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かつて少年としか呼んでいなかった少年

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「サラ、あれアナタの仲間よね?私は何を見せられているのかしら」
 よろよろと起き上がったティアが私に問いかけてきます。
「私はその質問に対する答えを持ち合わせていません。ぜひ、戦いの中で感じ取ってみてはいかがですか?」
「もう、わからないってことね。それにしても厄介だわ。何をされたのか全く分からなかった」
 ティアでもあれの存在を感知するのは不可能なんですね。そこだけは評価します。
「僕はね妖精さんと仲直りをしたんだよ。だからね、僕は負けないんだ」
 妖精さんは滅ぼしたと思っていたのですがまだいたんですね。というかよく生贄にされかけて仲直りまで関係修復しましたね。ある意味そのメンタルはすごいですよ。
「不可視の生物が攻撃しているってとこかしら。このタイプを相手するのは初めてだわ。まったく気配を感じないしどう攻略しようかしら」
 試しにと言ってティアが何やらスキルを発動しています。スキル《ハイパーアーマー》簡単に効果を見てみるとどれだけの攻撃を受けてもひるみませんし痛みも一定時間感じないというものみたいです。しかしダメージは入ります。後でまとめて痛みはやってくるようです。このスキルで何をしようというのでしょうか。
「妖精さん頼んだよ」
 チョウタ君の言葉を攻撃の意志と受け取ったティアはまず原因たる彼へ先程と同じ黒いレーザーを放ちました。しかしそのレーザーがチョウタ君を打ち抜くことはありません。レーザーが何かに当たり途中で途切れてしまっています。
「すごいねあの黒いやつ。妖精さんが半分くらいやられちゃった」
 
「しかたないか。直接いくわ」
 チョウタ君へと近づいていくティア。なぜかその速度はとても遅く歩いていますね。あ、これスキルの効果のようです。近づくたびに服や体に攻撃されているのが分かりますが彼女は一向にひるまず、攻撃された瞬間にその箇所に対して治癒系スキルを発動しています。
「ち、近づかれても、逃げればいいんだろ」
 ですが、それはかないませんでした。彼が足を動かそうとしても全く動いていません。まるでその場に固定されているようです。

 そんなチョウタ君の状態を見てティアはにやりという表現がよく似合う口元をしていました。
「スキルコピーって知っているかしら。一度みただけで他人のスキルを1つコピーできる。分身がなくなった今、私は別のスキルを補充できたってわけ」
 それで人吉君の《固定》がコピーされたわけですか。
「またこれか、いやだいやだいやだくるなああああああああああああ」
 これは驚きです。チョウタ君、まさかの2回続けて敗因が動けなくされたになりそうです。近距離まで近づいたティアによって回し蹴りをくらっていました。固定が解除された後、チョウタ君の体に力は入っていないようでそのまま倒れ込みました。


「私もう結構ボロボロなんですけど」
 ティアの言う通りステータスを見ても体力も魔力も大分消耗しています。それでもまだ油断はできません。私は新たな助っ人を呼ぶことにしました。
「現れてください。できればシンさん辺りをお願いしますよ」
 私はポケットに忍ばせているペンライトを使いました。
 まばゆい光と共に現れたのはどこかの学校の制服姿に身を包んだ男女でした。

「え?ここは……メルティ無事か?」
 最初の任務でクーリングオフの最初の犠牲者の少年。
「大丈夫よカケル。敵の攻撃ってわけじゃなさそうだけど」
 これっきりの関係だろうと恋心を利用し割り切って接した少女。
 ああ、どうやら一番めんどくさいのを引いてしまったかもしれません。
「お二人ともお久しぶりです。天使のサラです」
 どの面下げて言ってんだと思うかもしれませんがそれでも呼んでしまった以上は協力してもらはないとまずいです。
「ああ!あの時の詐欺師」
 メルティさん私も仕事だったんです。そしてこれも仕事なんです。

「あのー戦闘中に水を差すようで申し訳ないんですけど、ちょっと複雑怪奇な事情がありまして少しだけ時間貰えませんか」
 私はティアに申し訳なさそうにお願いしてみました。
「許可します」
 ティアは先ほどと同じように二つ返事で許してくれました。

「それで偽天使様が僕たちになんのよう?というかここどこ?」
 少年、たしかカケルさんでしたか……カケルさんも結構私に対してあたりが強いですね。かなり不機嫌というか焦っているような。
「いやー本当に申し訳ないんですけど、目の前に魔王候補がいるので倒すの手伝ってくれません?」
 私の言葉にしばしの沈黙。
「異世界生活スタートして数日で強制終了させられたと思ったら今度はラスボス手前から再開しますっていうことでしょうか偽天使様」
「その通りです。呑み込みが早くて助かりますね。あと私は本物天使です」

「あのさ、僕たち大事な戦いの途中でここに来たからできればすぐに帰りたいんだけど」
「そうそう。今とても重要な場面ですぐにでも返してくれないかしら」
「へ?お二人は安全安心の地球の日本へ帰ったのですよね?なぜ戦いに?もしかして何かの比喩表現ですか?」

「むこうでもいろいろあったんですよ。異能力者達の戦いに巻き込まれたりして」
「そうそう。むこうの魔術や魔法の効果はこっちみたいにシンプルじゃないからわかりづらいんだから」
 私の知らない日本の話をされました。しかし、これは考えようによってはチャンスです。
「お願いします。力を貸していただけませんか。今の私はあまりに無力なのです」
「無力ってあの黒い霧みたいなのはどうしたんだよ」
「クロムさんなら私を置いて男と消えましたよ」
「え?」
「そのままの意味です。あと先程から詐欺師だの偽天使だの言われていますが、私は上司の命令であなた達を送ったにすぎません。私としてはそんな人を弄ぶような行為は嫌なのです。今後、あなた達のような犠牲者を増やさないために私は魔王に立ち向かっています。この戦いに勝利できればあの悪質な上司を止めることができるかもしれないのです。もう一度言います。お願いです力を貸してください」

「ど、どうする?」
 カケル君には私の必至な訴えが多少は伝わったようです。
「私もなんかかわいそうになってきたんだけど」
「うーん。倒せば早く帰れるって言ってたし、私もこの世界を救いたいって気持ちはあったから協力……しますか」
「うん、やろう。どこまで力になれるかわからないけど一応私とカケルの縁を結んでくれた人だし」
「本当にありがとうございます」
 しっかりと感謝の気持ちを述べて印象をよくしておきます。ほんとうに助かった感を出すために目にしずくを溜める演出も忘れません。
 二人はそこまで変わってしまったわけではないのですね。多少疑り深くなってはいましたが根は変わらないようでとても助かりました。
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