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知らない力

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「おお、懐かしいなあ。スキルとかこっちの世界なら使えるんだ」

 カケル君は自身のステータスを確認しているようです。

「ほんとだ。昔習った魔術とかちゃんとある。でも今の能力はあまり使いやすくないから助かったかも」

 メルティさんは向こうで何やら力を手に入れたようですがこちらからはステータス画面での確認はできません。

「昔貰った僕のアイテム。すごく相性よさそうだ……よし、試してみようか。日本で鍛えられた僕たちがどれだけ通じるかを」

 昔見た少年の顔が今は頼もしく見えます。本当に地球でいろいろあったようですね。顔つきでわかります。



「話し合いは終わったかしら。時間があったからあなた達のステータスを覗かせてもらったけど駆け出しの新人みたいなんだけどそれでも挑むの?」

 そういいながらも彼らを持っている間にティアは最大限の強化スキルと回復を自身に施しているところはさすがだと思います。

「ご忠告どうも。遠慮しなくていいよ。こっちはしょっぱなからフルバーストだから」

 カケル君は手に持っていたスイッチのようなものを押しました。それが何かはわかりませんが明らかに先程までと様子が違います。

「グラム、ダーインスレイヴ、布都御魂ふつのみたま」

 彼はアイテムボックスから収納されていたアイテムを取り出しました。それは女神様が出血大サービスであげたチート剣3本。それらを彼は手に握るわけではなく、宙に浮かせているようです。剣は彼の周りをくるくると回りまるでダンスをしているようでした。



「僕の能力はサイコキネシス。物体を意志だけで思うままに動かせるんだ」

 私のステータス表示にない力です。

「スキルでも加護でも補正でもない力……どうしよう興奮してきちゃった」

 ティアは恐れるでもなくこの状況をまるで遠足前夜の子供のようにわくわくしています。

「それじゃ、いくよ。先手必勝だ」

 カケル君が3本の剣をティアめがけて飛ばします。それをありったけの障壁を展開することで防ごうとしています。十枚くらいはある分厚い障壁をグラムと呼ばれた剣はガラスでも割るかのようにたやすく粉々にしていきます。勢いは衰えず障壁展開で隙ができていたティアにダーインスレイヴが突き刺さります。ドクン、ドクンと突き刺さった剣は鼓動のような音をたて本能的な恐怖を煽ります。数秒後にティアの体が霧散していきました。最後に布都御魂がなにかを切ったようです。ステータス確認で状況を確認してみると蘇生スキルと補正の発動を止めていますね。スキルを斬って止めることができる剣、ただただチートですね。



「なんとかなったかな」

 安堵の表情を浮かべるカケル君。

「私の出番なかった見たいでよかった」

 二人は祝勝ムードです。

 しかし、あっけない。あまりにあっけないです。えっと?さすがにうそですよねティア。ちゃんと作戦があって……いつになってもティアが戻ってくる様子がありません。



「それじゃあ、天使様そろそろ帰してって、え?なんかかおいろわるくありませんか?」

 そうですよねカケル君は魔王候補を倒してくれただけですから、何も悪くありません。むしろ何か秘策があるのだろうと、全力でぶつかってティアを倒すことで何かあるのだろうと勝手に思い込んでいた私の責任です。

「いや、そのこれは違うくて……うう」

 私は青い顔をしているのでしょうね。二人を困惑させてしまっています。



 カケル君たちに何か話さなければいけないと思い顔をあげ、彼女の消えた方に目をむけました。するとダーインスレイヴがカケル君の方へ戻ってくるところでした。しかし、他の剣はその場に転がっているのになぜあの剣だけ……あ。

「カケル君、よけてください!」

 これは、間に合いません。私はとっさに加護[硬軟糸]で硬い糸による盾を形成します。しかし、糸は引き裂かれ彼の胸には深々と刺さる鼓動を持つ剣が見えました。

 ダーインスレイヴがカケル君の体から抜けたかと思うと形を変えていきます。それは徐々に人型へ先程まで見ていた人物へと至ります。

「いやあ、ほんと魂が分散させられた時はどうなることかと思ったけど、何となってよかった」

 使用されたスキルは《寄生》自身の血液を一定以上与えた相手の体を奪い自分のものとするスキル。

「カケル!?」

 メルティさんが叫んでいます。

「だ、大丈夫、スキルがあるから」

 彼の体は瞬く間に修復されていきます。スキル《蘇生》は文字通り一度死んでも一日一回お手軽で蘇生できるチートスキルです。昔クロムさん相手にも使っていましたね。



 相手を殺さないことを前提に決着をつけたいところです。

「メルティさん、あなたの能力を教えてくれませんか?」

 私の言葉に少し迷ってはいたもののメルティさんは答えてくれました。

「相手の感情を増幅させるってだけだよ。射程は視界の範囲内であればだれでも可能で、その時の感情を増幅させるの」



「気分を高揚させて味方を強くさせたり、敵が少しおびえているタイミングで使って恐怖を増長させて相手の動きを鈍くしたりできるということですよね。すごいじゃないですか」

「え、あ、うん。ありがと。すごいね天使さん。私の能力を聞いただけでそこまで考えられるなんて」

「あー、いえちょっとそういうのに慣れているだけです」

 もはや癖になっていますね。その人のスキルなどを聞いたら何に利用できるのかを考えるのが。でもこの能力、私の考える最終手段に使えるかもしれません。



「セリア、アキト君、あれをやります。カケル君に合わせてください」

 私の声にどこからともなく了解と聞こえる声がします。アキト君とセリアには姿を消すスキルを女子生徒Bにかけてもらっています。もしかしたらティアにはばれているかもしれませんが、それでもかまいません。不意打ちというのは複数用意し最終的に1つ決まればよいのです。



「カケル君、接近戦をおねがいしてもいいですか。途中でもう一人加わると思うのでそこまで頑張ってください」

 私は次にメルティさんに小声で話しかけます。

「メルティさん。私が―――です。といったら目の前の魔王に例の能力を使用してください。できれば最大出力で」

「う、うんいいけど。大丈夫?」

 その大丈夫にはいろんな意味が含まれているのでしょうね。

「お願いです。聞かないでください」

 微妙な空気の中、私の作戦を半ば強引に開始しました。

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