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第一章・始まりは…
17・策士策に溺れず!恋に溺れる?
しおりを挟む心配したヴィクトァールから学院内にある談話室へと誘いをかけられ、リュシフェルは今指定された談話室にいる。
王立学院だけあり、談話室といっても中々に豪華な設備なのが特徴だ。サンルームと直結した明るい日差しが降り注ぐ部屋もあれば、落ち着いたシックな家具が置かれた応接間のような部屋も勿論ある。
今回、ヴィクトァールが用意したのは、他の部屋から離れた場所にあり独立しているサンルーム付きの部屋。
手配されたティーセットを前にしてヴィクトァールが気遣うように声を掛けてきた。
「ルシフェル嬢は最近、無理をしているように見えるからね。ここならふたりだけだから泣いてもいい、無理に笑うこともない」
「…ありがとうございます、ヴィクトァール様」
「泣いてもいい」と仰ってくれた言葉どおり、部外者の目を気にすることなく居られる部屋であるのは流石だと思う。
こういうヴィクトァール様のちょっとした心遣いが有難く、私の異変に気が付いてくださる優しさにも救われるような思いがする。
あれ以来、オリフェウスとは顔を合わせてはいない。どういう顔をして会っていいのか判断がつかないからと避けていた。
だから、サンルームの奥に生えた南国の葉を青々と繁らせた立派な樹の陰に見覚えのあり過ぎる人影が佇んでいることにも気が付かなかった。
内心を悟られないようにと普段と変わらない笑顔を作り過ごしていたことをヴィクトァール様はとうの昔にご存知だった。
驚きはあるものの、人の気持ちに聡いヴィクトァール様のことだから私の下手な演技など見抜かれていても当然だと納得する。
あの日以来、私は表面上は笑顔の仮面を被る中身は抜け殻となっていた。
あれほど泣きたいと願っていた筈なのに、いざとなると涙は一雫さえも出ない。まるで荒んだ心のように涙の水源も乾いていたらしい。
「こちらこそ、ありがとう…けれど、リュシフェル嬢はいいのかい?
君が涙を流してしまうほど想っている男性に誤解されたままで」
「…あ、あの涙は自分のことが情けなくて流した涙ですの。
周りにいてくれる誰の気持ちにも私は気付くことができず、傷つけていたことへの後悔と自己嫌悪からのもの。ですからヴィクトァール様はどうぞお気になさらず…」
「リュシフェル嬢はなかなかに意地っ張りなところがあるんだな。
周囲への思いは勿論理解できるものだ。だが、こんなに意地っ張りな君が涙を流すなんて…よっぽどのことだと思うが?」
「詰まらない自尊心とお笑いください…私は怖いのです。だから逃げたのかもしれない…」
「怖いから逃げた…とは?」
「…ずっと幼い頃からオリフェウスとは顔見知りで親しくしておりました。
人見知りで意地っ張りな私は皆の作る輪の中へと入れない子供で…けれど、明るく素直なオリフェウスがいつも私の手を引いてくれたお陰で自然と輪の中に入れるようになっていきました」
「そうなんだね。リュシフェル嬢が人見知りとは思わなかったけれど」
「いつもオリフェウスが隣に居てくれたから私も勇気を出すことができたのです。そうしていくうち、徐々に私の人見知りも解消され…今の私があります」
「なるほど…」
「大事な幼馴染です。私にとってオリフェウスは替えの効かない存在なのです」
「ならば、尚更誤解を解かなくてもいいのかな?」
「誤解を解けたらいいのにと思います。
けれど、大切に思うからこそ私の下手な言い訳を聞いたオリフェウスが離れていってしまうかもしれない……そう思うと…怖くて…勇気の出せない意気地なしの私へと戻ってしまいました」
「辛い思いをさせて済まない、リュシフェル嬢。私を救う為とはいえ君の大切にしていた初恋を犠牲にさせてしまった」
「…私の大切な…初恋?」
「そうだ、気が付いていなかったのかい?君はオリフェウスへ恋していたんだ」
「オリフェウスに…こ、恋……!」
「なんだ、自覚もなかったのかい?」
「いいえ!自覚はあるのですけれど、改めて言葉にして言われてしまうと中々に恥ずかしいものがありまして…」
「意外にリュシフェル嬢は幼いところがあるのだな、特に恋に関しては」
「お恥ずかしい限りですわ…同い年の他の御令嬢と比べても子供っぽいと叱られますの」
「ほお…叱られるなんて誰にだい?」
「ミナールですわ…ああ見えて世話好きで面倒見が良い所もありますのよ。
私だってミナールから見れば恋を邪魔する嫌な存在だと気付けなかったのです。なのに…目を覚まさせようなんてミナールのことを上から見ていたことにも気付かず愚かでした」
「コームプシェ男爵令嬢のことに関しては私に責任がある。君が気に病むことはない」
「いいえ!私の奢った気持ちが現れた結果ですわ…ミナールのことも、オリフェウスのことも」
「悔やんでいるのかい?」
「はい。私は大きな過ちをおかしたと悔やんでおります。
愚かな私と違い、ヴィクトァール様ならば悔やむような振る舞いはなさらないのでしょうね…」
「いや、私とて悔やむことばかりだ。
大切に想う人が傷つき心を痛めることにも思い至らず…馬鹿な真似をしたぞ」
「それ程までにその方を思っておられた故でしょう」
「そうだろうか…」
「ええ。人は恋をすると愚かになります。誰よりも想う人を大切にしなければならないのに…失う怖れから逃げ、自惚れから高慢に、と進むべき道を間違えてしまう」
一つ一つ言葉を紡いでいくリュシフェルは先程まで見せていた顔とは異なり、別人のように大人びて見えたのは気のせいではない。
ヴィクトァールはずっと心に引っかかり躊躇われていたことを口に出していた。
「私も道を違えた愚か者だ。大切な人が傷付き弱まった所に付け込むつもりでいたのだから、余計たちが悪い」
「いいえ!ヴィクトァール様はご立派な方ですわ」
「なぜに、そう思う?」
「間違いに気付き愚かだと認める強さと卑怯な真似だと思う良心を持つことは難しいことです。そのふたつを持てるのですからとてもご立派な方と言えるのではないでしょうか?
本当に卑怯な者は自分自身を卑怯だとさえ思いませんもの」
「私が思う以上に君は大人だったようだ。そして実に賢明な女性だよ…愚か者の私とは違う」
「買い被りですわ。あの出来事があればこそ、私は学ぶことができたのです。
もし、あの出来事がなければ…私は『愚か者』のままでいたことでしょう」
「君を励ますつもりが、逆に励まされてしまったな…」
「いいえ。ヴィクトァール様とお話できたからこそハッキリと見えてきたことも沢山ございますわ…今日はありがとうございました」
新しく挿れたお茶を飲みながら暫く他愛ない会話を交わした後、リュシフェルは先に談話室を出て行った。
談話室にひとり残り、サンルームへと差し込む日差しを浴びながらヴィクトァールは声を掛ける。
「…聞いていたか?オリフェウス」
南国の大樹の陰から現れ出てきたオリフェウスの顔は興奮しているのか紅潮しているように映った。
゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。.
ヴィクトァールはリュシフェルへ
ある質問をしませんでしたが、
その質問の答えは次の次の回に
明らかになります。
《追記》
私事ですが、諸用にて6/28、6/29の
更新はお休みいたしますꕤ*.゚
また6/30から更新いたしますので
宜しくお願いいたします🙇♀️
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