勇者は日本を満喫しながらクリスマスを楽しむ為奮闘します!

本田ゆき

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勇者はクリスマスを楽しむ為孤軍奮闘する様です。

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「これでおしまいよ魔王! もうあなた達の好きにはさせないわ!」

 勇者サラ・グルメントリは燃える様な赤い瞳で魔王とその周りの魔物達を睨みつけた。

「くそ、こんな村娘に私が遅れをとるなど……」

 魔王は先程喰らったサラの一撃により大ダメージを受け片膝をついていた。

「いくよみんな! 一気に畳み掛けるよ!」
「おう!」
「はぁーい」
「わ、分かりましたぁ~!」

 サラの言葉を受け仲間達がサラと共に魔王目掛けて総攻撃を喰らわせようと体制を整える。

 赤い長髪のポニーテールを風になびかせながらサラが魔王へと斬りかかろうとしたその瞬間。

「魔王様! 危ないです! こうなったら私の魔法で!!」

 魔王の隣で援護していた側近がすかさず魔王と勇者の間に入り魔法の杖を振るった。

「お、おい待て! その魔法は!」

 その後、側近の魔法により勇者一行は眩い光に包まれた。

「うぅっ!? こ、これは!?」

 眩しさに目を閉じたサラは咄嗟に受け身の体制をとった。

 しかし、数秒待てども攻撃は来なかった。

「……あれ?」

 それからサラがそっと目を開くと……。

 先程とは全く違う景色がそこには広がっていた。

 そこには魔王や魔物たちの姿はなく、スーツを着たサラリーマンやコートを着た学生や子連れの主婦たちなどさまざまな人達がみんな忙しなく街を闊歩していた。

「す、凄い……ここ何処?」

 目の前に立ち並ぶ高層ビルに目を輝かせながらサラは辺りを見渡した。

「サラ! どうやら僕たちは敵のテレポートで別の街へ飛ばされてしまったみたいだ!」

 サラの肩からひょっこりと小さな丸い毛玉に手足と耳と尻尾が生えた妖精が顔を覗かせて辺りを伺った。

「それはそうとロンくん見てよ! すっごいよここ! 大都会だよ! 私の故郷とはまるで大違いだよ!!」

 そう子供の様にはしゃぐサラの姿を待ちゆく人々は怪訝けげんな目で見ながら通り過ぎていく。

「……なんか私の格好すっごく場違いだよね」
「うん」

 こうしてサラがテレポートで東京へと飛ばされたのは1ヶ月前のお話である。


 そして時は流れ……。



「お疲れ様でしたー!」
「あらサラちゃんお疲れ。これいつも頑張ってるご褒美ね♡」

 サラがバックヤードのロッカーへと行こうとしたところ、女性店長がサラへお菓子を手渡した。

「貰っても良いんですか!?」
「そりゃあもちろんよ~。まだ1ヶ月目とは思えない程仕事が早いし、慣れない土地でこんなに頑張ってるんだもの♡」
「ありがとうございます店長!」

 サラは個包装のチョコレートが入った袋を開けて早速1つ頬張った。

「んん~! おいしぃ~♡」

 サラの笑顔に店長も微笑みながら話し出す。

「それ賞味期限近いから早めに食べちゃってね♡お腹壊して欠勤でもされたら大変だから♡」
「はーい! 今日中に食べちゃいますね~! お疲れ様でしたー!」
「お疲れ様~良いクリスマスを~♡」

 こうしてサラはロッカーで着替えた後チョコレートをまた更に1つ食べながらバイト先のコンビニエンスストアを後にした。

「しっかしまぁ、すっごい馴染むの早いねサラ」

 サラの肩からひょっこりと妖精のロンが姿を現して質問する。

 サラはそれに満面の笑みで答えた。

「みんなすっごい良い人たちばかりだからね! それにすっごく楽しいよ! しかもコンビニって24時間空いてていつでもご飯が買えるんだよ!? 温めるだけで美味しいお弁当だって食べられる! パンも飲み物もすぐに買える! しかも他のお店ではいろんな国の料理が食べられる! まさに私の求めていた理想郷! 理想郷は東京にあったんだね……!」

 サラはよだれを垂らしながらロンに力説し、ロンは大きくため息をついた。

「サラ、僕たちの目的は……」

 ロンの言葉を聞く前にサラは再び話し出す。

「それに……一度こうして平和な街で仕事しながら静かに暮らしてみたかったんだ」

 サラが呟く様に本音を漏らすと、ロンは優しく声をかけた。

「サラ……」

「あ! それより今日は予約していたクリスマスケーキとチキン取りに行かなきゃ! 明日のクリスマスが楽しみだな~! 年末には年越しそば食べて、お正月にはおせちを食べるんだって! うふふ、楽しみ~!」

「サラ、やっぱり当初の目的忘れてない?」

 ロンが呆れる中ルンルンとスキップしながらサラがお店へ向かう。

 しかし、その途中ロンの耳がピクピクと動きサラに声をかけた。

「サラ! 魔物が近くにいるよ!」

「えぇ!? ど、何処?」

 サラが辺りを見回す中、街から女性の悲鳴が聞こえてきた。

「き、きゃぁぁー!!」

「!! あっちね!」

 それからサラは悲鳴のした方へまっすぐ走り出す。

「なんだこいつらは!? 仮装か!?」
「お姉さん! こちらへ避難してください!」

 そこにはすでに通報を受けていた警察官2人が女性を避難誘導していた。

「ちょっとすみません! 通ります!」
「な!? き、君! そこは不審者が居て危ないぞ! 下がりなさい!」

 警察官2人を横切りサラはまっすぐ魔物の前へと向かった。

「ん? 誰だお前は? 俺たちと戦りあうつもりか?」

 魔物2人はサラを見て嘲笑した。

「無駄無駄ぁ。魔法の使えないこんな世界の奴が俺様たち相手に勝てる訳がないだろ?」

 魔物は魔力を込めた黒い槍をサラへと突き立てようとした。

「ミラー!」

 しかしそれより先にサラがそう叫ぶとサラの目の前に鏡が現れた。

「な! 魔法だと!?」

 魔物が驚くのにも目もくれずサラは鏡から魔物が持っているものと同じ形状の色違いの赤い槍を取り出した。

「あんたらみたいな雑魚はこれで終わりよ!」

 サラは取り出した槍で魔物2人を薙ぎ倒した。

「かはっ!?」
「うぐっ! ゆ、油断した……この魔力、勇者……か」

「どうやら格好が違うから気づかなかったみたいね? とっととくたばりなさい!」

 サラが追い討ちを畳み掛けると魔物2人はあっけなく倒され姿が消えていった。

「き、君! 一体何をして……!?」

 警察官のうち1人が慌ててサラの元へ駆け寄ってくると、サラは静かにロンへと呼びかけた。

「ロンくん、後始末お願いね」

「分かったよサラ」

 それからロンはふよふよと警察官の前へと飛んでいった。

 しかし警察官にはどうやらロンの姿は見えていないらしく、視線はずっとサラを見ている。

記憶消去メモリーデリート

 ロンが目を閉じ祈る様に警察官へとそう囁くと、警察官は一瞬意識を失った様に止まった後、再び意識を取り戻した。

「あ、あれ? 俺は今何を……?」

「さ、今のうちに」
「ありがとうロンくん」

 警察官が呆気に取られてる間にサラとロンはその場を離れた。

「ふぅ~一仕事終わった終わった!」
「お疲れ様サラ」

 ゆっくりと背伸びをするサラにロンはゆっくりと問いかけた。

「ねぇサラ、こっちの世界に来てまで戦うのは辛い?」

 ロンの問いにサラは静かに答える。

「全く辛くないよ。私、平和な東京が好きなんだ。平和を守る為にも……」

 それからサラは笑顔で答える。

「明日平和にクリスマスを過ごす為にも! さあロンくん! ケーキとチキン取りに行くよ!」

「はぁ~やっぱりサラは食い気ばっかだよねぇ~」

 呆れながらもふとロンは冬空を眺めながらぽつりと呟いた。

「他の仲間たちは何処へ行っちゃったのかな……」
「まあみんな強いし元気にやれてると思うよ!」
「そうだね、あの3人なら死ぬ事はないだろうし、それに魔物を倒していけばいつか会えるだろうしね」
「その為にも! この国のことわざで腹が減っては戦はできぬって言うらしいし! クリスマスもやって来るし!」

 サラの言葉にロンはくすくすと笑った。

「また食べ物ばっかり~」
「良いでしょ! 成長期なの!」

 こうして勇者サラはお店へ向かったのだが、もうお店が閉まっていた為クリスマス当日に取りに行く羽目になることをまだこの時は知る由もないのであった。
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