフェウスの守り作り上げてきたリュシフェル嬢でもある。ならば、抑えている君への想いを吐露させることで、少しでも本来の姿に戻してやらねば、と思ったまでのこと」
「随分とフェルのことを分かっているような口振りは気に食わないが、貴方のお陰でフェルの口から気持ちを聞くことができたことには感謝している。
ヴィクトァールの目から見れば、今のフェルは本来の姿ではないというのか?」
「君も気付いているのでは、オリフェウス?」
「僅かには…あれほどのことをされたのにも関わらず、フェルがコームプシェ男爵令嬢について恨むとか憎んでいるとかマイナスな言葉を一切発しなかったことは、確かに俺も気に掛かっていた」
「リュシフェル嬢は未だ悩む故に敢えてなのか…判断はつきかねるが、通常ならば一言あって然るべきなのだ。憎いであろうに言葉にさえ出さぬことが、かえって私も気掛かりなのだ」
ティーセットの置かれたテーブルを長い指先でトントンと叩きながら、ヴィクトァールは言葉を繋げる。
「マイナスだからと感情を抑え込むことは得策ではない。何故、上策とは言えぬようなやり方をしているのか…」
「まだ情が残っているからとか?コームプシェ男爵令嬢も悪人とは言い切れない所があるから。
それにフェルは昔から泣くのを堪えたりと自分のマイナスな感情を抑え込もうとする不器用な所があるんだ…きっと今も無理をしているのかもしれない」
「リュシフェル嬢をよく知るオリフェウスが言うくらいだから実際そうなのだろう…だが、何かを見落としいるような引っかかる気がしてならない」
「俺は単純だからな…ヴィクトァールのように考え過ぎたり穿って見たりはできない。
けれど、フェルは意地っ張りで不器用なくせに負けず嫌いではあるよ」
「ふむ。オリフェウスの言う通り、確かに意地っ張りなだけではなく、不器用だとは私も感じている」
「不器用なくせに負けず嫌いな、俺のお姫様はヴィクトァールの前ですら泣くことさえしなかった」
「涙を流すことは浄化作用にもなるからね…私の前で泣いて欲しかったが、力不足で済まない」
「…いや、ヴィクトァールはフェルの気持ちを俺に聞かせることを優先してくれたのだろう?」
「オリフェウスへの抑えた想いを吐露すれば、抑えている筈のその他の感情も吐き出せると考えたのだが…まだ、その壁は厚いらしい。
幾らマイナスといえども、どこかで吐き出さねば人は苦しくなってしまうものだ。無理を重ねていれば、いつかは決壊してしまう。彼女が決壊した時に、誰かが傍に居てやれたならいいのだが…」
オリフェウスへと目線を向けた後、難しい顔をしたヴィクトァールは祈るように両の手を握り合わせた。
「俺かヴィクトァールかが決壊したフェルの隣にいてやれれば、吐き出すことのできたフェルは本来のフェルに戻れると貴方は言いたいんだな」
「その通りだ。ま、単純なオリフェウスではちと物足りないが」
「フェルに対してはこれ程までに思い考え大切にしているヴィクトァールに俺は正直、驚いている」
「ふん。最初に言っただろう?君のような単純な思いと私の抱える思いは違うと」
「…なんか褒めて損した気にさせるのが上手いよな、ヴィクトァールは」
オリフェウスが半眼になりヴィクトァールを眺めつつ大きく嘆息した。
「ふっ…単純馬鹿な君とは大いに異なるからな、私は」
「だ・か・ら、その一言が多いっての!
俺はヴィクトァールと違って素直なんだ。貴方みたいに腹黒じゃなくて悪かったなっ!!」
「「ふんっ!貴様(お前)とは合わない!!」」
気の合わない筈のふたりの声が揃う。案外、気の合うふたりなのかもしれない。
背けた頬を掻きながらオリフェウスは澄ました顔のヴィクトァールを見遣る。
「ヴィクトァールといい、コームプシェ男爵令嬢といい…そんなに手助けが必要に見えるほど俺は頼りない人間なのか?」
「ああ、確かに放って置けぬ所がある。だが、それはオリフェウスの良さでもあるから気にすることはなかろう。
…ところで、コームプシェ男爵令嬢とは一体何の話だ?」
「あの出来事の後直ぐに聞かされたんだ、ヴィクトァールとの契約の話を。それから色々あって散々馬鹿にされたけれど、結局フェルの気持ちを教えてくれた」
「あの令嬢がリュシフェル嬢の気持ちをオリフェウスに伝えるとは、にわかに信じ難いが…気でも変わったのだろうか。
それに君は契約の話を聞いても私のことを何とも思わない…訳がないか」
「よく分かってらっしゃることで…ヴィクトァールの本心は何となく分かっていたからな。ただ、そこまで愚かになれるほど判断を鈍らせたことの方が俺には驚きだよ。
少しだけ羨ましく思えた、そんなにも恋に夢中になれる貴方のことが」
「…それは誉めているのか?」
「さぁな…フェルじゃないけれど俺は意気地がなくて勇気も出せない男だから。
羨ましいは最高の褒め言葉ということだ!喜んで受け取ってくれ」
「では、有難く受け取ろう」
「一言、いいか?先ほどヴィクトァールは言ったけれど、フェルを作っているのは俺だけではない。ヴィクトァールの力もフェルを成り立たせていることは明らかだ。
そして何よりフェル自身も俺達を置いていく勢いで成長しつつあることをさっき話を聞いていて感じたよ」
「私も加えてもらえるとは実に光栄だ。そのことに関してはオリフェウスの意見に私も同意だ。せいぜいリュシフェル嬢に置いて行かれぬように励まねばならないな、お互いに」
「ああ、フェルに負けないどころか俺はその先を行く男になってみせるからな!」
「頼もしいことだ!恋敵があまりにも弱くては詰まらぬ。
私はリュシフェル嬢には負けてもよいが、君に負けるつもりはない。勝つことしか考えておらぬ」
「強い自信だな。そんなヴィクトァールがフェルには負けてもいいだなんて…惚れてしまえば案外、底なしになってしまうなんて!」
「うむ。それは私の良さだ。君みたいに余裕のない男とは違う!」
「大きなお世話だ!腹黒のくせに」
「単純馬鹿には言われたくないが?」
゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。.
お読みくださりありがとうございます♪
お休みをいただくまで毎日更新して参りましたが、これからは2日おき位の更新頻度になる予定でおります。
早い更新となることもございますが、宜しくお願いいたします🙇♀️
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