魔法学院の最底辺

かる

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魔法祭とフランス

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「先輩も個人戦ですか?」

「そうよ……。あまり一年生に知り合いがいないから困っているのだけれど相手してくれないかしら?」

「俺なんかでよければ是非。」

その瞬間、周りからは「あぁ、かわいそうに……。」だとか「さすがに練習だからそこまで本気で来ないでしょ。」といった哀れみや心配の声がした。
俺は佐伯先輩の実力が分からないのであまりネガティブな気分にはならなかった。

「じゃあ、ここでなんだし場所を移しましょうか。」

「はい。」

俺が佐伯先輩についていくとだいぶ大きな練習場に連れてかれた。

「予約しておいたんですか?」

「まぁね、練習時間がいつか把握ができていたから。」

なるほど、練習場はこの学科が全員が使えるほどはない。ましてや魔法祭ともなれば、他人に手の内を明かしたくないものだ。だから一人一コートは借りるのだろう。その中でこれほどの練習場を借りられたのはかなりありがたい。

「では、始めましょうか。」

確か佐伯先輩は勇者系統だ。何を使ってくるのかわからないが気を抜かないようにしなくては……。

「行くわよ……。」

佐伯先輩がとてつもないスピードでルーンを書いた。2秒もかかっておらず、眼で追えないスピードだった。
すると先輩の背中から天使の羽らしきものが生え、上に飛び立った。

「私の魔法は天使をベースにしてる魔法よ、名は『バラキエル』。」

次の瞬間、先輩が羽を毟ると羽は先端がとがった鞭へと変化をした。そして先輩が翼に生えている羽を思いっきり投げ飛ばしてきた。

「っぶね……。」

「甘いわよ。フンッ!」

鞭がしなり、俺の背中を思いっきりはたいた。

「ッ!」

「あなたも本気で来ないと死ぬわよ。風紀委員に入ったのだから実力を見せて頂戴!次行くわよ!」

「わかりました、では本気で行かせていただきます。『フォールンエンジェル』」

俺は体の中から剣を取り出し剣先を先輩に向けた。

「あなた今なんて言った?」

「大した呪文じゃないですよ、体の一部に変えただけです。」

「まあいいわ、私も本気で行かせてもらうわよ!」

羽が弓矢のごとく降り注ぐ中、俺は紙一重でかわして先輩に一気に近づく。

「甘いわよ!」

先輩から近づき、鞭を思いっきり伸ばしてきたところので、俺が躱すと先輩はニヤリとし、

「貰った!」

と叫んだ。まっすぐになっていた鞭の先端がUターンをして、こちらへと向かっていた。





「俺の勝ちですよ。」





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「なんで後ろも水にタイミングだけで私の鞭が躱せたの……?」

試合の後は唐突に寡黙な先輩となっていた。

「先輩の鞭の振る速さをある程度求めたのち、伸び切ってから自分に帰ってくるまでの瞬間を計算しました。」

「試合中に?ありえないわ……。」

「才能がないので戦略で勝つしかないんですよ。」

「委員長があなたを入れた理由が分かった気がした……。」

「認めてもらえて光栄です。今日はありがとうございました。」

「あなた私の専属の練習相手になるつもりはない?」

「いろいろとあるので……。」

「そう、残念……。」

すると授業終了のチャイムが鳴った。

「では、今日はこれで失礼します。」

「さようなら。」

負けるつもりはなかったがあれでは怪しまれてしまうな……。今度からはもっと相手の納得いく理由を考えよう。

「バラキエル……か……。」

少し気がかりになりながら俺はクラスへと戻っていった。

「慧!生きてたのか!」

稜が驚いたようにこちらを見た。

「どんな出迎え方だ。」

「いやぁ、もしかして佐伯先輩にやられちゃったのかと。」

「確かに強かったぞ。」

「だろだろ?3年生の優勝はあの先輩かもしれないしな!」

「1年の優勝候補は誰か知っているか?」

「やっぱり桃ちゃんと茜ちゃんが噂されてるな。後はむかつくが竜之介もその一人だったな。」

「竜之介?」

「廊下で俺たちに絡んできたやつだよ。」

「あぁ、なるほどな。」

「お前の名前も少しだけ上がっていたぜ。外交科から初めての風紀委員という理由でな。」

「買い被りすぎだ。」





もし、俺が本気を出すことになったらこいつは俺に対してどんな反応をするのだろうか。





稜は俺から一歩引いてしまうのだろうか。





友情とはこういうものだったのだろうか?





俺には一抹の不安があった。

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「悪い、1週間の予定が2週間もかかっちまった。」

「気にしなくていい、わかったことを教えてくれ。」

「お前を追っかけてた女、どうやらこことつながりが根深いようだぜ。それに生い立ちとかはすべて抹消されてる。家族もいないことになっていたぜ。」

俺は渡された紙を見て、あぁ……やはりか……と思った。書かれてあった内容は





「ハイドバーツ魔法学院」





フランスの国立魔法学院であった。

「カギは一人の人物が握ってるぜ。」

「あぁ……」

ベアトリクス・メステルは限りなくクロに近いグレーだ。あの日からというもの、俺を嗅ぎまわるものはいなくなった。しかし、魔法祭に絶対に事件が起こらないとは言えなくなった。

「ありがとう、では失礼する。」

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あれから1週間俺はただひたすらに稽古と魔力を練った。

そして迎えるは魔法祭当日であった。

「皆さん!お待たせしました!本日より3日間、魔法祭を執り行いたいと思います!」

俺たちが外で生徒から集めた荷物を一つ一つ調べたり、学院の周りの見回りを行っているとき、学校所有のスタジアムのほうから司会者の大きな声が聞こえた。

「試合の順番は1年生、2年生、3年生の順番で行い、準決勝以降はこのスタジアムで1試合ずつ行います!選手の皆さんはこのスタジアムで戦えるよう、ぜひ頑張ってください!」

その後順調に開会式は進み、委員長の選手宣誓も聞こえた。しかし司会者がある言葉を言ったとき周りが静かになった。

「次に、STARSである『シルヴィ」・シュヴロー』氏、『ゲオルク・ヴァッサー』氏より一言お願いいたします!」

「優秀といわれている日本の生徒の試合を楽しみにしています。」

「選手諸君、君たちの武運を祈っている。」

STARSとは生徒たちの頂点にして眺望の視線が贈られる地位についている者達だ。周りも息をのんで聞くだろう。

「ありがとうございました!では、ただいまより、選手は準備に移ってもらいます。選手の皆さん、控室へお願いいたします。」

ちょうど風紀委員の仕事も終わった。俺は第一試合なので周りに伝えた後、会場のほうへと向かった。
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