聖鎧の騎士 ロランの命約

菱下泰典

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第一部

12.天奏

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 エルムヴァレーン王国、エルムヴァル城内の一角にある練兵場れんぺいじょう
 城壁にほど近いこの場所は、騎士や衛兵が日頃訓練を行う場所である。
 そこに、一騎の機甲が日の光を浴びて立っていた。
 頭部から足部の先まで、全身純白の機甲。
 その機甲を前にして、フォシェルとオロフ、それにトゥールと、さらに二人の人物が佇んでいた。
 二人の人物──彼女らはアヴィラ帝国よりつかわされた大使たちであった。
 
「フォシェル殿下、いかがでしょう? 我がアヴィラ帝国の機甲、《天奏てんそう》は? お気に召していただけましたか?」

 二人の大使のうち、片方の女が言う。
 茶褐色の外套を身にまとった、背の高い妖艶ようえんな女である。
 年は見たところ、二十と少し。
 艶のある黒髪が耳を覆い、毛先は腰まで伸びている。
 黒い髪の持ち主にしては珍しく、瞳の色は蒼い。
 そして、もう片方。
 こちらも黒髪の女と同じ外套をまとっているが、その顔には奇抜な銀色の仮面をつけていた。
 頭をすっぽりと覆うようなかたちの仮面で、目鼻はなくのっぺりとしていて、大きな卵のようである。
 表面に穴などはなく、一方向にしか光を通さない「片面透過素材かためんとうかそざい」で出来ているようで、外から内は見えないが、内から外は見えるようだ。
 仮面の人物は、黒髪の女よりも背は低いが、肉付きや立ち振る舞いから見て、男であろう。
 外套の隙間からは、腰の左側にたずさえた二振りの剣が見える。
 
「素晴らしい。ルート殿、本当にこのようなものをもらってもかまわんのか?」

 フォシェルが目を輝かせて、美しい純白の機甲を見上げながら言う。
 流線形を多様したその外観は、細かなところまで意匠を凝らしており、騎士団の無味乾燥むみかんそうなものとは違って気品を感じさせる。
 騎士団の標準兵装の機甲よりも大きく、トゥールの《紅鳳》と同等の背の高さだった。
 
「ええ。もちろんです。我らが皇帝は次期エルムヴァレーン国王陛下との関係をよりみつにすることを望んでおられますゆえ」

 ルートと呼ばれたあでやかな女が、口元をほころばせる。
 
「そうか。皇帝陛下には何か返礼品を──」
「どうかお気になさらず。それと、あちらも」

 ルートが機甲の脇に置かれた、台車に乗せられた物体に目を移す。
 そこには巨大な剣があった。
 
「あちらは《竜牙剣りゅうがけん》です」

 それを聞いて、フォシェルたちは目をいた。
 
 《竜牙剣》はかつての大戦時に存在した、聖鎧と共に失われて久しい伝説級の武具──聖戦器せいせんきである。
 聖鎧《竜心甲りゅうしんこう》用の剣としてつくられた、その名のとおり、竜の牙より生まれたものだ。
 剣身は高い耐熱性能を持ち、いかなる温度であっても溶かすことは出来ない。
 よって火の万象術を用いることで、超高熱の、あらゆるものを両断する剣となる。
 もちろん聖鎧だけでなく、機甲で使用することも可能である。
 大戦時は数多くあったと伝え聞くが、今ではほとんど残っていないだろう。
 そんな国宝であってもおかしくないものが、無造作に置かれてあった。
 
「あちらもどうか、お受け取りください」

 ルートがうやうやしく辞儀じぎをする。
 
「まさにエルムヴァレーンの《紅き獅子》に相応しいものかと」

 淫靡いんびさを伴った流し目を送られたトゥールは、難しい顔をして押し黙っていた。
 
「こちらも素晴らしいものですな。私からも皇帝陛下にお礼を申し上げます」

 トゥールの態度を不適切と感じ、あわててオロフが口をさしはさんだ。
 
「ええ。喜んでいただければ、我々も嬉しく思います」

 ルートは気を悪くすることなく、微笑んだ。
 
「それでは中で杯を傾けながら、親睦を深めましょうぞ」

 オロフがルートたちを小宴しょうえんに誘う。
 もうこれ以上は、この場所に用はない。
 
「ありがとうございます。喜んで頂戴いたします」

 ルートがそう答えると、トゥールをのぞいて、皆で練兵場を後にした。

「……」

 練兵場に一人残ったトゥールはふと何かが気になって、はたとその目を白い機甲に向けた。
 しかし、これといったおかしなところは見られなかった。
 トゥールは、自分でもはっきりと説明出来ない感覚に首を傾げながら、兵舎の方に足を向けた。
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