12 / 35
第一部
12.天奏
しおりを挟む
エルムヴァレーン王国、エルムヴァル城内の一角にある練兵場。
城壁にほど近いこの場所は、騎士や衛兵が日頃訓練を行う場所である。
そこに、一騎の機甲が日の光を浴びて立っていた。
頭部から足部の先まで、全身純白の機甲。
その機甲を前にして、フォシェルとオロフ、それにトゥールと、さらに二人の人物が佇んでいた。
二人の人物──彼女らはアヴィラ帝国より遣わされた大使たちであった。
「フォシェル殿下、いかがでしょう? 我がアヴィラ帝国の機甲、《天奏》は? お気に召していただけましたか?」
二人の大使のうち、片方の女が言う。
茶褐色の外套を身にまとった、背の高い妖艶な女である。
年は見たところ、二十と少し。
艶のある黒髪が耳を覆い、毛先は腰まで伸びている。
黒い髪の持ち主にしては珍しく、瞳の色は蒼い。
そして、もう片方。
こちらも黒髪の女と同じ外套をまとっているが、その顔には奇抜な銀色の仮面をつけていた。
頭をすっぽりと覆うようなかたちの仮面で、目鼻はなくのっぺりとしていて、大きな卵のようである。
表面に穴などはなく、一方向にしか光を通さない「片面透過素材」で出来ているようで、外から内は見えないが、内から外は見えるようだ。
仮面の人物は、黒髪の女よりも背は低いが、肉付きや立ち振る舞いから見て、男であろう。
外套の隙間からは、腰の左側に携えた二振りの剣が見える。
「素晴らしい。ルート殿、本当にこのようなものをもらってもかまわんのか?」
フォシェルが目を輝かせて、美しい純白の機甲を見上げながら言う。
流線形を多様したその外観は、細かなところまで意匠を凝らしており、騎士団の無味乾燥なものとは違って気品を感じさせる。
騎士団の標準兵装の機甲よりも大きく、トゥールの《紅鳳》と同等の背の高さだった。
「ええ。もちろんです。我らが皇帝は次期エルムヴァレーン国王陛下との関係をより密にすることを望んでおられますゆえ」
ルートと呼ばれた艶やかな女が、口元をほころばせる。
「そうか。皇帝陛下には何か返礼品を──」
「どうかお気になさらず。それと、あちらも」
ルートが機甲の脇に置かれた、台車に乗せられた物体に目を移す。
そこには巨大な剣があった。
「あちらは《竜牙剣》です」
それを聞いて、フォシェルたちは目を剥いた。
《竜牙剣》はかつての大戦時に存在した、聖鎧と共に失われて久しい伝説級の武具──聖戦器である。
聖鎧《竜心甲》用の剣としてつくられた、その名のとおり、竜の牙より生まれたものだ。
剣身は高い耐熱性能を持ち、いかなる温度であっても溶かすことは出来ない。
よって火の万象術を用いることで、超高熱の、あらゆるものを両断する剣となる。
もちろん聖鎧だけでなく、機甲で使用することも可能である。
大戦時は数多くあったと伝え聞くが、今ではほとんど残っていないだろう。
そんな国宝であってもおかしくないものが、無造作に置かれてあった。
「あちらもどうか、お受け取りください」
ルートが恭しく辞儀をする。
「まさにエルムヴァレーンの《紅き獅子》に相応しいものかと」
淫靡さを伴った流し目を送られたトゥールは、難しい顔をして押し黙っていた。
「こちらも素晴らしいものですな。私からも皇帝陛下にお礼を申し上げます」
トゥールの態度を不適切と感じ、あわててオロフが口をさしはさんだ。
「ええ。喜んでいただければ、我々も嬉しく思います」
ルートは気を悪くすることなく、微笑んだ。
「それでは中で杯を傾けながら、親睦を深めましょうぞ」
オロフがルートたちを小宴に誘う。
もうこれ以上は、この場所に用はない。
「ありがとうございます。喜んで頂戴いたします」
ルートがそう答えると、トゥールをのぞいて、皆で練兵場を後にした。
「……」
練兵場に一人残ったトゥールはふと何かが気になって、はたとその目を白い機甲に向けた。
しかし、これといったおかしなところは見られなかった。
トゥールは、自分でもはっきりと説明出来ない感覚に首を傾げながら、兵舎の方に足を向けた。
城壁にほど近いこの場所は、騎士や衛兵が日頃訓練を行う場所である。
そこに、一騎の機甲が日の光を浴びて立っていた。
頭部から足部の先まで、全身純白の機甲。
その機甲を前にして、フォシェルとオロフ、それにトゥールと、さらに二人の人物が佇んでいた。
二人の人物──彼女らはアヴィラ帝国より遣わされた大使たちであった。
「フォシェル殿下、いかがでしょう? 我がアヴィラ帝国の機甲、《天奏》は? お気に召していただけましたか?」
二人の大使のうち、片方の女が言う。
茶褐色の外套を身にまとった、背の高い妖艶な女である。
年は見たところ、二十と少し。
艶のある黒髪が耳を覆い、毛先は腰まで伸びている。
黒い髪の持ち主にしては珍しく、瞳の色は蒼い。
そして、もう片方。
こちらも黒髪の女と同じ外套をまとっているが、その顔には奇抜な銀色の仮面をつけていた。
頭をすっぽりと覆うようなかたちの仮面で、目鼻はなくのっぺりとしていて、大きな卵のようである。
表面に穴などはなく、一方向にしか光を通さない「片面透過素材」で出来ているようで、外から内は見えないが、内から外は見えるようだ。
仮面の人物は、黒髪の女よりも背は低いが、肉付きや立ち振る舞いから見て、男であろう。
外套の隙間からは、腰の左側に携えた二振りの剣が見える。
「素晴らしい。ルート殿、本当にこのようなものをもらってもかまわんのか?」
フォシェルが目を輝かせて、美しい純白の機甲を見上げながら言う。
流線形を多様したその外観は、細かなところまで意匠を凝らしており、騎士団の無味乾燥なものとは違って気品を感じさせる。
騎士団の標準兵装の機甲よりも大きく、トゥールの《紅鳳》と同等の背の高さだった。
「ええ。もちろんです。我らが皇帝は次期エルムヴァレーン国王陛下との関係をより密にすることを望んでおられますゆえ」
ルートと呼ばれた艶やかな女が、口元をほころばせる。
「そうか。皇帝陛下には何か返礼品を──」
「どうかお気になさらず。それと、あちらも」
ルートが機甲の脇に置かれた、台車に乗せられた物体に目を移す。
そこには巨大な剣があった。
「あちらは《竜牙剣》です」
それを聞いて、フォシェルたちは目を剥いた。
《竜牙剣》はかつての大戦時に存在した、聖鎧と共に失われて久しい伝説級の武具──聖戦器である。
聖鎧《竜心甲》用の剣としてつくられた、その名のとおり、竜の牙より生まれたものだ。
剣身は高い耐熱性能を持ち、いかなる温度であっても溶かすことは出来ない。
よって火の万象術を用いることで、超高熱の、あらゆるものを両断する剣となる。
もちろん聖鎧だけでなく、機甲で使用することも可能である。
大戦時は数多くあったと伝え聞くが、今ではほとんど残っていないだろう。
そんな国宝であってもおかしくないものが、無造作に置かれてあった。
「あちらもどうか、お受け取りください」
ルートが恭しく辞儀をする。
「まさにエルムヴァレーンの《紅き獅子》に相応しいものかと」
淫靡さを伴った流し目を送られたトゥールは、難しい顔をして押し黙っていた。
「こちらも素晴らしいものですな。私からも皇帝陛下にお礼を申し上げます」
トゥールの態度を不適切と感じ、あわててオロフが口をさしはさんだ。
「ええ。喜んでいただければ、我々も嬉しく思います」
ルートは気を悪くすることなく、微笑んだ。
「それでは中で杯を傾けながら、親睦を深めましょうぞ」
オロフがルートたちを小宴に誘う。
もうこれ以上は、この場所に用はない。
「ありがとうございます。喜んで頂戴いたします」
ルートがそう答えると、トゥールをのぞいて、皆で練兵場を後にした。
「……」
練兵場に一人残ったトゥールはふと何かが気になって、はたとその目を白い機甲に向けた。
しかし、これといったおかしなところは見られなかった。
トゥールは、自分でもはっきりと説明出来ない感覚に首を傾げながら、兵舎の方に足を向けた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
転生したら幽閉王子でした~これどうすんの?
サクラ近衛将監
ファンタジー
神様の眷属の過失が原因の事故に遭って死んだ桜庭雄一が異世界に転生したら、とある国の忌避すべき王子として幽閉されていた。
転生にはチートがつきもののはずだが、事故で死んだ者が300名を超えるために、個別にチートは与えられず、転生先の者の能力を生かせと神に告げられている。
「神の加護」ではないけれど、「恩寵」が与えられているので、当該異世界では努力を為した分、通常に比べると成果があるらしい。
これはとある国の幽閉王子に転生した男の冒険譚である。
原則として、毎週月曜日20時に投稿予定です。
薬師だからってポイ捨てされました!2 ~俺って実は付与も出来るんだよね~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト=グリモワール=シルベスタは偉大な師匠(神様)とその脇侍の教えを胸に自領を治める為の経済学を学ぶ為に隣国に留学。逸れを終えて国(自領)に戻ろうとした所、異世界の『勇者召喚』に巻き込まれ、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
『異世界勇者巻き込まれ召喚』から数年、帰る事違わず、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居るようだが、倒されているのかいないのか、解らずとも世界はあいも変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様とその脇侍に薬師の業と、魔術とその他諸々とを仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話のパート2、ここに開幕!
【ご注意】
・このお話はロベルトの一人称で進行していきますので、セリフよりト書きと言う名のロベルトの呟きと、突っ込みだけで進行します。文字がびっしりなので、スカスカな文字列を期待している方は、回れ右を推奨します。
なるべく読みやすいようには致しますが。
・この物語には短編の1が存在します。出来れば其方を読んで頂き、作風が大丈夫でしたら此方へ来ていただければ幸いです。
勿論、此方だけでも読むに当たっての不都合は御座いません。
・所々挿し絵画像が入ります。
大丈夫でしたらそのままお進みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる