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Stray cry baby01.
record04.悪魔の檻
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軽やかに宙を舞う白い鳥は、迷路のような路地裏をためらいなく進んでいく。
それを追いかけて、ユウイも路地裏の奥へと進んだ。
どれくらい進んだころだろうか。遠くに時計塔の鐘の音が十二回聞こえた。その音で、ユウイは自分がだいぶ街から離れたところまで来ていることに気が付いた。
はっと我に返り、後ろを振り返る。自分がどこから来たかなんて、とうにわからなくなっていた。
「……かえりみち、わからないわ」
何も考えず白い鳥を追いかけてきてしまった。ユウイは急に不安になり、立ち尽くした。白い鳥はさらに奥へと進んでいく。
そこへ、ガチャ、という物音が聞こえてきた。ユウイは野良犬がいるのではと、音のほうへ進んでいった。白い鳥も同じ方向へ飛んで行ったので、ためらわなかった。
二つほど角を曲がったところで、前方になにやら光が広がっているのが見えた。金色の淡い光が、水泡のようにぽこぽこ空へ上がっていく。
ユウイはその光を目指して三つ目の角を曲がった。すると、今度は花の形をした光が空へ向かって上がっていくのが見えた。
その不思議で幻想的な光景の中に、見知らぬ誰かの後ろ姿があった。白髪の、長い髪。白のローブに色白で華奢な手。
女の子だわ。ユウイは思った。
その少女の掲げる手の上に、ユウイが追いかけていた白い鳥がいた。白い鳥は少女の頭上を旋回すると、二枚の羽根に変化した。そしてその二枚の羽根は少女の手の中におさまっていく。
まるで夢か幻を見ているような光景だ。ユウイはぼんやりと眺めていたが、ふと我に返り、帰り道を聞こうと少女の元へ歩み寄った。
「あの、あの、えっと」
また緊張して言葉がうまくでない。ユウイがしどろもどろで話しかけると、少女は振り返り、驚いた表情でユウイを見た。
ユウイも、振り返った少女の顔を見て驚いた。琥珀色の大きな瞳に長いまつげ、小さな鼻と薄桃色の唇。まるで絵本のお姫様だ。ユウイは言葉が出なかった。
しばらく二人とも同じように驚いた顔でお互いを見ていたが、少女の表情が突然変わった。
お姫様のような容姿に似合わぬ、険しい表情に。
何だろう、何か起こらせるようなこと、してしまったかしら。ユウイは不安になり、泣きだしそうになった。何でわたし、いつもこうなんだろう。何で何もしてないのに、相手を怒らせたり、笑われたり、嫌われたりするんだろう。
ユウイの目から、ぽろりと涙がこぼれた。やっぱりわたし、いなくなったほうがいいんだわ。迷子のまま消えちゃったほうがいいんだわ。ぽろぽろぽろぽろ、涙がこぼれおちていく。きっとまた、自分は変な子、面倒くさい子と思われているに違いない。
「……ごめんなさい」
声を振り絞り、ユウイは少女に謝った。そうしてその場から立ち去ろうとしたとき、背後からガチャリ、ガチャリと音が聞こえた。振り向くと、そこに真っ黒な骸骨が立っていた。
骸骨はユウイと顔が合うと、ぐらぐら左右に揺れる奇妙な動きを見せ、こちらに歩き始めた。その手には錆びた剣を持っている。驚いて声も出ないユウイの手を少女はつかみ、走り出した。
骸骨は剣を振り上げ、ユウイと少女の後を追いかけ走り始めた。くぐもった声で何かを叫びながら、二人を追いかけてくる。ユウイはなにがなんだかわからなかったが、必死で少女と走った。
あれは何? 悪魔って、あれのこと?
ひとつふたつと角を曲がり、迷路のような路地を駆け抜ける。けれど骸骨を振り切れない。獣のような雄叫びを上げながら、骸骨が剣を振りかざし追ってくる。
そんななか、少女が突然足を止めた。前方から黒い人影が迫ってくる。最悪だわ! とユウイは思った。錆びた剣を持った黒い骸骨。二体目だ。
少女は胸の赤い宝石が付いたネックレスを握りしめた。そしてつま先で地面に文字を書く。
すると少女の目の前に、赤い花の宝石がついた長い杖が現れた。
正面で剣を振り上げた骸骨を、少女はおもいきり杖の頭で殴った。狭い路地の向かいの壁に、骸骨がふっとぶ。
その隙に少女がユウイの手を取り、走り出す。後方の骸骨が二人に追いつき、剣を振り上げていた。
なんとか後方の骸骨を振り切り、路地を走ると、また角を曲がったところで壁一面に白い文字が書かれた場所に出た。ユウイがそこに足を踏み入れようとすると、少女はユウイの手をはなし後ろを振り返った。
「こっち、こっちであってるわ! わたし、このみちならわかる!」
ユウイは少女の手を取り再び走り出そうとした。けれど少女はその手を振り払った。どうして! ユウイがそう少女に言ったのと同時に、また別の骸骨が壁の向こうから現れ、驚くような速さでユウイに向かって剣を振り下ろした。
ユウイがぎゅっと目を瞑り、その場にしゃがみこむと、はじけるような金属音が頭上で響いた。
目を開くと、少女がユウイを骸骨の剣からかばうように杖で受け止めていた。
そして少女は骸骨の腹を蹴り上げ、今度はユウイを突き飛ばした。
痛い! 大きくしりもちをついたユウイは、呆然とその場に座り込んだ。骸骨たちはユウイに目もくれず、少女だけを攻撃している。
少女が何度骸骨の頭を殴打しても、骸骨たちは立ち上がり少女に攻撃を仕掛けてくる。次第に少女の攻撃の手も弱くなり、ついに少女の手から杖がはじかれた。
その勢いで倒れこむ少女に、骸骨が剣を振り上げる。ユウイはとっさに地面の石をつかみ、骸骨に投げつけた。
石は骸骨の肩にゴツンと当たり、地面に転がった。骸骨たちが不思議そうにその石を見る。そして石からユウイに視線が移った。
ゆらり、ゆらり。骸骨がユウイに向かって歩き出し、腰が抜けて動けないユウイの頭上で剣を振り上げる。
どん! と何かに背中を押され、横に倒れたユウイの足元で二本の剣が交差して突き刺さった。隣には少女の姿がある。少女がユウイの体をかばうように抱きしめると同時に、耳を劈くような音が周囲に鳴り響いた。
ビー! という警報音のような音とともに、壁に書かれた白い文字がまるで生きているかのようにうねうねと動きだし、文字の羅列を変えていった。そしてぴたりとその動きを止めると、白い文字が流れるように赤い文字へと変化していった。
それを追いかけて、ユウイも路地裏の奥へと進んだ。
どれくらい進んだころだろうか。遠くに時計塔の鐘の音が十二回聞こえた。その音で、ユウイは自分がだいぶ街から離れたところまで来ていることに気が付いた。
はっと我に返り、後ろを振り返る。自分がどこから来たかなんて、とうにわからなくなっていた。
「……かえりみち、わからないわ」
何も考えず白い鳥を追いかけてきてしまった。ユウイは急に不安になり、立ち尽くした。白い鳥はさらに奥へと進んでいく。
そこへ、ガチャ、という物音が聞こえてきた。ユウイは野良犬がいるのではと、音のほうへ進んでいった。白い鳥も同じ方向へ飛んで行ったので、ためらわなかった。
二つほど角を曲がったところで、前方になにやら光が広がっているのが見えた。金色の淡い光が、水泡のようにぽこぽこ空へ上がっていく。
ユウイはその光を目指して三つ目の角を曲がった。すると、今度は花の形をした光が空へ向かって上がっていくのが見えた。
その不思議で幻想的な光景の中に、見知らぬ誰かの後ろ姿があった。白髪の、長い髪。白のローブに色白で華奢な手。
女の子だわ。ユウイは思った。
その少女の掲げる手の上に、ユウイが追いかけていた白い鳥がいた。白い鳥は少女の頭上を旋回すると、二枚の羽根に変化した。そしてその二枚の羽根は少女の手の中におさまっていく。
まるで夢か幻を見ているような光景だ。ユウイはぼんやりと眺めていたが、ふと我に返り、帰り道を聞こうと少女の元へ歩み寄った。
「あの、あの、えっと」
また緊張して言葉がうまくでない。ユウイがしどろもどろで話しかけると、少女は振り返り、驚いた表情でユウイを見た。
ユウイも、振り返った少女の顔を見て驚いた。琥珀色の大きな瞳に長いまつげ、小さな鼻と薄桃色の唇。まるで絵本のお姫様だ。ユウイは言葉が出なかった。
しばらく二人とも同じように驚いた顔でお互いを見ていたが、少女の表情が突然変わった。
お姫様のような容姿に似合わぬ、険しい表情に。
何だろう、何か起こらせるようなこと、してしまったかしら。ユウイは不安になり、泣きだしそうになった。何でわたし、いつもこうなんだろう。何で何もしてないのに、相手を怒らせたり、笑われたり、嫌われたりするんだろう。
ユウイの目から、ぽろりと涙がこぼれた。やっぱりわたし、いなくなったほうがいいんだわ。迷子のまま消えちゃったほうがいいんだわ。ぽろぽろぽろぽろ、涙がこぼれおちていく。きっとまた、自分は変な子、面倒くさい子と思われているに違いない。
「……ごめんなさい」
声を振り絞り、ユウイは少女に謝った。そうしてその場から立ち去ろうとしたとき、背後からガチャリ、ガチャリと音が聞こえた。振り向くと、そこに真っ黒な骸骨が立っていた。
骸骨はユウイと顔が合うと、ぐらぐら左右に揺れる奇妙な動きを見せ、こちらに歩き始めた。その手には錆びた剣を持っている。驚いて声も出ないユウイの手を少女はつかみ、走り出した。
骸骨は剣を振り上げ、ユウイと少女の後を追いかけ走り始めた。くぐもった声で何かを叫びながら、二人を追いかけてくる。ユウイはなにがなんだかわからなかったが、必死で少女と走った。
あれは何? 悪魔って、あれのこと?
ひとつふたつと角を曲がり、迷路のような路地を駆け抜ける。けれど骸骨を振り切れない。獣のような雄叫びを上げながら、骸骨が剣を振りかざし追ってくる。
そんななか、少女が突然足を止めた。前方から黒い人影が迫ってくる。最悪だわ! とユウイは思った。錆びた剣を持った黒い骸骨。二体目だ。
少女は胸の赤い宝石が付いたネックレスを握りしめた。そしてつま先で地面に文字を書く。
すると少女の目の前に、赤い花の宝石がついた長い杖が現れた。
正面で剣を振り上げた骸骨を、少女はおもいきり杖の頭で殴った。狭い路地の向かいの壁に、骸骨がふっとぶ。
その隙に少女がユウイの手を取り、走り出す。後方の骸骨が二人に追いつき、剣を振り上げていた。
なんとか後方の骸骨を振り切り、路地を走ると、また角を曲がったところで壁一面に白い文字が書かれた場所に出た。ユウイがそこに足を踏み入れようとすると、少女はユウイの手をはなし後ろを振り返った。
「こっち、こっちであってるわ! わたし、このみちならわかる!」
ユウイは少女の手を取り再び走り出そうとした。けれど少女はその手を振り払った。どうして! ユウイがそう少女に言ったのと同時に、また別の骸骨が壁の向こうから現れ、驚くような速さでユウイに向かって剣を振り下ろした。
ユウイがぎゅっと目を瞑り、その場にしゃがみこむと、はじけるような金属音が頭上で響いた。
目を開くと、少女がユウイを骸骨の剣からかばうように杖で受け止めていた。
そして少女は骸骨の腹を蹴り上げ、今度はユウイを突き飛ばした。
痛い! 大きくしりもちをついたユウイは、呆然とその場に座り込んだ。骸骨たちはユウイに目もくれず、少女だけを攻撃している。
少女が何度骸骨の頭を殴打しても、骸骨たちは立ち上がり少女に攻撃を仕掛けてくる。次第に少女の攻撃の手も弱くなり、ついに少女の手から杖がはじかれた。
その勢いで倒れこむ少女に、骸骨が剣を振り上げる。ユウイはとっさに地面の石をつかみ、骸骨に投げつけた。
石は骸骨の肩にゴツンと当たり、地面に転がった。骸骨たちが不思議そうにその石を見る。そして石からユウイに視線が移った。
ゆらり、ゆらり。骸骨がユウイに向かって歩き出し、腰が抜けて動けないユウイの頭上で剣を振り上げる。
どん! と何かに背中を押され、横に倒れたユウイの足元で二本の剣が交差して突き刺さった。隣には少女の姿がある。少女がユウイの体をかばうように抱きしめると同時に、耳を劈くような音が周囲に鳴り響いた。
ビー! という警報音のような音とともに、壁に書かれた白い文字がまるで生きているかのようにうねうねと動きだし、文字の羅列を変えていった。そしてぴたりとその動きを止めると、白い文字が流れるように赤い文字へと変化していった。
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