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4,謎の友だち

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 そんなことを話しているうちに大地の家に着いた。
 ちょっと古めの、ごく普通の住宅だ。
 団地の西側で、ちょうど俺の住んでいる東側の真反対になる。
 「なんだ、俺、おめえん家に毎日来てるぜ」
 「え?」
 「新聞配達のバイトしてっからな。宝部日報とってるだろう。あれは俺が配達してんだ」
 「へえ!そうなの!」
 大地は驚いていたよ。
 そして急に真顔になって言った。
 「僕もバイトしないと――バイトして、お母さんに金を返さないと」
 「そうだな。バイトすんのはいいが、金は連中から取り返そうぜ。泣き寝入りする必要なんてねえ。浦木さんと龍団について調べてみねえといけねえな……」
 大地は驚いたような顔して俺を見た。
 「……隼君、どうして僕なんかのために、そこまでしてくれるの?別に僕がどうでも、隼君は困らないよね。なんで?」
 そう言われて、俺は困った。
 自分でも、うまく説明できなかったからだ。
 「いや、困るよ。まあ世の中色々あるけど、最低限のスジは通さなきゃいけねえ。スジの通らねえことは正さなきゃ。それに、なんていうか、俺たち、縁があるよな。同じ団地に住んでるし、毎日オメエん家に新聞配ってたし。縁のある友達が困ってたら、助けるのもスジだ。な!」
 「……友だち」
 「ああ!おめえとオレは友だちだ。だから、君付けはやめようぜ。呼び捨てだ。俺は大地って言うし、俺のことはしゅんって呼べ」
 「しゅん――」
 「そうだ。それでいい」
 
 そのとき、突然玄関のドアが勢いよく開いて、女の人が飛び出してきた。小柄で、コロっとした、可愛い感じのするおばさんだった。顔が大地によく似てる。これがおふくろさんだな。
 「あの……大地!お友だち?」
 おふくろさんは、ひどく興奮した様子で言った。
 「う、うん。同級生の高宮……隼だよ」
 大地が口ごもりながら言った。
 慣れないから、呼び捨てにすんのが難しかったんだな。
 とりあえず、これで友達認定してもらえたようだ。
 俺はおふくろさんに頭下げて言った。
 「どうも、D組の高宮です。よろしくお願いします」
 おふくろさんは、目を見開いてしげしげと俺を見ていたが、急に俺の腕をつかむと
 「あの、どうぞ中に入って!何か食べてってください!ね、ね!」
 と言って、俺は家の中に「強制連行」されちまった。
 道場行かなきゃならないんだが、ちょっと断れる雰囲気じゃねえなあ。

 大地の部屋に通された。
 大地の部屋は俺の部屋同様雑然としていたが、俺の部屋みたいに殺風景じゃなかった。
 まず部屋に入って目につくのは、本棚一杯の漫画やアニメ特撮物のDVD。そしてその前に並べられたロボットのプラモやフィギュア。
 また、アニメやゲーム?のポスターが壁一面に貼られていて、まるで色彩の洪水だ。
 なんかにぎやかというか、生命力に満ちてる感じだ。
 大地の苦しい、暗い心には、こういう生命力のパワーが必要なんだろう。
 
 驚いたのは、机の上に、でかいモニターのある立派なPCがあり、それを親父さんと一緒に自分で作ったというのだ。
 PCを自作する趣味の人がいるというのは聞いたことがあるが、俺なんか、何をどうすればいいのか全く想像もつかない。
 「へえーすげえじゃん。たいしたもんだなあ!」
 親父さんがPCサービスの大手で働いていて、プログラミングなんかも教わっているらしい。
 大地が孤立してるようで、まったくの闇に沈んでいるわけじゃないのは、優しいおふくろといい親父がいるためだな。
 「別にすごくないよ。パソコン好きは、やってるひと多いよ」
 大地がうれしそうに言った。
 俺の部屋にはPCすらない。
 ネットにつながるものはスマホだけ。エロ動画見るのもスマホだけだ。
 そのことを大地に言うと、大地はひどく驚いたような顔をした。
 部屋にPCがないということで驚いたんじゃなく、スマホでエロ動画見てオナニーしてるって俺が自然に口にしたことが、大地にとってはビックリするようなことだったらしい。
 「なんだおめえオナニーしねえのか」
 「……す、するよ」
 「エロ動画見ねえんか?あ!おめえはエロアニメ専門だな!」
 「……」
 大地は真っ赤になった。
 俺はアニメでオナニーしたことはないが、がぜん興味わいてきたな。
 「大地、エロアニメのDVD持ってんのか。持ってたら貸してくれ」
 大地はしばらくためらっていたが、本棚の奥、マンガの裏からDVDをいくつか出してきてくれた。
 いずれも、日曜の朝にやってる女の子向けのアニメのキャラクターが、巨乳になってHするような感じのモンだ。
 「おう、こりゃいいや。全部借りていいんか。大地オナニーできなくなんねか?」
 「大丈夫だよ。その……ダウンロードした動画もあるから……」
 「そうか。じゃ、借りとくわ。今晩見るぞ!」
 俺がDVD振り回しながら、「オナニーするぞ宣言」すると、ドアをノックする音が聞こえた。
 「大地、入っていい?」
 おふくろさんだ。
 泡食ってソファの隙間にDVDを隠した。
 
 おふくろさんは、お盆の上にオレンジジュースと山盛りのクッキーを乗せて現れた。
 「おばさんの手作りだけど、よかったら食べてね」
 俺は甘いものそんなに好きじゃないんだけど、これはうまかった。
 バターが効いてるのか、作り方がうまいのかよくわからんが、市販品の倍もおいしかったよ。
 「お母さんの得意技なんだ」
 大地は自慢そうに言った。
 おふくろさんには夕飯もよかった食べて行ってと言われ、ちょっとその気にもなったけど、今日は大会向けの稽古があるので、最低でも6時までは道場に行かなきゃならない。
 今日は稽古があるんでもう行きますと言うと、おふくろさんは本当に残念そうな顔してた。
 おふくろさんが、たぶんめったにないであろう「息子の友だち」の来訪を、心底喜んでいるのは痛いほど感じた。
 
 別れ際、俺は大地に言った。
 取られた金は「龍団」から必ず取り返すこと。
 取られた金の流れは俺が調べること(狙われる可能性があるので)。
 同じ理由で、登下校は必ず俺と一緒にすること。
 朝は、団地の東西の合流地点である高木商店前で落ち合うこと。
 俺のいないときに、龍団の連中に襲われるようなことがあったら、すぐ電話できるように、スマホの画面に俺の番号のショートカットを作っとくこと。
 そして、そのために、自分で両親に一切の事情を説明すること。
 これは、大地が自分でやらなきゃいけない。
 大地は、力強くうなずいてくれたよ。

 俺はおふくろさんのクッキーを袋一杯土産にもらって、道場に向かったんだ。
 もちろん、エロアニメのDVDも鞄の中に隠して。
 
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