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One-to-many

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 ステータス開示で何が使用されたのかを確認します。ああ、なるほど先程のティアにはなかったスキルがこのティアにはありますね。あれはティーチ先生の持っていたスキル

「分身……ですね」

「正解です。私のスキル《コピー》でティーチ先生のスキルをお借りしたのですわ。オリジナルより少し劣化のスキルになってしまうのは残念ですが」

 協力関係にあった二人ならスキルのコピーくらいたやすいですね。

「劣化もそうですが一度コピーしたスキルを使うとそのスキルは二度と使えなくなるみたいですね。しかもコピーできるスキルは1つまででそのスキルの効果がなくなるまで他のスキルはコピーできないみたいですし」

「あら、ばれてしまいましたわ。レデンもザブラもやられてしまいましたし絶体絶命の状況ですわね……ああ、初めて本気でこのゲームを遊べるかも」

 その声には喜びの感情が含まれていたと思います。最後のほうは話し方もセリアさんに近いものを感じました。

「魔王を倒した時の物足りなさ、裏ボス認定されていた洞窟の龍は勇者シンに倒されてしまったしさ、正直このゲームもうやることがないと思ってた。でもあきらめなかった。強い敵がいないなら作り出せばよかったんだよって発想は間違ってなかった。ああ、やッと楽しめる。私はこんなに鍛えたのにまるで歯ごたえもなく終わってエンディングってのはさすがに萎えるんだよね……私さ、不完全燃焼で終わるゲームが一番嫌いなんだよね」

 ティアの中にため込まれていた感情が吐き出されたような気がしました。あの子の中でここはゲームの世界なんですね。そういう風に作ることを願ったのですから当然と言えば当然かもしれませんが少し悲しいです。



「今までの告白まがいの発言なども私たちを育てるための嘘だったのですか」

 あまり聞きたくないのですが口は勝手に動きます。知りたいけど知りたくないことなんという矛盾でしょう。しかし、この件に関しては曖昧なままでいることが許せないんでしょうね。



「あーサラ大好きってやつ?本音に決まってるじゃない。私、森黒久沙里もりぐろくさりはいつだってゲームキャラに恋をしてたんだから!……………ただちょっと全員攻略できるハーレムルートがあるゲームが好きってだけで」

 気が多い発言とかゲームキャラ扱いとか今日のティアは最低ですね。でも好きと言われて少しだけ嬉しく思ってしまったのは不覚すぎますよわたし。反省しなければ、脱チョロキャラです。



「皆さん、あの最低な悪女を潰しますよ。セリア、先程説明したこれを使った作戦に変更します」

 私は加護で糸を作り出し、全員に持たせました。

「皆さん後はさきほど言った連携でお願いします。とにかく動きましょう」

 私はあまり戦闘経験ないので連携に関しては皆さんで話し合って決めてくれました。ただし、アキト君とセリアだけは今回の連携には参加しません。他の役割を与えています。



 ティアはこちらが動くのを待っています。ベニマル君が狼へと姿を変えそれが始まりの合図となりました。一直線にティアの喉元を食いちぎらんばかりの迫力で飛び掛かります。そこへなぜか同じ速度で移動している剣聖が即興で動きを合わせ斬りかかりました。しかし、それを手の動きだけで受け流して見せるティア、勢いを殺しきれず二人はそのままティアから離れていきます。

 二人のあとには女子生徒Aと《シンクロ》というスキルを使用した女子生徒Bが同じ動きでティアへと迫ります。それをティアは防御系スキルを8つほど使用し八重の障壁が彼女たちの行く手を阻みます。

 しかし、私の乗せた加護によるバフが機能しているようで二人でまったく同じ攻撃をし障壁を1枚ずつ砕いています。ティアにとって障壁は囮だったようで、彼女たちが障壁を砕いている隙に上空へと移動を試みます。

 ですが、上を見て一瞬止まります。先輩が偉そうなポーズでふんぞり返りながら雷の槍を生成しティアへと投げました。迎え撃つように片手をかざし黒いエネルギー波のようなものを放ちます。レーザーみたいでかっこいいです。投げのモーションに酔いしれていた先輩は投げた雷の槍ごと黒いエネルギーの中へとのみ込まれていきました。

 あ、先輩が殺虫剤をかけられた羽虫のように落っこちてきます。地面との激突は回避できない模様です。とりあえず落下地点に女子生徒Çを向かってもらいました。

 おっと目を離したらティアがまた別の襲撃を受けていますね。人吉君です。ティアに触れて《固定》のスキルを使用したいみたいです。先ほど、分身相手に消費の激しい見たものを固定化するスキルを使ってしまったようなので、手で触れる方を選択したようですがうまくかわされています。女子生徒A,Bも障壁がすべて割れたようで合流、さらに剣聖とベニマル君も後ろから追撃のモーションに入りました。さすがにこの人数で攻められたらティアだって多少なりともダメージを受けるはずです。

 しかし、私は信じられないものを見せられました。彼ら彼女らのすべての攻撃をティアはスキルを組み合わせすべて対処しました。回避、受け流し、部分硬化、身体能力ダウンなどなどあの一瞬で80種類以上のスキルを使用しました。あれだけの攻撃をしてなお誰も彼女にダメージを与えることはかなわず、そこには彼女へと挑んだ者たちが転がっていました。



「こんなものではないでしょう?」

 強者感あふれる台詞を吐く彼女の真下から剣が生成され彼女を貫こうと伸びてきます。

「さすが剣聖、すごい。あれだけ呪いのスキルくらっていても意識があって反撃してくれる。でも残念、スキルを発動する度あなたの体を呪いが蝕むのよ」

 剣聖が苦しそうに声をあげていますがほどなくして声は止みました。どうやら意識を失ったようです。

「先程からまだ姿が見えてない子がいるわ。そろそろ仕掛けて来たらどうかしらセリア?」

 余裕をかましているティアに鉄槌を下すように、彼女の体が何かに殴られたように吹き飛びました。



「どうだい?僕の妖精さんはすごいだろ。あはは」

 妖精……まさか。声の方へと勢いよくふりむきます。

 私の後ろの屋上の入り口に立っているのは先程、気を失って下の階に置いてきたチョウタ君です。

「遅れた。そしてみんなごめんよ」

 チョウタ君の顔は先ほど調子に乗っていた時とは違う男の顔をしていました。

「僕は天使に会ったんだ。彼女はとても優しく闇に堕ちそうな僕を救ってくれたんだ」

 なるほど私ですか。

「この戦いが終わったら僕とお付き合いしてくれませんか!」

 え……困りますよ。急にそんなこと言われても。私にはセリアやティアがって……ん?チョウタ君は私の方を向いていません。先輩を介抱している人物へと言葉を向けているように見えます。



「へ?私……ですか?」

 女子生徒Cが若干おびえて表情をしています。

「はい、薄れゆく意識の中、あなたが手を握って介抱してくれていた時のことが忘れられません。僕はこの時、確信しました。天使は実在したんだと」

 はいはーい、天使は実在しますよー!ここですよー!

「あの……すいません。私、好きな人がいるので」

 女子生徒Cは申し訳なさそうにお断りしています。

「ふふ、照れ屋なんだね。わかってるよ。僕がアレを倒さないと安心して受け入れられないんだよね?すぐに片づけて告白の舞台を整えよう」

 チョウタ君は妖精さんが見えるだけあって現実には全然目を向けませんね。
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