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廃位公の復位
13. 食事
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あさです
でもまだうすぐらいです
まだまだねむっていたいな、と、おもえるようになったのは、おふとんでねむれるようになったからだとおもいます。
もぞもぞと小さな身体が柔らかな布団の中で蠢き、まだ起きたくないと抵抗するのを、その幼子の養育を任された人物は情け容赦なく布団を引きはがし、ぬるま湯を張った陶器で出来た洗面器の前まで連れて行き、顔を洗うようにと指示すると、食事の用意をすべく、カートを取りに廊下まで戻り、音もなくワゴンを引きつつ、あらかじめ設置しておいたテーブルの上に朝食を配置してゆく。
彼女の名はシャーマ・ブラウン。
新しく領主となったエマに、最初に膝を折った館の使用人であり、主と認めた狂人と領民や使用人仲間らに陰口を叩かれているらしいが、そんなことで彼女、─シャーマは決して屈したりしない強靭な心を持っている。
シャーマは良くも悪くも自分達から変わろうとしないスウェッラに辟易としており、また憂いてもいた。
不変というのは尊いものでもあるが、それは緩やかな斜陽、いわば滅びである。
何千何年と続いてきた歴史をこれからも継承していくには、古きものを棄て、新しい風穴を穿たなければならない時もあるのだ。
そんな時代と歴史の折り目に赴任してきた新たな領主は、姿こそは侮られる見目だが、シャーマからしてみればそんなことはどうにでもなるほど、頼りがいのある人物だとエマを見て恭順の意を示した。
無論、見当違いだった暁にはバッサリとエマを見限る用意もあるらしい。
すっかり用意の整った朝食を前に、シャーマが養育を任された幼子こと、二ィタは眠たげにしていた顔をパッと瞬時に輝かせ、いそいそと椅子に座り、体に合わせたカトラリーを操り、四苦八苦しながらも朝食を口に運んだ。
基本的に朝はパンに野菜のスープ、季節のフルーツの盛り合わせ、卵料理にサラダのみである。
これでも王都の使用人らよりは比べられないほどの優遇であることはおそらく二ィタは知らないであろう。
ただ、拾ってくれた人がいい人だと思っていればいいと、シャーマは意地悪く思う。
既にこの館でも選別は始まっている。
食事はその一環でもある。
良い働きをしたものにはそれだけ良い食事が与えられ、己に与えられた職務さえ満足にこなせず、また疎かにする者には品数が減り、最悪の場合は朝食の配給は無しとなる。
二ィタは今のところエマに認められているようで、食事は家令のグリズビー・ゲロニカと同等である。
実を言えばシャーマは肉料理を許されているが、それは秘密だ。というより、直談判したと言う裏事情がある。
肉はシャーマにとって主食である。
主食がなければシャーマは動けない。
その分、給金からは肉の経費が天引きされるらしいがソレは一向に構わない。
けぷっ、と、小さな吐息と共に、ニィタの朝食が終わりを告げ、両手を合わせたところで外からは何度目かの鶏の鳴き声が聞こえた。
その鶏の鳴き声に二ィタは目を丸くしたかと思えば、やおらに慌てて椅子から滑り降り、トタトタと頼りない足音を響かせ、領主であるエマの部屋へと向かっていった。
それを見送り、鉄壁の表情を誇るシャーマ・ブラウンは幼子が食べ終えた朝食の量をすらすらと何らかの用紙に書きこみ終えると、片づけるべく動き始めた。
食べ残しであるパンをつまみ食いしつつ、ではあるが。
でもまだうすぐらいです
まだまだねむっていたいな、と、おもえるようになったのは、おふとんでねむれるようになったからだとおもいます。
もぞもぞと小さな身体が柔らかな布団の中で蠢き、まだ起きたくないと抵抗するのを、その幼子の養育を任された人物は情け容赦なく布団を引きはがし、ぬるま湯を張った陶器で出来た洗面器の前まで連れて行き、顔を洗うようにと指示すると、食事の用意をすべく、カートを取りに廊下まで戻り、音もなくワゴンを引きつつ、あらかじめ設置しておいたテーブルの上に朝食を配置してゆく。
彼女の名はシャーマ・ブラウン。
新しく領主となったエマに、最初に膝を折った館の使用人であり、主と認めた狂人と領民や使用人仲間らに陰口を叩かれているらしいが、そんなことで彼女、─シャーマは決して屈したりしない強靭な心を持っている。
シャーマは良くも悪くも自分達から変わろうとしないスウェッラに辟易としており、また憂いてもいた。
不変というのは尊いものでもあるが、それは緩やかな斜陽、いわば滅びである。
何千何年と続いてきた歴史をこれからも継承していくには、古きものを棄て、新しい風穴を穿たなければならない時もあるのだ。
そんな時代と歴史の折り目に赴任してきた新たな領主は、姿こそは侮られる見目だが、シャーマからしてみればそんなことはどうにでもなるほど、頼りがいのある人物だとエマを見て恭順の意を示した。
無論、見当違いだった暁にはバッサリとエマを見限る用意もあるらしい。
すっかり用意の整った朝食を前に、シャーマが養育を任された幼子こと、二ィタは眠たげにしていた顔をパッと瞬時に輝かせ、いそいそと椅子に座り、体に合わせたカトラリーを操り、四苦八苦しながらも朝食を口に運んだ。
基本的に朝はパンに野菜のスープ、季節のフルーツの盛り合わせ、卵料理にサラダのみである。
これでも王都の使用人らよりは比べられないほどの優遇であることはおそらく二ィタは知らないであろう。
ただ、拾ってくれた人がいい人だと思っていればいいと、シャーマは意地悪く思う。
既にこの館でも選別は始まっている。
食事はその一環でもある。
良い働きをしたものにはそれだけ良い食事が与えられ、己に与えられた職務さえ満足にこなせず、また疎かにする者には品数が減り、最悪の場合は朝食の配給は無しとなる。
二ィタは今のところエマに認められているようで、食事は家令のグリズビー・ゲロニカと同等である。
実を言えばシャーマは肉料理を許されているが、それは秘密だ。というより、直談判したと言う裏事情がある。
肉はシャーマにとって主食である。
主食がなければシャーマは動けない。
その分、給金からは肉の経費が天引きされるらしいがソレは一向に構わない。
けぷっ、と、小さな吐息と共に、ニィタの朝食が終わりを告げ、両手を合わせたところで外からは何度目かの鶏の鳴き声が聞こえた。
その鶏の鳴き声に二ィタは目を丸くしたかと思えば、やおらに慌てて椅子から滑り降り、トタトタと頼りない足音を響かせ、領主であるエマの部屋へと向かっていった。
それを見送り、鉄壁の表情を誇るシャーマ・ブラウンは幼子が食べ終えた朝食の量をすらすらと何らかの用紙に書きこみ終えると、片づけるべく動き始めた。
食べ残しであるパンをつまみ食いしつつ、ではあるが。
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