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仮初の春の中で
004 守るべきもの
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風が吹き抜けていく。
あちこちで、戦いが始まっていた。
魔力を刀に宿して戦う者、魔力を直接攻撃に使う者、様々だ。
春は刀などの武器を扱うのが苦手だった。
身近に武器になりそうな物も無い。
春は両手に力を込めた。両方の手から風の玉が生まれる。春はさらに力を込め、身体の前で一つに合わせた。玉はどんどん大きくなり、春の顔よりも大きくなった。それを、魔物に目掛けて投げつける。風の玉は勢いを増して、敵を片っ端からやっつけて行った。
(かまいたちだ・・・。風が刃物のように魔物を切り裂いて行く・・・。)
仲間たちはその様子を呆然と見つめていた。
やがて、戸惑いは歓声に変わり、春を援護するように陣形が組まれる。
「春を守れ!!敵は一匹足りとも逃がすな!!」
仲間たちの援護と春の強い力で、敵はあっという間にいなくなった。
春は魔力を大量に使って身体に強い疲労感を感じていた。歓声が上がり、仲間たちが駆け寄ってくる。魔力ばかり強くて身体が弱く、いつも守られるばかりだった春。そんな春が誰よりも強く戦える事を証明した。仲間たちに認められた瞬間だった。
・・・昔の春なら喜んだかもしれない。
けれど、今の春にとってはどうでもいい事だった。そんな事より、和臣が心配だった。
春が総会場に駆け寄ると、和臣は友人の悠人ゆうとに支えられて外に出てきた。その姿は、身体中に包帯を巻かれて痛々しい。
「和臣さん!」
春は和臣に駆け寄った。
真っ青な顔で心配そうに見つめる春に、悠人はにっこりと笑いながら言った。
「そんなに心配しなくても、命に別状はないよ。応急処置が早かったから、今は血も止まってるしね。」
安心した春はへなへなと地面に座り込んでしまった。
「よかった。よかった・・・!!」
「春、大丈夫!?僕も春が無事でよかったよ。」
和臣は春に手を差し伸べる。
春の後ろから、春を呼ぶ声が聞こえた。彼らは興奮した様子で、先ほど見た光景を話し始める。
春が魔力を使って勇敢に戦い、敵を一掃した場面を多くの仲間たちが目にしていた。
春を一族の英雄と言う者までいた。
その話を聞いていた和臣の表情は次第に雲っていった。小さな不安が和臣の中で大きくなっていく。誰もその事に気づいた様子はなく、人々は春の話で盛り上がっているのだった。
その夜は宴会が開かれた。宴会の主役はもちろん春だ。けれど春は、たくさん魔力を使って疲れてしまったという事にして、和臣と共に宴会を抜け出した。
月の綺麗な夜だった。
空気の澄んだ夜だった。
春はきっと今日の事を忘れないだろう。
和臣と手を繋いで、幸せな気持ちに浸りながら夜道を歩いた。和臣が手に提げた灯りが夜道を照らしていた。
家に帰ると思っていた和臣だが、春に行きたい場所があると言われ、2人で向かっているところだった。しばらく歩き続けた。2人ともほとんど話さなかった。やがて、向かう先が村のはずれだと気づいた和臣は足を止めた。
「春・・・。」
和臣は春の手をぎゅっと握りしめる。
春は優しく微笑んだ。
「和臣さん、私ね、嬉しかったの。守られるばかりの弱い自分じゃなくて、和臣さんを守れる存在になれたことが・・・なれることが。」
和臣の手を春はぎゅっと握り返した。
「今日までありがとう。私の為にいっぱい考えて、行動して、傷ついて・・・それでも側に居てくれて。私は世界一幸せだったよ。」
後悔が無いと言えば嘘になる。それでも。
和臣にもらったたくさんの幸せが、春に勇気を与えてくれる。
「帰ろう・・・行かないでくれ・・・春。僕は、他の連中よりも、春が、春だけが大事なんだ!!」
悲痛な叫びだった。小さな声だったけれど、それは春の心をぎゅっと締めつける。帰りたい。和臣の元に。知らない振りをして、何事も無かった事にして全てを忘れ去ってしまえたら。
けれど、それは出来なかった。
春は和臣の事が大好きだから。
「ごめんなさい、和臣さん。私も和臣さんを守りたい。和臣さんが守ってくれたように。このままだと、結界が張られていない事にいつか気付かれる。私が魔力を持ち去ったと。和臣さんはまた傷つく事になる。」
それに・・・。
村の守り神に和臣のところまで飛ばしてもらったのだ。その恩はきっちり返したい。
春は今にも泣き出しそうな和臣の手を引いて、長い石の階段を登った。
ここは思い出の場所。春は昔の事を話し始める。
和臣は返事をすることはなく、春が静かになると長い沈黙があった。
やがて2人は階段を上りきり、社の前にたどり着いた。
2人を待っていたのは、村の守り神、黒髪の少女だった。
その姿は和臣には見えず、彼は春に再度説得を試みる。その様子を少女は静かに見つめていた。
これが最後の夜になる、だからなのか少女は急かすようなことは無かった。
「気の済むまで話すといい。ただし、夜明けまでは長引かせるのは勘弁してくれよ」
少女は呆れたように、けれど、どこか微笑ましい様子で2人を見つめていた。
その時だ、物陰からガサッと音がした。
春と和臣は顔を見合わせる。誰かがいる。
和臣が掲げた灯りに照らされて、社の裏の草むらから浮かび上がる人影。もう一つの灯りに照らされてその人物の顔がはっきりと浮かび上がった。
「悠人・・・。」
まずい、どこまで聞かれた?不安に声がかすれる。視線の先にいる和臣の友人、彼もまた驚いた表情でこちらを見つめていた。
あちこちで、戦いが始まっていた。
魔力を刀に宿して戦う者、魔力を直接攻撃に使う者、様々だ。
春は刀などの武器を扱うのが苦手だった。
身近に武器になりそうな物も無い。
春は両手に力を込めた。両方の手から風の玉が生まれる。春はさらに力を込め、身体の前で一つに合わせた。玉はどんどん大きくなり、春の顔よりも大きくなった。それを、魔物に目掛けて投げつける。風の玉は勢いを増して、敵を片っ端からやっつけて行った。
(かまいたちだ・・・。風が刃物のように魔物を切り裂いて行く・・・。)
仲間たちはその様子を呆然と見つめていた。
やがて、戸惑いは歓声に変わり、春を援護するように陣形が組まれる。
「春を守れ!!敵は一匹足りとも逃がすな!!」
仲間たちの援護と春の強い力で、敵はあっという間にいなくなった。
春は魔力を大量に使って身体に強い疲労感を感じていた。歓声が上がり、仲間たちが駆け寄ってくる。魔力ばかり強くて身体が弱く、いつも守られるばかりだった春。そんな春が誰よりも強く戦える事を証明した。仲間たちに認められた瞬間だった。
・・・昔の春なら喜んだかもしれない。
けれど、今の春にとってはどうでもいい事だった。そんな事より、和臣が心配だった。
春が総会場に駆け寄ると、和臣は友人の悠人ゆうとに支えられて外に出てきた。その姿は、身体中に包帯を巻かれて痛々しい。
「和臣さん!」
春は和臣に駆け寄った。
真っ青な顔で心配そうに見つめる春に、悠人はにっこりと笑いながら言った。
「そんなに心配しなくても、命に別状はないよ。応急処置が早かったから、今は血も止まってるしね。」
安心した春はへなへなと地面に座り込んでしまった。
「よかった。よかった・・・!!」
「春、大丈夫!?僕も春が無事でよかったよ。」
和臣は春に手を差し伸べる。
春の後ろから、春を呼ぶ声が聞こえた。彼らは興奮した様子で、先ほど見た光景を話し始める。
春が魔力を使って勇敢に戦い、敵を一掃した場面を多くの仲間たちが目にしていた。
春を一族の英雄と言う者までいた。
その話を聞いていた和臣の表情は次第に雲っていった。小さな不安が和臣の中で大きくなっていく。誰もその事に気づいた様子はなく、人々は春の話で盛り上がっているのだった。
その夜は宴会が開かれた。宴会の主役はもちろん春だ。けれど春は、たくさん魔力を使って疲れてしまったという事にして、和臣と共に宴会を抜け出した。
月の綺麗な夜だった。
空気の澄んだ夜だった。
春はきっと今日の事を忘れないだろう。
和臣と手を繋いで、幸せな気持ちに浸りながら夜道を歩いた。和臣が手に提げた灯りが夜道を照らしていた。
家に帰ると思っていた和臣だが、春に行きたい場所があると言われ、2人で向かっているところだった。しばらく歩き続けた。2人ともほとんど話さなかった。やがて、向かう先が村のはずれだと気づいた和臣は足を止めた。
「春・・・。」
和臣は春の手をぎゅっと握りしめる。
春は優しく微笑んだ。
「和臣さん、私ね、嬉しかったの。守られるばかりの弱い自分じゃなくて、和臣さんを守れる存在になれたことが・・・なれることが。」
和臣の手を春はぎゅっと握り返した。
「今日までありがとう。私の為にいっぱい考えて、行動して、傷ついて・・・それでも側に居てくれて。私は世界一幸せだったよ。」
後悔が無いと言えば嘘になる。それでも。
和臣にもらったたくさんの幸せが、春に勇気を与えてくれる。
「帰ろう・・・行かないでくれ・・・春。僕は、他の連中よりも、春が、春だけが大事なんだ!!」
悲痛な叫びだった。小さな声だったけれど、それは春の心をぎゅっと締めつける。帰りたい。和臣の元に。知らない振りをして、何事も無かった事にして全てを忘れ去ってしまえたら。
けれど、それは出来なかった。
春は和臣の事が大好きだから。
「ごめんなさい、和臣さん。私も和臣さんを守りたい。和臣さんが守ってくれたように。このままだと、結界が張られていない事にいつか気付かれる。私が魔力を持ち去ったと。和臣さんはまた傷つく事になる。」
それに・・・。
村の守り神に和臣のところまで飛ばしてもらったのだ。その恩はきっちり返したい。
春は今にも泣き出しそうな和臣の手を引いて、長い石の階段を登った。
ここは思い出の場所。春は昔の事を話し始める。
和臣は返事をすることはなく、春が静かになると長い沈黙があった。
やがて2人は階段を上りきり、社の前にたどり着いた。
2人を待っていたのは、村の守り神、黒髪の少女だった。
その姿は和臣には見えず、彼は春に再度説得を試みる。その様子を少女は静かに見つめていた。
これが最後の夜になる、だからなのか少女は急かすようなことは無かった。
「気の済むまで話すといい。ただし、夜明けまでは長引かせるのは勘弁してくれよ」
少女は呆れたように、けれど、どこか微笑ましい様子で2人を見つめていた。
その時だ、物陰からガサッと音がした。
春と和臣は顔を見合わせる。誰かがいる。
和臣が掲げた灯りに照らされて、社の裏の草むらから浮かび上がる人影。もう一つの灯りに照らされてその人物の顔がはっきりと浮かび上がった。
「悠人・・・。」
まずい、どこまで聞かれた?不安に声がかすれる。視線の先にいる和臣の友人、彼もまた驚いた表情でこちらを見つめていた。
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