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忌人の彼
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いつも通り、先輩達が残していった後片付けの仕事をしている時だった。
既に昼休憩は終わっている筈の食堂に、誰かが来た。
足音しか聞こえないけど、騎士達とは違う、軽くい足音。誰...?
戸惑っていると、足音を鳴らしていた本人が厨房に上半身を乗り出してきた。
え...彼、黒目に黒髪...
ふと彼と目が合い、反射的に逃げる。
彼は焦った様子で僕を呼び止めた。
「待って!」
その切羽詰まった様子に、逃げるのも申し訳なくなり戻る。彼は切実に言った。
「お腹が物凄く減っていて、限界なんだ。余ったもので、何かくれないかな。」
「あ、え、あ、えっと...わ、分かりました。持ってきます。」
基本的に食べ物は多く作るから、大抵のものは余っている。僕は今日のお昼に騎士達に振る舞ったものと同じメニューのご飯を彼に渡した。
「わ、美味しそう!ありがとう!」
純粋に喜ぶ彼。
「あの、パンとかって余ってたりするかな?」
そして次の瞬間、恐れていた質問をされた。
エプロンを握りしめながら覚悟を決める。
「も、申し訳ありません。今トラブルでパンを切らしていて...本当にごめんなさい!」
舌打ちされるだろうか。暴言を吐かれるだろうか。僕やこのお仕事を貶されるかもしれない。
しかし、彼はそのどれもしなかった。
「いやいや、ごめんね。大丈夫だよ。寧ろありがとう。」
「……え?」
「すっごく美味しそう!頂きます。」
彼は丁寧にお辞儀をして、席につく。
突然の事に、理解が追いつかなかった。
ここは実力が重んじられる騎士達の訓練寮だ。
僕みたいな弱いやつは、気に入らないことがあれば必ず罵られ馬鹿にされる。
それが、ここの普通。
なのに。
「いただきます。」
嬉しそうな表情でスープを掬う忌人さんは、そんな事しなかった。寧ろ、ありがとう...?
「な、なにこのスープ! 美味しっ! 絶品!!」
そう言って美味しそうに僕のスープを食べてくれる姿に、涙が溢れそうになる。
皆、野菜が多いとか、味が薄いとか文句を付けて残しているのに。
「ご馳走様でした。」
彼は全ての野菜を食べ、とても綺麗な状態で食器を返してくれた。
「ごちそうさま! すっごく美味しかったよ!」
自分の作った料理で喜んでもらえて、しかも美味しいと伝えてもらえて、久しぶりに「この仕事をしていて良かった」と思えた。
こんな暖かい気持ち、いつぶりだろう。
さっきよりも血色の良くなった彼が、皿洗いをしている僕に話しかけてくれる。
「スープ、出汁が効いててすごく美味しかった!あんな味、なかなか出せない。どうやってるの?」
出汁...僕が料理を作る時、拘っている物のひとつだ。
「実は、数種類の出汁を混ぜてるんです。ブルームバードからとったお出汁と、隣国の海藻からとったお出汁と...あ、あとは秘密です。」
嬉しくて、言い過ぎてしまった。実家の秘伝の出汁のとり方まで言っちゃいそうで、ここで止める。
「す、凄い。秘密のお出汁がきっと秘訣なんだろうなぁ。て、お出汁を知ってるってことは、スープは君が作ったの?!」
彼は驚いた様子で僕を見た。何だか照れてしまって、小さく頷く。
その後も、彼は手放しに僕の料理を褒めてくれた。
初めて会った筈なのに、それに彼は忌むべき黒目黒髪なのに、何故か色んな事を話してしまった。
彼が帰った後の食堂で、夕食の仕込みをしながら忌人である彼の事を考える。
忌人_かつて人々を虐殺し繁栄した種族の残党...。
現れたら、すぐに処刑だと聞いた。
昔は、それに疑問を抱いた事も無かった。
彼が何故まだ処刑されていないのかは分からない。けれど...
目の色だけで、髪の色だけで、奪っていい命なのだろうか。
料理できらきら輝いた笑顔を思い浮かべて、きゅっと菜箸を握った。
既に昼休憩は終わっている筈の食堂に、誰かが来た。
足音しか聞こえないけど、騎士達とは違う、軽くい足音。誰...?
戸惑っていると、足音を鳴らしていた本人が厨房に上半身を乗り出してきた。
え...彼、黒目に黒髪...
ふと彼と目が合い、反射的に逃げる。
彼は焦った様子で僕を呼び止めた。
「待って!」
その切羽詰まった様子に、逃げるのも申し訳なくなり戻る。彼は切実に言った。
「お腹が物凄く減っていて、限界なんだ。余ったもので、何かくれないかな。」
「あ、え、あ、えっと...わ、分かりました。持ってきます。」
基本的に食べ物は多く作るから、大抵のものは余っている。僕は今日のお昼に騎士達に振る舞ったものと同じメニューのご飯を彼に渡した。
「わ、美味しそう!ありがとう!」
純粋に喜ぶ彼。
「あの、パンとかって余ってたりするかな?」
そして次の瞬間、恐れていた質問をされた。
エプロンを握りしめながら覚悟を決める。
「も、申し訳ありません。今トラブルでパンを切らしていて...本当にごめんなさい!」
舌打ちされるだろうか。暴言を吐かれるだろうか。僕やこのお仕事を貶されるかもしれない。
しかし、彼はそのどれもしなかった。
「いやいや、ごめんね。大丈夫だよ。寧ろありがとう。」
「……え?」
「すっごく美味しそう!頂きます。」
彼は丁寧にお辞儀をして、席につく。
突然の事に、理解が追いつかなかった。
ここは実力が重んじられる騎士達の訓練寮だ。
僕みたいな弱いやつは、気に入らないことがあれば必ず罵られ馬鹿にされる。
それが、ここの普通。
なのに。
「いただきます。」
嬉しそうな表情でスープを掬う忌人さんは、そんな事しなかった。寧ろ、ありがとう...?
「な、なにこのスープ! 美味しっ! 絶品!!」
そう言って美味しそうに僕のスープを食べてくれる姿に、涙が溢れそうになる。
皆、野菜が多いとか、味が薄いとか文句を付けて残しているのに。
「ご馳走様でした。」
彼は全ての野菜を食べ、とても綺麗な状態で食器を返してくれた。
「ごちそうさま! すっごく美味しかったよ!」
自分の作った料理で喜んでもらえて、しかも美味しいと伝えてもらえて、久しぶりに「この仕事をしていて良かった」と思えた。
こんな暖かい気持ち、いつぶりだろう。
さっきよりも血色の良くなった彼が、皿洗いをしている僕に話しかけてくれる。
「スープ、出汁が効いててすごく美味しかった!あんな味、なかなか出せない。どうやってるの?」
出汁...僕が料理を作る時、拘っている物のひとつだ。
「実は、数種類の出汁を混ぜてるんです。ブルームバードからとったお出汁と、隣国の海藻からとったお出汁と...あ、あとは秘密です。」
嬉しくて、言い過ぎてしまった。実家の秘伝の出汁のとり方まで言っちゃいそうで、ここで止める。
「す、凄い。秘密のお出汁がきっと秘訣なんだろうなぁ。て、お出汁を知ってるってことは、スープは君が作ったの?!」
彼は驚いた様子で僕を見た。何だか照れてしまって、小さく頷く。
その後も、彼は手放しに僕の料理を褒めてくれた。
初めて会った筈なのに、それに彼は忌むべき黒目黒髪なのに、何故か色んな事を話してしまった。
彼が帰った後の食堂で、夕食の仕込みをしながら忌人である彼の事を考える。
忌人_かつて人々を虐殺し繁栄した種族の残党...。
現れたら、すぐに処刑だと聞いた。
昔は、それに疑問を抱いた事も無かった。
彼が何故まだ処刑されていないのかは分からない。けれど...
目の色だけで、髪の色だけで、奪っていい命なのだろうか。
料理できらきら輝いた笑顔を思い浮かべて、きゅっと菜箸を握った。
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