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思惑は交錯して
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しおりを挟む「朱夏さん、大丈夫ですか?」
「えっ……?」
幻想的なブルーの照明の中で、朱夏の瞳が揺れた。貴人を見つめ返すその目は、どことなく儚くて頼りない。
夕方からのデートは朱夏のリクエストで水族館を訪れたのだが、朱夏はデートの初めから、どこか上の空でぼんやりしている。貴人は心配になって、朱夏の顔をジッと覗き込む。
「あんまり体調がよくないんじゃないですか?」
「ううん、そんなことないよ」
「じゃあ、考え事?」
心から彼女を気遣う貴人の優しい態度が、今の朱夏にはつらい。それを押し隠して笑顔を作り、「なんでもないよ」と貴人から離れて、少し先の大きな水槽の前に移動する。
「ねえ、マンボウいるよ、こっち!」
そう言って貴人を手招きする彼女だが、おそらく空元気。
貴人はそれに気づきながらもとりあえずなにも聞かずに朱夏に合わせ、デートを楽しんでいる素振りで、朱夏を注意深く見守ることにした。
朱夏はなにか隠している。しかし、今さら彼女が隠すこととは何だろう。
「そういえば、梅雨のフレグランス完成したよ。これなら絶対に大丈夫って、自信をもってプレゼンできる香り」
マンボウがゆったり泳ぐ大きな水槽の前で、朱夏が瞳を輝かせて話す。
貴人が好きな、朱夏の表情のひとつだ。パフューマーの仕事に誇りを持っているとひと目でわかる、熱意に満ちた顔。
「朱夏さんのチームならできると思ってましたよ。プレゼン会議、俺も出席するから楽しみだな」
「あ……でも、貴人くんがいると、緊張して噛むかも」
「それはそれで可愛いのでオッケーです」
貴人がそう言うと朱夏はむくれた。小さく膨らんだ頬が可愛くて、貴人は人目を盗んで彼女の頬に口づけする。
朱夏は真っ赤になって貴人を睨んだが、貴人にとってはその表情すら愛らしい。惚れた弱みだなとつくづく思いながら、朱夏の手を取って歩きだした。
水族館を楽しんだ後、水族館と同じビルに入る落ち着いた和食レストランで食事をしていると、貴人のスマホが鳴った。
画面に【着信中 父】と表示されているのを見て、貴人の表情が曇る。
「ごめんなさい、ちょっと外します」
朱夏にそう言い残してテーブルを離れる。せっかくのデートを邪魔されてため息をつきたくなりつつ、貴人は店の外でスマホを耳にあてた。
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