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1章 異世界に召喚されたら職業が旅人だった件
こっそりと後をつけてみる
しおりを挟むドスンという音で俺は我に返った。グレータービーストが移動を始めたのだ。どうやら笛の音がする方向に向かっているようだ。……よし、ついて行ってみるか。半分以上は怖い物見たさだ。一体どんな奴がこんな魔物を飼い慣らしているのかという興味もあった。
逃げる時は夢中で気がつかなかったが、入り口とは反対側の奥には通路が一本。その入り口でグレータービーストを待つ人影が一つあった。全身黒ずくめで顔を隠した――恐らく男。全身から怪しさを漂わせている。町で見かけたなら関わってはいけない人ナンバーワンだ!
そいつはグレータービーストに臆する事なく、まるでペットに構うかのように接し始めた。マジでヤバいヤツじゃねーか! 俺、気付かれてないよな? ……お、おう? なんかあの凶悪・凶暴だったグレータービーストさんが、見かけからは想像つかない可愛い声で鳴いてるんですけどぉぉ!? 鼻先撫でられて甘えてるっつーか、マジでペットなのかよ!? 最後に首輪を嵌めて終了。……本当にペットだったぞ、俺たちの絶望さん。
――気を取り直して。
男はグレータービーストを従えて更に通路の奥へと進んでいく。その先は行き止まりで円形の広間になっていた。あれ、このダンジョン地下十階まであるんじゃなかったか? ……ああ、転送装置か! 五階までは階段移動だったので新鮮だ。これぞファンタジーって感じがする。
その広間には新たな人物が待っていた。豪華な衣装に身を包んだ細身の骨みたいな性悪そうな男だ。貴族なんだろうが……あいつ、見たことあるな。何処だっただろうか?
「――首尾は?」
「あれだけコイツが暴れたのだ『旅人』ごときが生き延びられるはずがない」
クイっと黒ずくめが紐を引っ張ると、グレータービーストが「グォォォー」と威嚇の声を上げた。ギョッと飛び退く貴族。俺にはグレータービーストが「見くびるな」と貴族を脅したようにも見えた。当然、貴族の男は恐れおののいて地面に腰をついた。なんてったって今は勇者すらも敵わない魔物様の威嚇だ。
「そ、それもそうだな。しかもスキルすら使えないと聞く。既にダンジョンに吸収されている頃だろう」
彼らはどうやら俺を始末したと判断したようである。ダンジョンの特性――倒されたものは時間が経つとダンジョンに吸収されてしまう――に助けられたみたいだ。
「しかし『勇者』殿達にも困ったものだ。あんな役立たずの『旅人』に拘るとは」
思い出した。最初に職業診断した時に居合わせた王の側近の一人だ! この野郎、本人たちが居ないと思って好き勝手言いやがって!! 役にたつか立たないかで友人選んでる訳じゃねぇんだよ!!
「同郷と聞く。ならば仕方ない」
「……ふん、そんなものか」
黒ずくめ……お前いいヤツだな。なんか側近との関係もビジネスライクっぽいし、子飼いじゃなく雇われてるだけなのかもしれない。それにしてもこの国の上層部、まじ腐ってやがる。この側近の独断だとしても、こんな罠まで使って人間一人殺そうとするなんて……!
俺が怒りに燃えている間に側近たちは姿を消していた。
*
ひとしきり頭に血が上ったのでなんだかクラクラするが、とりあえずダンジョン脱出の算段をつけなければならない。
来た道を引き返す? ノー。扉に鍵が掛かっている可能性大なので無理だ! 俺たちの絶望であるグレータービーストさんですら突破出来なかった護りを凌駕する火力を俺は持ち合わせてはいない。
助けが来るまで待つ? ノー。俺を殺そうと企んだ奴らが救助を黙認するとは思えない。仮に実現したとしても、その頃にはたぶん俺が干上がっている。
個人的には入って来た入り口から戻るのもアウトだと思ってる。気配遮断があっても、だ。そもそもあの国に戻るつもりは無い。戻っても同じような目に遭うのがオチである。
さっきチラッと考えた事だが……今の俺にできるのは恐らく、クラスの皆がこの国に協力しなければならない理由を無くす事だ。
――つまりここを何とか脱出して、元の世界に帰る方法を探す!
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