【R-18】再会した勇者に婚約破棄された〜選ばれたのは、母親でした〜

第二章 私がキスをするまで

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「ザール君、来たよ」
「リザ、来てくれてありがとう」
「急に呼び出すからびっくりしちゃった。それで、話ってなあに？」

　ある晩、ザール君が急に私を呼び出した。夜にザール君のお部屋に2人きり…緊張するけど、それだけ大事な用事があるのだろう。

「リザ…私は君のことを愛している」
「やだ、急にどうしたの？」

　いきなり愛の言葉を口にするザール君に私は戸惑いを覚える。もちろん嬉しいけど…今のザール君は、いつもの紳士的な雰囲気が違う気がして、どうしても違和感を覚えてしまう。

「その…リザとは結婚が正式に成立した時に関係を交わそうって約束をした」
「う、うん…」
「だけど、リザと一緒に暮らしていて、我慢ができないんだ。すまない…」
「ザール君…」

　ザール君の告白は赤裸々だった。ザール君は約束を大切にする人だ。そんなザール君がこんな告白をするということは…それだけ私のことを魅力的だと思ってくれているのだろうか。
　ザール君の気持ちはとても嬉しい。それに私も何故だかドキドキとしてきた。そして同時に強い不安と恐怖が私を襲う。

「リザ、愛している！だから、お願いだ…！」
「きゃっ！」

　ザール君が私を力強く抱き締める。とても力強くて、私の力ではどうしようもできない。いつもは紳士的で優しいザール君なのに、まるでケダモノのような臭気をまとっている気がする。

「ザール君！離して！怖いよ！」
「リザ、お願いだ！そうしないと私は…！！」

　その時、私の脳裏にあの記憶がちらついた。あの盗賊達の目…私の全身を舐め回すように見て、品定めをしている…あのまなざし。そして、目の前でお父様が亡くなった光景。幼少期からともに過ごしてきた従者たちがバタバタとなぎ倒されていく光景。
　気がついたら私は子どものようにわんわんと泣き、身体はガタガタ震えていた。

「リザ？…リザ！？大丈夫か！？」

　私の身体を拘束する力が抜けていく。ああ、良かった。いつものザール君に戻ってくれた。
　ザール君が私のことを愛してくれているのは分かっている。大切に思っているのも分かっている。優しい人なのも知っている。でも、どうしようもなく怖いのだ。ケダモノのような臭気が、理不尽な暴力が、どうしようなく怖い。
　私も…本当はザール君の愛に応えたい。でも怖いのだ。私は泣きじゃくりながら、何度もザール君に謝った。