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4章 魔術大国に行ってみる件
ストーカーの割に真面目だな……
しおりを挟むリトは俺たちより若干年上に見えた。他に、仕草なんかに隠しようのない気品があるから、多分貴族かなんかなのだろう。目的のためなら情けない姿でも躊躇なく見せるあたりが貴族らしくはないが。気品があるといえばシータもだよなー。なんか二人には共通するものを感じる。まあ今はどうでもいいことか。
彼はゆったりとしたソファに身を沈め、俺たちにも反対のソファに座るよう勧めた。
「私たちは魔術に関する研究をしているんだが、その中でも一番力を入れているのが召喚術でね」
なんでもこの国にも異世界召喚術が残っているのだが、不完全なのだという。呼べはするが帰せない。
「……なあ、リトさんよ。それ、俺らが知ってもいい事なん?」
……なんか嫌な予感しかしないんだが。
ヤツは満面の笑みで答えた。
「――もちろん国家機密さ☆ これで君達は否応なしに私たちの仲間だ!」
「ちょっと待てぇぇ!?」
「リュージ君は元の世界に帰る方法 を探しているんだろう? なら悪い事だとは思わないがね」
――ッ!?
思いもかけないリトの言葉に刀へ手が伸びる。コイツ、今までの情けない姿は演技でこっちが本性か!
「落ち着きたまえ。こちらに害意はないよ」
「なら、何が目的だ?」
刀から手を離さず問う。名前まで知ってるとかストーカーかよ。
「純粋に研究のため……と言えれば良かったんだが、実際はもう少し複雑だね」
「簡潔に」
俺の言葉にリトはやれやれと肩をすくめた。
「アルスター王国の召喚術は、この国の物とほぼ同じ状態だと思われる」
「……そ、れは」
「呼べるが帰せない」
――あの国王、大嘘ぶっこいてやがったのか!? ……いや、リトの言葉が本当なのか確かめる術はない。逆も然りだが。
「証拠は?」
「あの国に呼ばれた勇者は皆、こちらで生涯を終えているよ。他の国に関しても同様に」
「だが、国王は確かに言ったぞ。魔王を倒せば元の世界に帰すって」
「十中八九、口から出まかせだろうね。現状、完全な形で残っている異世界召喚陣は見つかってはいないからね」
過去に、勇者を召喚されるのを恐れた魔王が壊して回ったのだという。辛うじて残っているものも、どこかしら不具合をかかえているとリトは言う。
「このままではアルスター王国に戦力が集中しすぎて、各国のパワーバランスが崩れてしまう」
「崩れたらどうなるんだ?」
俺の質問にリトは眉を下げて答えた。
「今はまだ人族と険悪な魔族がいるからいいが、そのトップである魔王が倒されれば……今度は人族同士の争いが始まってしまうだろうね」
そうなれば力を持った者たちは利用される事になる。いくら個人の力が強くても、国という巨大な存在の前では無力だ。人海戦術とかされたら、先に力尽きるのはどう考えても個人の方だもんな。
「お前が俺たちに協力するのは、勇者たちの力を国に利用させないためなのか?」
こくりとうなずくリト。
「それにね、呼んだらそのまま呼びっぱなしというのは魔術大国の者としてのプライドが許さないんだよ」
そう告げた目は今までの中で一番真剣なものだった。……国とか世界とか色々話は飛んだが、最後は結局プライドが一番なんですね、わかります。色々理屈は捏ねてたがつまりコイツ、根っからの研究バカなんだな。こういう奴あんま嫌いじゃないかもしれん。
なら、答えは決まった!
「仲間になる件、納得してやるよ」
「本当かい!? 助かったよー。結社の性質上、肉体派が少なくてねぇ……」
「……もしかして俺ら、雑用係か何かか?」
「いやいや。もちろん、勇者たちとのパイプ役という重要な役柄でもあるよ!」
なんか取って付けた感があるのは気のせいか……?
「話は終わりまして?」
シータさんや。アナタ俺たちが緊迫したやりとりしてた中、何普通にお茶飲んでくつろいでんの?
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