9 / 25
9.ミネルヴァ
しおりを挟む※
「ミネルヴァ…」
「どうした?」
「頼む。目を、目を覚ましてくれ…!お前は、操られているんだ!目を覚ましてくれ!お願いだ!目を覚ましてくれ!」
俺は必死の思いで叫んだ。今すぐに魔王を倒さなければいけない。そうしなければ世界は終焉を迎えてしまう。そして、魔王を倒すためには、ミネルヴァの力が不可欠なのだ。
ミネルヴァが正気に戻り、拘束を解いてくれれば、勝機を見つけることもできるだろう。今は勝てずとも逃げることは可能だ。何より、根は暖かくて優しい元のミネルヴァに戻って欲しくて…俺は必死に叫んだ。
「言いたいことはそれだけか?」
しかし、俺の必死の叫びはミネルヴァには届かなかった。必死の形相で叫ぶ俺を、冷たい目で眺めるだけだ。
「確かに私はこの男に操られている。とびっきりの洗脳魔法をかけられてな」
「なっ!?」
「ふふふ、こんな強力な魔法をかけられたのは初めてだ」
驚くことに、ミネルヴァは自身が洗脳下にあることを自覚していた。
それならば…ミネルヴァほどの魔道士ならば…洗脳を自力で解くことだって可能じゃないのか。
そう言おうとした俺を遮るように、ミネルヴァは話を続けた。
「この男は、そうまでして私を必要としてくれている…つまり、洗脳してまで私のことが欲しかったのだ。それに対してお前はどうだ?私の洗脳を解除しようとして、お前は何をした?」
「なっ…」
「お前はただ無様に叫ぶだけだ。そんなことは誰でもできる行動だ。私がそんな陳腐な行動になびくわけがないだろう」
「何を、言ってるんだ…」
ミネルヴァは自分が洗脳されていることを自覚している。それなのに…洗脳を甘んじて受け入れている。どうしてだ。そして…あろうことか、洗脳を自覚した上で俺を試していたのだ。
「私を取り返したいと本心から願うのなら、行動で示せ。この男を超える魔術で私の洗脳を解くか、この男を死に物狂いで倒せばいいだけの話だ。そうしたら私はお前の元に戻ることだろう」
俺は、操られたミネルヴァを元に戻したい。心からそう思っている。しかし、状況はあまりにも絶望的だ。
俺はミネルヴァのように魔術の専門家ではない。だから洗脳解除の術など知る由もない。そして…ミネルヴァの暗黒魔法で拘束されている今の状態では、魔王には勝てない…
おそらく、ミネルヴァはそのことを分かっている。分かった上で、俺にこんな言葉を投げかけているのだ。
「やれやれ。何もできないみたいだな。お前は所詮この程度の男なのだな。つくづく失望したぞ」
「ミネルヴァ…お願いだ…」
「黙れ。お前と旅を共にしたことは私にとっては汚点だ」
ミネルヴァの言葉が、俺の心にグサリと突き刺さる。今のミネルヴァは洗脳されている。頭でそう理解している。
だけど、目の前にいるミネルヴァの口から、俺の尊厳を否定する言葉を投げかけられるのはとても苦しい。まるで心を抉られるようだ。
「ふふふ。この男は、お前から私を救い出してくれたのだ」
そんな俺の心をさらに抉るように、ミネルヴァはうっとりとした表情で隣に立つ魔王を見つめた。その目は情熱的で蕩けている。俺を見つめていた時の冷酷な目とは大違いだ。
そして魔王は、恍惚の表情を浮かべるミネルヴァに呼応するように、ミネルヴァの肩をグッと抱き寄せた。
「あぁんっ…相変わらず、逞しい身体だな。雄々しくて…それでいて紳士的だ」
「ふふふ。アレン君には悪いが、ミネルヴァは私のものだ。君には二度と渡さない」
「んうぅ…♪そんなに堂々と言われると、ゾクゾクしてしまうじゃないか…」
魔王に肩を抱き寄せられたミネルヴァは、そのまま魔王の分厚い胸板に身を委ねた。色白の顔は紅潮していて多幸感に満ちている。そして、その情熱的な視線は魔王の顔をじっと捉えており、一時も視線を外すことがない。
そして、ミネルヴァは俺が聞いたことない声で、魔王に甘えている。普段の淡々とした口調からは想像もつかないような、男に媚びる蕩けた声…
そんなミネルヴァを抱き寄せながら、魔王は勝ち誇ったように笑っていた。
「ご覧の通り、私たちはすっかり親しい間柄になってしまっていてね。ミネルヴァ、昔のよしみだ。アレン君に私たちの馴れ初めを話してあげてくれ」
「もちろんだ。ふふふ、喜べアレン。この世界で何が起きているのか、ずっと疑問に思っていたんだろう。馴れ初めついでに教えてやる」
するとミネルヴァは、魔王のもとを離れて、直立不動に固まっている俺の背後に回り込んだ。そして俺の耳元に顔を近づけて、馴れ初めについて囁き始めた。
10
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる