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本編
その香りは恋をしていた
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『甘く濃密な香りで彼を虜に♡ 新発売!媚薬ボディソープ』
そんな謳い文句がでかでかと表示されている広告の中央部分には、ハートの形をした桃色の石鹸が鎮座していた。
最近、街へ買い出しに出るとよく見かける広告。これは確か有名な化粧品ブランドのものだ。プロの錬金術師が展開しているブランドで、女性からかなり人気が高いのだとか……。
俺は錬金術師志望、俺の上司兼友人兼恋人でもあるルイスはそれこそプロの錬金術師だが、錬金術師といってもそれぞれに得意分野がある。俺とルイスは共に薬学専門で、主に薬の調薬や開発を担っているが、中には化粧品や玩具、菓子などの制作を専門としている錬金術師も存在する。錬金術師が作っているだけあってどれも値段は高価だが、それでも顧客が尽きないのはそれだけ素晴らしい品質であるからなのだろう。
実際、ここ最近こうして広告を見かけるようになった石鹸も、その評判がどんどん口コミで広がり、若い女性を中心に莫大な人気を博しているのだとか……。
もっとも、俺は男なので化粧品とかそういったものには全く興味がないし、普段自宅でシャワーを浴びる際は節約も兼ねて安物の石鹸で全身を洗っているくらいお洒落には頓着がない。なので高級ブランド、ましてや女性物の石鹸なんて使ったことなどあるわけもなかった。
こんな有様だから、いくら錬金術師が展開しているブランドとはいえ、今までこういうものに関心を示したことはなかったのだが……。
「あの石鹸使った? すごく良かったんだけど!」
「使った使った! そしたら彼氏がさ、いい匂いするーって気付いてくれたんだよね」
「私もー! あれ使った日は彼がいつもよりくっついてきてさぁ。ほんと買ってよかった!」
「ねー、リピートしようかな」
道行く若い女性たちがそんな会話をしているのが耳に入ってくる。
件の石鹸は、その謳い文句の通り、男を惹きつける媚薬のような効果があるらしい。その媚薬効果がどれほどのものであるかは、彼女らの反応を見れば一目瞭然だった。
男性を誘惑するような成分が調合されている石鹸。そんなものを市販の化粧品として販売しても大丈夫なのかと心配になったが、売っているということは一応そこらへんの審査もクリアしたものではあるのだろう。
それでも、通常の俺であれば興味はない。興味がないはずなのだが。
……先程の女性たちの会話が頭の中にまだ残っていた。
男を誘惑する媚薬ボディソープ。——それって、ルイスにも効くのだろうか。
ルイスは若き稀代の天才錬金術師として業界では既にかなり名を馳せている。化粧品は専門外だとは思うが、それでも俺よりは余程詳しいだろう。香りを嗅いだだけで何が使われているか、どんな調合をしているのかを大まかに言い当てるくらいの芸当は可能なはずだ。だからルイスにこんな『媚薬』だなんて謳い文句の代物が通用することはないとは思うのだが……。
この時はちょっとだけ、気になってしまった。
別にルイスにくっついてもらいたいとか、そういうことじゃない。違う、断じて違う。ただ、錬金術師が作ったという話題の媚薬ボディソープとやらがルイスにも効くのかどうかと、知的好奇心が刺激されただけだ。それにプロの錬金術師が作った石鹸は、錬金術師志望の俺にとってきっと優秀な教材になってくれるだろう。つまりは勉強のため。他意なんかあるわけない。
一通り生活用品の買い出しを済ませた後に、フラッと例のブランドショップへと足を運んでみる。これまで一度も入ったことがない、女性客で賑わっているお洒落なレイアウトの店内。男一人で入るのは大分勇気が要るが、ちょっとだけ見たらすぐに出て行こう……という気持ちで俺はそっと入り口のガラス扉を開けた。
店内に一歩踏み込むと、途端に香る香水のような匂い。俺は他の客の視界にできるだけ入らないように身を縮こまらせながら、こっそりと目当ての『モノ』を探した。
場違いかつ慣れない店内を3分ほど散策すると、商品棚の中央あたりに「口コミで話題沸騰中!媚薬ボディソープ」と書かれたピンク色の派手なポップが展示されていた。その手前には商品のチラシだろうか、俺の手の平より一回り大きいくらいのサイズの紙が10枚強程度まとめて置いてある。テイクフリーらしいそれを一枚拝借させてもらい、内容に目を通してみた。
チラシには商品——『媚薬ボディソープ』の詳しい説明が書かれていた。
なんでも「媚薬」というのはあくまでコンセプトであり、本当に媚薬の成分が配合されているわけではないらしい。……普通に考えてみればそれはそうか。媚薬効果があるような商品を何の制限もなく一般向けに販売するなんてこと、国が許すわけがない。
この商品の実情は『男性が好む香り、異性を惹きつけるような香りのするただの石鹸』らしく、男女問わず使えるもののようだ。
媚薬というのは流石に広告特有の誇張表現だったか……と少しだけ落胆したものの——いや何で落胆しているんだ俺は——それでも女性を中心に口コミが非常に良いということは、媚薬とまでは言わずともそれなりにプラスな効果はあるのかもしれない、と思った。
「……」
もしも、ルイスと会うときにこれを使ったら……。
つい、そんなことを考えてしまう。
ルイスも男だ。相当な変わり者とはいえ、性欲は人並み以上にあるみたいだし、本人曰くだがゲイというわけでもないらしい。ということは、こういった『女性らしい甘い香り』にも惹かれたりのするのだろうか。
先ほど街ですれ違った女性たちの言葉を思い出す。
俺がこれを使ったら、ルイスは魅力を感じてくれるだろうか。良い香りだと言って喜んでくれるだろうか。
……俺は彼女たちのように、ルイスにたくさん触ってもらえるだろうか。
そんな思考になって、思わず顔が熱くなる。こんなところでこんなことを考えるだなんて、はしたないことこの上ない。そもそもこれは女性が使うから魅力的になるのであって、地味で平凡な男である俺が使ったところで何の変化もないだろう。ルイスのことだから、きっと気付きすらしないかもしれない。
だけど、それでも、もしかしたら……。
ほんのりとした期待が拭いきれずに、俺はチラシに記載されている価格をちらりと見てみた。
「うわっ……」
高い。いや高級ブランドだから当たり前なのだが、想像以上の値段に俺は思わず小さくだが驚愕の声を漏らしてしまった。
女性向けの化粧品とは、こんなにも高いものなのか。そこには普段俺が使っている石鹸の何十倍もの値段が書いてあった。こんなに高価なものを買って普段から使っているだなんて、世の中の女性たちのお洒落に対する意識の高さには驚かされる。
少しだけ興味はあったけれど、この値段では俺の懐事情ではとても手が出なさそうだ。そう潔く諦めて店を去ろうとしたところで、おそらく店員らしい綺麗な女性に話しかけられた。
「新作のボディソープに興味がおありでしょうか? 申し訳ございません、こちら大変人気の商品となっておりまして、現在品切れ中でございまして……」
「あ、いや、ちょっと見てただけなんで……」
店員の女性にそう言われて、俺は慌ててチラシを棚に戻した。俺ごときがこんなに高価な石鹸を欲しがるだなんて、不相応にもほどがある。店員からしても店の雰囲気が崩れてしまい迷惑だろう。今更ながら、身の程をわきまえずに興味本位で女性向けの店に入ってきてしまったことを後悔した。
「あら、そんなことはございませんわ。最近は男性の方でも、ご自宅用に当ブランドの商品をお買い求めになる方が増えているんですよ。身なりに気を配れる殿方は私もとても素敵だと思いますし、気にせずごゆっくりしていってくださいませ」
俺が冷や汗を流しながら恐縮していると、女性店員はそう言ってにこやかに微笑んだ。いかにもお洒落に頓着がなさそうな冴えない男性客である俺に対して嫌な顔ひとつしない。これがプロか……。
そんな完璧な対応に余計恐縮していると、女性店員は近くに設置されていた飾り籠から小さな包みをひとつ取り出し、それを俺に手渡してきた。
「よかったらどうぞ。こちらの商品の試供品になります。ぜひお試しになってくださいね」
✦✦✦
それから数日後。
週末の日曜日。昨日は一日中図書館で勉強をしていたのだが、今日はルイスの家で一緒に食事をしてそのまま泊めてもらう予定になっていた。
生活力のないルイスの家は、羨ましいくらい大きな冷蔵庫があるというのに中身は俺が補充しない限りほぼ空っぽだ。というわけで昼間は買い出しに行って、一週間分程度の食料を買えるだけ買っておく。泊めてもらう予定がなくとも俺がルイスの食事を用意する機会は週に何度もあるので、これにはもう慣れっこだった。俺の作る料理を褒めてくれるのは素直に嬉しいのだが、たまには自分で作ったらいいのに……いや、こいつは休日だろうと関係なく常に錬金術の研究に夢中になっているような奴だし、無理か。
買い出しから戻った後は掃除をして(ルイスにも手伝わせた)、他にもあれやこれやと家事をこなしているうちにあっという間に夕方になった。休んでいる暇はない、すぐに夕食の準備をしなくては。
ルイスは俺の作る物には基本文句を言わないので、普段から好きに作らせてもらっている。俺の料理はごくごく平凡なもので、節約のために食材も庶民的なものばかり。いいとこ育ちのルイスには物足りないのではないかと思うのだが、ルイスはどれも美味しい美味しいと言って食べてくれる。俺もそんなルイスの反応が嬉しくて、こっそりとレシピを研究したり、それなりに豪華に見えるよう工夫を凝らしていたりするのだった。
せっかくの休日なので、今晩のメニューはルイスの好物であるローストビーフにした。肉は高価だし、こういったものは手間がかかるので滅多に作ることができないが、たまには豪勢にするのもいいだろう。
夕方から仕込みを開始し、時間をかけて調理する。肉がしっとりと柔らかくなるまでじっくり湯煎し、表面が焦げない程度にさっと火を通したら、仕上げに手作りソースをかけて……完成だ。手順は単純かもしれないが、ひとつひとつの工程に繊細な調整が必要なためそれなりに時間と集中力を要した。だがその甲斐あって、久々に作ったローストビーフは個人的にはかなりの出来栄えになったと思う。ルイスもすごく喜んでくれて、味付けの好みも合っていたようだったので安心した。頑張って研究した甲斐があったかもしれない。
俺は、こうしてルイスと過ごす時間が好きだ。何か特別なことをしなくても、ただ彼と共にいられるだけで胸があたたかくなる。ルイスの声を聞くと心が安らいで、その笑顔を向けられるたびに幸せな気持ちになる。永遠にこの時が続けばいいのに——そう思ってしまうくらいに、俺はすっかりルイスという男に惚れ込んでしまっているのだ。
……だから今日は、ほんの少しだけ踏み出してみることにした。
先日ブランドショップで貰った試供品。『男性を惹きつける香り』がするという、錬金術師が作ったブランド石鹸。
同じ錬金術師であるルイスにこれがどこまで通用するのかはわからないが、愛する彼の目に少しでも魅力的に映りたいというのは、恋人として至極当たり前の感情ではないだろうか?
上着のポケットにこっそりと忍ばせていた小さな包みを、タオルなどと一緒にバスルームに持っていく。一糸纏わぬ状態になってからその包みを開けてみると、そこからは小さくて良い匂いのするハート型の石鹸が姿を表した。
「きれいだ」
思わずそう呟いてしまったくらいに、その石鹸は綺麗だった。触った質感は石鹸そのものなのだが、それには繊細なカットが施されており、色もピンクに混ざり何色かが透けていてまるで宝石のよう。使ってしまうのが勿体無いと思うくらいに、精巧で美しい造りだった。俺が普段使っている石鹸とは全然違うというのが素人目でも充分理解できる。
見た目だけでもこんなに綺麗なのだ、眺めているだけで満足してしまいそうだったが、今回の目的はそれではない。何を隠そう、今日のために何日も使わずに取っておいたのだから。
石鹸をネットに絡ませ、ゆっくりと泡立てていく。やがてもこもこの泡が出来上がると、バスルームに甘くて華やかな香りが漂い始めた。あ、確かに良い匂いかも……。
そして俺は……その良い匂いのする泡を自分の肌にそっと押し当ててみた。
「わ……」
泡はとても滑らかで濃密で、ふわふわだった。肌にしっとりと馴染む感覚が心地よい。刺激もなく、身体に優しい成分で作られていることが伺えた。
そしてやはり特筆すべきは、その香りだろう。蜜花のような、果実のような、甘いお菓子のような……なんとも形容しがたい香りが鼻腔をくすぐる。しかし決して不快ではなく、むしろずっと嗅いでいたいと思えるような心地の良い匂いだった。
この石鹸は試供品のため販売品のものよりもかなり小さく、使い切りだ。それでも一回分使用するには充分な量があり、全身くまなく洗うことができた。
ルイスの家のバスルームに置いてあるボディーソープも柑橘系のいい香りがするが、この石鹸の匂いはそれとはまた違っている。ルイスは気付いてくれるだろうか……などと淡い期待を胸に抱きながら寝間着に着替え、やや緊張した面持ちのまま彼が待つ寝室へと足を踏み入れた。
俺が寝室の扉を開けるなり、ベッドの縁に腰掛け目線を本に落としていたルイスがぱっと顔を上げてこちらを見る。
「ネロ」
俺の顔を見た途端、花が咲いたような笑顔になったルイス。まったく、たかだか風呂から出てきたくらいでそんなに嬉しそうな顔するなよな。俺は不意打ちには弱いんだ。
「湯加減はどうだった? ちゃんと全身綺麗に洗ったか?」
ルイスからの問いに頷いてから、俺は彼の隣に同じように腰掛けた。するとルイスはすかさずドライヤーやらオイルやらを戸棚から取り出し、俺の髪を乾かし始める。
いつも泊めてもらう際、ルイスはまるで親鳥のように俺の世話を焼く。ゆっくり湯に浸かっているか、ちゃんと身体を洗っているかの確認が入ることにもすっかり慣れてしまった。それもそのはず、普段は自然乾燥に頼りきりで放ったらかしの髪も、何の手入れもしていない青白く不健康な肌も、どうしてかルイスは「美しい」と言いまるで宝物のように大事に大事に扱ってくるのだ。
これはルイスと付き合い始めた頃から日課のようになっていたことだったが、ルイスが毎度のように丁寧にケアするものだから、数ヶ月経った今では俺の髪はすっかり艶を持ちサラサラになっていた。肌もあまり荒れなくなったお陰で、見た目にも清潔感が増した気がする。このように、基本的にはありがたい恩恵しかないわけだが。
敢えてひとつだけ難点を挙げるとすれば、当国では少し珍しいとされているこの黒髪だろうか。特に俺の髪色は鴉の濡れ羽のような深い漆黒であるため、艶が良くなるとそれがやたらと目立ってしまう。街中で悪目立ちするのは俺としては不本意なのだが、しかしルイスはそんな俺の髪が特にお気に入りなようで、普段からことあるごとに髪に触れてはその指通りの良さに目を細めていた。
まあ、ルイスがその方が好きだと言うのなら俺としても異論はないのだが……。
「ん? これは……」
不意に、俺の髪を梳いていたルイスの手がぴたりと止まった。その普段とは違った反応に、俺の心臓がざわつき始める。
気付いた……だろうか。あの石鹸の香りは、ルイスが愛用しているボディソープとはまるっきり違うものだった。だから今、これだけ距離が近ければ、俺が纏う香りがいつもと違っていることくらいはルイスにもわかるだろう……。
「なるほど、『ソワレ』の石鹸か」
「そ、そこまで分かるのか……?」
案の定、ルイスは香りの違いのみならず、例の石鹸を販売しているブランドの店名までぴたりと言い当ててみせた。鼻が効くなんてレベルじゃない。やはりこいつの優秀な脳みそには、錬金術に関連する膨大な知識がこれでもかと詰め込まれているのだ。
「お前も化粧品に興味を持つようになったんだな。喜ばしいことだ」
「いや、化粧品っていうか……。良い石鹸があるって、それで……試供品、貰ったから」
嘘はつけないのだが、それでも自ら店まで出向いたとは言えなかった。
「媚薬石鹸だな?」
「……っ!」
「錬金術師が作った媚薬石鹸。俺も話は聞いている。そして今日、お前がそれを使って俺のところに来たということは……もしや“その気”だったのか?」
そう言われて、顔が火を吹きそうなほど熱くなった。
……図星、だ。
思わず触れたくなるような魅力的な香りを纏っていれば、いくらその相手が俺であろうともルイスは興味を示してくれるんじゃないだろうか。そんな思いから今日この石鹸を使ったのは紛れもなく事実だった。
馬鹿らしいと一笑されて終いだということは重々わかっている。こういった香りは女性が纏うからこそ魅力的になるのだ。だから俺みたいな色気も何もない男が形だけ真似たってまったくもって意味はないのだと。
そう、俺は最初からわかっていた。ただ単に“その気”があるのだと、ルイスに伝えるだけの結果になってしまうことも。
「………」
「ネロ、……いいんだな?」
羞恥のあまり目を合わせることができず、黙ったまま俯いている俺の耳元でルイスが囁いた。顔を見ずともわかる。こいつ、今めちゃくちゃ機嫌が良い。そして機嫌が良いからこそ、全てわかった上であえて俺の返答を待っている。
これは後で死ぬほど擦られるな、と覚悟しつつ、俺は唇をぎゅっと噛み締めた。こういう時、肯定も否定もできなくなってしまう自分にやきもきする。いや、言葉ではっきりと伝えることができるのなら、最初からこんな回りくどい事はしていないのか。いつまで経っても恋愛に不器用——というか人付き合い自体苦手である俺は、いつか自分のこういう性格が原因でルイスに愛想を尽かされやしないかという不安を常に抱えている。
何か、何か言わなければ。ひとつ頷くだけでもいい。頭ではそう思っていても、少しでもルイスの顔を見ると俺の身体は恥ずかしさで固まってしまい使い物にならなくなる。頭の中だってぐちゃぐちゃだ。思考も全然回らなくて、ドキドキとうるさい自分の心臓の音がいやによく聞こえる気がした。
「ネロ」
「んひゃっ!?」
ルイスがもう一度俺の名前を呼ぶ。その声は思ったより近くで聞こえたばかりか、俯いているせいでほぼ剥き出しになっているうなじにちゅ、とキスをされた。突如走ったくすぐったい感覚に思わず声を上げてルイスを見ると、案の定こいつはニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて俺を見ていた。
「き、急に変なことするな!」
「ネロが返事をくれないからだろう?」
「だってそれは……っ」
俺が言い返す前にすんっと鼻を鳴らしてうなじの匂いを嗅がれ、またペースを崩される。いつもと違う石鹸を使ったから匂いを嗅がれることは予想していたものの、まさかそんなところを嗅がれるとは思っていなかった。本当にルイスの行動は読めない。
「なるほど、良い匂いだ」
「……そんなに気に入ったのか」
「ああ、ずっと堪能していたいくらいだ」
そんな俺をよそにルイスはというと、引き続きうなじに鼻をくっつけながらやたらと満足気だ。ルイスがこれほどまでに喜んでくれるのなら、次は試供品ではないものを頑張って買ってみてもいいかもしれない……。まんまとそう思ってしまうくらいには、俺も救いようがないほどルイスに惚れているのだ。
「なら……す、……好きにすれば、いいだろ」
やっとの思いでそう口にすると、ルイスはそれを待っていたと言わんばかりの強引さで、俺の身体をベッドに押し付けた。
✦✦✦
「く、ぁ……んうっ♡ おい、ルイ……ッ♡」
今日のルイスは機嫌が良いが、やけにねちっこい。
挿入するところまではすんなり進めてくれたのだが、そこからは俺を焦らすかのようにゆっくりとしか動いてくれないのだ。それこそ普段だったら音がするほど激しく叩き付けてくるのに。
じっくりと時間をかけるスローセックスも俺にとっては蕩けそうなくらいに気持ちいいのだが、いかんせん普段のアレに慣れてしまっている身体には少々物足りないようで、俺は達するかどうかの瀬戸際ギリギリのところでもう数十分は揺らされていた。
「ふ……っ、たまにはこういうのもいいだろう?」
「んっ、あぁんッ♡ そこ、押しつけるの、やめっ……♡」
激しい抽挿がなくとも、ルイスのその太く大きいペニスで奥をぐりぐりと刺激されるのが堪らない。それを不規則なタイミングで不意にしてくるものだから、俺は身構えることもできず否応なしに甘い声を漏らしてしまっていた。
「可愛いな、ネロ……♡」
快感に喘ぐ俺に、ルイスはそんなことを言いながらちゅっと口付けてくる。それから首筋にも顔を埋めて、素肌を吸い上げた。見なくてもわかる、痕を付けたのだ。普段俺がシャツの第一ボタンまできちんと留めることを知っていて、それをいいことにこいつはわざとこういうことをする。見えなければ構わないと思っているのか、外から見える位置には付けないが、俺は着替えのたびにいやでも目に入って意識してしまうというのに。
まあ、それでもこいつにキスをされるのは……好きだ。それ故に拒否しない俺も大概だろう。
「んっ……ルイ、はやく……♡ 俺、もう……っ」
「早く……何だ? どうしてほしいのか、俺にもわかるように教えてくれ」
「うぐ……っ」
もどかしさのあまりどうにかなりそうで、ルイスに目で訴える。……が、俺の意図など分かりきっているであろうルイスはニヤニヤとした笑みを浮かべながらとぼけたことを言うばかりだった。そんなルイスを恨みがましく睨んでみても当の本人は涼しげな顔のまま。あのルイスが俺に睨まれたくらいで動じるわけもない。
「ほんとお前、性格悪い……っ!」
「おや? 賢いネロはそんなこととっくに知ってるものだと思っていたが」
知っている。まさにああ言えばこう言うところが、だ。
ルイスも俺と同じで辛いはずなのに、彼の表情には余裕すら見て取れる。それが余計に憎たらしく感じて、俺はルイスの腕をぎゅっと掴みながら半ばヤケになって言った。
「はやく……う、うごけよ、ばか……ッ♡」
直後、ガクンッと身体が揺れるほどに突き上げられた。
「あ゛ぁあんッ!♡♡」
びゅる、と俺の性器から白濁液が放出され、腹を汚す。
こういうの、トコロテン……って言うんだっけか? 以前ルイスに揶揄われた(いや、喜ばれた、か?)時の事を思い出して更に羞恥が増したが、すぐにそんなことを気にしている余裕などないくらい激しくピストンされた。
「あ゛っ、んっ♡ そんな、急に……っ! あっ、あっ、あっ……♡」
長く焦らされたぶん、いつも以上に気持ちいい。俺は閉じることを忘れて開きっぱなしになった口からあられもない喘ぎ声を上げながら、いつしかルイスの律動に合わせて腰を振りたくっていた。
一番いいところを乱暴に、しかし的確に擦られて、腰が浮くほどに深くまで突かれ続ける。俺はあっという間に脳まで快楽漬けにされて何もわからなくなっていた。
中が勝手にきゅうきゅうと締まって、最奥がルイスの大きく膨れた亀頭に愛おしくしゃぶりついている。どれだけそこを苛められようとも不快感なんてまったくなくて、むしろもっともっとと強請ってしまい、ルイスの望むがまま身も心もとろとろになるまで甘やかされた。
「るいっ……あん♡ んっあっ♡ すき、っ♡ だいすき……っ♡」
ルイスが好きだ。
激しく抱かれれば抱かれるほど、そう実感する。
ルイスとのセックスはどうしてこんなに気持ちいいのだろう。こいつの言う通り、身体の相性がいいという、ただそれだけなんだろうか? ルイス以外との経験が皆無である俺にはわかりようもないが、なんとなく、それだけじゃない気もする。だったら何故なのかと問われると、やはり『わからない』のだが……。
ただ、この気持ちだけは間違いじゃないと、それだけははっきりと言えるから。
俺はルイスが好きだ。好きで好きで、どんなに意地悪をされたって、どんなに激しく抱かれたって、その相手がルイスであるのなら俺は彼から与えられる全てを喜んで受け入れる。
「あっ、あっ♡ イク、だめ、……ぁ♡ ん、あっ♡ あああああーーーーッ!!♡♡」
「く、ネロ……ッ!」
最奥に突き立てられたペニスをぎゅうっ♡と締め付けながら、深く深く絶頂する。それと同時に中に温かいものが放たれる感覚がして、ルイスも達したのだとわかった。
✦✦✦
週明け。
俺が事務所に出勤すると、そこには既に二人の先客がいた。
無論、うち一人はこのアトリエの所長であるルイスである。そして、もう一人は——
「あら、貴方は。先日ぶりですわね」
「え、あっ……! あの時の、店員……!?」
応接スペースのソファに優雅に腰掛けていたのは、なんと俺に石鹸の試供品を勧めてくれたあの時の女性店員だったのだ。
動揺で固まってしまっている俺をよそに、向かいに座っているルイスがその女性を紹介してくれる。
「なんだ、面識があったのか? ……ネロ、こちらはシャルロッテ女史。コスメブランド『ソワレ』の社長兼プロデューサーで、俺と同じ公認錬金術師だ」
「え、えええっ!?」
この女性が、あの人気ブランドのトップ……だけじゃなく、公認錬金術師だって!?
驚きすぎて開いた口が塞がらない俺を見たその女性——シャルロッテさんは、口元に手を当ててくすくすと上品に笑った。
「ふふ、そんなに意外だったかしら?」
「い、いいえ、その……大変申し訳ありません。女性の錬金術師にお会いするのは初めてだったものですから……」
女性の公認錬金術師はかなり珍しい。それもこの若さでとなると、それこそ俺のような一般市民にとってはそうそうお目にかかれないような存在だ。それがまさか、あんな風に普通の店員のような顔をして店頭で接客をしているとは夢にも思っていなかった。
「私はもうそれなりの年齢なのですけど……そう仰っていただけて嬉しいですわ。可愛い助手さん」
「か、かわ……?」
ルイスといいシャルロッテさんといい、俺のような男を「可愛い」と称する感性は錬金術師特有のものなのか? 俺には理解できそうもない。
「おい、俺を差し置いて話に花を咲かせるな。今日は商談に来たんじゃなかったのか?」
「ああ、そうでしたわね」
と、ここで少しばかり不機嫌そうな顔をしたルイスがそう言いながら俺たちの間に割って入ってきた。
そうだ、驚きすぎて挨拶はおろかお茶を出すことすら失念してしまっていたが、シャルロッテさんは事務所の来客だ。ルイスの言う『商談』の内容がどんなものかは俺には分からないが……錬金術師同士気が合うところもあるだろうし、どうやら二人は既知の仲のようだから、色々話したいこともあるだろう。俺は空気を読んで席を外すことにした。
「お、俺、お茶を淹れてきます」
そう言って逃げるように退室し、給湯室へと駆け込む。俺は二人分の紅茶を準備しながら、あの二人は一体どういう関係なのだろうと無意識に考えを巡らせていた。
あの人嫌いで定評のあるルイスが、あんな風に友達のような距離感で接する相手は決して多くない。もっとも、ルイスはあれでも面倒事に巻き込まれない程度に上手く立ち回るくらいの器量はあるので、その才能を一方的に妬まれることこそあれ、敵が多いというわけではないのだが。それでも俺が知る限りでは友人と呼べる間柄の人間は少ないと感じていたし、学生時代から付き合いのある自分はその数少ない人間のうちの一人であると思っていた。
わかってはいる。確かにシャルロッテさんは美人だし、錬金術師になれるだけの才覚も技術もあって、気品も持ち合わせている。誰の目から見たって魅力的な女性だろう。そういう人だから、ルイスと並んでいてもまったく見劣りせず、むしろ釣り合っていると感じるのだ。……俺とは違って。
……って、俺は何を考えているんだ。ルイスが俺を見限って他の人のところに行ってしまうかも、なんて、そう思うこと自体ルイスに失礼だ。ルイスが俺のことを好いてくれているのはちゃんと知っている。だからシャルロッテさんとは友人ないし錬金術師仲間であって、それ以上の関係はないだろうと、頭ではわかっている。それなのにこういうネガティブな思考をしてしまうのが俺の良くないところだって、自分でも思っているのに。
「……余計なことは考えないようにしよう」
俺はぽつりとそう呟いて自分に言い聞かせると、ひとまずは紅茶を淹れることだけに集中することにした。
end.
そんな謳い文句がでかでかと表示されている広告の中央部分には、ハートの形をした桃色の石鹸が鎮座していた。
最近、街へ買い出しに出るとよく見かける広告。これは確か有名な化粧品ブランドのものだ。プロの錬金術師が展開しているブランドで、女性からかなり人気が高いのだとか……。
俺は錬金術師志望、俺の上司兼友人兼恋人でもあるルイスはそれこそプロの錬金術師だが、錬金術師といってもそれぞれに得意分野がある。俺とルイスは共に薬学専門で、主に薬の調薬や開発を担っているが、中には化粧品や玩具、菓子などの制作を専門としている錬金術師も存在する。錬金術師が作っているだけあってどれも値段は高価だが、それでも顧客が尽きないのはそれだけ素晴らしい品質であるからなのだろう。
実際、ここ最近こうして広告を見かけるようになった石鹸も、その評判がどんどん口コミで広がり、若い女性を中心に莫大な人気を博しているのだとか……。
もっとも、俺は男なので化粧品とかそういったものには全く興味がないし、普段自宅でシャワーを浴びる際は節約も兼ねて安物の石鹸で全身を洗っているくらいお洒落には頓着がない。なので高級ブランド、ましてや女性物の石鹸なんて使ったことなどあるわけもなかった。
こんな有様だから、いくら錬金術師が展開しているブランドとはいえ、今までこういうものに関心を示したことはなかったのだが……。
「あの石鹸使った? すごく良かったんだけど!」
「使った使った! そしたら彼氏がさ、いい匂いするーって気付いてくれたんだよね」
「私もー! あれ使った日は彼がいつもよりくっついてきてさぁ。ほんと買ってよかった!」
「ねー、リピートしようかな」
道行く若い女性たちがそんな会話をしているのが耳に入ってくる。
件の石鹸は、その謳い文句の通り、男を惹きつける媚薬のような効果があるらしい。その媚薬効果がどれほどのものであるかは、彼女らの反応を見れば一目瞭然だった。
男性を誘惑するような成分が調合されている石鹸。そんなものを市販の化粧品として販売しても大丈夫なのかと心配になったが、売っているということは一応そこらへんの審査もクリアしたものではあるのだろう。
それでも、通常の俺であれば興味はない。興味がないはずなのだが。
……先程の女性たちの会話が頭の中にまだ残っていた。
男を誘惑する媚薬ボディソープ。——それって、ルイスにも効くのだろうか。
ルイスは若き稀代の天才錬金術師として業界では既にかなり名を馳せている。化粧品は専門外だとは思うが、それでも俺よりは余程詳しいだろう。香りを嗅いだだけで何が使われているか、どんな調合をしているのかを大まかに言い当てるくらいの芸当は可能なはずだ。だからルイスにこんな『媚薬』だなんて謳い文句の代物が通用することはないとは思うのだが……。
この時はちょっとだけ、気になってしまった。
別にルイスにくっついてもらいたいとか、そういうことじゃない。違う、断じて違う。ただ、錬金術師が作ったという話題の媚薬ボディソープとやらがルイスにも効くのかどうかと、知的好奇心が刺激されただけだ。それにプロの錬金術師が作った石鹸は、錬金術師志望の俺にとってきっと優秀な教材になってくれるだろう。つまりは勉強のため。他意なんかあるわけない。
一通り生活用品の買い出しを済ませた後に、フラッと例のブランドショップへと足を運んでみる。これまで一度も入ったことがない、女性客で賑わっているお洒落なレイアウトの店内。男一人で入るのは大分勇気が要るが、ちょっとだけ見たらすぐに出て行こう……という気持ちで俺はそっと入り口のガラス扉を開けた。
店内に一歩踏み込むと、途端に香る香水のような匂い。俺は他の客の視界にできるだけ入らないように身を縮こまらせながら、こっそりと目当ての『モノ』を探した。
場違いかつ慣れない店内を3分ほど散策すると、商品棚の中央あたりに「口コミで話題沸騰中!媚薬ボディソープ」と書かれたピンク色の派手なポップが展示されていた。その手前には商品のチラシだろうか、俺の手の平より一回り大きいくらいのサイズの紙が10枚強程度まとめて置いてある。テイクフリーらしいそれを一枚拝借させてもらい、内容に目を通してみた。
チラシには商品——『媚薬ボディソープ』の詳しい説明が書かれていた。
なんでも「媚薬」というのはあくまでコンセプトであり、本当に媚薬の成分が配合されているわけではないらしい。……普通に考えてみればそれはそうか。媚薬効果があるような商品を何の制限もなく一般向けに販売するなんてこと、国が許すわけがない。
この商品の実情は『男性が好む香り、異性を惹きつけるような香りのするただの石鹸』らしく、男女問わず使えるもののようだ。
媚薬というのは流石に広告特有の誇張表現だったか……と少しだけ落胆したものの——いや何で落胆しているんだ俺は——それでも女性を中心に口コミが非常に良いということは、媚薬とまでは言わずともそれなりにプラスな効果はあるのかもしれない、と思った。
「……」
もしも、ルイスと会うときにこれを使ったら……。
つい、そんなことを考えてしまう。
ルイスも男だ。相当な変わり者とはいえ、性欲は人並み以上にあるみたいだし、本人曰くだがゲイというわけでもないらしい。ということは、こういった『女性らしい甘い香り』にも惹かれたりのするのだろうか。
先ほど街ですれ違った女性たちの言葉を思い出す。
俺がこれを使ったら、ルイスは魅力を感じてくれるだろうか。良い香りだと言って喜んでくれるだろうか。
……俺は彼女たちのように、ルイスにたくさん触ってもらえるだろうか。
そんな思考になって、思わず顔が熱くなる。こんなところでこんなことを考えるだなんて、はしたないことこの上ない。そもそもこれは女性が使うから魅力的になるのであって、地味で平凡な男である俺が使ったところで何の変化もないだろう。ルイスのことだから、きっと気付きすらしないかもしれない。
だけど、それでも、もしかしたら……。
ほんのりとした期待が拭いきれずに、俺はチラシに記載されている価格をちらりと見てみた。
「うわっ……」
高い。いや高級ブランドだから当たり前なのだが、想像以上の値段に俺は思わず小さくだが驚愕の声を漏らしてしまった。
女性向けの化粧品とは、こんなにも高いものなのか。そこには普段俺が使っている石鹸の何十倍もの値段が書いてあった。こんなに高価なものを買って普段から使っているだなんて、世の中の女性たちのお洒落に対する意識の高さには驚かされる。
少しだけ興味はあったけれど、この値段では俺の懐事情ではとても手が出なさそうだ。そう潔く諦めて店を去ろうとしたところで、おそらく店員らしい綺麗な女性に話しかけられた。
「新作のボディソープに興味がおありでしょうか? 申し訳ございません、こちら大変人気の商品となっておりまして、現在品切れ中でございまして……」
「あ、いや、ちょっと見てただけなんで……」
店員の女性にそう言われて、俺は慌ててチラシを棚に戻した。俺ごときがこんなに高価な石鹸を欲しがるだなんて、不相応にもほどがある。店員からしても店の雰囲気が崩れてしまい迷惑だろう。今更ながら、身の程をわきまえずに興味本位で女性向けの店に入ってきてしまったことを後悔した。
「あら、そんなことはございませんわ。最近は男性の方でも、ご自宅用に当ブランドの商品をお買い求めになる方が増えているんですよ。身なりに気を配れる殿方は私もとても素敵だと思いますし、気にせずごゆっくりしていってくださいませ」
俺が冷や汗を流しながら恐縮していると、女性店員はそう言ってにこやかに微笑んだ。いかにもお洒落に頓着がなさそうな冴えない男性客である俺に対して嫌な顔ひとつしない。これがプロか……。
そんな完璧な対応に余計恐縮していると、女性店員は近くに設置されていた飾り籠から小さな包みをひとつ取り出し、それを俺に手渡してきた。
「よかったらどうぞ。こちらの商品の試供品になります。ぜひお試しになってくださいね」
✦✦✦
それから数日後。
週末の日曜日。昨日は一日中図書館で勉強をしていたのだが、今日はルイスの家で一緒に食事をしてそのまま泊めてもらう予定になっていた。
生活力のないルイスの家は、羨ましいくらい大きな冷蔵庫があるというのに中身は俺が補充しない限りほぼ空っぽだ。というわけで昼間は買い出しに行って、一週間分程度の食料を買えるだけ買っておく。泊めてもらう予定がなくとも俺がルイスの食事を用意する機会は週に何度もあるので、これにはもう慣れっこだった。俺の作る料理を褒めてくれるのは素直に嬉しいのだが、たまには自分で作ったらいいのに……いや、こいつは休日だろうと関係なく常に錬金術の研究に夢中になっているような奴だし、無理か。
買い出しから戻った後は掃除をして(ルイスにも手伝わせた)、他にもあれやこれやと家事をこなしているうちにあっという間に夕方になった。休んでいる暇はない、すぐに夕食の準備をしなくては。
ルイスは俺の作る物には基本文句を言わないので、普段から好きに作らせてもらっている。俺の料理はごくごく平凡なもので、節約のために食材も庶民的なものばかり。いいとこ育ちのルイスには物足りないのではないかと思うのだが、ルイスはどれも美味しい美味しいと言って食べてくれる。俺もそんなルイスの反応が嬉しくて、こっそりとレシピを研究したり、それなりに豪華に見えるよう工夫を凝らしていたりするのだった。
せっかくの休日なので、今晩のメニューはルイスの好物であるローストビーフにした。肉は高価だし、こういったものは手間がかかるので滅多に作ることができないが、たまには豪勢にするのもいいだろう。
夕方から仕込みを開始し、時間をかけて調理する。肉がしっとりと柔らかくなるまでじっくり湯煎し、表面が焦げない程度にさっと火を通したら、仕上げに手作りソースをかけて……完成だ。手順は単純かもしれないが、ひとつひとつの工程に繊細な調整が必要なためそれなりに時間と集中力を要した。だがその甲斐あって、久々に作ったローストビーフは個人的にはかなりの出来栄えになったと思う。ルイスもすごく喜んでくれて、味付けの好みも合っていたようだったので安心した。頑張って研究した甲斐があったかもしれない。
俺は、こうしてルイスと過ごす時間が好きだ。何か特別なことをしなくても、ただ彼と共にいられるだけで胸があたたかくなる。ルイスの声を聞くと心が安らいで、その笑顔を向けられるたびに幸せな気持ちになる。永遠にこの時が続けばいいのに——そう思ってしまうくらいに、俺はすっかりルイスという男に惚れ込んでしまっているのだ。
……だから今日は、ほんの少しだけ踏み出してみることにした。
先日ブランドショップで貰った試供品。『男性を惹きつける香り』がするという、錬金術師が作ったブランド石鹸。
同じ錬金術師であるルイスにこれがどこまで通用するのかはわからないが、愛する彼の目に少しでも魅力的に映りたいというのは、恋人として至極当たり前の感情ではないだろうか?
上着のポケットにこっそりと忍ばせていた小さな包みを、タオルなどと一緒にバスルームに持っていく。一糸纏わぬ状態になってからその包みを開けてみると、そこからは小さくて良い匂いのするハート型の石鹸が姿を表した。
「きれいだ」
思わずそう呟いてしまったくらいに、その石鹸は綺麗だった。触った質感は石鹸そのものなのだが、それには繊細なカットが施されており、色もピンクに混ざり何色かが透けていてまるで宝石のよう。使ってしまうのが勿体無いと思うくらいに、精巧で美しい造りだった。俺が普段使っている石鹸とは全然違うというのが素人目でも充分理解できる。
見た目だけでもこんなに綺麗なのだ、眺めているだけで満足してしまいそうだったが、今回の目的はそれではない。何を隠そう、今日のために何日も使わずに取っておいたのだから。
石鹸をネットに絡ませ、ゆっくりと泡立てていく。やがてもこもこの泡が出来上がると、バスルームに甘くて華やかな香りが漂い始めた。あ、確かに良い匂いかも……。
そして俺は……その良い匂いのする泡を自分の肌にそっと押し当ててみた。
「わ……」
泡はとても滑らかで濃密で、ふわふわだった。肌にしっとりと馴染む感覚が心地よい。刺激もなく、身体に優しい成分で作られていることが伺えた。
そしてやはり特筆すべきは、その香りだろう。蜜花のような、果実のような、甘いお菓子のような……なんとも形容しがたい香りが鼻腔をくすぐる。しかし決して不快ではなく、むしろずっと嗅いでいたいと思えるような心地の良い匂いだった。
この石鹸は試供品のため販売品のものよりもかなり小さく、使い切りだ。それでも一回分使用するには充分な量があり、全身くまなく洗うことができた。
ルイスの家のバスルームに置いてあるボディーソープも柑橘系のいい香りがするが、この石鹸の匂いはそれとはまた違っている。ルイスは気付いてくれるだろうか……などと淡い期待を胸に抱きながら寝間着に着替え、やや緊張した面持ちのまま彼が待つ寝室へと足を踏み入れた。
俺が寝室の扉を開けるなり、ベッドの縁に腰掛け目線を本に落としていたルイスがぱっと顔を上げてこちらを見る。
「ネロ」
俺の顔を見た途端、花が咲いたような笑顔になったルイス。まったく、たかだか風呂から出てきたくらいでそんなに嬉しそうな顔するなよな。俺は不意打ちには弱いんだ。
「湯加減はどうだった? ちゃんと全身綺麗に洗ったか?」
ルイスからの問いに頷いてから、俺は彼の隣に同じように腰掛けた。するとルイスはすかさずドライヤーやらオイルやらを戸棚から取り出し、俺の髪を乾かし始める。
いつも泊めてもらう際、ルイスはまるで親鳥のように俺の世話を焼く。ゆっくり湯に浸かっているか、ちゃんと身体を洗っているかの確認が入ることにもすっかり慣れてしまった。それもそのはず、普段は自然乾燥に頼りきりで放ったらかしの髪も、何の手入れもしていない青白く不健康な肌も、どうしてかルイスは「美しい」と言いまるで宝物のように大事に大事に扱ってくるのだ。
これはルイスと付き合い始めた頃から日課のようになっていたことだったが、ルイスが毎度のように丁寧にケアするものだから、数ヶ月経った今では俺の髪はすっかり艶を持ちサラサラになっていた。肌もあまり荒れなくなったお陰で、見た目にも清潔感が増した気がする。このように、基本的にはありがたい恩恵しかないわけだが。
敢えてひとつだけ難点を挙げるとすれば、当国では少し珍しいとされているこの黒髪だろうか。特に俺の髪色は鴉の濡れ羽のような深い漆黒であるため、艶が良くなるとそれがやたらと目立ってしまう。街中で悪目立ちするのは俺としては不本意なのだが、しかしルイスはそんな俺の髪が特にお気に入りなようで、普段からことあるごとに髪に触れてはその指通りの良さに目を細めていた。
まあ、ルイスがその方が好きだと言うのなら俺としても異論はないのだが……。
「ん? これは……」
不意に、俺の髪を梳いていたルイスの手がぴたりと止まった。その普段とは違った反応に、俺の心臓がざわつき始める。
気付いた……だろうか。あの石鹸の香りは、ルイスが愛用しているボディソープとはまるっきり違うものだった。だから今、これだけ距離が近ければ、俺が纏う香りがいつもと違っていることくらいはルイスにもわかるだろう……。
「なるほど、『ソワレ』の石鹸か」
「そ、そこまで分かるのか……?」
案の定、ルイスは香りの違いのみならず、例の石鹸を販売しているブランドの店名までぴたりと言い当ててみせた。鼻が効くなんてレベルじゃない。やはりこいつの優秀な脳みそには、錬金術に関連する膨大な知識がこれでもかと詰め込まれているのだ。
「お前も化粧品に興味を持つようになったんだな。喜ばしいことだ」
「いや、化粧品っていうか……。良い石鹸があるって、それで……試供品、貰ったから」
嘘はつけないのだが、それでも自ら店まで出向いたとは言えなかった。
「媚薬石鹸だな?」
「……っ!」
「錬金術師が作った媚薬石鹸。俺も話は聞いている。そして今日、お前がそれを使って俺のところに来たということは……もしや“その気”だったのか?」
そう言われて、顔が火を吹きそうなほど熱くなった。
……図星、だ。
思わず触れたくなるような魅力的な香りを纏っていれば、いくらその相手が俺であろうともルイスは興味を示してくれるんじゃないだろうか。そんな思いから今日この石鹸を使ったのは紛れもなく事実だった。
馬鹿らしいと一笑されて終いだということは重々わかっている。こういった香りは女性が纏うからこそ魅力的になるのだ。だから俺みたいな色気も何もない男が形だけ真似たってまったくもって意味はないのだと。
そう、俺は最初からわかっていた。ただ単に“その気”があるのだと、ルイスに伝えるだけの結果になってしまうことも。
「………」
「ネロ、……いいんだな?」
羞恥のあまり目を合わせることができず、黙ったまま俯いている俺の耳元でルイスが囁いた。顔を見ずともわかる。こいつ、今めちゃくちゃ機嫌が良い。そして機嫌が良いからこそ、全てわかった上であえて俺の返答を待っている。
これは後で死ぬほど擦られるな、と覚悟しつつ、俺は唇をぎゅっと噛み締めた。こういう時、肯定も否定もできなくなってしまう自分にやきもきする。いや、言葉ではっきりと伝えることができるのなら、最初からこんな回りくどい事はしていないのか。いつまで経っても恋愛に不器用——というか人付き合い自体苦手である俺は、いつか自分のこういう性格が原因でルイスに愛想を尽かされやしないかという不安を常に抱えている。
何か、何か言わなければ。ひとつ頷くだけでもいい。頭ではそう思っていても、少しでもルイスの顔を見ると俺の身体は恥ずかしさで固まってしまい使い物にならなくなる。頭の中だってぐちゃぐちゃだ。思考も全然回らなくて、ドキドキとうるさい自分の心臓の音がいやによく聞こえる気がした。
「ネロ」
「んひゃっ!?」
ルイスがもう一度俺の名前を呼ぶ。その声は思ったより近くで聞こえたばかりか、俯いているせいでほぼ剥き出しになっているうなじにちゅ、とキスをされた。突如走ったくすぐったい感覚に思わず声を上げてルイスを見ると、案の定こいつはニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて俺を見ていた。
「き、急に変なことするな!」
「ネロが返事をくれないからだろう?」
「だってそれは……っ」
俺が言い返す前にすんっと鼻を鳴らしてうなじの匂いを嗅がれ、またペースを崩される。いつもと違う石鹸を使ったから匂いを嗅がれることは予想していたものの、まさかそんなところを嗅がれるとは思っていなかった。本当にルイスの行動は読めない。
「なるほど、良い匂いだ」
「……そんなに気に入ったのか」
「ああ、ずっと堪能していたいくらいだ」
そんな俺をよそにルイスはというと、引き続きうなじに鼻をくっつけながらやたらと満足気だ。ルイスがこれほどまでに喜んでくれるのなら、次は試供品ではないものを頑張って買ってみてもいいかもしれない……。まんまとそう思ってしまうくらいには、俺も救いようがないほどルイスに惚れているのだ。
「なら……す、……好きにすれば、いいだろ」
やっとの思いでそう口にすると、ルイスはそれを待っていたと言わんばかりの強引さで、俺の身体をベッドに押し付けた。
✦✦✦
「く、ぁ……んうっ♡ おい、ルイ……ッ♡」
今日のルイスは機嫌が良いが、やけにねちっこい。
挿入するところまではすんなり進めてくれたのだが、そこからは俺を焦らすかのようにゆっくりとしか動いてくれないのだ。それこそ普段だったら音がするほど激しく叩き付けてくるのに。
じっくりと時間をかけるスローセックスも俺にとっては蕩けそうなくらいに気持ちいいのだが、いかんせん普段のアレに慣れてしまっている身体には少々物足りないようで、俺は達するかどうかの瀬戸際ギリギリのところでもう数十分は揺らされていた。
「ふ……っ、たまにはこういうのもいいだろう?」
「んっ、あぁんッ♡ そこ、押しつけるの、やめっ……♡」
激しい抽挿がなくとも、ルイスのその太く大きいペニスで奥をぐりぐりと刺激されるのが堪らない。それを不規則なタイミングで不意にしてくるものだから、俺は身構えることもできず否応なしに甘い声を漏らしてしまっていた。
「可愛いな、ネロ……♡」
快感に喘ぐ俺に、ルイスはそんなことを言いながらちゅっと口付けてくる。それから首筋にも顔を埋めて、素肌を吸い上げた。見なくてもわかる、痕を付けたのだ。普段俺がシャツの第一ボタンまできちんと留めることを知っていて、それをいいことにこいつはわざとこういうことをする。見えなければ構わないと思っているのか、外から見える位置には付けないが、俺は着替えのたびにいやでも目に入って意識してしまうというのに。
まあ、それでもこいつにキスをされるのは……好きだ。それ故に拒否しない俺も大概だろう。
「んっ……ルイ、はやく……♡ 俺、もう……っ」
「早く……何だ? どうしてほしいのか、俺にもわかるように教えてくれ」
「うぐ……っ」
もどかしさのあまりどうにかなりそうで、ルイスに目で訴える。……が、俺の意図など分かりきっているであろうルイスはニヤニヤとした笑みを浮かべながらとぼけたことを言うばかりだった。そんなルイスを恨みがましく睨んでみても当の本人は涼しげな顔のまま。あのルイスが俺に睨まれたくらいで動じるわけもない。
「ほんとお前、性格悪い……っ!」
「おや? 賢いネロはそんなこととっくに知ってるものだと思っていたが」
知っている。まさにああ言えばこう言うところが、だ。
ルイスも俺と同じで辛いはずなのに、彼の表情には余裕すら見て取れる。それが余計に憎たらしく感じて、俺はルイスの腕をぎゅっと掴みながら半ばヤケになって言った。
「はやく……う、うごけよ、ばか……ッ♡」
直後、ガクンッと身体が揺れるほどに突き上げられた。
「あ゛ぁあんッ!♡♡」
びゅる、と俺の性器から白濁液が放出され、腹を汚す。
こういうの、トコロテン……って言うんだっけか? 以前ルイスに揶揄われた(いや、喜ばれた、か?)時の事を思い出して更に羞恥が増したが、すぐにそんなことを気にしている余裕などないくらい激しくピストンされた。
「あ゛っ、んっ♡ そんな、急に……っ! あっ、あっ、あっ……♡」
長く焦らされたぶん、いつも以上に気持ちいい。俺は閉じることを忘れて開きっぱなしになった口からあられもない喘ぎ声を上げながら、いつしかルイスの律動に合わせて腰を振りたくっていた。
一番いいところを乱暴に、しかし的確に擦られて、腰が浮くほどに深くまで突かれ続ける。俺はあっという間に脳まで快楽漬けにされて何もわからなくなっていた。
中が勝手にきゅうきゅうと締まって、最奥がルイスの大きく膨れた亀頭に愛おしくしゃぶりついている。どれだけそこを苛められようとも不快感なんてまったくなくて、むしろもっともっとと強請ってしまい、ルイスの望むがまま身も心もとろとろになるまで甘やかされた。
「るいっ……あん♡ んっあっ♡ すき、っ♡ だいすき……っ♡」
ルイスが好きだ。
激しく抱かれれば抱かれるほど、そう実感する。
ルイスとのセックスはどうしてこんなに気持ちいいのだろう。こいつの言う通り、身体の相性がいいという、ただそれだけなんだろうか? ルイス以外との経験が皆無である俺にはわかりようもないが、なんとなく、それだけじゃない気もする。だったら何故なのかと問われると、やはり『わからない』のだが……。
ただ、この気持ちだけは間違いじゃないと、それだけははっきりと言えるから。
俺はルイスが好きだ。好きで好きで、どんなに意地悪をされたって、どんなに激しく抱かれたって、その相手がルイスであるのなら俺は彼から与えられる全てを喜んで受け入れる。
「あっ、あっ♡ イク、だめ、……ぁ♡ ん、あっ♡ あああああーーーーッ!!♡♡」
「く、ネロ……ッ!」
最奥に突き立てられたペニスをぎゅうっ♡と締め付けながら、深く深く絶頂する。それと同時に中に温かいものが放たれる感覚がして、ルイスも達したのだとわかった。
✦✦✦
週明け。
俺が事務所に出勤すると、そこには既に二人の先客がいた。
無論、うち一人はこのアトリエの所長であるルイスである。そして、もう一人は——
「あら、貴方は。先日ぶりですわね」
「え、あっ……! あの時の、店員……!?」
応接スペースのソファに優雅に腰掛けていたのは、なんと俺に石鹸の試供品を勧めてくれたあの時の女性店員だったのだ。
動揺で固まってしまっている俺をよそに、向かいに座っているルイスがその女性を紹介してくれる。
「なんだ、面識があったのか? ……ネロ、こちらはシャルロッテ女史。コスメブランド『ソワレ』の社長兼プロデューサーで、俺と同じ公認錬金術師だ」
「え、えええっ!?」
この女性が、あの人気ブランドのトップ……だけじゃなく、公認錬金術師だって!?
驚きすぎて開いた口が塞がらない俺を見たその女性——シャルロッテさんは、口元に手を当ててくすくすと上品に笑った。
「ふふ、そんなに意外だったかしら?」
「い、いいえ、その……大変申し訳ありません。女性の錬金術師にお会いするのは初めてだったものですから……」
女性の公認錬金術師はかなり珍しい。それもこの若さでとなると、それこそ俺のような一般市民にとってはそうそうお目にかかれないような存在だ。それがまさか、あんな風に普通の店員のような顔をして店頭で接客をしているとは夢にも思っていなかった。
「私はもうそれなりの年齢なのですけど……そう仰っていただけて嬉しいですわ。可愛い助手さん」
「か、かわ……?」
ルイスといいシャルロッテさんといい、俺のような男を「可愛い」と称する感性は錬金術師特有のものなのか? 俺には理解できそうもない。
「おい、俺を差し置いて話に花を咲かせるな。今日は商談に来たんじゃなかったのか?」
「ああ、そうでしたわね」
と、ここで少しばかり不機嫌そうな顔をしたルイスがそう言いながら俺たちの間に割って入ってきた。
そうだ、驚きすぎて挨拶はおろかお茶を出すことすら失念してしまっていたが、シャルロッテさんは事務所の来客だ。ルイスの言う『商談』の内容がどんなものかは俺には分からないが……錬金術師同士気が合うところもあるだろうし、どうやら二人は既知の仲のようだから、色々話したいこともあるだろう。俺は空気を読んで席を外すことにした。
「お、俺、お茶を淹れてきます」
そう言って逃げるように退室し、給湯室へと駆け込む。俺は二人分の紅茶を準備しながら、あの二人は一体どういう関係なのだろうと無意識に考えを巡らせていた。
あの人嫌いで定評のあるルイスが、あんな風に友達のような距離感で接する相手は決して多くない。もっとも、ルイスはあれでも面倒事に巻き込まれない程度に上手く立ち回るくらいの器量はあるので、その才能を一方的に妬まれることこそあれ、敵が多いというわけではないのだが。それでも俺が知る限りでは友人と呼べる間柄の人間は少ないと感じていたし、学生時代から付き合いのある自分はその数少ない人間のうちの一人であると思っていた。
わかってはいる。確かにシャルロッテさんは美人だし、錬金術師になれるだけの才覚も技術もあって、気品も持ち合わせている。誰の目から見たって魅力的な女性だろう。そういう人だから、ルイスと並んでいてもまったく見劣りせず、むしろ釣り合っていると感じるのだ。……俺とは違って。
……って、俺は何を考えているんだ。ルイスが俺を見限って他の人のところに行ってしまうかも、なんて、そう思うこと自体ルイスに失礼だ。ルイスが俺のことを好いてくれているのはちゃんと知っている。だからシャルロッテさんとは友人ないし錬金術師仲間であって、それ以上の関係はないだろうと、頭ではわかっている。それなのにこういうネガティブな思考をしてしまうのが俺の良くないところだって、自分でも思っているのに。
「……余計なことは考えないようにしよう」
俺はぽつりとそう呟いて自分に言い聞かせると、ひとまずは紅茶を淹れることだけに集中することにした。
end.
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