目に映った光景すべてを愛しく思えたのなら

ひかる。

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―――平成六年

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 決心のつかぬまま年が明け、三学期もあっという間に終わり映子たちは高校三年生になった。

 映子は祥子と同じクラスになり、恵一は特進クラスになった。
 
 映子の父の再就職が決まったのもこの頃だ。

 映子たちに迷惑はかけまいと宣言していたわりに、父の就職先はなかなか見つからなかった。

 日々焦りを募らせていく父を、映子も久子の母もやきもきしながら見守るしかなかった。

 今度は父が心労で心を壊すのではないかと映子は内心ひやひやしていた。

 しかし恐れたことは起こらず、ある日上機嫌で食卓に付いた父が、再就職先を見つけたと家族に告げた。
 
 以前は営業職で毎日スーツを着て通勤していた。

 今度の就職先はゴム製品を製造する工場だった。

 映子の父は作業着で出勤するようになった。

 夕方帰ってくると作業着は黒い染みでいっぱいで、おまけにそれほど暑くはない時期なのに汗の臭気をさせている。

 それでも母は仕事を真面目にこなす父に満足そうで、父自身も無職の期間が長かったからか、職種がどうあれ働けている現状に満足しているようだった。
 
 やっと家族が普通の家族になった。
 
 映子は、それぞれの場所に向けて出発するべく、朝早くからみんなが始動し出す様子を見て思った。

 もう足りないものはない。

 このままでいい。

 この期に及んで宮井の提案を受け入れることに意味はあるのだろうか。

 しかもあんな訳のわからない提案…。

 何が楽しいのかさっぱり理解できない。

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