43 / 79
蘇る微熱
9
しおりを挟む
数日後、なにも知らない岡崎に食事に誘われた朱夏は、レストランでの食事中に話を切り出す。
『聞いちゃったんです……婚約者の方がいるって。遊びだったんですね、私とのことは』
『……それで今夜のきみは様子がおかしかったのか。確かに、日本に婚約を交わした相手がいる。でも、婚約は解消するつもりだ。朱夏を本気で愛してしまったから』
『その場しのぎの嘘はやめてください』
『嘘じゃない。俺は本当にきみを――』
この期に及んでまだ八方美人な岡崎を許せず、朱夏は膝の上に置いていたナプキンをテーブルの上に置いて席を立つ。彼が呼び止める声を無視して、店を出た。
あんなにひどいことをされたというのに、完全には彼を嫌いになれなくて、胸が痛い。
はらはらと頬を伝う涙に、冷たい風が当たる。拭っても拭っても、朱夏の目には新しい涙が湧いて止まらなかった。
破局した後も、朱夏と岡崎は同僚として表面上は何事もなかったかのように振舞っていた。しかし、朱夏の心にはぽっかり空洞があいていて、家に帰るとベッドに臥せってばかりいた。
そしてある日、寂しさに耐えきれず、ほんの出来心で下着の中に指を忍ばせると、その行為に没頭している間だけ、体が満たされることを知る。
かといって決して心の空洞が埋まることはなく、むしろ失恋の痛みは増した。それでも、岡崎との行為では結局一度もたどり着くことのなかった快楽の果てを知りたい思いもあり、朱夏は自分を慰めることが癖になっていった。
かくして、同居している貴人に行為を目撃される、あの日が訪れたのである。
岡崎の使うムスクのフレグランスを纏って、ひとり自堕落な快楽に浸っていたはずの時間が、その日から変わった。貴人の甘い香り、彼の指先、時には舌や唇が、岡崎との行為では知れなかった絶頂の感覚を教え、朱夏の心に一時の安らぎをもたらした。
貴人はきっと、雇い主である哀れな年上女に同情し、主人の傷を舐めているような感覚なのだろう。
その優しさに甘えてばかりではいけないと思いつつ、彼らの淫らな関係は朱夏が日本に戻ることになる春までの数カ月、途切れることはなかった。
『聞いちゃったんです……婚約者の方がいるって。遊びだったんですね、私とのことは』
『……それで今夜のきみは様子がおかしかったのか。確かに、日本に婚約を交わした相手がいる。でも、婚約は解消するつもりだ。朱夏を本気で愛してしまったから』
『その場しのぎの嘘はやめてください』
『嘘じゃない。俺は本当にきみを――』
この期に及んでまだ八方美人な岡崎を許せず、朱夏は膝の上に置いていたナプキンをテーブルの上に置いて席を立つ。彼が呼び止める声を無視して、店を出た。
あんなにひどいことをされたというのに、完全には彼を嫌いになれなくて、胸が痛い。
はらはらと頬を伝う涙に、冷たい風が当たる。拭っても拭っても、朱夏の目には新しい涙が湧いて止まらなかった。
破局した後も、朱夏と岡崎は同僚として表面上は何事もなかったかのように振舞っていた。しかし、朱夏の心にはぽっかり空洞があいていて、家に帰るとベッドに臥せってばかりいた。
そしてある日、寂しさに耐えきれず、ほんの出来心で下着の中に指を忍ばせると、その行為に没頭している間だけ、体が満たされることを知る。
かといって決して心の空洞が埋まることはなく、むしろ失恋の痛みは増した。それでも、岡崎との行為では結局一度もたどり着くことのなかった快楽の果てを知りたい思いもあり、朱夏は自分を慰めることが癖になっていった。
かくして、同居している貴人に行為を目撃される、あの日が訪れたのである。
岡崎の使うムスクのフレグランスを纏って、ひとり自堕落な快楽に浸っていたはずの時間が、その日から変わった。貴人の甘い香り、彼の指先、時には舌や唇が、岡崎との行為では知れなかった絶頂の感覚を教え、朱夏の心に一時の安らぎをもたらした。
貴人はきっと、雇い主である哀れな年上女に同情し、主人の傷を舐めているような感覚なのだろう。
その優しさに甘えてばかりではいけないと思いつつ、彼らの淫らな関係は朱夏が日本に戻ることになる春までの数カ月、途切れることはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや
静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。
朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。
「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。
この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか?
甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。
翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。
和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。
政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。
再会した御曹司は 最愛の秘書を独占溺愛する
猫とろ
恋愛
あらすじ
青樹紗凪(あおきさな)二十五歳。大手美容院『akai』クリニックの秘書という仕事にやりがいを感じていたが、赤井社長から大人の関係を求められて紗凪は断る。
しかしあらぬ噂を立てられ『akai』を退社。
次の仕事を探すものの、うまく行かず悩む日々。
そんなとき。知り合いのお爺さんから秘書の仕事を紹介され、二つ返事で飛びつく紗凪。
その仕事場なんと大手老舗化粧品会社『キセイ堂』 しかもかつて紗凪の同級生で、罰ゲームで告白してきた黄瀬薫(きせかおる)がいた。
しかも黄瀬薫は若き社長になっており、その黄瀬社長の秘書に紗凪は再就職することになった。
お互いの過去は触れず、ビジネスライクに勤める紗凪だが、黄瀬社長は紗凪を忘れてないようで!?
社長×秘書×お仕事も頑張る✨
溺愛じれじれ物語りです!
清貧秘書はガラスの靴をぶん投げる
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「お前、頬を叩いた詫びに婚約者になれ」
上司で社長の彪夏と秘書の清子はお似合いのふたりだと社内でも評判。
御曹司でイケメンの彪夏は女子の憧れの的。
清子はどこぞのご令嬢と噂され、男女問わず視線を集めていた。
……しかし。
清子には誰もが知らない、秘密があったのです――。
それは。
大家族のド貧乏!
上は高校生、下は生まれたばかりの五人弟妹。
おっとりして頼りにならない義母。
そして父は常に行方不明。
そんな家族を支えるべく、奮闘している清子ですが。
とうとう、彪夏に貧乏がバレたまではよかったけれど。
子持ちと間違われてついひっぱたいてしまい、償いに婚約者のフリをする羽目に。
しかも貧乏バラすと言われたら断れない。
どうなる、清子!?
河守清子
かわもりさやこ 25歳
LCCチェリーエアライン 社長付秘書
清楚なお嬢様風な見た目
会社でもそんな感じで振る舞っている
努力家で頑張り屋
自分がしっかりしないといけないと常に気を張っている
甘えベタ
×
御子神彪夏
みこがみひゅうが 33歳
LCCチェリーエアライン 社長
日本二大航空会社桜花航空社長の息子
軽くパーマをかけた掻き上げビジネスショート
黒メタルツーポイント眼鏡
細身のイケメン
物腰が柔らかく好青年
実際は俺様
気に入った人間はとにかくかまい倒す
清子はいつまで、貧乏を隠し通せるのか!?
※河守家※
父 祥平 放浪の画家。ほぼ家にいない
母 真由 のんびり屋
長男 健太(高一・16歳)服作りが趣味
次男 巧(高一・15歳)弁護士になるのが目標
三男 真(小五・10歳)サッカー少年
四男 望(保育園年中・5歳)飛行機大好き
次女 美妃(保育園児・五ヶ月)未知数
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる