君の声を聞かせて

toki

文字の大きさ
上 下
1 / 1

君の声を聞かせて

しおりを挟む

アルと一緒に暮らしていてつくづく思うのは、彼はとても誠実で努力家な人間だということだ。

アルは俺の恋人で、そんじょそこらの俳優なんて霞んでしまいそうな程のとんでもない美形である。
180㎝を超える身長に、すらりと長い手足。顔も小さくて色白で、睫毛が長く色っぽい。男性として魅力的であると同時にどこか女性的な美しさも感じる、中性的な甘いマスクの持ち主。
どこからどう見ても文句なしの美貌。ついでに言うと俺の好みドストライク。

その気になればその容姿だけで食っていけるんじゃないだろうか。そう思ってしまうくらいに彼の容姿は完璧で、イケメンという言葉では表現が足りないくらいに美しい。美形すぎてなんかもうそこにいるだけでキラキラしているというか、オーラがあるっていうか……。
……なんて、俺の欲目も少しはあるかもしれないけど、とにかくアルはすごくかっこいい。なんで俺みたいな冴えない平凡野郎の恋人がこんなにかっこいいのか、いまだによくわからなくなるくらい。

とまあ、少し話が逸れてしまったけど。それほどの美形であるにも関わらず、アルは自分の容姿を武器に何かをしようとすることは殆どない。
職を探していた時も、彼だったらモデルでも俳優でも容易くなれただろうに、それをしなかった。最終的に就いたのは工房の見習いという人前に出る機会の少ない裏方の仕事だったし、元々は奴隷上がりで学のなかった彼だが、円滑に仕事ができるようにといまだに読み書きの勉強を毎日欠かさない。
自分の容姿を鼻にかけるようなことを全くしない上に、謙虚で勉強熱心で、とても真面目な青年。それが俺や世間一般からのアルに対する印象だった。

「ラビ、見て。今日は綴りの間違いがひとつもなかったよ」

日課になっている勉強の時間。アルはそう言って、勉強用のノートを誇らしげに俺に見せてくれる。可愛い。
アルはいつも夜寝る前に勉強をする。昼間でも時間がある時は勉強することがあるけど、仕事もあるので基本は夜だ。俺も丁度いい難易度の問題を見繕ったり、スペルミスを直したり、テストの採点をしたりなど、手伝えることは手伝っている。

「わ、本当だ……。アルは覚えも早いし凄いなぁ」

アルのノートを見ると、まだ少し筆跡はぎこちないもののしっかりと文章が綴られていた。
彼はうちに来た当初は本当に一切の読み書きができなかったのに、今やほとんど完璧に出来るようになっていた。彼の成長が嬉しくて、なんだか俺まで心があたたかくなる。小さい子供がいる親ってこんな気持ちなのかもしれないなぁ……なんて。

「ほんと、アルは毎日頑張ってて偉いな。俺も見習わないと」
「ラビの教え方が上手だからだよ。本物の先生みたいだ」
「そ、そうかな。役に立ててるなら、嬉しいけど……」

アルに教え方を褒めてもらえて、なんだか照れてしまった。
自慢じゃないけど、俺も学校に通っていた頃はけっこう勉強を頑張っていた。今まで誰かにものを教えたりしたことはなかったものの、もしかしたら今になって昔の知識や経験が生きているのかもしれないと思う。こうしてアルの役に立てたのなら、勉強をしておいて本当によかったな。

「もうこんな時間だ。そろそろ寝ようか」
「うん。……あの、ラビ」

そろそろいい時間になってきたので、筆記用具を片付けて俺たちは寝る準備に入ることにした。
いつものようにベッドシーツを整えてから照明を落とそうとすると、本棚に参考書を戻したアルが、俺を見ながら控えめに声をかけてきた。その手には子供向けの絵本が一冊握られている。

「……また読んでほしい。ダメ?」
「また? ほんと好きだなぁ。いいよ」

アルの可愛らしい申し出を俺は笑顔で承諾した。
アルがうちに来てすぐのこと。読み書きを学びたいと言った彼に、少しでも勉強になればいいと思い最初に始めたのが絵本の読み聞かせだった。子供向けの簡単な絵本を俺が見繕い、いきなり本だけを与えても意味がわからないだろう……ということで毎日寝る前に俺が読んで聞かせていた。今となっては懐かしい思い出だ。
もちろん今のアルは、このくらいの絵本は俺の助けがなくともスラスラと難なく読むことができるはずだ。それでもアルは何故か俺の読み聞かせをいたく気に入っていて、今でもたまにこうして強請ってくることがあった。

「アル、夜はなんだか子供みたいだよなぁ」
「ごめん。おかしいよね、大人なのに……」
「そんなこと言ってないだろ。甘えてくれるの、嬉しいよ」

確かにアルは年齢にそぐわない(といってもアルの年齢はよくわからないけど。俺より少し年上くらいに見える)子供っぽいところがある。これもずっと一緒に過ごすうちにわかってきたことだった。甘えたでくっつきたがりなところとか、意外と寂しがりでやきもちやきなところ。味覚もどこか子供っぽく、特に甘い物が好きでたまにお菓子を出すと目をキラキラさせている。普段はかっこいいアルだけど、そういうところは本当に可愛いなと思う。

アルは幼い頃から奴隷として生きてきて、肉親からもそれ以外の人からも愛情を貰った経験が殆どないようだった。そういう背景もあって、彼は精神的に少し幼い面があるのではないかと俺は感じている。
アルは何事も遠慮しがちだし、自己主張が苦手な性格だ。何かを尋ねるときに「いい?」ではなく「ダメ?」と聞くことが多いのもそれが所以なのかなと思う。それでも最近は俺にだけは少しずつ甘えてくれるようになったから、俺としては嬉しかったりする。それをおかしいとか、変だなんて思ったことは一度もなかった。

「今日はどの絵本にする?」
「これ。これがいいな」
「また『人魚姫』? アル、それ好きだね」

アルが俺に差し出してきたのは有名な童話の絵本だった。
人魚の女の子が人間に恋をして、最後は泡になって消えてしまうという切ない恋の物語。
俺がアルにチョイスする絵本はこういった童話が多かった。この『人魚姫』もかなり初期の頃に読み聞かせた記憶がある。ただこのお話はとてもじゃないがハッピーエンドとは言い難い結末で、最初に読んだ時のアルの反応はあまり良いものではなかった気がする。
でも、そのわりにアルはその後も幾度となくこの話を読んでほしいと言ってきた。アルのお気に入りは他にもあって、何度も読んでいる絵本はいくつかあるけど、その中でも『人魚姫』はダントツでリピートしていると思う。

「人魚姫、最初は苦手じゃなかったっけ?」
「うん。最後が悲しい感じだから、あまり好きじゃなかったんだけど……今はわりと好きだよ。この子、ラビに似てるから」
「えっ?」

この子、と言いながら表紙の人魚姫のイラストに目をやるアル。俺は思いもよらぬことを言われたことに驚いて、ぱちぱちと何度も瞬きをしてしまった。
似てる? 美しく可憐で、優しくて芯も強くて、おまけに天使のような歌声を持つ人魚姫に、まさかこの俺が似ているなんて言われるとは思わなかった。逆に一番かけ離れているんじゃないのか。だって俺、美人じゃないし、取り柄も何もないし……。むしろアルのほうが、綺麗で優しい人魚姫には合っている気がする。

「似てるって、俺が? こんな冴えないのに?」
「似てるよ。可愛くて、優しくて、健気で……すぐに自分のこと犠牲にしちゃうところも。でも、そんな君だから好き」

アルはそう言って俺の唇にちゅっと自分のそれを重ねた。触れるだけのささやかなキスだったにも関わらず、俺の顔は一気に熱くなってしまう。

「……かわいい」

そんな俺を見て、アルがふっと微笑んでからそう呟いた。
俺だけに向けてくれる極上の笑み。アルは可愛い、なんてさっきは思ったけど、やっぱりかっこいい……。大好きなアルが微笑みかけてくれるだけでドキドキするのに、今は恋人同士、二人でベッドの上でくっついてキスをしている。そんな甘すぎるほど甘いシチュエーションに、俺の心臓はうるさいくらいに高鳴っていた。

「ね、寝る時間、なくなっちゃうから……読むね」
「うん」

俺が甘い雰囲気を誤魔化すように言うと、アルも大人しくそれに従ってくれた。
こういうのはやっぱりまだ慣れない。恋人になってからだいぶ経つのに、どうしてだろうなぁ。いや、アルがかっこよすぎるのがいけない。それこそ物語に出てくる王子様のように美しくて、優しくて、一途に俺を想ってくれて……本当に俺なんかには勿体ない恋人だと思う。

「むかしむかし、青く深い海の底には人魚の城があり、そこにはとても美しい人魚姫がおりました———」

俺はゆっくりとした口調で絵本を読み始めた。
正直、俺はこういったことが得意ではなかった。人前で何かを話したりすることは昔から苦手だったし、今は接客業の仕事をしているのもあって少しはましになったけど、それでも誰かに見られている、聞かれていると思うと緊張してしまう。そんな俺による読み聞かせはさぞかしぎこちなく、聞いていて面白味もあまり感じないだろうと思う。
それでもアルはベッドに仰向けになりながら、嬉しそうな様子で俺の話を静かに聞いてくれている。俺はできるだけ言葉が聞き取りやすいようにと意識しながら、少しずつページを進めていった。
もともとが子供向けの童話なのでそれほど長くはない。読み聞かせを始めてから10分も経たないうちに、あっという間に絵本は最後のページになった。

「———人魚姫はナイフを投げ捨て、海に身を投げました。そして朝日の光を浴びながら、泡となって消えていきました……」
「……」
「……ねぇ、俺が読んでほんとに楽しい……?」

最後の一文を読み終わってもアルが何も言わないので、俺は不安になってつい尋ねてしまった。俺の読み聞かせはお世辞にも上手とは言えないと思う。台詞なんかも棒読みでしか言えないし、時々つかえたりとか、噛んだりもしてしまうし。聞いている側からすると、テンポが悪くて退屈なんじゃないかな……。
そんなことを考えていると、後半は目を閉じながら大人しく物語を聞いていたアルがぱっと目を開き、俺のほうを見て謝罪してきた。

「あ、ごめん……。ラビの声聞いてるとすごく落ち着くから、つい聞き入ってた……」

それからアルは「読んでくれてありがとう」とお礼を言ってくれた。俺は本棚に絵本を収納すると、再びベッドに戻りアルの隣に入れてもらう。

「落ち着く? そんなこと初めて言われたな……」
「うん、なんて言うんだろう……。聞いてると心地よくて、とても安心する」

俺の声は高くも低くもなく、特段聞きやすいというわけでもないと思う。むしろアルのほうが、静かなのによく通る、聞いていて落ち着く声をしているなぁと俺はずっと思っていたくらいで。

「僕も、それこそ最初からずっと思ってたよ。だからラビに本を読んでもらうの好きだし、ラビが僕にたくさん話しかけてくれるのも嬉しい」
「ほ、ほんと?」
「ほんと。ずーっと聞いてたいな……」

アルはそう言いながら、俺の指に自分のそれをするりと絡ませた。そのままにぎにぎと握ったり、俺の指の腹や手の甲をなぞったりして遊んでいる。それがなんだかくすぐったくてついピクリと指が反応してしまうが、決して嫌ではないので俺はそのままアルの好きにさせた。

「んっ……」

しばらくするとアルの触り方が、じゃれるようなものからだんだんと愛撫めいたものに変わってきた。俺の気のせいかもしれないけど、そう感じるくらいアルの手は心地がよかった。アルはただ単に戯れているだけなのに、俺はというとなんだか変な気分になってしまって、思わず小さく声が漏れてしまう。空いている方の手で慌てて口を押さえたが、アルにはバッチリ聞こえてしまっただろう。恥ずかしい。

「ラビ、手だけで気持ちよくなっちゃった? かわいいね」
「だって、アルの、触り方が……ン、……やらしい、から……」

アルに耳元で囁かれて、ビクンと肩が跳ねた。
性的なことは何もしていないのに、勝手に感じてしまっている自分が憎たらしい。ドキドキと心拍数が上がってきているのが分かる。どうしよう、このままだと俺、止まんなくなっちゃう……。

「そういう声も、たまんない……」

気が付くと俺はベッドの上に押し倒され、アルに組み敷かれる体勢になっていた。驚いて彼の顔を見た瞬間、俺はすべてを察した。あ、これ、スイッチ入ってる時の顔だ……。
先程までとは違う欲を孕んだ目で見つめられて、まだ何もされていないはずの下腹部が期待できゅん、と疼いてしまった。

「ぁ、アル……んんッ♡」

俺の首筋に顔を埋めたかと思うと、そのまま噛みつくように吸い付かれる。ちゅ、ちゅ、と啄むようなキスの後に、鎖骨の辺りにちくりと甘い刺激が走った。きっとキスマークが付いたであろうその小さな痛みすら今は気持ちよくて、つい声が出てしまう。

「かわいいよ、ラビ……。ねぇ、もっと色んな声、聞かせて?」

アルはそう言って俺の首筋を愛おしそうに撫でた。それから髪を撫で、耳を撫で、頬を撫で……アルの手は不思議だ、どこを触られても気持ちいい。いとおしい。もっと触ってほしい……。
俺は頬を撫でるアルの手に自分の掌を添えると、すり、と頬擦りをする。そしてアルにそっと目線をやると、彼からの“お誘い”に応えた。

「……いいよ」



✦✦✦



パンパンと肉のぶつかる音がする。
俺はうつ伏せの状態のまま後ろでアルのペニスを根元まで受け入れ、枕を噛んで必死に快感に耐えていた。

「ンッ♡ ん、んぐ……ひぅ゛ッ♡♡」
「声我慢しちゃだぁめ。聞かせてくれるって言ったでしょ?」
「あっ……♡ ん、や、あぁんッ♡♡」

今日はなんだか意地悪なアルに早々に枕を取り上げられる。縋るものも噛むものも一気に失ってしまった俺は、アルから与えられる強すぎる快感にただただ陥落することしかできなくなってしまった。

「あっあっ♡ あんッ♡♡ んッ♡♡ ぁ、あっ……♡ ひぁうッッ♡♡♡」

アルの大きくて熱いペニスで前立腺をゴリゴリと擦られて、身も心もすっかり蕩けてしまった俺の口からはもう喘ぎ声しか出てこない。こんな甘ったるい声が自分から出ているのかと思うと恥ずかしくて……どうしても声を抑えようとしてしまう。しかしそんなことは許さないと言わんばかりに、アルは休みなく俺のいいところばかりを責めてきた。

「あっ♡ イッちゃ……だめ、も、イッちゃう……!♡♡」
「だめじゃないよ♡ 可愛くイクとこ、ちゃんと見せて?」
「アッ♡♡ ン、ん゛ぅ゛ッ♡ ~~~~~~~……!!♡♡♡」

アルの言葉はまるで魔法のように俺を支配して、瞬く間に絶頂へと押し上げた。俺はビクンビクンッと身体を痙攣させながらなすすべもなくシーツに精を吐き出す。それと同時にアルもゴム越しに射精したのがナカの感覚でわかった。

「はぁ、はぁっ……♡」
「はぁ……♡ ラビ、上手にイケて偉いね♡ ……ごめん、まだ平気?」
「んっ……♡♡」

イッたばかりで呼吸が整わない俺の下腹部を、同じく荒い呼吸をしたアルが労うように撫でる。すっかり敏感になっている俺にとってはたったそれだけでも気持ちがよくて、つい感じてしまいながらも俺はアルの問いにこくりと頷いた。

アルは俺の中から一度ペニスを引き抜くと、精液でパンパンになったゴムを外して口元を縛った。そして慣れた手付きで新しいものを開封し装着していく。俺は彼のそんな様子を、イッたばかりでぼんやりしつつじっと見つめていた。

アルは行為の際は俺の身体を気遣っていつもゴムをつけてくれる。男同士でも避妊具はつけた方がよい、というのは知識として知ってはいる。とはいえ俺は男だから妊娠するわけでもないし、生でするのも気持ちがよくて好きだから、正直どちらでもいいと思っているんだけど……。それでもアルは「ただでさえラビに負担がかかることだから、出来るだけ優しくしたい」と言って、基本的に俺がつけないでいいと言わない限りは避妊を欠かさなかった。
アルは奴隷時代には性的暴行を受けることもあったらしい。そして以前に、上も下も経験がある、とも言っていた。奴隷に性的暴行をするような人間が相手の身体を気遣うとは思えないし、アルはきっとつらい思いをしてきたんだろうな、と思う。行為の際にアルが俺に対して必要以上に優しくしてくれるのは、そういった経験があるから……なんて理由もあるんじゃないだろうか。

そんなことを考えていると、ずん、と重たい衝撃と共に再びアルのペニスが挿入される。
アルと付き合うまでは未開発だった俺の身体も、今ではすっかり彼に染まっていた。アルに時間をかけてじっくりと躾けられた身体は、挿入された途端それを待ち望んでいたかのようにきゅうっ♡とペニスを締め付けてしまう。
アルがゆっくりと腰を動かした。抜けるギリギリまで腰を引いてから、どちゅんっ♡と奥まで一気に貫く。抜かれるのも入れられるのもたまらなく気持ちよかった。奥を突かれるたびにきゃうっと変な声が喉から漏れてしまうが、自分の意思で止めることができない。

「ラビのここ、抜こうとするたびにきゅーって締まってる……♡」
「ア゛ッッ♡ やっ♡♡ 言わない、でぇ……ッ♡♡♡」

アルの言う通り、彼が中から出て行こうとするたびに、俺の肉襞は行かないでと言わんばかりにペニスに媚びてしゃぶりついていた。
アルに突かれるたびに、更に感度が増した身体がビクンッと跳ねる。自身の先端からは精液なのか潮なのかもわからない透明な液体がとろとろと出ていて、もしかしたら時間をかけてイキ続けているのではないかとすら思った。ずーっと気持ちいいのが終わらない……。

「ン゛ッ♡♡ あ゛ッッ♡♡ あ゛ぁーーーーー……ッッ♡♡♡」

ばちゅんっ♡と一際強く突かれて、お腹の中でじわじわと膨らんでいた欲望がぱちんと弾けた。ペニスを扱いてイクのとは違う、身体の内側がビリビリと痺れるかのような強くて甘い絶頂。あ、イッたんだと自分で認識するのが少し遅れてしまったくらいには、俺の身体には既にこの変なイキ方が染みついてしまっている。すごくきもちいいけど、射精を伴わないこの達し方はなんだか自分が自分じゃなくなるみたいな感覚がして、いまだに少し怖かった。

「ラビ、メスイキすっかりクセになっちゃったねぇ♡ このまま女の子になっちゃうかもね……?」

はぁ、と熱い息を吐きながら、アルが俺の乱れてしまった髪を撫でて直してくれる。その間も律動は止まらず、俺のナカは絶頂の余韻でいまだキュン♡キュン♡と疼き続けていた。
なにもかもが快楽に侵されてうまく思考が回らない。ただ、もっと。もっとアルに愛されたい。アルの愛情はぜんぶ俺がほしい。俺の頭の中はもうそれだけになっていた。

「いいっ……! おんなのこ、なってもいい……♡ だから、もっと……♡♡」
「いいの? 女の子みたいにイクの、怖くない?」
「いい♡♡ おれ、おんなのこになって……アルの、およめさんになる……♡♡」

俺がそう口走った途端、激しかったアルの動きがピタッ……と止まった。

「……アル?」

うつ伏せの体勢なので、こちらからアルの表情は見えない。突然無言になったアルを怪訝に思って、彼のほうを振り返ろうとした、次の瞬間だった。

ごちゅッッッ♡♡♡♡

「あ゛ッッ!? ッ……ふゃあああぁぁあッッッ♡♡♡」

静止した状態からいきなり結腸の奥の奥まで一気に貫かれて、俺は子猫のようなはしたない嬌声を上げながら再び絶頂してしまった。

「ああ、もう……っ! 今のは完ッ全にラビが悪い……っ♡♡」
「んぇ……? おれ、なにか……や゛っ、あああんッッ♡♡♡」

パンッ♡ パンッ♡ パンッ♡ パンッ♡ パンッ♡

俺がイッてる途中だろうとアルはお構いなしで、力が抜けてしまっている俺の身体に更に腰を打ち付け続ける。
わけがわからないまま快感の波に耐えていると、不意にアルに身体を動かされて正常位の体勢に変えられた。それによりペニスが当たるところも変わってまた甘い声が出てしまったが、このときにやっと彼の顔を見ることができた。……発情しきった雄の顔。激しい行為のせいで頬は上気しているし、美しい蜂蜜色の瞳は少し潤んでいて、心なしか普段よりも瞳孔が開き気味だ。ああ理性が飛んでいるなとひと目でわかった。

ごちゅッ♡ ごちゅッ♡ ごちゅッ♡ ごちゅッ♡

「ふふ、そうだねぇ♡ ラビは僕のお嫁さんになるんだもんね♡」
「ぁ、ンッ……♡ うん、なる……っ♡♡ アルの、およめさん、なるぅ……♡♡♡」
「……ねぇ、僕は? ラビがお嫁さんなら、僕はラビの何?」

ごちゅごちゅと音がするほど激しいピストンはそのままに、アルが俺に問いかけてくる。ちょっと今、きもちよすぎてぜんぜん頭回ってないんだけど……でも、大好きなアルが俺に話しかけてくれてる♡ こたえなきゃ♡ ちゃんと考えてお返事しなきゃ……♡♡

「……だんな、さま?」

ビクビクビクッ♡♡♡

俺の中でアルのペニスが震えて、精を吐き出したのを感じた。
ゴムをつけていなければ大量に中出しすることになっていただろう。そのくらい長い射精。もしこれを全部中に出されていたら……想像するだけでまた後ろがきゅうと締まってしまう。
アルの顔を見ると、彼はぐっと唇を噛んで射精の快感に耐えていた。その表情があまりにも艶っぽくて思わず見惚れてしまう。かっこいい……♡
俺は腕を伸ばしてアルの身体を引き寄せると、彼の薄く綺麗な唇にキスをした。

「んっ♡ ん、んぅ……っ♡ はぁ♡♡」

二人の唾液が絡まって、とろけてしまいそうなほどに熱いキス。
たぶんもうお互いに理性が飛んでいた。俺もアルも無言のまま、ひたすら欲望のままに身体を貪り合う。部屋の中には行為の音と、お互いの荒い呼吸音、そして俺の喘ぎ声しかしなくなった。
抱き締め合った身体ごしにアルの体温を感じる。もはやセックスというより交尾といったほうがいいような有り様だったが、もうどちらでも構わなかった。アルと一緒になって、繋がれればそれでいい。俺は彼からの愛を全身で受け入れられることに、この上ない幸せを感じていた。



✦✦✦

- side アル -



———やってしまった。

あれからラビと何度も体位を変えて繋がって……もう途中からは記憶がおぼろげだった。完全に理性が飛んでしまっていた。
そして現在。僕が気付いた時には部屋の中は物凄いことになっていた。

ぐちゃぐちゃになったベッドシーツ。
精液や色んな体液にまみれて、ぐったりと意識を失っているラビ。
途中からゴミ箱に入れるのも億劫になり、結果そこらじゅうに散乱している使用済みのコンドーム。

「あ゛ーーーー……」

目の前の惨状を認識する。僕は自分の髪をぐしゃっと掻きながら、己のしてしまったことを酷く反省した。

ああ、やってしまった。ラビには絶対優しくしようって決めていたのに、彼があまりにも可愛くてつい理性を失ってしまった。これは今までで一番酷いかもしれない。
受け入れる側のほうに圧倒的に負担がかかる行為だ。ラビのことが何より大切だから、彼には絶対痛い思いや辛い思いはさせないようにと、セックスする時は出来るだけ優しくするよう心がけてきた。たまに加減できなくなることはあったが、それでも理性は保てる範囲で。しかし今回は軽く記憶が飛んでしまうくらいに夢中になっていたらしい。部屋中に散らばるコンドームを見て、こんな状態で我ながらよく避妊だけは徹底できたものだと変なところで感心してしまった。

しばらくは頭が回らずベッドの上でぼんやりしていたが、ふと我に返ってこの状況をなんとかしなければならないと思い立った。
とりあえず適当に服を着て、散らかった部屋を片付ける。それからシーツを交換して……このままではベタベタして不快だろうと、いまだ意識のないラビの身体も簡単にだが拭いておいた。何度も中でイキまくったラビはまだ敏感になっているようで、僕が少し触れただけでも甘い吐息を漏らしてピクリと身体を反応させる。その姿にまた情欲が煽られたが、あれだけやった後なのでさすがに自重した。
動くたびにズキズキと腰が痛む。僕でこれなんだから、ラビはもっと重症だろう。きっと明日は立てないと思うから、起きたら罪滅ぼしも兼ねてたくさんお世話してあげたい。……というか自分、本当にやりすぎだ。明日が休日で良かったと心底思った。

……責任転嫁ではないけど、今回に限ってはラビが可愛すぎたのが悪いと思う。
「アルのお嫁さんになる」……って、なんだそれは。アレで完全に暴発した。ラビはあの時点でだいぶふわふわしていたから、特に深く考えずに言ったのだろうけど……でも、さすがに反則だ。僕の自制がきかなくなるのも無理はないと思う。
あの時の彼を思い出すだけで、懲りずにまた下半身が反応しそうになる。何回ヤッたと思っているんだ、自分。あまりにも盛りすぎでは。

ラビと出会うまでは意にそぐわない性行為しかしたことがなかったので、わからなかったけど……最近になってだんだんと、自分の性欲は人並み以上なのかもしれないと自覚してきた。ラビとの行為は気持ちがよくて幸せで、少しタガが外れると気絶するまで抱き潰してしまう。これではラビが可哀想だ。もしかしたら怖がっていたりとか、無理を強いているかもしれない。嫌われたらどうしよう……。

「……ん、アル……?」

ベッドの縁に座ってひとり頭を抱えていると、ラビがゆっくりと目を開いて意識を取り戻した。とはいえ、まだ余韻でぼーっとしている感じだ。そんなラビもたまらなく可愛いのだが、生憎僕は自己嫌悪で少々それどころではない。いつものようにベッドに入って彼を甘やかす……という余裕が今はなかった。
そんな僕を見て、ラビがふわふわした口調で声をかけてくる。

「どうしたの……?」
「……えっと、反省中」
「なにそれ。かぁわい……」

僕が答えると、彼はくすりと笑ってそんなことを言う。
可愛いのは君のほうだ。行為の所為か寝起きだからか、とろりと蕩けている瞳。喘ぎすぎたせいで掠れている声も色気たっぷりで、正直今の彼はどんな男でも劣情を抱いてしまうんじゃないかと思えるほどに扇情的だった。
身体を重ねるようになってからというもの、ラビはどんどん色っぽくなっている気がする。ラビの魅力は僕だけが知っていればいいと思っていたのに、最近は無自覚に色んな人に対して色気を振り撒くので、僕は気が気じゃなかった。これでは皆がラビが可愛いことに気付いてしまう。いや、もうとっくに手遅れなんだけど……。

「ん……」

愛しい彼の髪を梳くように撫でていると、それが心地よかったのか、ラビは再びうとうとと微睡み始めたようだった。まだ夜は長い。無理をさせてしまったぶん、ゆっくり休んでほしい。僕はラビを撫でながら「おやすみ」と小さく囁いた。

「アル、すき。すきだよ……」

最後にとんでもなく可愛らしい爆弾を落としてから、ラビはすうすうと寝息を立てて夢の世界へ旅立っていった。

「はー、かわいい……」

僕は一人で顔を真っ赤にしながら、しばらくその場から動けなかった。
あれだけやったのに怒ってないとか有り得る……? いや怒らないどころか、こんな蕩けた顔で「好き」はもう破壊力抜群すぎて。こんな僕を好きだと言ってくれる上に、ここまでされても僕に恨み言ひとつ言わない彼の優しさが、僕をよりいっそう猛省させた。

ああ、次こそは最後まで優しくしよう。絶対しよう……。






(出来るとは言っていない)

end.
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】抱き締めてもらうにはどうしたら、

BL / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:1,117

可愛こぶっても可愛くない

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

自己肯定感低め男子に愛を捧げる

OZ
BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

貴方と一緒で幸せですにゃーん

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:28

猫が顔を洗うと雨

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:27

愛されたい!

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:13

名無しの龍は愛されたい。

BL / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:939

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:73

朗らか執着攻め×自己肯定感低卑屈受けの遊牧民BL(仮称)

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

処理中です...